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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第45話 「猫ちゃんと御曹司」

猫の獣人リュカは、芽唯流の兄、揮人に誘われ、お食事デートに。

その最中、本格オープン前のテーマパークに、突如現れた異界の魔獣。

揮人は人の身でありながらも、責任者として単身挑む。


今回は、芽唯流の兄、揮人と、猫獣人のリュカが主人公です。

 高級ホテル、最上階レストラン。


…貸し切り。


マジか~。無理して着た赤と黒のドレス…にしておいて良かったニャ。



アタシは今、そう言う状況に居るのニャ。


ちなみに、尻尾はドレスの内側に収まっているので、覗かなければバレないニャ。耳はカチューシャで胡麻化してる。



「これでも自慢の眺めなんだが、どうだろう。気に入ってもらえたかなリュカさん。」


アタシを呼ぶイケメンは、菱川揮人と言う名前。まぁつまり、芽唯流の兄ちゃん。


あの芽唯流の兄ちゃんだけあって、完成イケメン度、激高。スポーツ系イケメン、背は高くて結構がっしりしていて、こっちの世界ではというかこの国ではそこそこのグループ企業の御曹司ニャ。


この若さで、このホテル、明後日からオープンする<ソーサリーランドホテル>の支配人なのだそうニャ。


ソーサリーランドってのは、アイツが全面的にバックアップして本物の魔法と中世的異世界を体験できる、テーマパークニャ。


今貸し切りなのも、明後日からオープンだから。今日はプレミアムオープンで、財界やらお貴族やら政治家やら芸能人やら、偉そうな面々を相手にしていたらしい。



アタシが誘いを受けたのは、芽唯流では無く、瑠香経由なんだけど。


イケメンのお食事の誘いとあらば、行かねばニャ。そんな軽い気持ちで来てみたニャ。


よくそんなアブナイことをって? イヤイヤ、大丈夫ニャ。アタシを素手でどうにかできる男なんてこの世界に居ないニャ。ついでに、コイツは芽唯流の兄貴ニャ。妹の知り合いに変な事は出来ないでしょうよ。


「すっごく綺麗にゃ。珍妙100景に登録されてもおかしくにゃいにゃ。」


どうしてかは判んないけど、揮人ドノはツボにはまったらしい。



 ワインが出てきた。


「フルコースとかいいニャ。肉系をガンガン食べたいニャ。どうせ、マナーとか判んないし。」


「ああ、本当に気にしなくていい。マナーとかいいんだ。今日のコックたちはオレが少々無理行って、リュカさんの好みに合わせて作ってくれるように頼み込んである。他の誰の目がある訳でもない。気楽に居てほしい。」


「ふーん。じゃぁ遠慮なく注文するニャ!これとこれとこれ、ほしいニャ。」


揮人ドノはすっと手を上げ、サーバの女性に伝える。


「…今日は、来てくれてうれしいよ。月並みだが。」


「そりゃ、イケメンのお食事くらいはのるニャ。」


アタシは、このヒトとそんなに面識があるわけではない。このランドの関係上&芽唯流の関係上、何回か会ってる程度。


「猫カフェで働いてるんだって?」


「異世界での冒険を是非聞かせてほしいね。俗にいうモンスターとか…」


コイツー。


聞き上手で、楽しいヒト。こりゃモテるわ。ヤベ、すっかり、乗せられちまったな。


とは言え。


アタシには、想い人が居る。想い人つーか、横恋慕っつーか、第2夫人狙いと言うか。


そう、アンタの妹のダンナだけどニャー。


アタシ達獣人は、嘘が付けない。だって、尻尾でわかっちゃうんだもん。



 ぷはぁ。久しぶりに満腹ニャー。しかも、うめー。


デザートまでお代わりしちゃったニャー。


「そう言えば、今日、食事にアタシを誘ったのを芽唯流は知ってるのニャ?」


「いや?」


「そうなのニャ?」


「素敵な女性に声をかけるのに、妹の許可は取らないよ。」


「そう言えばそうニャ。」


揮人ドノは、立ち上がってアタシをエスコートしつつ。


「良ければ、また誘われてくれないかな?」と言った。


アタシは、オトコ関係はハッキリ言っとくタイプ。


「アタシは、ちょっと気になってる男が居るニャよ。それでもいいのかニャ?」


「その男は、俺が束になっても叶わない強い男かな…?」


ギクリ。知ってるのニャ?


「また、誘っていいかな?」


「あ、うん。いいニャよ…。」


ちょっとドキッとした。



その時にゃ。黒服の男が揮人ドノに走り寄って来たのは。


男は、耳打ちして―――。


「……何だと?モニターで見れるのか?急ぐぞ。」


拓人ドノは、アタシに目を移し…。


「リュカさん。良ければ一緒にモニタールームへ来てほしい。アドバイスを貰えないか!?」


ほほう。アタシがアドバイス?なんか嬉しいニャ。ま、食事のお礼も兼ねて。アタシは快く頷いたのニャ。


―――――――――


 モニタールーム。よく映画やTVで見る、白黒のじゃなくて、大きく鮮明な画像が所狭しと並んでいる場所。


多分常駐なんだろうニャ、30名くらいの人たちがモニター前シートに着いている。


「支配人、こちらを。」


中世の街並みが映っている―――本物のハズも無いニャ。中性を模した街並み。実際に石で造り、売ってるモノも寄せたんだとか。電気は通っていて、裏側には冷蔵施設とか当然あるらしい。


そこを、練り歩く、一匹の巨大な、獣。


尻尾が3本。巨大なクロヒョウのよう。


そして、時々、壁向こうに姿が消える。消えたかと思うと、近くの店の屋根の上。


「き、消え…いや、居ました。なんでこんなに捉えられない?」


「被害者は居るのか?」揮人ドノが訊いた。


「いえ、プレオープン後でしたので。」


「そうか。良かった。」


アタシは、揮人ドノの顔を見た。優しい顔だったニャ。


「リュカさん、あの獣は何だろうか?」


「イセリアル・ビーストだと思うニャ。面倒くさいニャ。」


「脅威は?」


「肉食の魔獣ニャ。生物というより、召喚獣ニャ。最低の魔獣ニャ。なんと言っても、今見たとおりに、壁抜けを自由自在に使う獣ニャ。つまり、逃げ場は無いに等しい…」


「リュカさんをセーフルームにご案内しろ。俺は、下に行く!同時に、“緑猫の旅団”にも連絡を!」


揮人ドノは走り出した。


「リュカ様、こちらへ。」


「こちらって何処にゃ?」


「”緑猫サマ”が結界を張った、1000名から入れるシェルタールームです。」


そりゃ安全そうニャ。しかも1000名ねー。


「で、揮人ドノはどうしたのニャ?」


「し、下へ行くと!下は、先程の街並みが…」


「それを早く言うニャ!」


アタシは走りながら、指輪に声をかける。


アタシの指輪は2つある。緑猫の旅団、その仲間達に繋がる指環。


もう一つは、最終手段。アイツに。レーテのヤツに繋がる指環。


「緑猫の団!今、砦に誰かいるニャ!?」


「あふ…ぁ。あー俺が当番だよ。」


ハーフナーのファボル。の、寝起きの間延びした声。


「そっからすぐそこ!ソーサリーランドホテル内に、イセリアルビーストにゃ!」


「ああ!?わかった。俺とお前が居りゃ十分だ。飛んでいく。」


「頼むニャ!」


アタシは猫になって、非常階段を駆け降りる。アタシらの身体能力的に、20階ぐらいなら、待つよりこの方が早い。


1階で再び人の姿になると、ニオイを追って駆け出す。


ニンゲンの癖に変な事考えるんじゃニャいよー!?


―――――――――


 「こっちだ。化け物!…おわっと!」


揮人を、牙をむき出した魔獣が追う。魔獣の速度は、車並だ。オマケに、石の壁をすり抜けるという。


「これでも元サッカー部だ!来い!」


全力で走るが、あっという間に距離は縮む。


「大学以来、走って無かったな!失敗だ!」


背後まで、魔獣が来た。


「“メタライズ”!」


真っ黒になった背中を、魔獣の爪が引き裂く。


鈍い金属音がして、黒い人型の塊は前方に弾き飛ばされた。


走っているヒトの形の、鋼鉄の塊。“メタライズ”した塊。


魔獣は、違和感を感じ、距離を少し取った。



揮人は、その距離が離れた事を石畳の地面すれすれの、逆さの視界で見届け。メタライズを解除する。


「こ、こっちだ。魔物!」


息を切らせつつ、走り出す。彼の目的は、奥へ、奥へ。ホテル従業員たちの居ない、中世の模倣村、その奥へ。奥へ。先には展望タワーが見える。



 一軒のパン屋を模した建物の裏に回った。


その時だ、壁ごしに、壁をすり抜けて、獣が至近距離から襲い掛かって来た。


唯一の救いは、壁を通り抜けるとき、魔獣も実体では無いらしい。と言う事だった。


だから、その半透明が実態になる僅かな時間で、揮人は“メタライズ”を念じる事が出来た。


首を狙われた。地面に、黒い鋼鉄が叩きつけられる。


続いて頭から、噛みつかれた。



義理の弟…レテネージ・メイフィールドの作り上げた“親愛の指輪”。家族に渡された指輪は、3つの効果を持つ。


1、鋼鉄になれる。2、心を守る。3、居場所を伝える。


これが無ければ、1人で来ることも無かっただろうし、これが無ければ、とうに喰われていた。


黒くなり噛み砕けない怪しい人間を、魔獣は益々不審に思ったか、再び距離を取った。


一方の揮人も、限界が近いことを理解していた。メタライズの、効果時間が切れる…。確か、15分だけなのだ。


切れたなら、もう、終わり。



 再びメタライズを解いた拓人は走り出す。ついに奥の奥、その業務用扉へたどり着いた。岩を模した、ぱっと見、隠し扉のような非常口の扉だ。



そうだ。俺は、最初からここに来たかったわけじゃない。


助けが来るまで、時間を稼ぎたかっただけだ。


でも。何故だろうな。レーテ君や、芽唯流の冒険譚を聞いたせいだろうか。


俺も、そんな冒険をしてみたいと、心が疼いたのか。


不思議だ。恐怖に動けなくなっても良さそうなものだが、体が動く。



「こっちだ!来い!魔物!」


思った通り、化け物は壁を抜けてくる。壁抜けの方が、速度が遅い。


此処は、一番遠い非常口だ。ここで体調不良者が出た時のため、すぐそこに高い円塔が作ってある。下部は店舗と医療施設、上部は観光タワーになっている。


「乗って来い!エレベーターに!」


扉を閉める。


壁をすり抜け、半透明の魔獣が目の前に顔を出した。



そうだ。押さなかったのだ。オマエが乗り込むまで!



目の前に、牙を広げた顔が迫る。


ボタンを押すと言う事は、その瞬間、鉄にはなれないのだ。



牙をかわしながら、足でどこかの階を押した。


もう、触れられたなら、何処の階でもいい!!


“メタライズ!“


爪が、腹部を激しく抑える。


生身に、一瞬触れたと思う。死を思った。


だが、爪が食いこむ前に、体は鋼鉄になる。



エレベーターが、動き出す。


「お前の体はどうなるんだろうな!?その半透明の状態で機械に引きちぎられたら、どうなるんだ!?」



獣が、叫ぶ。おぞましい呪いの叫びをあげて、倒れ込む。



 最上階で、エレベーターの扉が開いた。


揮人は、魔獣の横をすり抜け、振り返る。



体、前半分しかない魔獣。


しかし、再び、目を開けた。前足を動かし、体を引きずり、エレベーターから出てくる。


ゆっくりと。しかし、確固とした怒りの、殺意の目を向けて。



もう、勿論、メタライズは、ない。


「うーむ。俺に冒険は少々、無理があったか?今からレーテ君を呼んでもなぁ。」


揮人は、展望室から見える、出来たばかりのソーサリーランドを見渡す。



「いや、まだ諦める訳にはいかんか。こい、化け物。」



「いい、根性だニャ!!」


展望室の防弾ガラスを突き破り、光の弓が魔獣の足を貫く。床に縫い付ける。


遠くに、宙に浮いているハーフナーの姿が見える。


そして同じく、ガラスを切り裂いて、着地する美しい獣人。


ドレスを短く切り裂き、動きやすい格好になっている。正直、目のやり場に困る素敵な格好の、セクシーな獣人。


その手からは、20cmを超えようかと云う、ナイフのような爪が伸びている。


「コイツは魔獣!魔力のない攻撃じゃあ、再生しちゃうニャー!!」


目にも止まらぬ動きで、猫の獣人は魔獣を斬り裂いた。


そして、魔獣は、本当に動かなくなり、最期に、黒い煙になって消えた。



「ふーむ。窓を修理するだけで済んだか。清掃活動が念入りに必要かと思っていた。」


「揮人ドノ。無鉄砲は血筋かニャ。」


「ははは、芽唯流のことはもう、言えないな。」


「アンタ、思ったより…硬派で、強い男ニャね。」


「キミは、思ってた通り。美しくて、強くて、セクシーだな。」


ちょっぴり、尻尾が見えていたかも知れない。


ちょっぴり、動いちゃったかも知れない。


「超美人の妹と比較はやめてほしいニャよ。」


「芽唯流は確かに自慢の妹だが、何も関係ない。俺が興味あるのは、キミだ。」



「リュカさん。すぐにでもまた、キミを食事に誘いたい。そうだな。この後、飲み直すなんてどうだろう?こんな汚れた格好で恐縮だが…。」


―――――――――


 今日は非番なので、同居の2人はアパートでゴロゴロしている。


リュカと、親友の瑠香。


2人共、異界案件でそれなりの貯蓄を手に入れたが、相変わらずリュカは猫カフェに行ってるし、瑠香もこのアパートを気に入っている。



「で、例の”優良物件”はどうなってるんだ?」


「あー。芽唯流兄ニャ? 揮人ドノには悪いけど、アタシはこう見えて、身持ちが堅いオンナにゃ。」


「ほうほう。」


「アタシは、アイツの奥さん2号を狙ってるワケだからニャ~。」


ぴろりん。ぴこ。リュカのスマホだ。


「ん~…んんん~…困るニャぁ。」


「どした。」



「レーテのアホもそうなんだけど。モテる男ってどうしてこう、身勝手というか、相手の都合を無視って言うか、強引なのニャ?」


「…で、着替えんのかよ。」


「尻尾隠れてるニャ?」


「うん、OK。」


「耳は?」


「ギリOK。」


「行って来るニャ~。」


「身持ち堅いんじゃ無かったか?」


「堅いニャよ?」



車の音がする。見るからに高級そうな輸入車だが、瑠香はよくわからない。


「今日こそ、諦めろとガツンと言って来るにゃ。」


ばたん。



「…あたしは、自分のこと以外は占えるんだよねえ。」


占いの魔力を持つ瑠香は、タロットを1枚選んだ。


そして、ふっと笑って、元に戻す。


「バカやろー、裏切りモン。てか、あたしにも早よ、このカード来いや。」


瑠香は、大の字に寝転がった。



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