賑やかな日常
――翌日、アリシアは新しい生活にちょっとだけ慣れてきた。
朝、まだ少し眠い目をこすりながらベッドから起き上がる。部屋の窓から見える王都の街並みは、昨日のような緊張感もなく、どこか穏やかで温かい雰囲気だ。
「ううん……これが普通の生活、なのかな……?」
自分の顔を鏡で見つめる。王城に到着したばかりの自分は、まだ少し緊張していた。だが、今はもう少しだけ落ち着いてきた。
「よし、頑張ろう!」
そう思いながら、アリシアは今日もパーティーのメンバーに会うべく部屋を出た。
――廊下を歩いていると、見慣れた金髪のレイヴンが走ってきた。
「お、アリシア! ちょうどよかった! 今日、みんなで外に出るんだろ? どこ行こうか?」
「え、外に出るんですか?」
アリシアは少し驚いた。まだ何も聞いていなかったのだ。
「うん、そうだよ! せっかくだから街を見て回ろうって話になったんだ!」
「……それは楽しそうですね!」
「だろ?みんな、待ってるぞ!」
レイヴンは楽しそうに、どこかへと走り去っていった。
その後、ガルドとミナ、シリルが集まる食堂で待っていた。
「おーい! いくぞー!」
ガルドが大きな声で呼びかけると、シリルは無表情のまま「行くぞ」と静かに答える。
「うーん、やっぱりミナは元気だ」
「むさいわねー! それよりアリちゃん、ちょっとアレ試してみて!」
ミナが突然アリシアに近寄り、にやりと笑った。
「アレって、何ですか?」
「わかんないの? ほら、魔法のサインよ、魔力をチラ見せしてみなさいよ」
「え? いや、私は本当に普通の……」
「なんだ、やっぱり本当にただの普通の子かー! でも、そんなカワイイ子がこんなパーティーに入ってきたの、すっごく楽しいじゃないの!」
「だ、だから私は普通……」
ミナが笑いながらアリシアの肩をポンと叩く。
「アリちゃん、心配しないでよ! どんな子でも大歓迎よ、アタシたちは!」
街並みの中、笑い声と賑やかな声が響き渡る。初めての街に出たアリシアは、心の中で少しだけ解放された気がしていた。
「今日は、何が待っているんだろうな……」
仲間たちと一緒に歩きながら、アリシアは穏やかな時間を過ごしていく――。
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アリシアは仲間たちと共に、王都の賑やかな市場を歩いていた。店の前には色とりどりの商品が並び、どこも活気に溢れている。通りすがりの人々の笑い声や話し声が、心地よく響いてくる。
「おぉ! アリシア、こっちこっち! これ、すっごく美味しいんだぞ!」
レイヴンが指差した先には、屋台が並んでいて、その前には長蛇の列ができていた。屋台では、色鮮やかなスイーツが並び、甘い香りが漂っている。
「これ、流行ってるんだよ! みんな大好き、フルーツシャーベット!」
「フルーツシャーベット? そんなの初めて見ました」
「お前、まさか街の食べ物も知らないのか?」
レイヴンが驚きながらアリシアを見つめると、アリシアは少し恥ずかしそうに笑う。
「えぇ……実は、あんまり食べ歩きとかしたことなくて」
「ほー、意外だな。じゃあ、今日はアリシアも食べてみよう!」
ガルドが大きな手でアリシアを軽く後押しし、みんなで並ぶことになった。
「ふふ、楽しみだね!」
ミナがにっこりと微笑んだ。
「ここのフルーツシャーベットは、果物をそのまま凍らせたような感じで、すっごく美味しいのよ!」
シリルは無表情で、ただ黙って並んでいる。その表情はいつも通り冷たく見えるが、アリシアはふと、彼が心の中では楽しみにしているのだろうなと感じた。
数分後、ようやく自分たちの番が来ると、店主がフルーツシャーベットをひとつひとつ渡してくれた。
「さぁ、どうぞ! フルーツがたっぷりで、かなり美味しいからな!」
アリシアは一口食べて、その甘さに驚いた。
「わぁ……こんなにフルーツの味が強いんですね!」
「でしょ? これが王都の流行りの食べ物さ!」
レイヴンが得意げに言うと、ミナが声を弾ませた。
「アリちゃん、顔にフルーツがついてるわよー! はい、ティッシュ!」
アリシアは顔を赤くして手で拭ったが、どこか照れくさい気持ちがあった。
「なんだか……普通の女の子みたいな気分です」
「普通の女の子……? 何を言ってるんだ、アリシア。お前はそのままで普通だろ?」
ガルドが笑いながら言ったが、その声には優しさが込められていた。
アリシアは少し驚いたようにガルドを見つめる。
「え?」
「どうしたんだ、アリシア? なんだか遠くのことを考えてるみたいだぞ」
「いえ、別に……ただ、こういう普通の生活って、やっぱりいいなって思っただけです」
街の喧騒を感じながら、アリシアは心の中で小さくつぶやいた。
“これが普通の生活、なんだよね?”
“普通”――それが、どんなにかけがえのないことなのか、アリシアは少しだけ理解し始めていた。
でも、このままでいいのかな……?
魔王を倒した後の孤独な日々を思い出すと、どうしても心の中に押し込んでいた不安が顔を出してきた。
だが、目の前に広がる街の景色と、仲間たちの笑顔を見ていると、その不安も少しずつ薄れていくような気がした。
「まぁ、今はそれが一番だよな」
シリルが静かに言った。ミナが「むさいわねー」とか言いながらレイヴンに絡んでいるのを見て、アリシアは思わず笑った。
「これが、私の普通の生活……かな?」
そう思いながら、アリシアは仲間たちと共に歩き続けた。