表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
9/56

第6話 「猫くんと猫ちゃん、わたしと大学の男」前編

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。

猫くんと芽唯流の間に大きな転機が。

第6話 前編です

第6話 「猫くんと猫ちゃん、わたしと大学の男」前編



 昼近く。


午前の講義が終わり、わたしは猫くんの待つ公園へ向かう準備をする。


「おー、メイちゃん、今日も女神だねえ!」


白々しい言葉を奏でながら、しかも、わたしにではなく、壁に貼ってある映画のポスターの綺麗な女優に向かって挨拶するバカな男が現れた。



 体育研究室の、カイ先輩。学校で一番モテてる、サッカー部のイケメン。


程よくバカで、程よくエロくて、程よく楽しく話題が豊富で、程よく格好良く背が高い。


多くの女子が惚れてしまう感じの男。コイツに付きまとわれるようになって何か月経つやら。



「はーい、勝手にやっててくださーいセンパイ。」わたしはそそくさと部屋を出ようとする。


「たまには一緒に飯食おうぜ。近くのうまい店紹介するからさぁ。」


「結構でーす。」


「最近、芽唯流は昼忙しんだよね~w」


友人のレンカが言葉を挟むが、わたしは余計なことを言うな、と目くばせする。

彼女は、わたしの鞄に時々潜んでいるナゾ生物を知っているのだ。


足早にわたしは研究室を出た。


「また来るからな~愛してるよ~めいちゃーん♪」


無視無視。



 1コ上のカイ先輩に初めて声をかけられた瞬間には、本音を言えばドキッとした。


しかし、さんざ聞いてる女癖の悪さ、次から次へ捨てられた子の話。すぐテを出すとか部屋に連れ込むとかいう評判。わたしの警戒心はほぼMAXだった。


しかも、初めに声をかけて来たセリフがすごい。


「お~可愛い。やっぱ、お前だけだわ、この学校でオレに釣り合うの。付き合わね?愉しませてやっから」


何こいつ。何様こいつ。噂通りイケメンで背高くて格好いいけど。何こいつ。


「今、付き合うとかあんま興味ないんで。」


「じゃぁ時々来るから、違う返事よろしく!またな、芽唯ちゃん!」



それ以来、カイ先輩は時々来るのだ。で、わたしは常に逃げている。



 さて、いつものタコ公園。そろそろ猫くんが来る時間。


今日は、珍しく手作りのベーコンエッグとプチトマトとサンドイッチなんだ。ほぼ人間の食べるものを好む猫くんは、”猫に食べさせてはいけないリスト”を気にしなくていいので非常に助かる。


「よ、メイちゃん!それ俺のためのお弁当?」


「カ、カイ先輩?どうしてここに?」


「研究室の可愛い俺のファンが教えてくれた。やっぱ持つべきは可愛い後輩だな。」


遠慮なく、カイ先輩はわたしの隣に座った。いや、近いって。マジ近いって。

こ、こんなとこ猫くんに見せられないよ!


大体、このお弁当はわたしと猫くんの!


「おーうまそ!手作り?サイコーじゃん。分けてくれよ。」


「い、いやこれは…」


視界内に、緑がかった黒猫が現れた。先輩の背後に。

でもいつもみたいに猫くんに声を掛けるわけにもいかない。どうするわたし!?


戸惑う私と違い、迷わない猫くんは、サッと人の姿に変身した。

あの、金の髪の。アイドルとしか思えないようなイケメンに。


服装も、以前わたしが「仕方なく」買ってあげた「現代風」の服装で。



猫くんは、センパイの後ろから声を掛ける。


「芽唯流、腹が減ってるんだ。弁当回してくれ。」

カイ先輩は、え、っと驚いた風に振り返り、立ち上がった。


「え、メイちゃん一人じゃねえの!?こいつ?こいつと食うんだったの!?」


先輩は数歩、後ずさった。


「マジかよ!こんな、ナヨナヨしたのが好みだったのかよ?やめとけ。オレの方が良いって。捨てろってこんなん!」


「痴話げんかに興味はない。どいてくれ。飯が食いたいんだ。」


猫くんはあくまでもクールに返す。



 が、次の瞬間。


「!?避けろ!」


そういって、猫くんはカイ先輩を突き飛ばした。決して冷静ではなかったわたしは、センパイの後方から走り寄る人影の足跡も、長い剣を持ち走り寄る危険極まりない姿も気が付いていなかった。


猫くんだけは気が付いていたのだ。


風みたいなスピードで駆けよる見知らぬ男が、猫くんに剣を突き立てていた。


猫くんにはパッシブのバリヤーが張り巡らされている。それは知ってる。

それを、突き破って。


いや、正確には、いったん透明な何かに剣はぶつかって、僅かに軌道を変えて、猫くんの肩口に深々と突き刺さる。


ぐぅ、っと猫くんが低く呻く。


「猫くん!!」


先輩が居るにも関わらずわたしは叫んだ。


剣を刺した男は、猫くんの肩を支点に半円を描くように宙を舞い、反対側へ着地した。なんだか、操り人形みたいな不自然な動きで。


剣を刺したまま半円を描く?私は悲鳴を上げた。猫くん!猫くんの腕が!腕が!


それでも、猫くんは冷静に、傍目には千切れそうに見える腕を抑えながら男を追い始めた。



猫くんを追いかけようとしたわたしの手を、カイ先輩が掴む。


「め。メイちゃん見たか?やべえ、やべえよ!オレマジ殺されそうになったよ!あいつ剣を持ってたんだぜ!やべえって!!」


わたしは、怒りに荒々しく手を振りほどいて叫んだ。


「それしか言えないの!?いま先輩を助けた人が大怪我してんのに!自分のことしか言えないの!?」


涙が出てきた。


「二度と!二度とわたしに声を掛けないで!!」


わたしは猫くんを追って走り出した。足元には、点々と血の跡が続いていた。



 ―――猫くんにはすぐに追いついた。


「猫くん!追うのやめようよ!すぐ手当してあげるから!すぐ救急車呼んであげるから!」


猫くんの横顔を見る。初めて見る顔だった。笑ってた。怖ろしい顔で、笑ってた。



「200年ぶりだ、こんな屈辱は!!ふ、ふふ、殺す!殺してやる!」


だが、足取りは間違いなく重く、遅かった。わたしが追いつけるほどに。



 数秒後。今度は突然、女性の声が後ろから聞こえた。


「どいたどいた、そいつはアタシの獲物だよ~!」


怖ろしく身軽に、なんと、わたしと猫くんの頭上をジャンプして飛び超えて行った。


後姿は露出の多い毛皮、お尻には、尻尾!?コスプレ!?


…じゃ、無いだろうことは、ここんとこの経験値で私は理解できた。先日の狼男のよう…。



 ほどなくして、路地を曲がったところで剣戟が聞こえる。鋭い、金属がぶつかる怖い音が。


でも、わたし達が目にしたのは、剣と剣のぶつかり合いじゃなかった。


鋭く剣をふるう、でも何だかヨタヨタした動きの男。最初に猫くんの人の姿で観たような、皮鎧にブーツ、チョッキ、マント。ゲームで言うなら盗賊?


対するセクシーな女の子は、ビキニみたいな灰色の毛皮を身に纏い、指先から不自然に生えた2、30cmはあろうかという爪で戦っていた。



 肩を抑えながら猫くんが叫ぶ。


「女!そいつは剣が本体だ!迂闊に触れるなよ!」


女性は戦いながら叫び返す。


「何だ、知ってんのか!その通り、こいつは呪いの剣!触れたものを操るのさ!」


彼女がそう言った時にはすでに勝負がついていた。カギ爪は男の左腕を切り落とし、もう片方の爪は腹部を抉っていた。


「ひ!」


わたしは目を背ける。猫くんと居ると怖い場面ばかり見てしまう。



 彼女は、懐から美しい白布を取り出し、意気揚々とわたし達に見せた。


「これは高位のプリーストに清められた布だ。呪いの剣もこいつで包めば平気ってわけ。」


「まて。不十分だ。待て!」


猫くんの静止は彼女には届かなかった。


布越しに剣を握った彼女は、ひひひ、と笑い始めた。




 ―――「呪いの剣じゃないな。貴様。<意志を持つ剣>か。」


続く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ