第十章:海底遺跡と栄光の指輪
海中に渦巻く瘴気。その中心に禍々しい瘴気を吐き出し続ける遺跡をトゥルーは見つけた。
「これかぁ!」
その遺跡は元々地上にあったものなのか、それとも初めから海中に造られたのかは分からないが、建ってから数千年は経っているように感じられた。古臭さの前におどろおどろしい雰囲気が醸し出されており、扉や窓のような所の隙間からおぞましい瘴気が漏れ出していた。
トゥルーはその海中遺跡の扉の前に立った。
「神殿?お墓?それに類するものか」
扉に鍵はかかっておらず、トゥルーは恐る恐るといった感じで扉を開けて中に入る。
中はがらんとしており、瘴気は奥から流れ込んでいるようだった。他には目もくれず奥に進むトゥルー。
下に降る広い階段では、奥から更に濃い瘴気が感じられた。
「酷い瘴気だな、これは」
トゥルーは文句を言いながら階段を降りる。
すると祭壇のある広間が見えたが、同時に鈍いほのかな青白い光を放ち、半透明で水のようで骨のような細長い巨体。その眼窩には青白い炎がゆっくりと揺らめき、見る者の心を凍らせる魔物。死霊水龍とその眷属たちの姿も見えた。
泳いでいるのかのたうち回っているのか、とにかく動き回る度に瘴気が漏れ出ており、その瘴気に触れた小魚が生気を失い沈んでいった。床にはそうして死んでいったであろう骨が積もっており、その骨すら腐っているようだ。
「こんなことになっているとは……近付きたくねぇ〜。このままここを封印……ダメだ、食い破られるだけだ。ならばこいつらすべて浄化した後に、この場所を永久封印するしかないな。しかし死霊水龍って浄化できるか?……考えても仕方ないか」
トゥルーは愚痴を言いながら、大きくため息をつき心を落ち着かせた上で呪文を唱えた。
「大聖破邪(アーク・ホーリー!)」
遺跡内が聖なる光で満ちる。魔物らの動きが鈍る。眷属たちの体が崩れ、その聖なる光の中に消えていく。
そして死霊水龍は、、消えなかった。体が崩れていったように見えたのは、ただの錯覚だったようだ。
「無理かぁ。死霊水龍って普通に退治ってできるのか?聞いたことないぞ」
トゥルーはまた愚痴を言いながら素早く呪文を唱える。
「不死退散(リターン・アンデット!)」
「爆轟火球(デトネーション・ボール!)」
「次元断裂(ディメンション・スラッシュ!)」
トゥルーは距離を取りながら様々な呪文を放った。それぞれが通常の魔物であれば一撃必殺の呪文であったが、水中で死せるドラゴン相手では効果が薄かった。
(まずいな。浄化の呪文が効かないとジリ貧だ。栄光の指輪を持ってきていれば……)
栄光の指輪とは、トゥルーが以前画期的発明をした際に褒美としてもらっていた指輪である。神秘的な造形の指輪であるが、効果は単純で、装着者の聖なる気を上げること。見る人が見れば、後光が差しているように見える。副次効果として装着者が聖なる呪文を唱えた場合、その効果が倍増する。というもの。聖職者でもないトゥルーは普段役に立たないアイテムとして山里の自分の家にそれを置いてきていた。
「はい、トゥルーさん。これですね」
トゥルーが横を見ると、いつの間にかナオが居た。そして手渡されたのは、美しく聖なる光を放っている、正にその栄光の指輪であった。
「えっ、ナオさん。居たんですか?」
そう、出航した時に自分の受けた依頼だからとナオを村に残していたはずなのだが、いつの間にか隣に居たのでトゥルーはかなり驚いていた。
「はい、おもしろい魔物ですね。トゥルーさんの戦ってる姿、素敵ですよ」
ナオはおもしろいものが見られて喜んでいた。トゥルーは何か言いたそうであったが、そんな余裕はなく、急いで指にはめると呪文を唱えた。
「大聖破邪(アーク・ホーリー!)」
再び遺跡内が聖なる光で満ちる。明らかに先ほどの聖なる光より強い。その光を浴びた死霊水龍の動きが鈍り、その体が崩れ、光の中に消えていった。
「はー、ナオさん。まずはお礼ですかね、ありがとうございます」
トゥルーの言葉にナオは笑顔で応えた。それに対し、ちょっと複雑そうな顔をしたトゥルーであったが、吹っ切れた感じで作業に戻った。
「瘴気はもう出てないな。まぁ念のためにこの遺跡には結界を張っておくか」
トゥルーは遺跡全体に永続結界を張ると海上に戻り、船でナオと一緒に村に戻った。
トゥルーは村長に対し、魔物を引き寄せる瘴気を発していた死霊水龍は浄化済で、さらに棲処であった遺跡全体に結界を張ったので、もう何もしなくとも魔物は現れなくなったことを説明した。
もちろん、村中大騒ぎとなり、その晩は村人総出の感謝祭が開かれた。トゥルーのもとには村人が次から次に感謝の言葉とともにエールをついでくれた。子供たちがトゥルーの周りを煩いほど飛び跳ね、老人たちはこれで村が救われた、苦しみから解放されたと涙を流していた。
「もうホント、何とお礼を言ってよいのやら。これで。これでこの村は救われました。何から何まで。全部トゥルー様のお陰です!」
「いえいえ、成り行きというか、当然のことですよ。これで漁ができるようになったんで何よりです。またおいしいイカ料理造ってくださいよ」
トゥルーは久々に感謝されることの喜びを噛みしめ、ナオはそんな上機嫌のトゥルーの隣で嬉しそうに微笑んでいた。




