第39話 「猫くんと亀」
娘の生まれた猫くんの日常に、来訪者。その名は亀。
ローファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方、是非。
第39話「猫くんと亀」
亀だ…。亀がついて来る。
ふーむ、尾行されているのは知っていたが、まさか亀とは。
余りに意外さに吹いてしまった。
赤子のイリーゼを抱いて公園のベンチに座る。多少は思い出の公園に。
背中のバックからミルクを取り出し、魔法で僅かに温め。(便利だろう?)
「ママが大学から戻るまでの我慢だぞ。」
私も多少は上手くなった。ミルクを少しローリング気味に回すのがポイントだ。
「おい…出てこい。亀。ついてきている理由ぐらい教えてもらおう。」
スタスタと出て来るリクガメ。30~35cm。歩く速度は意外に速い。
そして、何といっても、魔力が感じられる。あの時の私と同じか?亀を選んだ理由が聞きたい所だ。
「何用だ?」
悪意と敵意は感じられない。話ぐらいは聞こう。
「最近、魔方陣を通って、こちらに来まして。」
女の声だ。しかも、どこかで聞いた話だ。
「取り合えず、ワタシと同じような境遇の方と話をしたかった訳です。」
「それで。」
「アナタも、この異界へ?」
「…そうだ。」
「そのお子さんと?」
「込み入ったことを聞いてくる。この子はこちらの世界で生まれた子だ。」
私も丸くなったものだ。
「そうですかあ、良かったですね!」
なんだコイツは。
――――――――――
「あの四角い鉄の塊は乗り物でしょうか。」
「そうだ、ペペロンチーノというチャリオットだ。」
「あちらの光る柱は?」
「信号と言う。あのペペロンチーノを整理している。」
ウソの基本は真実と混ぜることである。
「あの空飛ぶ銀の鳥は。」
「ピザと言う乗り物だ。」
「あの…アナタ、テキトウ言ってません?」
「何でわかった?」
亀は、プイと歩き出した。
「1つだけ忠告してやろう。公園を亀が歩いていると…。」
「どうせ、嘘でしょう?」
「あー!亀さん! わー、カワイイ~!」
「えーマジ? かめー!!なんでえ?」
地元の小学生にさっそく見つかった亀は、持ち上げられ連れ去られていった。
<人の忠告は素直に聞くものさ。>
私は亀にテレパシーを送った。
――――――――――
翌日。同時刻。タコ公園。
「イリーゼ、今日はあと少しでママが来るからな。」
ミルクを用意する。
「アナタ、酷いですねまったく。ちょっと文句ありますよワタシ。」
亀だった。スタスタやって来た。
「ちゃんと忠告しただろう。公園の砂場は子供のモノ。そして亀はこの世界ではカワイイと人気の生き物だ。」
「アナタそこまで言ってないでしょ?」
「そうだったか?」
「よくそんな意地悪でケッコンできましたね!?」
「まぁな」
「よっぽど趣味が悪いか、頭が悪いか、人を見る目が無いか、同じく性格の悪い女性なんでしょうねー!?」
背後から、亀はすっと持ち上げられた。
「こんにちは。初めまして、亀さん。性格悪くて趣味悪くて頭の悪い、妻の芽唯流です。」
亀は、芽唯流によって砂場に運ばれ、そっと置かれた。
「わー、昨日の亀さんだぁ!」
「まってー!亀さんまって~!」
亀は再び小学生たちに捕まり、持ち去られていった。
――――――――――
今日は家族3人で公園に来た。
「あぁ~ん、いりぃぃぜぇ~カワイイ~わたしの赤ちゃんカワイイ~♪」
イリーゼを抱っこしながら、くるくる回る芽唯流。
「な~に?猫くん。あぁ、こんなに美しい妻と可愛らしい娘。私はシアワセだ!なの?」
「相変らず自己評価高いな、芽唯流。」
「え!?違うの!?」
「…いや、そんなに違わない…。」
「でしょ?」
緩い時間を過ごす私達の所に。
「アナタ方、酷いですね…」
亀が来た。
「そりゃ、本人の前で悪口言うとあぁなるな。」
「あ、亀さんこんにちは。無事?」
「…ここ数日、目つきの悪い黒服の男たちに追われています。正体に心当たりはありますか?」
「予想としてはこの国の軍。二つ目は他国の軍。3つ目はお前の力を悪用したい組織。とはいえ、まず、この国の軍だろう…。」
「ちなみに本当ですよね?」
イリーゼをあやしながら芽唯流が答える。
「亀さん、猫くんは嘘言ってないよ?」
「猫くんってい言う名前なんですか?」
「ふふ、猫くん、出会ったとき猫の姿だったの。」
「芽唯流、言わなくていい。」
「いいじゃんw」
気恥ずかしいので、私はイリーゼと遊びながら席を離れた。
芽唯流と亀が盛り上がっているのが何か面白い。
――――――――――
公園に軍用トラックが緊急停止で横付けする。
迷彩服の男たちが我々に向かってくる。中央には黒服の男。
「此処に猫神殿はおられるのか…?失礼、我々は国軍の者です。勿論味方ですのでご安心を。」
初めて会うものが自分で味方だと言う。よく知っている。そういう手合いは信じるな。
芽唯流のブローチが緑猫になって実体化する。私はその猫を通じて話すことにする。
猫神は猫なのだ、あくまでも。外の世界に対してはこの仮面を外すわけに行かない。
猫のサミーは軍隊と我々の間に割って入る。
「私の主たちに近づくな。そう言ったはず。」
「こ、これは猫神どの。このあたりに亀が来たはずです。お会いになっていますよね?」
「あぁ、さっき会って主と恋バナをしていたようだが。今は知らん。だが、それよりも…。」
「<念動、念動、念動、念動、念動、念動>」
全員を宙に釣り上げる。
「我々を見張るな。利用するな。探るな。近寄るな…お前たちの依頼を受ける条件だ。お前に命を出した者は知らないのか?」
「す、すみません!ご容赦を!」
「亀が私を頼ると踏んだのだろうが、礼節を忘れるな。伝えておけ。お前の飼い主に」
「し、失礼致しました!申し訳ありません!」
「では、なぜ亀を追っているのか聞こうか」
「い、言えません」
「<真実>…言え。」
「はい!あの亀は軍に訪れた女性の召喚士によって召喚された2匹のうちの1匹です!我々に所有権があるとの事で捜索しております…はあぁ、何故、俺は喋っているのだ!?」
「…我々に関する特殊任務に就くのならもう少し勉強しろ。第一に、召喚に答えた者の意思。本人に第一の権利がある。召喚と使役は違うのだ。次に、契約がなされれば召喚士の意思。これが2番目の権利。お前らには何の権利もない。」
連中を地上にゆっくり降ろす。
「…立ち去れ。」
「は、ハイ…」
軍は去って行った。
「…亀さん、出て来ていいよ?」
イリーゼを抱きかかえたまま、芽唯流は足元に声を掛ける。
呪文で姿を消していた亀が、姿を現す。
「…亀、聞かせてもらえるか?何があった?」
――――――――――
「ワタシは自分の世界でただ過ごして来たわけですが、ある日、自分が異界から召喚されたことを感じ取りました。強烈な甘い誘惑でした。性的なではなく、何て言うんでしょう?いのちとして魅力的な取引のように思えたのです。ワタシは、それに乗ってしまいました。」
「ふうん、流石に召喚されたことは無い。興味深い話だ。」
「で、世界を破ってきた瞬間に、判るんですよ。自分に何か力が与えられたのが。ワタシはそれが魔法だとすぐに理解しました。知恵も多くの知識も。召喚士の知力が流れ込んでくるみたいな感覚でした。」
「へ~、だから猫くんの使い魔もお利口なのかな?」
芽唯流が素直に感心する。
「使い魔召喚と儀式召喚は違うが…まぁな。」
「でも、出た瞬間に、過ちを犯したと悟りました。ワタシの目の前に居た召喚主は、邪悪でした。何人も、何百人もの血を吸ってきたことが知識として流れてきました。吸血鬼です。いや、吸血姫。」
「おんなか。その女の名は?」
「こんな姿の女性です…<イリュージョン!>」
煙のような、ほんの少し透き通る幻影の女性。美しく…そして…怖ろしい。
「その女の名は?」
「吸血鬼ディメリア・レティドーラ。この者の知識にあったから、私はアナタを頼ってみようと思った。この街に逃げて来た。」
ついに、来たか。 しかも、召喚士。吸血姫の召喚士。 今、この国に居るのか?
「そう言えば、2匹召喚したと言っていたが?」
「私と同時に呼ばれたのは、大きな羽のある、蛇。女は、私を呼んだあとヘビと契約を交わし、黒い服の男たちにヘビを預けたようでした。」
「お前は何故ここに居られている?」
「いやそれが」
「それが」
「私を見て、<変なのが来てしまったな>とだけ言って、去って行ったのですよ!!」
………(私)
………(芽唯流)
「…ぶ!!」
「あはははは~!」
「ちょっと!あんまりじゃないですかぁ!?」
「ははは、召喚士が、無視して、か!あははは!」
「ご、ごめ。ちょ、お、可笑しい!」
だが、お蔭で陰鬱な空気が消し飛んだ。
「亀、助けてやる。イリーゼのお守り兼、笑わせ係として。」
「…ちょっと気になりますがアナタに直接仕えるより良さそうです…。」
「1つ確認しておくが、お前は使い魔と同じく、亀そのもの、なんだな?」
「そうですよ。異界から来た点ではあなたと同じですが、違う異界の様ですね。大きく違うのは、私の世界では大半の生き物は知恵と意思と文明を持っておりまして、という事ですかね。」
ほう。意外だ。意外過ぎる…。
芽唯流は、目を閉じてホンワカした顔をしている。
私と同じく、動物と人間のワンダーランドなアニメーションを想像しているのだろう。
「カワイイ~」
「何故、芽唯流さんがそのような反応なのか判りませんが…よろしくお願いしますね。私の名は、パ=ミュニョリュネデュ=ル」
………
「…では、カメ、で良いな?」
「…言えないんですね?」
――――――――――
―――絶え間ない銃声。
猫神に変身した私がたどり着いた時、通路に向かい4人が並んで銃を構えていたが、2人が後ろへ逃げ出したところだった。
「ひいぃ、効いていない!無理だあぁー!」
「き、貴様持ち場を離れるな! う、うわあー!来る!!」
「そのまま撃て。<魔力付与、魔力付与、障壁>」
「お、おお、て、手ごたえあり!…逃げるぞ!横の通路へ入った!」
「追うな!」私は兵士に指示する。
「銃が効くようになったからと言って、少人数で勝てる相手ではない。バリアの内側に居ろ。それより、早く基地内のマップを見せろ。その逃げた方向には何がある?」
「…格納庫か…。羽があるんだったな。」
あれから2日後、古い携帯に連絡が入ったのだ。
「猫神どの、至急力を貸していただきたい。」
「貴様らに言いたい文句は山ほどあるが、まず聞こう。何だ?」
「我々の召喚獣の事は、部下から聞いているハズ!逃げ出した!言うことを聞くように言われたはずの隊長を飲み込んで逃げ出した!」
「逃げたなら、基地内だな?」
「そうだ!今。まさに今、蛇と基地内で戦っている!」
召喚は最もリスクのある魔術の1つだ。悪魔を召喚した者が悪魔に喰われるなど、物語としてよく残っているだろうに。素人が手を出せる呪文ではない。かく言う私ですら、その道の専門ではない。
「さて、カメ。お前は召喚獣になって魔力を得た。ではその蛇とやらは何を得た?」
半ば強引に連れて来た、カメが言う。
「さぁ。知識は得ているでしょうが…」
「そうか。戦闘機や戦闘ヘリのある格納庫へ向かったらしい。人間の翼を折れば。後はヤツの天下だ。」
カメと共に、数歩歩いて、数メートルの短距離をテレポートで移動する。圧倒的に早い移動方だ。待ち伏せにも有効な対処法でもあるが、邪悪が圧倒的に感じ取れる今、待ち伏せも何もなかろう。
格納庫で次々に破壊している様子が目に浮かぶ。
前方で破壊音、爆発音が聞こえる。
ひと際大きな音が聞こえたかと思うと、通路に壊れたコンクリートの煙が吹き込んでくる。
通路の先が明るくなる。上からは日の光。天井を突き破ったな?
「空に舞ったな。追うぞ、飛べ、カメ!いや待て…よ?」
私は、遠くに一機だけ残った垂直離陸型の戦闘機に目をやる。
「アナタ、変なこと考えてますよね?」
「勘はイイみたいだな、カメ。」
「<疑似生命付与!>さぁ、飛べ!私を乗せて飛べ!」
コクピットの横に、大きな目がぎょろりと開いた。翼の前方には爪。尾翼は羽に変わり、大きな鳥の機械のよう。
私とカメはコクピットに乗り込む。黒猫と亀の乗った戦闘機の絵面も悪くないだろう?
「アナタ何故、笑顔なんですかー!?」
「ふむ。実は乗ってみたかったんだよ!」
離陸の段階から曲芸飛行で、ありえない動きで、頭上の穴から生物的な戦闘機が抜け出す。
「さぁ、羽ヘビを追え!」
おお、これがGか!押さえつけられるようだ!面白い!
あっと言う間にヘビに追いつく。10mはあるだろう羽ヘビに。
「下は海か。良し。撃て。ミサイル発射!」
ミサイルを打って簡単に追い抜き、再び旋回。
爆発の中で、まだ蠢く姿が見える。さっきも爆発は平気だったが。効かないか。
「機銃を撃て!」
半ば一方的に撃っていたが、大ヘビも敵意をむき出しにしてきた。口の中に炎が見える。
「避けろよ。戦闘機。」
炎の奔流をギリギリで躱す。
「まいったな。効かんな。アイツの手にした力は一体…。」
「…硬さ、じゃないですかね。ワタシ、呼ばれた時こう言われたような気がするんですよ。<我は硬き獣を望む>」
「ほう。元々硬かったお前は魔力を持ち、元々強かったヘビは硬さを得たと。なるほど。そいつは困ったな。」
「アナタ、嘘ついているでしょ。困っていないでしょ?」
「どうしてわかった?」
「何となくです。」
「正解だ。では分業するぞ!戦闘機よ、突っ込め!カメ、戦闘機ごと防御を頼む。私は、切る!」
「硬いって言ってるのに切るんですかー!!」
「<裁断!裁断!裁断!裁断!裁断!裁断!>耐えられると思うな!私の魔力に!」
「防御魔法、<シェル・ヘキサ!>」
戦闘機が、見たことのない6角形のバリアで包まれる。
「面白い!面白いぞ、カメ!我が団に来るがいい!」
「辞めときます!お嬢さんのお守り係でいいです!!」
寸断されたヘビの居たところを、バリアに包まれた戦闘機が突き抜ける。
「うん、今回の報酬はコレ1機ほしいな。くれないだろうか。」
…後日。国軍の調べで、あの女がいくつかの国で同じように騒動を起こしていることが判った。無事退治されたモノもあれば、多くの犠牲者、異界の冒険者を含み多くの犠牲者を出した国もある。何であれ、あの女の目的は吸血姫を増やすことでは無いらしい。
考えてみれば怖ろしいことだ。ヴァンパイアロードに国の指導者が襲われ。その魅了の支配下に入ったらどうなるのかを。私は軍の司令部にこの危険性は伝えたが…。
もし。国の指導者が夜にしか会見を開かなくなったら、気をつけることだ。その者は。もう、人では無いかも知れない。
――――――――――
寝室から声が聞こえる。
「イリーゼちゃ~ん。パミルですよ~。はい、オムツ変えますよ~」
カメは、月水金の昼間、イリーゼのお守り係兼・家政婦として雇われている。名前は、カシラの3文字を取ってパミルになった。
キッチンから、芽唯流の声が聞こえる。
「助かるう~。パミルちゃん、ありがとね~。」
居間の私は、ふと不思議に思って立ち上がった。
パミル、お前どうやってオムツを換えているのか?
ちら。
カメは、2足歩行で立ち上がっていた。体長1mぐらいのリクガメになり、器用に両手を動かしていた。
「は!?見ましたね!?」
「パミル!その姿は!?」
「そうか、そっちが本当の姿か!?魔法で小さくなっていただけか!?」
「ワタシも、1つ位はアナタに嘘つかないと。バランス取れないじゃないですか?」
ウサギとカメの勝者は、のんびりと微笑んでいた。
今回で、よくわかってなくて、バラバラに短編投稿していた話数に追いつきますので、題名から<連載版>とか消します。お恥ずかしい限りですがー。




