第38話 「猫くんと<虹>とわたし」
臨月の芽唯流に付き添う猫くん。そんな時、<緑猫の団>に仕事が入る。
猫くん不在の中、戦いに挑む仲間達。
ローファンタジーです。TRPG、RPG、リプレイ等お好きな方、ぜひ。
第38話「猫くんと<虹>とわたし」
ベルランド、コレを見ろ。
緑がかった黒猫がテーブルの上で手招きする。まさに招き猫。
「ほう、何でしょう?マスター?」
<緑>の魔術師、ベルランドさんは、向こうの世界では猫くんの直属の部下に当たるらしい。
「新しい魔法を完成したぞ!」
「ほほう、どのような!?」
やはり魔法の話となると、興味深々らしい。目が輝いている。
「まず、これだ。この世界の<火薬>の技術は知っているな? 花火の1つ、ネズミ花火だ。」
「ほう!火薬の力で魔法を強化したのですか!?」
「いや!ねずみ花火のようにくるくる動いて、何処構わず爆発しまくる迷惑なファイアボールだ!嫌だろう!?」
「……ハイ、嫌ですね…マスター。運が悪ければ自分に来ますね…。」
「うむ…。察しが良いな…。」
「次はこれだ!これも花火からの応用だ!<打ち上げファイアボール!>今やると怒られるのでやらないが、アイテムにしてみた。これを置くと上空高くで七色のファイアボールがドカンと!」
「敵を追うのですか!?」
「いや、真上に居ると大ダメージだな。」
「いない時は?」
「綺麗だろうな…。」
「……ですね、マスター。」
「最後にこれだ!光に種類があることをこの世界で学んだ結晶だ!<**in**w**c*!!>」
「こ、これは…虹!」
30cm位の虹がテーブルの上に美しいアーチを描く。
「綺麗だろう…!」
「ハイ。美しいですね!それでどのような魔法効果が?」
「………綺麗だろ?」
「……そうですね、マスター…。」
「……うむ。」
魔術師ベルランドの<マスター>を見る目がジト目になって来ている。
「しかし、マスターの様に思い付きで魔法を創り上げるのは羨ましい限りです。参考にさせて頂きます。」
「そ、そうしてくれると有難いな。じゃあ、この花火アイテムはベルランドにやろう。参考にしてくれ……芽唯流?何だ?…判った。戻るよ。」
猫くんは酒場の仲間達に軽く手を振り、今日は、後の事頼む。と言ってテレポート。
わたしの所に帰って来た。ベッドで横になっている私の所に。
人の姿に戻り、お腹に顔を近づけて、「ただいま。パパが帰って来たよ?」といつものように話しかける。
「あ、動いた。喜んでるのかな?」
「大丈夫かい?芽唯流?」
「うん、大丈夫だけどいつ来るか判らないから居てほしくて…。」
「どんな調子だ?」
「ん?…何ていうのかな、変な感じ。嫌な感じじゃなくて。自分の中に自分じゃない生命がどんどん動いてるって、不思議な感じ…。」
「ふうん…なるほどなぁ…。」
そう言いながら、猫くんはお腹を優しくさする。
「さっきの酒場のやり取り。ベルランドさん困ってたじゃん。もう。」
「芽唯流にイタズラしたくて考えたのに、今のお前には使えないじゃないか。」
「元気でもファイアボールは辞めて。」
「ち…。さて、料理でもしよう。食べたいものはあるか?」
「ふふ…軽くでいいから。猫くんのベーコンエッグ食べたい。」
「判った。待ってろ。」
猫くんはキッチンに向かう。
ところで、何でわたしがさっきのやり取りを知っているかと言うと、例の酒場には私の<身代わり人形>…というか小さな猫の縫いぐるみがカウンターに置かれている。対になっている手元の同じ縫いぐるみに意識を集中すると、視界をチェンジできるし、言葉も交わせる。最近出歩けない私の為に、猫くんが作った人形。例のフランス人形の隣に置いてある。
ベッドで、猫くんに「あーん」、して食べさせてもらった後。
臨月のわたしは、陣痛が激しくなって病院行きを決意した。
…生まれそう。赤ちゃん…が。
此処からは、あまり覚えていない。結構、きつくて。あまりにも慌ただしくて。
覚えてるのは、手元の人形からリュカの声が聞こえた事。
わたしが、生まれそう、病院行くって言ったら、頑張れって。幸せの為に頑張れって。こっちで<小さな仕事>入ったから適当にやっておくって猫くんに伝えてって。
リュカ、ありがとう…。わたし、頑張ってくる…。
――――――――――
「良いのかい?勝手に受けちまってさぁ…?」
やや心配らしくダリア姉さんが言う。
「心配いらない。不在の時はあたしとリュカで決めることになってる。年下でごめんだけど、現代を一番知っているのはあたしだからだって。」
「それは気にしていない。仕事の内容さ。」
依頼は1憶。ひとり1千万あたり。おっきな仕事。
廃ビルに人質をとって立てこもった10名前後の武装グループ。
銃器を持っているし、精霊魔法を使うヤツが中にいるらしい。
周囲の機動隊は、足元に湧き出る地の精霊に為すすべなく撤退。
場所は東北。飛行で行ける範囲。メイフィールドさんが居ないのでテレポートは出来ない。帰りならできるけど。魔法の指輪で。
クライアントの話を聞く限り、一応、話の筋は通ってるんだけど…。
人質は中年男性一人。写真を渡されただけで他の情報は秘匿されている。まあ、聞くなってことね。
依頼の桁がでかいのも何か嫌。武装グループ、ってのも何か嫌。
この国にはアウトレイジな人たちは居るけど、銃器を持った武装グループ、ってのが稀だ。
裏のある仕事…。メイフィールドさんなら受けただろうか?
相談する余裕はなかった。だって生まれるんでしょ?
居てあげてよ、芽唯流の傍に。不安に決まってるんだから。
獣人、剣士、レンジャー、魔法使い、戦士、僧侶。
大丈夫…ここは世界でも最大級の異界メンバーが募った傭兵団。
あたしは念を込めて、タロットを引く。
「ハーミット」
うーん、何の暗示か。
メンバーの顔を思い浮かべ、あたしは1つの指示を出した。
「リュカ、猫になって。」
「アタシが猫になっても黒猫じゃないニャよ?ハッタリ無理。」
「いや、最期まで戦わないで、みんなのサポートに徹してみて。どうしても戦力が足りない時は戻っていいから。」
「理由は、占いかニャ?」
「そ。それだけ。」
「わかったニャ。信じるニャ。相棒。」
ポン。カワイイ茶トラに変身。
あたしだけがアジトのPC前に陣取り、仲間たちのゴーグルを通じて状況を見る。
みんなは、飛行の魔法で現場へ向かった。
―――――――――
「屋上の扉から降りられるハズ。みんな、迅速に。ベルランドさん、音と姿消して。」
「固まってくれ。範囲<サイレント>、範囲<インビジブル>」
音も影もなく舞い降りる面々。異界戦闘のプロフェッショナル達。
「<オープン>」
扉が音もなく開く。静かに階段を降りる。ここは3F。
永久呪文ではないので、ここで音と姿が戻る。これはこれで仕方ない。
「優先ターゲットは何階に居る?」
「まってユーさん…政府情報では1Fに多数の人影。でも途中に軟禁されていないとは限らないね。」
「ファボルさん、ワナは?」
「無いね。基本、突然押し入った廃ビルにワナがあるわけない。」
「じゃぁ、一気に1Fまで降りよう。そこでベルランドが消えて近づき、一気に人質ごとテレポートする。」
「了解、気をつけてみんな。」
ふ~むう…。引っかかる。
何故、廃ビルなんかに閉じこもったんだろう。機動隊が手に負えない<土の精霊>を操れるなら、一気に逃げれば?
その廃墟ビルにあらかじめ逃げる算段が?それとも、落ち合うはずのバスか何かが機動隊のせいで来れなかった?
連中はテレポートしない。つまり、<テレポート出来ない>。できたらとっくにやってる。テレポートは上級呪文とメイフィールドさん言ってたしなぁ。あくまでも精霊術使ってことか。
あたしの予想としては、イレギュラーなことに対しての一時しのぎ。
きっと、準備出来次第、すぐ逃げる。はず。
あたしはPCでビル内部マップを開きながら、みんなの状況を見る。
1Fに到達した。多分、もう一度姿を消さないとまずいだろう。
「みんな、もう一度姿を消さないと」
「OK、ベルランド頼む」
「了解です。なかなかしんどいですね…<範囲インビジブル>」
ただの廃雑居ビル。大きなわけでもない。通路にでればすぐ敵の姿が見えるだろう。
みんなは姿をけした状態で通路へ出た。
入口に通じているであろうホールが向こうに見える。そこには、伏せてライフルを構える武装グループの姿があった。こちらへ銃を向けている!
いや、見えてるはずが!?
ホールで何者かの声が響く。あたしたちには解る言語で。
「<ファイアウェポン 範囲化!>」
誰かが銃に魔法ブーストしやがった!これじゃ、魔法のバリアを抜けてくる!
「みんな、階段側へ逃げて!」
あたしが言うより速いぐらいに、みんなすぐに飛びのいて体を隠した。
銃声。連射式の、映画で見るような、紛争地域の映像で聞くような怖ろしい音。
「何でバレたのかなぁ~」とファボル。
「アンタらの日ごろの行いが不摂生だからだろ?」とダリア。
「ダリアには言われたくない。」とユーさん。
「同感ニャ」とリュカ。
「俺の盾なら突っ込めるがどうする?」
これは槍使いオックスさん。彼はどうも突っ込みすぎるきらいがある気がする。
一瞬、銃撃が止んだ。嫌な予感がする。
コン、と音を立てて、手りゅう弾が転がって来た。
剣士、戦士、レンジャー、魔術師、僧侶、獣人。
ハイ、誰かこの中でこれ防げる人?
目の前で、爆発が起こった。その閃光をあたしは見た。
「み、みんな…?」
光が収まった時、そこには黒い金属の人影。
…さすが猫神様のパッシブ。みんな<メタライズ>で無事だ。
ホっ…。
「仕返しと行こうか。ちょっと試したいものがあるんだが…」
ベルランドが、懐から小さい輪っかを取り出して言った。
投擲の得意なオックスが、端っこに火の付いたそれを、円盤を投げるみたいに敵の一団に向かって放り込む。
「上手くいかなかったときの為に、<メタライズ>しとこうな…」
「ネズミ花火ファイアボールが敵の方に向かうことを祈ろう。」ベルランドは真面目に言った。
「…あぁ、ついでに人質の方に行かないこともなー」ダリア姉さん、あきらめ気味に言う。
連発の爆発音。とどろく悲鳴。どこの言語だ?ああ…<あっち>かな。
銃声は静かになった。うめき声。
言う間でもなく、仲間たちは迅速に走り込み、稼働できる兵士達。そう。武装グループどころか、恐らく何処かの兵士達、を沈黙させた。でも、その中に、人質と精霊術使の姿はない。まー、生き残ってるってことは、このネズミ花火は本当に威力を押さえた遊びなのだろう。少なくともあの人にとっては。
奥に続く通路。反対側にも階段がある。
「追って!追うのはリュカとユーさんとファボル! ベルランドは生き残りを眠らせて! ダリアとオックスは武装解除させて此処を制圧!機動隊に引き渡してから合流! リュカ!出番!」
「あいニャ!」
猫だけど、本気の獣人は速い速い。あっと言う間に二人を追い抜いて行く。
「その先階段。多分地下!!」
――――――――――
2人と1匹が地下へ降りた時、そこにはコンクリートをぶち破り、左へ続く素掘りのトンネルがあった。
「トンネル?いくらなんでもそんな早く掘れる!?」
「デキりゅにゃ。精霊使いなら、ノームの呪文を使って10mは掘れるニャ。」
「そっちの方向には…高校…避難してるはずだけど…グラウンド? 奴らグラウンドに向かってる! そっか、ヘリだ!!」
そうか。ヘリが最初の合流に間に合わなかったのか! ツイてなかったね!
結構遠い。マップでは500m位。機動隊の注意を引かず、異国のヘリが侵入、離脱する場所。というわけかー。じゃぁ、当然ヘリは、<消えている>わけだ。それぐらいの魔術師が乗ってくるわけだ。ふーん。
ん?さすがに500mトンネル掘るのに時間かかったとして。
「ねえ、リュカ、トンネルを消そうと思ったら?」
―――トンネルが斜めになって来た。
先頭の男が呪文を唱え、日の光が差し込むのが見える。
男は振り返って言った。
「ご苦労さん。思いのほか間抜けなチームだな。トンネルと共に消えな。<ノームに命じる。ここ以外のトンネルを元に戻せ!>」
天井落下ではなく、大きな穴が、一気に縮まって来た。大地が気遣って穴を広げてくれていたけどやめた、そんな感じ。
「うわぁあー!」 「ぐえ、洞窟がー!」
仲間の悲鳴。
「あはははは!」
男の笑い声。妙にカン高くて何か嫌いだった。
――――――――――
オラ、早く乗れ!
音だけだった輸送用中型ヘリコプターが突然姿を現し、着陸する。
すぐに降りて来た兵士たちに両手を掴まれ、<エネルギー分野の革新的な研究者>が強引に連れ込まれた。続いて、精霊術使が乗り込む。
あっと言う間に、ヘリは上昇を始めた。扉が閉まろうという時。
可愛らしい茶トラが、精霊術使いの頭を飛び越えて、ヘリの中に飛び込んできた。
リュカは魔法の力を借り無くても数mのジャンプができる。
猫は、すぐに囚われの教授に触れると、接触テレポートで教授を巻き込み、消えた!
一瞬。まさに一瞬の救出劇。
一気に上昇するヘリの真下で。本来、もう手出ししようもない距離で。
一足先にグラウンドへ飛んできていたベルランドは、地上に、たった1つの花火をセットして火をつけた。
「それが、猫団長のお遊びかい?」
トンネルが潰されるのを予想して上空へテレポートしていたユーバルスが歩み寄る。
「どんな花火なんだろうなー。」
同じく逃げ出していたファボル。
「ヘリの中は、精霊術使と、最低限消えることのできる魔術師と。兵士達、か…。」
花火は、上空へ。高く高く上空へ。 ひゅうぅぅ、と、わざわざ音を立てて。
ヘリに激突した小さな光が、巨大な爆発を起こした。ファイアボールなのだろうけど、炎は七色で、端になると細かく分かれ、更に色を変えながら消えて行く。
ヘリは跡形もなく爆散した…。
大きな、大きな打ち上げ花火だった。
「マスター、こうやって使うのですね…。」
「…多分、違うと思うよー。純粋にふざけてるだけだ。ただ、遊びじゃすまないんだよなぁ、あの人の場合はなー…。」
――――――――――
病室。
「頑張れ、頑張れ、芽唯流!」
わたしの手を強く握る猫くん
「うう く う」
元気な、高い声の泣き声が聞こえて来た。
体中の力が抜ける。
看護師さんが体を丁寧に拭き、わたしに小さな命を抱きかかえさせる。
「元気な、おんなの子ですよ…おめでとうございます。」
この子が、わたしと猫くんの赤ちゃん…。
いとしさが、愛しさだけがわたしの全てを奪う。涙が出てくる。
「芽唯流…!」猫くんがわたしを抱き寄せる。
「初めまして、あかちゃん。わたしが、貴方のママ。頑張るから、幸せになろうね」
目の焦点はあってないようだけど、赤ちゃんは少し目を開けていた。ふふ、猫くんと同じ、薄く青い綺麗な瞳。
「芽唯流、右手をこの子の前に出してくれ、そう、手のひらを上に…」
「こう?」
「そうだ。 <虹の橋よ、出でよ> 」
猫くんの左手とわたしの右手の間に、綺麗な虹の橋がかかる。
「わぁ、すごいですね!なんのオモチャですかそれ!?」
看護師さんが驚き笑う。
あかちゃんは、泣くのをやめ、笑ったように見えた。微笑んだように見えた。
「芽唯流、候補ばっかりで決められなかった名前…。虹の意味で<イリーゼ>はどうだろう。」
「うん!」 この子が初めて見た綺麗な光の名前、虹。 わたしは頷いた。
私と芽唯流で、お前が虹色の未来をつかみ取れるように…支え続けよう。
猫くんの言葉は、家族3人の心の中に響き渡る、幸せの誓約。
わたしは、今、ママになった。 幸せな、ママになった。
…あ、ごめん、病室の外で、じいじと、ばぁばと、おじちゃんが待ってるんだった。
お顔見せてあげようか? ね、イリーゼ。




