間違って召喚された女の子?
朝。城の客室に、やわらかな陽光が差し込む。
「……ふわぁ……」
アリシアは窓辺で紅茶を啜っていた。
異世界に来て3日。人目を避け、目立たないように暮らしている。
(このまま、何事もなければ……)
と、そのとき――
ドンッ!!!
勢いよく扉が開いた!
「ようっ!ここが“間違って召喚された女の子”の部屋かー?」
「ちょ、お前、いきなり入りすぎ……!」
「ねぇ、本当にただの子なの? 勇者じゃなくて?」
「てか、部屋かわいすぎじゃない? なんかイメージと違うー!」
突然、見知らぬ4人が部屋になだれ込んできた。
金髪の双剣使い。
氷を纏ったクールな魔法使い。
でっかい盾を背負った筋肉系戦士。
元気いっぱいな僧侶の女の子?。
「え……あの、あなたたち……?」
アリシアは紅茶を持ったまま、呆然。
「おっと、自己紹介な! 俺たち、“勇者と一緒に魔王討伐するはずだったパーティーメンバー”!」
「でも、なんか召喚されたのが“女の子”って聞いてさー! え?ミスじゃね?ってなってテンション下がってたんだけど、一応勇者のパーティーメンバーだし」
「気になってさ、どんな子だったのか見に来たの! いや~マジで来てよかったわ、めっちゃかわいいし!」
「……けどさ、ほんとに君が“勇者”なの? 魔力も戦闘気配も全然ないけど……?」
アリシアは笑顔を崩さず、紅茶を置いた。
「えぇ、私はただの女の子です。たぶん……召喚ミス、ですよ」
4人は顔を見合わせ、ふーん?という反応。
「まぁでも、なんか放っとけない感じだし、仲間だしよ!これからも顔出すわ!」
「てか、仲間の前に普通に友達になろーぜ!召喚ミスでも!可愛いし!」
アリシアは困ったように微笑んだ。
(やっぱり、“普通の女の子”でいられる……今は、それでいい)
だが彼女は知らない。
このメンバーが、やがて世界の命運に関わるほどの絆を結ぶことになるとは――まだ、誰も。
ーーーーーー
金髪の青年が腕を組んで、にやっと笑った。
「じゃ、俺たちのことも紹介しとくか!」
彼が一歩前に出る。
「俺の名前はレイヴン!双剣使いでパーティーのエース!ま、見ての通りカッコいいし、強いし、モテるし?」
「うるさいわね、あんたのどこがエースよ」
横からぴしゃりと声が飛んだ。
氷色の髪を揺らした少年が、冷たい目でレイヴンを見やる。
「シリル。魔法担当。君が“勇者”じゃないってのは、見た瞬間にわかった。魔力、ほとんど感じないから」
「え、えっと……そうですよね……」
アリシアはぎこちなく笑う。
“感じない”のではない。彼女が完全に魔力を隠しているだけだ。
「次、俺だな!」
ごつい体格の男が、グッと拳を突き出した。
「ガルドだ!盾役だ!敵が来たら俺が受け止めてやるから、安心してくれ!」
「……なんか、強そうですね」
「おっ、そうか? じゃあ今日からお前の盾だな!」
「……ふぅん。ならアンタたち三人で勝手に盾になってなさいな」
ふわりと香る花のような匂い。
しゃなりと腰に手を当て、女装気味の僧侶がウインクした。
「ミナって言うのよ、よろしくねアリちゃん!あらあら、こんなむさくるしい男ばっかりのとこに来て、よくぞ耐えたわねえ? むさいわねー、ほんっと!」
「え、えっと……ミナさん……?」
「おーっほっほっ!ミナ“ちゃん”よ!わかった?ミ・ナ・ちゃん!」
ぎゅっと抱きつかれ、アリシアはタジタジになった。
「――ふぅ。なんていうか、みんな……元気ですね」
「ま、アレよね。こうやって見ると、ただの召喚ミスの子って感じでもないけど……」
「けど、何か変な空気はあるよな。お前、ほんとに“何もできない子”なのか?」
アリシアは笑った。
「えぇ。私はただの、普通の女の子ですよ?」
その笑顔の裏に、誰も気づかない――
すべてを救った、最強の女勇者の影など。