第8話 灰の姉妹、タヌライとクレバシ【挿絵付き】
空を見よ。晴れ晴れとした青空が君の上に広がるだろう。快晴とはまさにこのことを言うのだろう。そよ風はさやさやと街の中を吹き抜け、小鳥はたおやかに歌う、まさに穏やかな日と言える。
そんな折。
雨雲の一つないこの日をしかし、さながら雷雲が囁くような、ゴロゴロとした音が絶えず街の中を駆け抜ける。それは疾風よりもなお疾く、音が鳴った時には既に遥か彼方でさらなる音を立てる。
稲妻が駆け抜けていくように、小さな体躯が商業区を瞬きする間に飛び越えていく。
その小さな稲妻は誰であろう、タヌライだ。屋根を蹴る音を置き去りにして、街を駆け抜けたタヌライは鉄と煙と蒸気噴き出す工業地区の屋根を目にも映らぬスピードで駆け抜けていく。まるで時間さえ置き去りにしているようだ。誰も彼女に気づくことは出来ず、気づいた時はその姿は彼方にありて、影さえ見ることは誰にもできない。
タヌライは幾百、幾千の工場の大海はしかしタヌライに掛かれば駆け抜けるのに十秒と必要としない。タヌライは垂直に伸びる高い高い鉄塔をその勢いのままに真っすぐに登る。もはや重力さえ彼女を掴む術はない。遥か彼方に広がる青空すら手を伸ばせば届いてしまうであろう。忽ち鉄塔の頂上へと至ったタヌライは街を一望出来るほどの高さ塔を踏みつけてさらにさらに高く跳んだ。
風よりも自由で、雲もよりも優雅に、タヌライは青空を飛び越えていく。
それでもなお。
それほどまでに高く跳びあがってもなお、空を征くクジラには届かない。
ならばと、タヌライはそこいらを漂う白い雲を踏んづけて跳躍した。次々に雲を蹴りつけさらにさらにと空を超えていく。しめた、虹だ! 幸運はタヌライに味方をしている。虹の橋が架かっているではないか。
タヌライは空に架かる虹の橋を走り抜ける。タヌライの脚力は虹の橋すらもあっという間に走り切り、最も高い位置にまで登り詰めた。上空へと逃げようとする飛行船クジラはしかし、急に雲の中を潜ろうと高度を下げ始める。これはチャンスだ。タヌライは虹の橋から飛び出し、雲の飛沫を散らすクジラの腹に掴み掛った。
「ぐ……っ!」
急速に動く飛行船クジラの衝撃にタヌライは呼吸を止め、耐えた。暴れ回るクジラの腹部からは、微かばかりの悲鳴が聞こえる。乗客もこの事態に限界は近いだろう。ならば勝負は速攻を仕掛けるしかない。
タヌライは腹部に足を掛けると、蹴り、その勢いのままに暴れるクジラの身体を走り抜けた。クジラが苦悶の鳴き声を上げている。大丈夫、今助けるよと、タヌライは心の中で語りかけながら、ついに背へと躍り出た。
雲の海を抜け、視界が青空に染まる。
その瞬間を、大きな影が横切った。目で追いかければ、紺碧の空に獣が踊る。
獅子の頭と、山羊の頭を併せ持つ、四足型の獣。巨大な蛇が尾になり、背中からは身の丈よりも大きな、コウモリの如き黒い羽。
キメラ型と呼ばれる塔の魔獣。
それが今、タヌライの前に姿を現した。
「こいつが、塔から出た魔物」
タヌライが拳を握り臨戦態勢を取ると、魔物もタヌライを敵とみなしたのか、おおきな咆哮を上げてクジラの背に降り立った。
ふわり、とその巨体には似合わぬ穏やかな着地。獅子の頭はスンスンと鼻を鳴らし、山羊の頭はじぃ、とタヌライを睨む。
一歩、一歩、さらに一歩。
距離を保ちながら、しかし円を描くように、タヌライの周りをゆっくりと周る。隙を伺っているのか。しかしいつでも飛び掛かれるように頭は下げ、足の動きは決してゆったりとしたものではない。尾の蛇が鎌首をもたげ、今にも襲い掛かりそうであるが、タヌライもまたそれらの動作を見逃すことが無いように視界を広く持ち、視線を合わせ続ける。
拳を握り、構えを取り、すり足で動きながら、決して背は見せない。
息を呑むことさえ憚られる、張り詰めた、冷たい空気。
互いに見合いながら、間合いを計る。攻め時を探り合いながらの、思考と本能の勝負。
——強風が吹き、タヌライのフードが外れて、灰色の髪が風に煽られた。
「——来いっ!」
クジラの皮膚を蹴り、先に飛び出したのはキメラだ。巨躯をしならせて飛び掛かり、その剣よりも大きく鋭い爪をタヌライに向けて振り下ろしながら襲い掛かる。しかしタヌライは地面に足を踏ん張って爪の一撃を腕で受けた。
縫い付けられたかのように微動だにしないタヌライは爪の衝撃を全身で受けながら、しかし剛爪はタヌライの皮膚を傷つけるに至らず。爪を受け止められたことで返って隙を晒すことになったキメラに、今度はタヌライが飛び掛かった。
「おおぉぉっ!」
裂帛の気合と共に吐き出した雄叫びが空気をビリビリと震わせる。消えたと錯覚するほどのスピードで接近したタヌライの鉄拳は獅子の顔を殴りつけた。分厚い毛皮は生半な剣や銃すら弾く天然の鎧だが、タヌライのパワーには関係ない。怯み、仰け反り、浮き上がった身体は拳が振り抜かれると同時に蒼空へと投げ出され、タヌライも自ら蒼の中へと踊り出す。
タヌライの追撃が迫る。だが魔獣はすぐさま翼を広げて体勢を立て直すや、飛翔してタヌライの拳を躱した。そう上手くはいかないかと、タヌライは雲の上に着地したが、そこを赤い光が貫き、タヌライは咄嗟に飛び退った。
獣の両口からは煌々《こうこう》とした朱の光が零れ、ぼぉ、と火の花が零れ散る。
弾丸の如きスピードで放たれた炎弾がタヌライを襲う。タヌライは次々と雲を乗り換えて飛び移りながら上空にいるキメラへと向かう。
豪炎の嵐を放たれた距離を一瞬にして詰めたタヌライは再び拳を見舞うが、獅子の顔はタヌライの撃拳に合わせて額に力を込め、その一撃を耐える。すかさず追撃をと左の拳を握ったタヌライだが、山羊の角が青光りしたのを見るや、即座に両腕を交差させて体を丸め、防御態勢に移った。それは山羊の頭から稲妻が放たれるのを予見していたからだ。
「ぐぅぁあああっ!」
電撃に襲われたタヌライはその衝撃に苦悶の声をあげる。そこへ体重を乗せたキメラの剛腕が叩きつけられ、少女の身体はいくつもの雲を突き破るほどに吹き飛んだ。
空へ投げ出されたタヌライをいくつもの炎弾が襲い、さらにキメラ自身も追撃に飛翔する。タヌライは爆炎を浴びながら堪え、その爆風を利用して雲の上に飛び乗り、襲い来る爪を跳躍して躱した。空ぶった獣の巨躯を上から見下ろすタヌライ。しかし再び角が青光りするのをのうのうと見逃すわけにはいかぬ。
飛び上がったタヌライを仕留めようと巨大な蛇の尾が牙を剝いて襲い掛かるのを、タヌライは体を捻って鮮やかに躱し、流れる動作で右の蹴りを刃の如く振り降ろして山羊の角を蹴り折った。キメラはその痛みに鳴き声を上げて体を震わせ、さらにタヌライは背中を強く蹴りつけた。
角と背を蹴り抜かれた痛みはキメラが悶絶するに足る威力である。体をうねらせ、苦しみ悶えるその背に、組んだ両手をハンマーさながらにしてタヌライは激しく叩きつけた。
背骨を砕く一撃はキメラに飛行をままならせぬほどにダメージを与える。翼を広げることも出来ずに真っ逆さまに街へと落ちていく魔物を追ってタヌライも跳んで後を追い、体勢を整えようとしたキメラにさらなる追撃を見舞う。空で身体を起こそうとしたキメラは山羊の頭を殴りつけられ、虹の橋に叩きつけられて幾度も体を跳ねさせながら転がった。
タヌライも、虹の橋の上に着地し、即座にキメラに襲い掛かるが。
「わっ!?」
二つの頭は倒れながらも業火を吐いてタヌライの接近を許しはしない。咄嗟に腕をクロスさせてタヌライが受け止めた隙に立ち上がるや、またしても翼を広げて宙を舞う。
「しつこいなぁっ!」
あまりの打たれ強さに思わず一人ごちる。
キメラは二つの口を開けて大きく息を吸い込むと、喉の奥を赤々とした光で滾らせた。眩いほどに輝くそれが二つの口から放たれた瞬間、顔を覆いたくなるほどに光と膨大な熱が広がった。
津波だ。
炎の津波が見る見る広がり、タヌライを飲み込まんと怒涛の勢いで迫り来る。キメラの渾身の一撃を、だが、タヌライは逃げることはなかった。迫り来る炎の壁を前に、タヌライはその中へと向かったのだ。虹の橋を駆け抜けて、猛る炎の熱を前にタヌライが選んだのは——跳躍。
猛進する火炎の海をタヌライは一足飛びで飛び越え、拳を構えて宙から襲い掛かる。
「やあぁぁっ!」
タヌライを焼き殺すつもりで放った技は飛び越えられた。口をタヌライの方向に向けようとするが、放たれた矢よりも鋭く飛び出したタヌライの拳が届く方が早い。
今まさに決着をつけんとした一撃が振り抜かれ——ようとしたその瞬間を、まさに今かと待ち焦がれていた尾の蛇が、牙を光らせ、タヌライを迎え撃った。
しまった——と思うがもう遅い。勢いのままに突っ込んだタヌライはなんとか寸でのところで飲み込まれる前に両手で牙を掴んで持ち堪えたが、タヌライの攻撃は完全に封じられてしまった。その瞬間、蛇の身体が激しく揺らぎ、ムチのように激しくしならせてタヌライを吹き飛ばした。
もう随分と下に降りてきてしまい、辺りには雲が無い。どうするかと、思考を巡らせようとしたが、キメラは既に迫っていた。大きな前脚をタヌライに叩きつけ、逃がしはしないとばかりにそのままタヌライを捕らえ続け、加速する。
——こいつっ!?
苦悶の息を零しながら、タヌライはキメラが真っ逆さまに地上へと向かっていることに気づく。自爆覚悟の一撃か。反撃をしなければと焦るが、先ほど牙を掴んだ時に、牙から麻痺毒が垂れ、それを掴んでしまったことで腕が痺れ、力が入らない。
——ま、まずいっ!
遥か眼下にあった街はしかし、もうすぐそこである。痺れは少しずつ快復をしているが、地上が迫る速さには間に合わない。
「くっ」
このままでは地上に被害が起きる。タヌライは首を傾けて落下地点を予測し、このままでは民家に激突すると悟るや、強引に体を回転させ、キメラの腕を蹴り上げて角度をずらし、人が少ない路上に向きを変えた。タヌライの微かな抵抗だ。
かくして音を裂きながら強烈な勢いで迫る魔獣は大地を砕き、石畳の地面を破壊した。叩きつけられたタヌライの悲鳴が聞こえぬほどの爆音と破砕音と風の轟音が辺りに響き、土砂が巻き上げられて嵐を起こす。風と砂と石の波が周囲にいた人々に襲い掛かり、建物は暴風に晒され、軋み、窓ガラスを破砕させる。その様はまさに悪夢か。見よ。たった一瞬にして、穏やかな昼下がりの街は爆弾を投げ込まれたかのような光景が広がり、パニックに陥った街の住人は逃げ惑うことさえ叶わず、悲鳴をあげるばかりだ。
勝った。
今度こそ勝ったのだと、獣は勝利の雄叫びを上げた。
辺りに力を誇示するように、あるいはこの場所は自分のものだと宣言するように。足元で血を流し、倒れ伏す獲物を見せびらかすように、魔獣は何度も雄叫びを上げ、人々を震え上がらせた。
「勝手に、勝った気にならないで欲しいな……!」
言葉が、勝利の余韻を妨げる。
圧し潰したはずの脚が、緩やかな、しかし強烈な抵抗で、ぐぐぐと持ち上げられる。
在り得ざるはずの可能性に、しかし確かに、そこにある力が抵抗を見せていた。前脚はしっかりと持ち上げられ、押し返そうとする獣の膂力すらも意に介していない。ぶん、とはじき返されて、キメラはたたらを踏みながら、大きく後ろに仰け反った。
「まだ、終わってないよ……っ!」
タヌライだ。
体から血を噴き出しながら、虹の橋が架かるほどの高さから叩きつけられてもなお生きていたタヌライが、起き上がり、拳を握っている。まだ負けられないと、渾身の力を込めて立ち上がってくる。
タヌライは辺りを見渡した。
平穏な鉄と蒸気の街並みは、しかし今や混乱と恐怖に包まれて、辺りには怪我をした人たちもいる。タヌライは己の迂闊さを恥じた。しかしそれ以上に、今は倒すことが先だと思考を割り切り、拳を構える。毒は何とか抜けた。どうにかして頭を潰せば勝機はあると、冷静になる。
双頭が鎌首をもたげた。もう一度炎を吐かせてなるものかと、タヌライは大地を蹴って疾駆し、炎を吐く邪魔をさせまいと迎撃に来る巨大な蛇の牙を躱して、その首を両腕で掴む。
彼女の行動は予想外だったか、一瞬動きが止まる獣はしかし、次の瞬間には四足が地面から浮き、視界が目まぐるしく変わり始める。
その巨躯はぐんぐんと遠心力に煽られ、身体が激しく回転する。それはなぜか。タヌライが大蛇を掴み、ぐるぐるとキメラを振り回しているからだ。ぶん、ぶん、とキメラの巨躯を回転しながら振り回すタヌライはこれ以上地上に被害を出せぬと、空へ向かって投げ飛ばした。獣の身体は再び宙を舞う。タヌライもそれを追い掛けて空中戦を挑もうと体を屈めた。
「タヌライー!」
そこへ突然声が、野太い男の声が割り込んでくる。
振り返れば、タヌライよりも一回り、二回りも大きな体の男たちが連なって、麻の布に包まれた何かを重たそうに担ぎながらこちらへと向かってくるではないか。なぜここにと、その男たちの顔を見て疑問に思うが、周囲を見回し、ここがどこであるかをようやく理解して、タヌライは笑みを浮かべた。
そう、ここは工業区の中心地。その中でも鍛冶師たちが多く集まる区画である。タヌライは今朝、塔から帰って来てすぐ、壊れかけていた愛用の斧を修復と強化のためにこの工業区にいる鍛冶師たちに預けていたのだ。
「おじさんたち!」
「タヌライー! 要望通りの品だ、受け取れー!」
男たちが投げ飛ばしたそれは弧を描いてタヌライの元へと投げ飛ばされる。何人もの屈強な男たちが苦しそうに抱えていたそれをしかし、タヌライは片手で軽々とキャッチすると、袋を破り捨ててそれを露わにする。
何よりも一番に目につくのはその巨大さだろう。タヌライの身の丈よりもさらに大きい。そして鈍色の両刃が広がり、灰色の鋼鉄の先には乳白色の刃が取り付けられている。これはモンスターの牙を加工し、研磨して取り付けた刃だ。そして斧腹の中心に埋め込まれた、輝く翡翠色の宝石が美しい。
何より持ち手だ。特別な樹枝を幾重にも巻き付けて編み固めた持ち手は、今までタヌライの怪力に耐えられずいくつも壊した斧と違い、確かな頑強さを感じ取れる。
「ありがとう、おじさんたちー!」
感謝の言葉を述べて手を振り、鍛冶師の職人たちもまた手を振って返してくれる。
これならやれると、タヌライはがっしと掴み、構えた。空からは既に体勢を整えているキメラがいるが、準備ならこちらも完了したのだ。
両の脚に力を込め、タヌライは——全力で跳んだ。
弾丸さえ追い越すほどのスピードで。
風よりも疾い速度で。
目にも映らぬ一瞬で。
タヌライは、キメラを追い越した。
刹那。
まさに刹那である。
すれ違ったその一瞬が、勝負の明暗を分けた。タヌライを仕留めようとしたキメラの身体は、迫り来る敵を迎撃する間もなく、通り過ぎられてしまった。
一閃。
閃光の一撃が、勝負を決した。ぐらりと静かに頽れた身体は、真っ二つに裂けていく。地面に力なく落ちていく。切り裂かれた断片から零れる血は、肉は、骨は、神経は、筋肉は、脳は、内臓は、毛皮は、鱗は、全て、全て余すことなく、鉄へと変わる。鈍色の金属が体の内側から広がり、その一切が金属に変わりながら落下していくのだ。
全身を鉄へと変えて、魔獣は敗北した。
「あ、しまった!」
獣を倒した勢いのままに空へと飛び出したタヌライは、巨大な鉄塊が地面に落ちていくのを忘れていた。既に追いかける術もなく、自由落下に身を任せるしかないタヌライは大きな声で「逃げて! 逃げてー!」と叫ぶしかなく、当然地上の人々も慌てて逃げようとしている。
やっちゃった、とタヌライが顔を覆うが、しかし、落下するタヌライの身体が途端にふわりと浮き、同時に眼下の巨大な鉄塊も空中で静止し、ゆったりとした速度で降りていく。
何事かと地上に目を向ければ、その理由を理解してホッとし、力が抜けた。
「ったく、詰めが甘いのよ」
割れた石畳を踏みながら、空を指さした女が不満を口にする。
指先に小さく灯る輝きが、光の泡でタヌライと鉄塊を包み、地上にゆっくりと降下させる。
それは誰であろう、クレバシだ。
クレバシが魔法でタヌライと魔物の鉄塊を浮かし、安全に下ろす。
「クレバシー!」
空の上からタヌライが笑顔で手を振り、クレバシも苦笑しながら手を振って返す。
それを隣で見ているのは当然、一緒に駆けつけたパメラだ。こちらも安堵の息を吐きながら、タヌライが仕留めた獲物を見遣る。
人の何倍も大きな獣。これをたった一人で仕留めたタヌライと、こんなものが落ちてきても指先一つの魔法で浮かせてしまうクレバシの魔法コントロール。二人が只者でないことは、誰の眼にも明らかであろう。
風に煽られてクレバシのハットが飛び、灰色の髪が露わになる。
「さて、改めて自己紹介といきましょうか」
巨大な鉄塊が音も立てずに地面に降り、次いで降りて来たタヌライが身の丈よりも遥かに大きい斧を平然と肩に担ぎながら風に乗ったハットを掴み、にこやかにクレバシの傍に駆け寄る。
二人の灰色の髪が優しい風に靡いた。
「錬金術師にして、現行の塔の探索において最奥までの攻略者、クレバシとタヌライ。人呼んで“灰の姉妹”よ」
タヌライから受け取ったハットをクレバシは深く被り直して、振り返り。
「どうぞ、よろしくね?」
「よろしくねー!」
己らの価値を証明するように、手を差し伸べて来たのだ。




