出かけることの意味
数日後、討伐から帰ったばかりのレイヴンたちは、王都の広間でゆったりとした時間を過ごしていた。アリシアは、テーブルに座りながらも、どこかしら落ち着かない様子で紅茶をすすっていた。王都にいることには慣れてきたものの、どうしても自分の居場所がまだ見つからない気がしていた。
「なあ、アリシア。」レイヴンがふと声をかけた。「お前も王都の外に出てみないか?たまには気分転換も必要だろう。」
「外に?」アリシアは目を見開く。
「うん、外の世界を見て回るのもいいかもしれないって思ってさ。お前だってずっと王都に閉じ込められてるばかりじゃ、退屈だろ?」
その提案にアリシアの心が少し揺れた。外の世界――王都の外。普段はあまり考えないことだったが、少しだけ興味が湧く。しかし、そこにミナが割り込んできた。
「ダメよ、ダメ!アリちゃんを外に出すなんて危険すぎるわ!無茶言わないで!」
ミナはすぐに立ち上がり、両手を広げてレイヴンを止めた。
「でも、ミナ、アリシアだって少しは外の世界を見てみたいだろう?」レイヴンが反論した。
「それはそうだけど、あんた、アリちゃんのこと考えてないでしょ!」ミナの声が少し荒くなった。「アリちゃん、何もできないんだから!もし何かあったらどうするの?国王様に叱られるわよ!下手したら殺されちゃう!」
レイヴンは一瞬言葉を失った。確かに、アリシアにはまだ何もできることがないし、王都を出ること自体が危険を伴うかもしれなかった。しかし、レイヴンは少し反発する。
「そんな言い方しなくてもいいだろ!アリシアだって、外に出て、少しでも自分の目で世界を見たいと思ってるんだろ?それに、俺たちが守ってやるさ。」
「それが問題よ!」ミナが胸を張り、強い口調で続ける。「あんたは何もわかってない!アリちゃんはまだ外の世界に出て、危険な目に遭う準備なんかできてない!何かあってからじゃ遅いのよ!」
「俺だってわかってるよ!」レイヴンは少し声を荒げた。「でも、アリシアはずっと王都に閉じ込められて、何も経験しないままでいいのか?いつまでもそんな状況が続くと思ってんのか?」
「それが普通よ!だって、アリちゃんは何もできないんだから!」ミナは真剣な顔をして、レイヴンを見つめた。「それに、あんたが外に出したら、アリちゃんを守ることができなくなるじゃない!私たちがどれだけ強くても、国王に咎められるリスクがある!」
二人の言い合いがエスカレートする中で、アリシアはただ静かにそのやり取りを見つめていた。彼らが自分のために必死で守ろうとしてくれていることは分かっている。だが、どうしても心のどこかで、外の世界に出てみたいという思いが消えない。
「ミナさん、レイヴンさん…」アリシアは静かに口を開く。「あの、ありがとう。心配してくれて。でも、私が外に出たからといって、危険に巻き込まれるとは限らない…と思います」
ミナとレイヴンは一瞬お互いを見つめた後、どちらも言葉を飲み込む。
「アリシア…」
「でも、私はまだ準備ができていない。」アリシアは小さく続ける。「だから、今は外に出るのは控えます。でも、いつか、みんなと一緒に外の世界を見て回れるようになったら、もっと強くなれるようにがんばります」
その言葉に、レイヴンもミナも黙り込んだ。少しの沈黙が流れた後、レイヴンが最初に口を開く。
「分かったよ。無理に行かせるつもりはない。でも、少しでも気になるなら、遠慮しないで言ってくれよ。」
「ありがとう、レイヴンさん。」アリシアは少し笑顔を見せた。
ミナはしばらく眉をひそめていたが、やがて肩をすくめる。
「分かったわ。でも、もし何かあったら私のせいだからね。」と、ちょっと照れくさい顔で言った。
「ありがとう、ミナさん。」アリシアは心から感謝を伝えた。
これからも、彼らと一緒に歩んでいけることが、少しずつ明るい未来に感じられるようになったアリシアだった。