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短足おじさんの贈り物(童話)

作者: n.kishi

 小学1年生のるみちゃんは、駅前の商店街に近いアパートにおかあさんと2人で暮らしています。おかあさんは商店街のお弁当屋さんで朝から夕方まで働いています。るみちゃんは学校から帰ると、お母さんのお弁当屋さんをのぞきに行きます。おかあさんはいつも忙しそうにしていますが、るみちゃんを見つけると、にっこり微笑んで手を振ってくれます。おかあさんの元気そうな様子を見て、るみちゃんはひと安心。本当はお母さんの所に駆け寄って、きょう学校であったことをいっぱいお話したいのですが、それはおかあさんが夕方家に帰ってくるときまでお預けです。


 るみちゃんはお弁当屋さんの隣のたい焼き屋さんのおじさんとも顔なじみです。どんぐりのようなずんぐりとした体形のおじさんは、るみちゃんのことも、おかあさんのことも、よく知っています。それもそのはず、るみちゃんがまだおかあさんのおなかの中にいた頃からの知り合いだからです。おじさんはいつも「るみちゃん、おかえり」と声をかけてくれます。時には「たい焼き食べる?」と尋ね、焼き立てホカホカのたい焼きを紙に包んで持たせてくれます。るみちゃんは丁寧にお礼を言って、たい焼きを家に持ち帰り、大好きなゲームをしながら食べます。そうすると心も体もポカポカになります。


 るみちゃんは間もなく7回目の誕生日を迎えます。おかあさんは誕生日にいつもるみちゃんと自分の分2つのショートケーキを買ってきてくれます。6歳の誕生日には1つのショートケーキに窮屈でしたが、ろうそくを6本立てました。今年は7本立てることになります。


 るみちゃんのお誕生日がやってきました。おかあさんは仕事が終わってから、商店街のケーキ屋さんに急いで向かいました。お店のショーケースを見ながら、大きなため息をつきます。るみちゃんが大きなホールケーキに憧れていることをよく知っているからです。「できるものなら買ってやりたい・・・」。でも一度に5千円の出費は痛手です。るみちゃんは小さいながら家庭の事情も分かっていて、おかあさんにホールケーキをねだることはありません。おかあさんは心の中で「るみ、ごめんね」と謝りながら今年もいつものショートケーキ2つを買って帰りました。


 「お誕生日おめでとう」と言いながらお母さんはるみちゃんの前のショートケーキにろうそくを立て始めました。1本、2本、3本・・・6本と、ここまでは去年と同じ。さて、7本目はどこに立てようかと考えているとき、玄関でピンポーンとチャイムが鳴ります。「はあぃ」と言いながらおかあさんは玄関に行き、ドアを開けますが誰もいません。ふと足元を見ると、リボンがかけられた小さな箱が置いてあります。おかあさんは「何かな?」と首をかしげながらテーブルまで運び、包みを開けます。すると中からホールケーキが出てきました。るみちゃんとおかあさんはびっくりして顔を見合わせます。ケーキの上に飾られたチョコレートには、「るみちゃん、お誕生日おめでとう」と書かれています。ふたりはなにがなんだか訳が分かりません。憧れのホールケーキを前に、最初はけげんそうな顔をしていたるみちゃんですが、だんだんと喜びがこみ上げてきたようです。みるみるうちに笑顔になりました。おかあさんは誰がくれたのか、見当がつきません。でも少し考えると、「あっ!」と思い当たる人がいました。その人はきのう仕事からの帰り際、「るみちゃんはもう7歳になるね。早いものだね」と声をかけてくれました。ホールケーキをプレゼントしてくれた人の顔を思い浮かべながら、そのことはるみちゃんに秘密にしておくことにしました。その人は名前を出すことを望まないと考えたからです。


 さっき準備したショートケーキはあすの朝、食べることにして、ふたりはホールケーキにろうそくを立て始めます。ショートケーキと違いゆったりと7本立てることができます。ろうそくに火をともし、部屋の明かりを消して、るみちゃんがフッと息を吹きかけました。るみちゃんもおかあさんも、心の中がポカポカしてきました。


 次の日、学校から帰ったるみちゃんは、いつものように商店街へお母さんの様子を見に行きます。おかあさんはきょうも忙しそうに働いています。その様子を見てホッとしたるみちゃんは、隣のたい焼き屋のおじさんにきのうのことを話します。誰か分からないけれど、誕生日にホールケーキを届けてくれたと。おじさんは目を細め、ふんふんとうれしそうに黙って聞いています。おじさんの心の中もポカポカしてきました。


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