魔王を討伐した少女
アリシアは、まだ少年のような容姿をしていた。だが、その小さな体には計り知れない力が宿っていた。彼女は、世界を救うために育てられ、幼いころから過酷な訓練を受けてきた。
魔王が世界を脅かしてから数年が経ち、その間に数多の戦士たちが討伐を試みては敗れ去っていた。だが、アリシアは異例の存在だった。
「これで、終わりだ…」
アリシアは魔王の前に立っていた。長い戦いの末、ついに魔王の本拠地にたどり着いたのだ。彼女の剣は血に染まり、魔王の悪しき力を打ち砕く準備が整っていた。
「お前が、この世界を救うのか…」
魔王の顔には、驚きとわずかな恐怖が浮かんでいた。
「もう、誰も死なせない。私が終わらせる。」
アリシアの目は冷徹で、戦士としての覚悟がその瞳に宿っていた。
その言葉と共に、アリシアの力は爆発的に解放され、魔王は一瞬で消え去った。圧倒的な力で魔王を討ち果たしたその瞬間、アリシアはようやく自分が望んでいたものを手に入れたように感じた。
ーーーーー
世界は救われた。
燃えていた大地は雨に濡れ、黒い雲は晴れ、
数年ぶりに空に太陽が顔を覗かせた。
だが――
「……あれが、魔王を討った者か」
「人間とは思えん。あんな力、見たことがない」
「本当に味方だったのか? もし敵になったら……」
人々のささやきは、感謝ではなかった。
畏怖。疑念。恐れ。
アリシアの存在は、いつしか“神の奇跡”から“人の枠を超えた怪物”へと変わっていった。
彼女はまだ、十五にも満たぬ少女の姿をしていたというのに――
「アリシア様、お祝いの席には……」
「ああ、大丈夫。私は、いいの」
広場で開かれた祝勝の祭りにも、アリシアの姿はなかった。
王宮の奥、誰も来ない小さな部屋にひとり閉じこもり、
静かに空を見ていた。
誰かの笑い声が聞こえるたびに、
遠くで響く笛の音が流れるたびに、
彼女の胸には、じくじくとした痛みが残った。
「私が強すぎたから……? それだけで、誰も近づいてこないの?」
戦うために生まれ、戦うために育ち、
ようやく世界を救ったというのに、
アリシアに与えられたのは、祝福ではなく“距離”だった。
剣を置いても、肩の重さは消えなかった。
どこへ行っても、誰かがさりげなく道をあけた。
まるで触れてはいけない、祟り神のように。
「普通の女の子になりたいな……」
ぽつりと呟いたその声は、誰にも届かない。
けれど、その想いこそが、
後に“もう一つの世界”へと繋がっていく。
――そして、彼女が再び「召喚」される物語が、始まる。