第36話 「猫くんと孤島」
<緑猫の団>、国外遠征。孤島で戦うは、不死身の<影>。
ローファンタジーです。TRPG・RPG・リプレイ等お好きな方ぜひ。第36話。
第36話 「猫くんと孤島」
そのホテルは、孤島に建てられたタワーホテルで、沿岸部の都市とは僅か3km、夜景と透き通った海、マリンアクティビティーや海水浴、真っ白な砂が売り物の高級ホテルだ。
ヨーロッパの某国、内海に面し、さらに大きく亀裂のように内側に食い込んだ湾岸にあり、ハリケーンでも無ければあまりに穏やかな海面。
国内の情勢も比較的安定しており、内乱などにも無縁な歴史ある国。国王が居るが、政治とは切り離されているらしい。そんな穏やかなリゾートなのだ。世界中のセレブも遊びに来るとか。
そう、こんな事件が無ければ、今日も賑わっていたはずの美しい島。小さな島。
島と言うのもおこがましいほど小さな島。
我々が見せられたのは、一般公開されていないが、小隊の指揮官が頭部に装着していた小型のカメラによるもの。
5mほど向こうで、人より少し大きな黒い何かが、迷彩服を着た兵士を切り裂いた。リュカどころか1mは在ろうかと思える鍵爪のような黒いもので。そして、足元の砂に消えた。映像は僅か数秒のものだった。何故なら、次の1秒では、指揮官の目の前にその黒いものが現れたから。魔物は、まさに影そのものに見えた。人のような眼だけが輝く。口は無いが、指揮官にこう聞いた。「w****s*y***E?」。答えられず、鉤爪が襲いかかり、悲鳴と共に画面は血のにじんだ砂ばかりを写し、暫く数名の悲鳴だけが砂の映像に入り込んでいた。
この世のものではない。魔族、デーモン、アンデット。思い当たるモンスターも居ない。未知。こちらの世界の文献でも聞いた事が無い。
「猫神殿、如何だろうか。成功報酬は1億。ホテルにはまだ沢山の客が居る。島から脱出出来ればいいのだが、怖ろしくて出られん。奴はホテルの中も出てくる。分かっていることは、奴は影から出てくるらしいことだ。」
「では、ホテルの明かりは?」
「真っ暗だよ、当然。調理も出来ん、暖かい南国ゆえ、暖房が要らないのが唯一の救い。人々も徐々に追い詰められている。」
「夜は出て来ないのでは?」
「夜とは地球の影ではないのかね猫神殿?」
そうだろうか。魔物がそんな宇宙的な観点や知識を持っているだろうかな。
だが、試して見ろとも言えん。
「**国は我が国の輸入において重要なつながりを持つ国だ。そこからの依頼、是非お願いしたい。」
あまり、乗り気はしない。準備が足りない。
<魔術師は戦い始めた時には勝っていなければならない>
これは私の信条であり経験則。敵が未知数なのが、不安なのだ。1つの不足が、油断が仲間を失う。300年の戦いの中で嫌と言う程知っている。勿論、全ての場面で事前の知識があったわけでは無い。駆け出しの頃はなおの事…。
とはいえだ、今現在、逃げ遅れた人々が居るのならば、やむを得ない。その国には、冒険者は居ないという事だしな。それが真実かどうかはさておき。
<緑猫の旅団>、出陣。
――――――――――
例のごとく、芽唯流と瑠香は映像サポートに回る。
今回は、信頼おける4名に加え、2名の新人が同行する。
新人と言っても、素人ではない。
槍使いの戦士、オックス・ベルナ。魔術師ベルランド・ファモス。
多少お手並み拝見を兼ねているが、基本後方待機を命じている。
現地へ飛ぶのは、一瞬だ。一番よく没入感を持って見られる映像は砂浜か。ここへ飛ぼう。勿論テレポートで。
「準備はいいな? <マス・テレポート!> 」
「恐らく敵は一瞬で出て来るぞ!行くぞ!」
砂浜へ降り立つ。空気の暖かさ。豊かな陽光。少し離れたところにそびえ立つタワーホテル。
…不気味な静けさ。
我々は無事全員砂浜へ降り立ち、ホテルへ足を向ける。
先頭を2刀剣士ユーバルスが。
その後ろを獣人のリュカが。
その後ろに、オックスとベルランドが並び、次に回復役でダリア。
最後尾から見守る形で私(黒猫)と弓使いのファボル。
―そして、間もなく、敵に会った。
背中から太陽の光を浴びている我々にとって、影は前。
その影が、すっと前に伸び、立ち上がる。影の様、ではなく影か。小さな黒猫はお呼びでは無かったらしい。新たな仲間であるオックスの前に、そいつは現れた。
「オックス!」
私の叫びと共に、先頭組は振り返り武器を抜き、オックスは盾と槍を構える。魔術師ベルランドはセオリー通り距離を取り、魔法の準備をする。ファボルが弓を引き絞る。
私は躊躇なく、容赦なく、<拘束>の呪文を唱えた。攻撃呪文を撃つにはオックスが邪魔だった。
影は巨大な鉤爪を構え、切りかかる前にオックスに向かってこう聞いた。
そう、我々には判る言語で。
「我が名を答えよ」
「知るか!化け物め、食らえ!」オックスは叫んで槍を突き刺す。槍には私の魔力が付与してある。
私が先に発動したワイヤーは何処にも巻き付くことなく消え、オックスの槍は影のど真ん中を突き破ったが、ただの霧の中に棒を差し入れたかのように手ごたえ無く、ただすり抜ける。
目と爪だけが実体なのか!? いや、物質なのか!?
「オックス!盾で受けろ!」私は叫んだ。嫌な予感は当たった。
同じく魔力を付与してあるジュラルミンの盾は、鉤爪の形通り4つに切り裂かれた。
コイツは、なんだ!?
幸い、私からホテルは見えている。
「<マス・テレポート!>」
目の前の全員をホテルまで飛ばす。これ以上は危険すぎる!
影が無くなったことで、奴は一度砂に消えた。
あぁ、判っている。今、影があるのは私だけだ。
私の影が伸びて行くのを見て、私は羽を生やし宙へ飛んだ。
影が立ち上がった時、私は10m上空。そのチャンスを逃さぬ程、私の決断は遅くない。
「<光弾><光弾><光弾><光弾><光弾>」
5発のエナジーブラスト。影を撃ちぬく。
穴だらけの影は、確かにひるんだが、徐々にその形を回復していく。爪と、目にも当てた。
それを含んでの話だ。どうやら、手順が必要なようだ。吸血鬼のように。狼男のように。
不死身には代償がある。必ずある。そうでなければ、それは神だ。
私は、テレポートを唱え、ホテルへ飛ぶ。仕切り直しだ。
――――――――――
我々は、ホテルの入り口に転がり込む。ホテルのロビーには多くの人が居た。
戦いを上から見ていた者も居た。皆、疲弊した顔をしているが、我々が全員無事にここまで来たのを驚いていた。
「日本から来た冒険者の一団。<緑猫の旅団>だ。あとは任せてもらおう。」
「任せるってどう倒すにゃ…」
「魔槍で効かなければ、俺の剣もファボルの弓も同じか?」
「私の光弾は効いたが、すぐに再生されたよ。」
「じゃぁ、どうやって?」
「まあ、焦らず行こう。支配人、人々を集めてくれないか?荷物を全て持ってだ。昼のうちなら、ホテルの中も動きやすいだろう。」
実は、ホテルの中で襲われたのは明かりをつけた者だけらしい。という事は、ホテルそのものが太陽の光を遮った影…とは敵は認識していないのだ。そう考えると、恐らく夜には出て来ない。星だとか銀河だとかブラックホールとか、私もこちらの世界に来てから知ったこと。
さて、集まった人々に、私は声を掛けた。
「今からテレポートの魔法陣を引く。凱旋門あたりに飛ぶ。あとは自力で頼む。サヨウナラだ。安全に帰ってくれ。」
本当だ、猫が喋っているぞ! 魔物か!? しかし助けに来たと言っているぞ?
冗談だろ? 本当か? そんな簡単に?? なんでそんなことが出来る?
人々のざわめきは当然だが。私自身が目の前で短距離テレポートしてみせると、覚悟を決めて入って行った。
従業員も安心した様子で、荷物をまとめ始めた。支配人も出ようとしていたところだが、申し訳ないが再度集まってもらった。聞きたいことがあったからだ。
私は再び一か所に集まってもらった従業員と支配人に尋ねる。
「影は何時から出るようになった?」
「…4日ほど前です。」
「4日前に大きな異変は?空に魔方陣とか、割れ目とか?」
彼らは互いに見合わせ、首を振った。
「この島に遺跡とか呪術的な建築、遺物はあるか?」
「…ありますが、掘りかけの僅かな通路と小部屋のような石組みの遺跡でして、正直何度も専門家が調べていますが何もなく、観光地にもなっていません。」
ふむ…。
「そこに出入りしていた者はいるか?4日前に?」
「それは判りません。」
まぁそこはそうかも知れん。
「この辺に、化け物の伝説とか無いのかニャ?」
皆、首を捻った。無いらしい。
「判った。ありがとう、キミ達も無事で。支配人。連絡先を貰おう。無事解決したら連絡する。悪いがそれまではこちら自由に使わせてもらっていいかな?」
支配人は、メモを渡すと、小声でつぶやきながら、カードキーを渡してきた。
「これで全て開きます。ロイヤルスイートをお使いいただいて結構。ただ、地下の冷凍室には亡くなった方々のご遺体が…行かぬ方がよろしいかと。」
「わかった。感謝する。」
支配人も消え、ホテルは静かになった。夕刻も近く。スマホやTVを付けるわけにも行かず、せっかくだしロイヤルスイートに寝てやるか。戻って休息と言う案もあったが、せっかくだ。夜景を見られるロイヤルスイートにそれぞれ入った。
私は広々とした、一人では正直勿体ない部屋のカーテンを開けて、月の光と夜景に照らされた海を見る。
背後の気配は…ない。敵意…邪悪…ない。
ほらな。奴は夜を影と思っていない。月の光は私の影を作っているはずだが。この程度の「濃さ」では出られないのだろう。そう、こうして事実に少しずつ近づいていく。それしかない。
こういった不死身の化け物退治は。
芽唯流から、夜景を見ている時に一言だけ連絡が入った。
「綺麗ね…。いいね…。素敵ね。以上。 猫くんの愛する妻より」
はぁ、連れて来いと。来たいと。はぁ。
――――――――――
翌朝。探索するポイントは決まっているが、ヤツが出て来ない対策をしなければならない。
簡単な対策だ、影を作らない。それでいい。私は、全員に<ライト>の呪文を掛ける。
弱めに。少々、眩しいのだが…そこは仕方ない。
要するに、全員の体を光らせた。自分が光っているのだ。影は出来ない。互いが作る影も弱く。出て来ないと私は踏んでいる。
試しに。私が陽光の元へ降りた。
…………
来ない。どうやら成功だな。勿論、これでは倒すことも出来ないわけだが。
目標地点へ急ごう。目標地点。その、無価値と判断された遺跡へ。
さて、リュカとダリアにはホテルに残ってもらった。
もしケガ人が出たらそこに飛ばせばいいし、リュカの爪では敵の攻撃を防げないという理由だ。リュカは文句を言っていたが、これもチーム戦。ワガママを通す程彼女は素人では無い。ファボルは罠を見る為に必要な戦力なので同行。
洞窟の入り口は3m程あり、人の手も加わってちょっとした洞窟としての見ごたえはあるようだった。我々自身が光源であるため明かりも必要なく。観光地の足元にワナなどは無く。
それでも20mは洞窟が続いたので、現代の観光地としてはアリなのかもしれない。そして、あっという間に突き当りへ。円形のホールになった空間についた。
この空間だけは全て石組みになっている。入口からファボルがじっくり中を伺う。ワナは…ないらしい。石組み。ファボルは中に入り、石組みの壁の所々を叩き、空間を探す。左斜め前と言った方向だろうか?
「こっちだけ音の響きが違うなぁ…スイッチは無いみたいだけどなぁ~」
流石だ。スイッチが無いなら魔法でも探す。
ふーむ、私の目には、4方向に1つずつ、光る石がある。触れてみるしかなさそうだな。
盾は無いが最も敏捷力に優れたファボルが、私の指し示す石に触れる。4つ目の石に触れた時に、左奥の石組みがまとまって後ろへ下がり、更に左へずれる。横スライドの扉のように開いた。
我々は中へ進んだ。進んだと言っても、再び似たようなホールがあるだけだ。
入口で止まる。ファボルが睨むように周囲を見渡す。周囲は今度は石組みではない。
素掘りの、先程よりやや狭い空間。ファボルは首を振った。
私の目には、部屋のかなりの部分が光って見える。壁も床も、魔法の反応だ。
人を感知して光る電灯のように、部屋に備え付けられた4つの松明が灯る。これも魔法か。条件付き発動を永続で…か。
一番目立つのは、中央の魔方陣。見た事の無い図式。術式。…いや、見た。これは、前に虫の群れを呼び込んだ巨大な雲の魔方陣に似ているように思う。人骨と思われる骨も多数陣の上に在る。陣の中央には文字があり、2つの文章が重なるように描かれ、一見した限りでは言葉が読み取れない。
「これは…召喚呪だろう…。恐らく、ヤツの。規模的にデーモンクラスの召喚儀式だ。」
「それはアンタでも出来るのかい?猫団長?」と、ユーバルス。
「出来る。出来るが…。どちらかと言えばネクロマンサーの儀式だ。中央の文字は恐らく契約者と魔物の名を重ねて刻んでいる。」
「我が名を答えよ、て、それかい?」ファボルは答えを見つけたように元気に聞いてきた。
「マスター、この規模の魔方陣は…」
「ベルランド、その通りだ。マスタークラスの術者によるものだ。強力な…魔力無しで従わせることなど不可能な魔物を呼び出している。恐らく、デーモンか魔神。」
「…どちらにせよ、魔方陣の中央の契約名を読まねばならん。みんな、待っていてくれ。飛んで上から見る。」
猫の背に翼を生やし、魔方陣の上に飛ぶ。
おっと、こんな時に役立つのがスマホだな。ポン、と手元に呼び出しパシャパシャと撮影。便利だな。現代。
そして。この瞬間に、私は罠にはまった。
呪文に反応したのだろう。魔方陣が、大きく光った。私は一瞬でバリアを唱えたが、攻撃では無かったので意味なく。
その光は、我々に掛かっているパッシブ魔法を全てかき消した。
光り続ける魔方陣…。
「アンチマジック・レイ!?」
私の姿は人間に戻り、バリヤーもかき消された。光の範囲外に出るまでは、魔法は使えない。そして、怖ろしいことに。我々自身を光らていたライトの呪文が…消えた!
魔方陣の光は、洞窟内に、ハッキリとした影を映し出した。
背中から、怖ろしい声が聞こえて来る。
「我が名を…答えよ…」
多分、私の背中だろう。
考えるまでもなく、見ることもなく、横に転げるように回転する。
床に硬いものがぶち当たった音が聞こえる。躱した!?
「逃げろ!光が届かないところへ行け!」
「猫団長!アンタは!?」
「何とかするさ!私のミスだ!」
いつもなら、正体不明の魔法効果ならディスペルしてから足を踏み入れただろう。
だが、魔方陣なのだから魔法の反応が当然と思ってしまった。思いこんでしまった。
何と愚かな。何という屈辱!
影の魔物と私は部屋の中央で向き合った。
「我が名を答えよ…」
「答えたら、どうなる?」
「我を、殺せよう。」
「ほう?」
魔物は鉤爪を振り上げる。だが、私を本気で怒らせたお前に、勝機など無いことを思い知らせてやろう。
魔方陣の中央がアンチマジックレイで光っているのだ。ならば。私は一歩大きく後ろへ下がる。光の中心を跨いだということだ。前に在った影は消え、影は私の後ろへ回った。
背中の方から、「貴様…」という声が聞こえて来た。「ふ、まるで闘牛。誇り高く舞え。」
私は一気に前に駆け出す。アンチマジックの範囲を抜ける。
そして、前方に<ライト>の呪文を撃った。壁の一部を光らせる。
背後に現れる魔の影。
「わざわざ、光を作るか、魔術師」
「あぁ、暫し相手をしてやろう。」
「オイ、どうするんだ!団長!」
「マスター、ご指示を!」
仲間達の声の方向に、私は叫んだ。
「急ぎ、ホテルの二人に連絡を取れ!4、5日前にホテルを出た客の名前を画像と照らし合わせろ!急げ!それまで、相手は私がする!」
爪が襲い掛かる。
「<増強>、<魔盾>、<造魔剣>、<防護陣>、<分身>、<分身>、<分身>」
まだ止めない!
「<光弾!><光弾!><光弾!><光弾!><光弾!><光弾!>」
ボコボコに穴をあけ、その間に更に追加する。
「<回避><守護精霊><守護精霊>」
そして。
「<転移…>芽唯流、頼む!」
私はスマホを芽唯流の手元に送る。
「どうなったの!?突然見えなくなって、わたし!わたし!」
「心配するな。そのスマホの画像をリュカに転送してくれ!いそぎ敵の名を解析する必要がある!頼むぞ!」
「…うんわかった!信じるね…今日も…負けないで!」
あぁ、負けるわけには行かないな。
再生した影が再び鉤爪を振り上げるが。
試しに、<魔盾>で受けてみる。止められた。
0距離で、再び打ち抜く。
「<光弾!><光弾!><光弾!>」
影は再び倒れ、呻く。
「おのれ…だが、何度我を打ち砕こうと、消えぬよ」
「大丈夫だ。怒りで魔力が湧き上がってくるようだ。暫くは、シューティングゲームに付き合ってもらおうか、魔神! は、ははははははは!!」
「化け物めが!」
「光栄だ!魔神にそう呼ばれるのは初めてだ!ははははははは!」
――――――――――
リュカがキーカードを差し込み、PCから客のリストを呼び出す。
「これで良いのかニャー!?無理だニャわからないニャ!」
「うるさい!非常事態なんだから頑張れリュカ!普段あたしのパソゲーやってんだから出来る!」
瑠香の厳しい激励が飛ぶ。
「こっちのパソコンで行くと、最初の文字がD…H?I…えっとM?」
「4日前…4日前にチェックアウト…えとえっと…。ちょっと!ダリア姉さん手伝うニャ!!」
「えー、あたしアンタ以上に機械なんか使えるかつーの…どれどれ……あ、これなんかどう?」
「ディメリア・レティドーラ!?これニャ!でも本名かどうかわからないニャ!」
「まぁ、送ってみたら?」
「瑠香ぁ!ディメリア・レティドーラってヤツ4日前チェックアウト!どうかニャ!!」
「おお!やるじゃんリュカ!どれどれ、待って、重なった文字を消してみる…と…」
「<BUREFONEIR!>猫くん!<BUREFONEIR!>だよ!でも消した方が本名かどうかわからないって!」
「…おそらく本名だ。プライド高いからな。そういう奴は…。」
「猫くんと同じだね!」
「この会話、前にも在ったな…」
――――――――――
「<ブレフォニア>」
影の動きが止まった。
「これで良いのか?ブレフォニア。」
「正解だ…見事。」
魔物は、煙ではなく質感のある体表になり、巨大なカマキリの様な節のある体に変わった。虫の魔神、か。だが、目だけは人間の様で、その瞳は悲し気にも見えた。
奴は大きく息を吸い、大きな鉤爪を、両方から挟むように私に向かって振り下ろした。
分かっていたのだろう。もう、無駄なことは十分に。これが召喚された者のルールならば、召喚とは何と罪深いのか。非道なのか。
「還るがいい、魔神。<フル・ブラスト!>」
強きものへの敬意をもって、最大の光弾を撃ち込む。
魔神の体の中央には大きな穴が開き、そのまま仰向けに倒れた。そして、少しずつ崩れ行く。
「魔導士、我を召喚したものは…女…吸血鬼の、女…」
「何故教えてくれる…?」
「我を自由にしれくれた礼とでもしておこう…か…」
魔神は、影から、砂に。最期には風になって消えた。
――――――――――
数刻後。
現地に来てもらった瑠香と芽唯流。
彼女らに改めて記録を見てもらった。監視カメラの該当時刻を。4日目のチェックアウトの時刻。宵闇に包まれ夜景の美しさが際立つ頃。
支配人らがうやうやしく礼をし、誰かが去って行く…。
しかし、その姿が本来写っているはずのカメラには、誰の姿も無かった。
カメラに映らない、か。
吸血鬼の女。ディメリア・レティドーラ。
この現代に存在する、吸血鬼の女。
魔術師か。死霊術死か。暗黒魔法か。いずれにせよ、あの魔方陣を操れるほどの魔力。
我々は、いや。私は、試されたのか。それとも挑戦状なのか。ただの偶然なのか。
だが、いずれ必ず出会うだろう。
もしかしたら、張り巡らされたクモの糸の上を歩き始めたのかも知れないが。
まぁ、その時は。
巣ごと燃やすだけの話だ。




