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女勇者は普通に生きたい  作者: 脇汗ルージュ
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王都に忍び寄る影

王城の中庭に、春の風がそっと吹き抜ける。

アリシアは白いティーカップを手に、優雅な午後を過ごしていた。

ほのかに香る花の匂い。甘いお菓子。そして静けさ。


「これが、普通の生活……ふふっ、なんだか夢みたい」


笑顔で独りごちた、そのときだった。


「アリシア様っ!」


慌ただしく扉が開かれ、使用人服を乱したままのメイドが駆け込んできた。


「街の東門が、魔族の襲撃を受けて……門が、破られました!」


「……え?」


アリシアの手元で、ティーカップがかすかに揺れる。

でも、すぐには立ち上がらない。ただその報せを静かに受け止める。


「アリシア様、どうか城の中にいてください! 兵たちがすでに対応に向かっております!危険です!」


心配そうな声に、アリシアはそっと頷いた。


「……わかったわ。私は、ここにいるから」


メイドが去った後、アリシアはぽつりと呟く。


「――って、言ったけど」


彼女は立ち上がり、窓の外を見た。遠くで、煙が上がっている。


(逃げ遅れた人たちがいるかもしれない。……誰かを、助けたい)


だが、それは“勇者”の本能だった。

この世界ではただの“か弱い女の子”として過ごしたいはずなのに。


「誰にも見つからなきゃ……いいよね?」


アリシアはすっとドレスの裾をたくし上げ、裏口からそっと姿を消す。

軽やかに走り、人気のない裏路地を抜けて王都の東門へ――


そこには、暴れる魔族と逃げ惑う人々。

手薄な防衛網をかいくぐった魔族が、容赦なく街を蹂躙していた。


「たった一人? 女の子か……運が悪かったな!」


魔族がせせら笑う。


だが、次の瞬間――彼らは誰一人として立っていなかった。


アリシアは、誰にも気づかれずに全てを終わらせていた。


「ふぅ……。お茶、冷めちゃったかな」


何事もなかったかのように、彼女は王城へ戻っていく。


その背中を、誰も知らない。

彼女が“世界を救った勇者”であることを――


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