第43話 「団員募集」
ローファンタジー、転移モノです。
現代に冒険者ギルドを設置した猫くん、ついに現代人にも求人開始。
VS魔物の危険業務。魔法使いが非合法に運営する為、コンプラも人権も何にもない高収入ブラック職場。命知らずの若者よ来たれ!
「…さて、入団希望者の諸君。スマホの隠し持ちは厳禁と言ったはずだ。」
演台の上の猫が一言。次の瞬間、数人のポケットから青白い光。
軽い雷だが、多分スマホはショート。
「…出ていけ。保証が欲しければ適当に訴訟しろ。魔法を科学で証明できればな。」
悪態をついて出て行く数名の若者。現状、猫に請求が出来るかどうかは不明だが。
「くっくっく…。我が緑猫の旅団へようこそ。勇敢なる者よ。」
大学のホールをイメージして作った、すり鉢状の大ホール。
私が立つ演台の横には、仮面を着けた5人が居る。猫の獣人、正統派の剣士、ハーフナーの狩人、黒衣の女。ローブを着た魔術師。その5人だ。
「さて、人の身で在りながら、異界の存在と戦う職に就いて頂けると。その意気や良し。しかし、まぁ、現実を知ってから、契約の話をしようじゃないか。」
私がミャ、っと鳴くと、スクリーンが降りてくる。
世界の異界事件映像。流行りのバラエティーのようだが、中身はほぼ、ホラー。
ゆっくり迫ってくる白骨とゾンビ、人食いトロル、トドメに火竜。
「諸君が戦うのは、こう言った連中だが…。」
見渡す。この時点までは情報で知っているか。立ち去る者は居ない。
「あー、“ピンク”。」
「何ニャ。」
リュカの頭上に、突然、鉄骨を降らせる。
普通なら、死ぬ。
美しき猫の獣人は、両手でそれを受け止めた。
「何すんにゃ!あぶニャ!」
「すまんすまん、魔力が滑った…。」
「嘘つくにゃ!」
「とまあ、この様に、我々が魔物と戦えるには訳がある。この中に、今の鉄骨を受け止められる者は居るだろうか。」
ざわざわざわ。
「我々異界の民は、筋力又は耐久力においてキミ達とは違う。ピンクは獣人なので特に強いわけだが、そこの非力な魔術師でも、小型の銃ぐらいでは多分死なん。」
「酷い言われようですが、マスター。」
「…勿論、身体能力において劣るキミ達には、魔力を付与した銃やドローンでの遠距離攻撃が主な任務だ。特に銃だが。」
モニターには、魔力を付与したマシンガンを持った兵士達。某国の映像だ。
横一列に並び、群れ為すオークを撃ち倒す。
「と、このように訓練され、魔物に戦える部隊を揃えた国もある…。」
私は、映像を消した。
「…今のオーク1体でも、キミらが1対1で勝てるとは思えないが…。」
「とはいえ、憧れるだろう!ゲームで見たような世界へようこそ!魔剣を振るい、竜を打ち倒せ!ヒドラの首を斬り、英雄になれ!」
「基本給は月手取り50万。出撃の際は難易度に寄り、100万から500万。万が一の死亡の際は、遺族へ3000万が支払われる。」
「…ピンク、何か補足を。」
獣人の娘が話す。
「ん?モテるにゃよ。戦うオトコはカッコいいニャ。」
「…グリーン?」
ローブを着た魔術師。
「はぁ。おすすめは、若い内に無事なら引退。命のある内に。」
「イエロー。」
子供ほどの背丈の、ハーフナー。
「…撃って、敵が近くなったら、逃げろ。」
「レッドは?」
スラッと剣を抜く。
「正義を為す。それで稼げる。ロマンだろう?」
「ブルー?」
「あ?ああ、死んだら、僧侶のアタシが祈ってアゲル。ちゅっ。」
―――――――――
………。
「何人残った?」
「え?0人ですが?マスター。」
「…何だ。闇バイトやら悪事に手を出す奴が多い割には、度胸がないな。」
「それは言ってはいけません。マスター。」
「仕方ないニャよ。こっちの人間は弱いニャよ。」
「確かにそうだが、侮るな。薬物、毒物、兵器。こっちの人間たちの作り出したものは、我らでは到底真似できん。核兵器など―――」
「マスターそれも禁句です。」
「…うむ。」
現在、我が緑猫の旅団は約60名、世界各国に散らばった異界の友を受け入れている。これでも、冒険者ギルドとしては世界最大規模。
この5人の猛者を筆頭に、全員、異界の住人で構成されている。
尚、戦わない一般の異界人たちは、我が家のハウスキーパーだったり、義兄タクトどののホテル業務についている。こちらは200人ほど居る。
それぞれ6人のパーティーで構成され、実力に合わせ、世界の異界案件に派遣される。
私が建てた家…砦の左半分が、緑猫の団。その本部である。
改めて言う。世界は、変わったのだ。
最早、異界の存在、魔物、魔法。その存在を否定する者は居ない。
それに呼応するように、以前より、異界の魔物も確実に増えている。
…それが何故なのか。それはまだ、判らない。
我々の異界の存在も、最早幅広く認められている。
最近では、オリンピックへの出場を認めるか否かで議論が沸き起こっている。止めた方がいいとは思うが。
多様性、だとか…まぁいい。関係ない話だ。
同時に、世界中の国々も暗躍している。異界の力を、取り込むために。
魔物の死体の研究で、何とかなるモノかは知らないが…。恐竜映画の様に、遺伝子操作で化け物を甦らすのは辞めてほしいものだ。
…出来たとしても、魔獣だけだろうけどな…。
魔力で動いているスケルトンをいくら調べようと、お前達が答えに辿り着くことは無いのだから。
―――――――――
芽唯流とイリーゼ、亀のパミルが居る、居間。
長いソファで芽唯流の好きなバラエティー…「他国から来て頑張ってる人」…を見ていて、臨時ニュース。
市街地で、暴れている1体の骨が居る。
「猫くん、これは…?」
「これは…怖ろしい事を試している奴が居るな。」
骨。骨に見えるだろう。実際キャスターはそう言っている。違う。
これは、ヘカトゴーレム。呪文で合成召喚の不可能な、複雑な錬金で生みだすゴーレムだ。
6本の腕。そのそれぞれで多彩な行動が出来る、上級ゴーレム。
しかも、コイツは…。軍隊で使う盾を持っている。
左右それぞれ3つの手に、盾とマシンガン。
ゴーレムが、マシンガンを撃つだと!?
「なるほど、ゴーレムの中でも複雑な行動のできるヘカトを選んだわけだ。」
「行くの?猫くん。」
「ああ、直接行かないと、被害が広がるだろう。行って来る。」
「行ってらっしゃい、パパ。」
私は、芽唯流とイリーゼを抱きしめ、ついでにパミルの肩を叩いて、消える。
――――――――
「やぁ、ゴーレム殿。緑猫の登場だ。」
私はボコボコに穴が開き、乗り捨てられた車の屋根に乗る。
すぐさま、銃弾が飛んできた。
猫の目の前で、無数の銃弾がボトボトと下に落ちる。
―――我々にとってみれば、ゴーレムとはロボット。即ち、操るモノ、命じた者が居る。
この国には私が居る。こんなゴーレムが無駄であることはすぐわかりそうなものだ。まして、コイツを造れるような魔術師の力なら。
…脳裏に浮かぶ、吸血の召喚士。だがヤツは召喚士のはず。魔術師としても一流なのか?
既に、機動隊は到着していたが、手をこまねいている。仕方のない事だ。こいつには、骨のような隙間だらけのゴーレムでは。
まして、硬度のある盾を構えているのでは。こいつの骨、は骨に見えるが鉄だ。
<我は緑猫。手出し無用。下がれ。>
周囲にテレパシーを送った後、ゴーレムに近づく。
この神速の魔術師に、この程度のゴーレムで…。
………違う…それじゃダメだ。
そうか。そういうことか。
私は、魔法を唱えた。数匹の使い魔に、急ぎ探させる。
ソレは、結局身近な山に在った。例の異界ホテルに近い、山のダム近くに。
テレポート。
私の目の前に、ブルドーザーが現れる。
さて、使い方は判らんな。「“アニマライズ”」。疑似生命だ。我に従え。
けたたましい音を立てて、キャタピラが駆動する。
ヘカトゴーレムは異変に気付いたらしい。
こちらに機銃を連射して来た。
ガラスが砕ける。しかし、分厚く無骨なマシンは止まらない。
ブルドーザーの大きな鉄のシャベルが、ゴーレムを押していく。
コイツが大きなストーンゴーレムだったら、逆に無理だったかもしれない。
「だがコイツは高度だろうが鉄だろうが、所詮は人型!パワーはこちらの方が上!」
ははは!あははは!
コンクリートの壁まで押し込む。重い鎌首を上に高く上げ、振り下ろす。
鉄のひしゃげる音がする。巨大な化け物の鳴き声みたいな音がする。
潰れろ!!
繰り返し、叩きつける。
重苦しい破壊音。
ブルドーザーが後ろに下がると、そこにはもう、動かない鉄くずがあった。
どうせ、見ているのだろう。<魔>よ。
人間たちよ、お前達もだ。勇気を忘れ、蛮勇を忘れ、権利と保護に慣れ、戦えないお前達もだ。
私は、ブルドーザーの上に立ち、魔法で周囲に声を伝える。
「見たか!?人間たちよ!私は破壊魔法を使わなかった!コイツを倒したのは、この機械だ!」
「魔物の恐ろしさに、異界の民に戦いを預け、戦いを忘れたお前達!」
「我ら異界の者、身体は確かに強い。だが、お前達には!正しく使えば、魔をも追い払える文明が!我々の世界より遥かに洗練された技術力がある!」
「我々だって怖ろしいさ!戦わねばならないから、戦っているだけだ!」
「先ほどの化け物は、お前達の、心の牙を折りたい誰かの計略だ。折れるな!現世の人々よ!お前達は、戦えるのだ!」
テレポート。
…誰かに。誰かに伝わるといい。誰かに。
――――――――
緑猫の団。ホール。
「さて、入団希望の諸君。貧弱な生命力でよく来てくれた。」
ざわざわざわ。暴言だ。暴言だ。不適切発言だ。
「此処にコンプラだの福利厚生だの人権だの、あると思うな。私は猫だ。」
「危険に見合った金を払う。だが、キミ達が赴く先は戦場だ。殺されるどころか、食われるかもしれない。」
「傭兵団、”緑猫の旅団”へようこそ!冒険者となる勇気はあるか!?」
・・・・・・・・・・
「………ベルランド。」
「ハイ、マスター。」
「何人残ってる?」
「0人です。マスター。」
「…だよね。」
「あ…、マスター?」
「何だ?」
「…3人。戻って来ましたよ?」
…良かろう。心を探って、悪人とスパイでなければ採用だ。
私は、20代から30代と思われる3人の勇者の前で、ニヤッと鳴いた。
「基本給50万、戦場派遣100万~500万。万が一の死亡時、見舞い金は3000万だ…。」




