第31話 「猫くんと、公園の怪異」
本編と少しズレた、外伝的内容です。(短編版未掲載)
さびれた公園の、怪異。
ローファンタジーです。短編。TRPG・RPG・リプレイなどお好きな方、ぜひ。
魔法使い、猫くん 第31話「猫くんと、公園の怪異」
その公園は、公営住宅の近くに在る割にはロクに整備されていない。
小さな、深い緑色の池があり、どうやら魚もエビも居るらしいが、立ち入り禁止だ。
…たまに、小学生がアミを持って柵を乗り越える。らしい。
少し開けた場所に遊具は有るが、付近には既に小さな子は少ない。
静かで、苔むして、錆びて、付近の3階建てアパートからは全貌を見ることが出来るが、
誰も好んで見はしない。
夜を好む輩も、近寄らない。せいぜい、犯罪者位だ。
――――――――――
ベンチに、1人の男が座っている。日差しはそれほど強くない。
時々日が差す。
ベンチには、もう一人客が居る。いや、もう一匹だ。
灰色の大きな猫だ。年老いている様にも見える。
うずくまり、寝転がっている。
「ああ、本当に、面倒な職場になっちまった…。」
「判るか、猫。」
男はカップ酒を開ける。
「…あ?大丈夫だ、運転はしねえからな…心配すんな、猫。帰るだけなんだ。出張帰りだよ。」
「何でオレが行かにゃならんのだ。ウチのミスじゃないんだぜ?信じられるか?」
「向こうが大手ってだけで、飛行機代往復だぜ。一泊だぜ?」
「調子のいい奴は嘘ついて、取り入って、適当な奴をディスって、自分が上みたいに話して、株を上げたつもりでいるんだぜ?」
「…しかしまぁ、お偉いさんはすんなり引っかかる訳だ。機嫌とっときゃ金回してくれるアホだからな。」
「猫、そろそろ帰るわ。話を聞いてくれてありがとよ。お礼になんかやりたいが、何もねえ。悪く思うな。じゃあな。」
さびれた公園に、風が吹く。
そこに男の姿はもう、無い。
猫が、ベンチを舐めていたが、酒でもなめていたのか。
誰も気にしないし、判らないことだ。
――――――――――
「にゃぁ、猫ちゃん、わかるう?やってられないんだよね。」
灰色の猫は、迷惑そうに片目を開け、女性を見た。
「もう、毎日怒鳴り合い、言いあい。つられて、アタシまで怒鳴り声になっちまう。」
「もうね、息子なんて、殴りかかる寸前な気がするよ。」
「最近、家族の暴力で通報だの逮捕だの、多くない?」
「うちも、そうなっちゃうかも。あー、ヤダヤダ。」
女は、ビールを開けた。
少し、泡がベンチに零れた。
「あちゃ、もったいな。」
「もうね、息子、いう事聞かないんだよ。夜な夜な出かけて変なのとつるむしさ。金もきっと持ち出してる。ダンナのいう事も聞かない。」
「ウチで手いっぱいなのにさ、学校からも電話来るし。面倒くせえってんだよ!」
「行ったって、何も出来ないんでしょ?だったら口出すなよって。行くだけ無駄だって。偉そうに!ド正論振りかざしたって、何一つできねえくせに。」
「何がしっかり見守りましょうだ!それで治れば苦労しないって!!」
「はぁ…帰るか…アイドルとドラマ位しか趣味無いんだよアタシィ。」
「じゃね、猫ちゃぁん」
女が手を振った。
静けさを取り戻した公園は、少し夕方の寒さが忍び寄って来ていた。
僅かな近所の住人たちが公園のそばを行き来したが、誰も公園を見向きもしない。
猫は、またベンチを舐めていた。
もしかしたら、零れたビールなのかもしれないが。
勿論、誰一人、興味を持つことは無い。
――――――――――
警官の服装をした男が、公園を見回っている。
風がやや強く、草のニオイが強い。
風が強く、雲が早い。やがて、崩れてくるのかも知れない。
警官は、ベンチの猫に気が付いた。
「…野良猫か。でかいな。カラスも長く生きて、逞しいヤツ、頭の良いヤツが生き残るそうだが…猫はどうなのかな?」
警官は、キョロキョロ周囲を見渡す。
「死角が多いな。カメラでも付けりゃよいものを。無駄なとこばかり予算つけやがってな…」
警官は、公園を後にする。
巡回用の小さなパトカーに乗り、同乗者に首を振って何か伝えた。
――――――――――
夕方近く。少年は、ベンチに座って、猫の喉を撫でていた。
「…ひどいんだよ?僕の事ばかりバカにするんだ。」
「女子も一緒になってだよ?」
「僕が、ちょっと太ってるからさ。」
「…ちょっとじゃないけど。」
「先生まで、痩せろって笑って来るんだよ」
「簡単に痩せたら苦労しないよ。」
「何で、太ってるだけでさ、汚い扱いされんの?」
「なんで僕のプリント触るの嫌がるの?」
「僕、汚いの?」
「でもね、僕だって、プライド在るんだよ?男のプライドだよ、判るかな」
「バカにされたら、笑うんだよ。一緒になってね。」
「変?」
「…泣くより、いいじゃん…」
少年はすっと、涙を零す。
「ねえ、明日はいじめられない?」
「どう思う?猫?」
猫は、すっくと立ちあがって、少年を見ていた。
風が吹いた。
「しゅうちゃん、どうしたの、帰るわよー!」
どうやら、母親らしい女性が、少年に向けて声を掛けている。
少年は涙をジャージの袖で拭くと、大好きな母親に向かって駆け出した。
遠くで、小さく声が聞こえる。
どうしたの、またいじめられたの?ママがゆるす。やりかえしなさい。
そんなのできないよ。アンタはそ――――
声は小さくなって、聞こえなくなっていった。
猫は、座り直し、小さくあくびをした。
――――――――――
ベンチに、灰色の猫がいた。
横に、一匹の黒猫が来た。
世にも珍しい、緑がかった黒猫だ。色的にはカラスの方が似合いそうだ。
黒猫は、灰色猫の反対側、向かって左の端に飛び乗って、灰色猫を見ていた。
風が、少し吹いて来た。草のニオイが、して来た。
「この姿になると、普段見えないモノも見えることがある。」
黒猫は、独り言を始めた。
灰色猫が、黒猫を見た。
「普段感じない、ニオイとかな。」
「さびれた公園と言うのは、昼間であっても、寂しいものだな。」
「本来、人気がある筈なのに無いというか。不思議な空間にすら思える。」
「…ここいらで、随分、失踪する人間が多いらしいな…。」
風が少し、強くなってきた。
「ベンチの真ん中あたり、血の匂いが酷いな」
「お前が食ったのか、化け猫?」
「私も猫好きなので、オマエのような存在は迷惑だ。」
「近くの池があるな…骨はそこか?」
「それとも、骨ごと食ってるのか?」
灰色の猫が、ベンチの上で、黒猫を凝視している。
その顔が、みるみる巨大になって、体も、膨れ上がる。
灰色の、山猫だった。3mは有るだろうか。熊でも、襲いそうな迫力があった。
付近の空気を、圧倒的な獣の匂いで覆いつくした。
黒猫は、山猫を見上げた。
灰色の山猫は、何一つ、言葉を発することなく、黒猫に襲い掛かった。
一飲みにできる大きさの違いだから。
「<障壁>」
山猫の牙は黒猫の目の前で壁に阻まれる。
「山の悪神か。太古の呪いか。長く生き抜いた化身か。恨み持つ亡霊か。」
「その何れであろうとも。」
「滅べ。」
「光弾!光弾!光弾!光弾!光弾!」
光に撃ち抜かれた部分が空洞になってなお、山猫は体を歪め、風のように壁を掻い潜る。
黒猫に再び、襲い掛かる。
「衝撃波」
山猫を吹き飛ばす。
「火炎獄、竜巻」
山猫の絶叫が公園の静寂を破る。
「獣は火に弱い…か。」
ぐずぐずと、炎の竜巻の中で、溶け、燃え、灰になって行った。
だが最期まで、目だけは黒猫を睨みつけていた。
黒猫は、それが気に入らなかったらしい。
一瞬で、山猫の瞳の前にテレポートすると、フェイスアップの距離でその瞳を睨みつけた。
「諦めろ。オマエの呪いなど効かん。その程度の魔力ではお話にもならん。はは、ははははははは!我は神速の吟遊魔術師!魔王と呼ばれし者!」
山猫の瞳は、何かを絶叫し、消えて行った。
――――――――――
夕刻。少年が、ベンチにやって来た。
灰色の猫は居なかったが、美しい緑がかった黒猫が寝転がっていた。
少年は、キョロキョロあたりを見渡して、黒猫に告げた。
「ねえ、灰色猫さんの友達?ねえ、伝えてくれるかな…」
「僕ね、いじめっ子に殴りかかって喧嘩したんだ。」
「涙が出て止まらなかったけど、喧嘩したんだ」
「大問題になっちゃった。先生に止められた。明日、親子相談だって。」
「でもね」
「僕多分、悪いことしたんだけど。」
「…なんだろ、うまくいえないや」
「…強くなったきがするんだよ?」
黒猫は、何も言わず、少年を優しい目で見た。
少年が去り、公園はまた、静けさを取り戻す。
風が吹いて来た。
「…あの子が食われなかったのは何故だ?」
…まぁいい。猫は気まぐれなものだ。
そろそろ帰らないと芽唯流に怒られるしな。
黒猫は、不思議な呪文を唱えると、風と一緒に消えてしまった。
黒猫が去り、その公園には、本当に誰も居なくなった。
でも、誰かが、何かが居るような気配がする。
山猫でもない。黒猫でもない。邪でも正でもない。
――公園は、寂しくて、誰かに居てほしいのかもしれない。
―続く。




