怪物と一緒に冒険にでかけよう
この作品は、「冬の童話祭2025」の参加作品です。
テーマは「冒険へでかけよう」です。
■登場人物
タラポ:冒険好きの少年。
怪物 :闇の洞窟の奥に住む異形。大きくなり過ぎて動けない。
大陸の奥地の小さな村にタラポという少年がいた。
村の近くに「闇の洞窟」と呼ばれる場所があり、そこには怪物が住んでいて、恐ろしい姿をしているらしい。そして捕まると食べられてしまうという噂だった。
タラポはその怪物をどうしても見たくて、ある日、初めての冒険へ出かけた。
闇の洞窟の中は暗く、どこまでも続いていたが、道は一つしかなく、迷うことは無かった。
そうして洞窟の一番奥へ着くと、そこには噂通り、見上げる程に大きくて真っ黒な怪物がいた。
タラポはあっという間に怪物の黒くて伸びる手に捕まった。
食べられると覚悟した時、怪物がタラポに話し掛けた。
「人間ヨ、コンナトコロヘ何ヲシニ来タ?」
「闇の洞窟にいる怪物を見に来たんだよ。」
タラポは素直に答えた。
「怖クナイノカ?」
「冒険がしたかったんだ。」
「オ前ハ冒険ガ好キカ?」
「好きだよ。」
それを聞いた怪物は少し考えると、タラポに頼みたい事があると言った。
「我ノ代ワリニ外ノ世界ヲ冒険して、ソノ話ヲ聞カセテクレナイカ?」
「どうして自分で行かないの?冒険は自分でした方が楽しいよ。」
タラポが不思議に思って聞くと、怪物は少し悲し気に答えた。
「我ハ体ガ大キクナリ過ギテ、ココカラ動ケナイノダ。」
確かに怪物の大きな体は洞窟の奥にガッチリと埋まっており、動けそうもない。
「分かった。僕が冒険をして、その話を君にするよ!」
タラポは怪物の頼みを引き受けた。
「我ノ目ヲ一緒ニ持ッテイッテクレ。ソノ目カラ外ノ世界ヲ見ルコトガデキルノダ。」
「でも、そんな事をしたら周りが見えなくなるよ?」
「コノ洞窟ノ奥カラ見エル景色ハ何百年モ変ワラナイカラ、見エナクテモ困ラナイ。」
「そうなんだね。」
「落トサナイヨウニ、オ前ノ額ニ付ケテオクカラナ。」
怪物は自分の目をタラポの額にペタリとくっつけた。
こうしてタラポは怪物の目と一緒に冒険へでかけた。
タラポは南へ向かった。
南は海が広がっていて、初めて見る海にタラポはワクワク、ドキドキした。
同時に、怪物の目もキョロキョロと動いているのを感じて、同じように海を見てワクワク、ドキドキしている事が分かり、タラポは何だか嬉しくなった。
その後も、ユラユラと透き通る青い水、スイスイと泳ぐ大小の魚、水平線から登るキラキラと輝く朝日、トロトロと沈む赤い夕日など、様々な美しい景色を見ると、タラポは怪物の元へ帰った。
怪物はタラポを笑顔で迎えた。そしてタラポの冒険の話を聞くと怪物はとても喜んだ。
しかしタラポは冒険の素晴らしさを伝えきれていないと思った。
「旅の途中でとても素敵な波の音や、楽し気なイルカやクジラの鳴き声を聞いたんだ。それを君にも聞かせたい。」
それを聞くと怪物は頷いた。
「デハ、我ガ耳ヲ持ッテイケ。」
「そんな事をしたら音が聞こえなくなっちゃうよ。」
「洞窟ノ奥デ聞コエル音ハ、地面カラ伝ワル振動ダケダカラ、聞コエナクテモ困ラナイ。」
そう言うと怪物は自分の耳をタラポの頭にくっつけた。
タラポは怪物のキョロキョロする目と、ピョコピョコと動く耳と一緒に冒険へでかけた。
タラポは西へ向かった。
西には幾つもの都があちこちにあって、たくさんの人々が暮らしていた。
ガヤガヤと騒がしい巨大な市場、ヒュロロという不思議な音色の笛、シャラランとした華やかな踊り、ララララと心が弾むような音楽、涙が出るほどウルウルと美しい歌声を聞いた。
「この冒険の話もきっと喜んでくれるぞ。」
タラポはウキウキしながら帰ろうとしたが、途中でとても気になる大きな砂の渦を見つけ、フラフラと近付いてしまった。
「うわーーー!!!」
タラポは渦に飲み込まれ、危うく命を落としかけたのである。
何とか助かり、やっと帰ってきたタラポに、心配で興奮している怪物は言った。
「オ前ハ向コウ見ズ過ギル!」
「だって……砂の渦がどうなっているのか見てみたかったんだ。」
しょげながら答えるタラポを見て、怪物は考えた。
「我ガ腕ヲ持ッテイケ。伸ビタリ大キクスル事モデキルカラ冒険ノ助ケニナルダロウ。」
怪物はタラポに自分の腕をくっつけた。
「そんなことをしたら物が持てなくなっちゃうよ。」
「コノ洞窟ノ奥デ持ツモノハ石コロシカ無イカラカラ、持テナクテモ困ラナイ。」
怪物はそう言ったが、実はタラポが冒険へ行った時に持ってきてくれた土産物が持てなくなってしまうのが残念だった。
タラポは怪物のキョロキョロする目と、ピョコピョコ動く耳と、ビヨーンと伸びる腕と一緒に冒険にでかけた。
怪物は目も耳も腕も無くなったが、何も困らなかった。タラポにくっついている目から外を見る事ができたし、耳からは色々な音が聞こえ、腕からは触ったものの手触りを知る事ができるからだ。
しかも旅に出る前に、タラポが土産物に気付き、怪物の体に寄り添うようにしてくれたので、いつでも存在を感じる事ができた。
タラポは北へ向かった。
北は険しい山の地域である。
そこには誰も攻略できない魔法の塔があり、その中には何でも願いの叶う魔法が眠っているという話だった。
タラポは魔法の塔に挑戦した。
タラポにくっついた怪物の目は暗闇でもよく見え、小さなものも遠くのものも見逃さなかった。怪物の耳はどんな音も聞き分けた。怪物の腕は伸びたり大きくなったり、熱い物や冷たい物、とても重い物でも持つ事ができた。
そのおかげでタラポは魔法の塔を攻略し、何でも願いが叶う魔法を手に入れた。
タラポはそれを持って怪物の元へ帰った。
願い事は決まっていた。
その魔法で怪物の体を小さくするのだ。
タラポはまず怪物の目と耳と腕を返した。そして魔法を使うと怪物の体は見る見る小さくなった。怪物はタラポと同じくらいの大きさになり、何百年ぶりかで洞窟を出る事ができた。
「外ダ!外ダ!」
怪物はとても喜び、それを見たタラポもとても嬉しくなった。
「冒険へ行こう!東には知らない国がいっぱいあるんだって!」
「行コウ!行コウ!」
タラポは怪物と一緒に冒険にでかけた。
おしまい。
ストーリー自体はシンプルになってしまいましたが、オノマトペを使って色々な雰囲気を表現してみました。
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