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女勇者は普通に生きたい  作者: 脇汗ルージュ
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誰も私を見ない

眩い光に包まれ、目を開けると、そこは見知らぬ場所だった。


石造りの神殿のような空間。高い天井。中央には、アリシアを囲むように立つ人々の輪。

彼女が立っているのは、刻まれた魔法陣の中心。転移直後の鈍い痛みが、体の奥に残っていた。


「……成功したか?」


「え……まさか、女…?」


誰かが低くつぶやいたその言葉に、場の空気が変わった。

歓迎の歓声など、どこにもなかった。

ただ、静かな――落胆。


「召喚されたのは“勇者”のはずだぞ。女だなんて……」


「手違い、か?いや、儀式は正しく行ったはずだが……」


「こんな小柄な娘が魔王と戦えるものか」


アリシアは黙っていた。目を伏せ、口も開かない。

――もう、慣れていたから。

期待されないことにも、誤解されることにも。


(やっぱり、ここでも……)


誰も彼女の強さを知らない。

知らなくていい。知られたくもない。

それで――やっと普通の女の子として生きられるなら。


「陛下、お詫びいたします。召喚には誤差があったのかもしれません」


神官が一歩前に出て、ひざまずいた。

玉座に座る老いた王は、ため息混じりに彼を制する。


「いや、よい。召喚してしまった以上、責任は我々にある。……娘よ、名は?」


アリシアは、静かに顔を上げた。

長く伸びた白金の髪が肩を揺らし、透き通るような瞳が王を見た。


「アリシアです」


騎士たちがざわついた。勇者にしてはあまりにも控えめで、少女らしい言葉。

だが王はその表情を柔らかく緩めた。


「……うむ。罪なき者を追い返すことなど、我が国の誇りが許さぬ。しばらくは城で暮らすとよい」


「ありがとうございます」


そうして、アリシアはこの世界での新たな生活を手に入れた。


けれどその日、夜になってベッドの中で目を開けたままの彼女は、誰にも見せない涙を流していた。


(私が、誰かの役に立てないことが……嬉しいなんて思っちゃうなんて)


そう思いながらも、胸の奥の寂しさは、どうしようもなく疼いた。

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