第30話 「猫くんと動物園」
象の赤ちゃんが見たい! 芽唯流のおねだりで、初めて動物園にやって来た猫くん。
そこで出会う怪異は、雲。
ローファンタジーです。TRPG・RPG・リプレイ等お好きな方、ぜひ。
魔法使い、猫くん 第30話「猫くんと動物園」
動物園に連れてけ!
おねだりダンス炸裂。
だってTVで紹介されてたゾウの赤ちゃんが余りにカワイイんだもん。
見たい。目の前で見たい。会いたい。
猫くんはあまり惹かれないようだったけど、連れて行ってくれることになった。動物園の映像を捜し出して記憶し、飛ぼうとしているので、止めた。ゆっくり二人で出かけるときに魔法は野暮でしょ?
元々冒険者のカレがインドア派ということは無いんだけど、交通機関の利用が好きじゃない。
きっと<飛べるのに>と思うんだろう。きっと<瞬間移動できるのに>と思うんだろう。
でもホラ、一緒に景色を見ながら電車に揺られるのもいいんじゃない? まして、赤ちゃんは飛行に向かないんじゃない? この際、私の為に免許取ってよ! 車でドライブ行こうよ!
様々な観点からの攻めにより、猫くんは近日免許に挑戦することになった。
で、今日はJRとバスの乗り継ぎになるのだ。
今日は、猫くんは最初から人の姿。そんな毎回怪異現象に遭遇するわけではないし、2人で歩きたいしゾウさん見たいし。そんなワケで、今日は動物園。YES!
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3か月。わたしのお腹はまだそんなには目立たず、なんとなくウエストを締めすぎないようにしてるけど、傍目には気が付かないと思う。来月の結婚式では、もう少し目立っちゃうかもだけど大丈夫かなあドレス。
猫くんも、相当気遣ってくれてて、家でも私の為に色々してくれる。最近なんか料理までしちゃう。かなりワイルドな料理だけど。力仕事も。魔法使わなくても、猫くんは細い割にパワーあるんだよね。フツーにお姫様抱っことかできるんだよね。筋肉も意外とあるのね。破滅的に強い兄弟達に遊ばれたせいで、並の達人程度には剣を扱えるんだとか。見たことないけど…。ん?わたし、今何か変なこと言った?
さて、天気は曇り。降水確率30%。一応オシャレな傘持った。猫くんは手ぶら。コノ人、基本手ぶら。魔法の杖もない。魔法の指輪と自由に動かせる両手が全て武器。破壊的な武器。今日も、あまり目立たないように帽子だけ被ってる。
そんな猫くんと、他愛無い話をずーと続けながら、動物園の門をくぐる。門の入り口で、猫くんは、僅かな時間だけどものすごく真剣な、むしろ怒っているみたいな顔で入口近辺を凝視する。
わたし、何度か見ているので判っているけど、これ、記憶中。カメラの記録の様に。そ、テレポートの範囲がまた広がる事になるんだなぁ。次は飛んでくる気だよ。まったく。
動物園独特のちょっとしたニオイを感じながら、わたしたちはまず最初に目当てのゾウさんに向かう。入場制限がかかってたけど、まぁそんなに待たずに入れた。
あ、居た。赤ちゃんゾウさん居た!
か、か、か、かわいいいいい!! かわいー!! かっわいいー!!
鼻ほっそ!尻尾ほっそ!ちっちゃ! ママにぺったりで常に鼻をママに伸ばして触れてるの。あああ、カワイイー!! ママのお腹の下を何度もくぐって遊んでる! 近くのお姉さんゾウも鼻を伸ばして遊んでくれてる。 あー素敵 素敵な家族!
じっと、じっと見つめてた。葉っぱ食べてばっかりのママが、だんだんわたしに見えてきた。ぺったり離れない赤ちゃんゾウが、生まれてくる赤ちゃんに見えた。何だろう、少し涙が出て来て、ゾウさんにありがとう、って言いたくなってきた。赤ちゃんゾウさん、生まれて来て良かったね。生まれて来てくれて、ありがとうね。
猫くんが、わたしの手を握る。小さな声で、「大丈夫さ…芽唯流。」そう言った。
わたしはもう少し強く、猫くんの手を握り返した。
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ゾウだけ見て帰るわけにはいかない。
というか、次に寄ったのはグッズコーナーで、わたしは猫くんに赤ちゃんゾウのぬいぐるみをねだって買ってもらった。うう、ぬいぐるみでも<クウちゃん>カワイイ。
この後は色々見て回った。猫くんの反応が結構子供っぽくて可愛い。と同時に、驚きも色々。
虎を見た。「ふ~ん、長い牙が無いんだな。少し小さいし。」
それ、絶滅したサーベルタイガーでは?
オオカミを見た。「ああ、コイツはよく見るな。大きさは二回り大きいが。」
それ、ダイアウルフでは。
ライオンを見た。あまり反応が無かった。「こいつには駆け出しの頃に苦労させられた。」
…戦ったんだ。
ペンギンを見た。「え、なんだコイツは。可愛いな。鳥なのか。本当か!?」
ふふ、初めて見たんだ。
爬虫類館へ行った。アナコンダを見た。
「あぁ、南国の森ではよく見た。結構うまいんだ。」
…ノーコメント。
ワニを見た。「こいつらの皮は…」わたしは急いで猫くんの口を塞いだ。
なんだかんだ、こっちの生き物には猫くんの異世界には居ないものが結構居たようで、猫くんは珍しくはしゃいでいた。かわい。
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さて、動物園の中央に陣取るレストハウスに入った。二人で、動物園名物のケバブを注文して、ドリンクと一緒に外の景色を楽しみながら、ゆっくりした時間を楽しむ。
雨が降って来た。まぁ、もともと曇りだし驚くほどのこともないや、猫くん傘ないけど相合傘で帰ればいい。意外とフツーに振って来たので、目の前には水たまりが急速に広がっていった。雨も、こうしてみれば悪くない。少し小降りになって、水たまりに落ちる雨粒は、水面に当たって線香花火みたいに飛び散る。雨って、意外と綺麗だったんだ。 ね、猫くん。
とまぁ、静かで落ち着いた時間は此処まで。
「ねぇ、猫くん、雨、治まって来たけど…茶色くなってきたね…?」
「は?」猫くんはケバブに苦戦していたのでここで初めて外を見る。
雨が…茶色い。古びた水道管から最初に出て来る水みたい。
「ねえ、猫く…」
猫くんの表情は、戦う顔に変わっていた。でも、左手に持ってたケバブはちゃんと食べ続けていた。あのね、コレ、どっち。緊張する所!?笑うところ!?
猫くんが右手で、動物園の指示板を指さす。<猛獣館はこちら>って言う感じのライオンのイラスト付きの金属の案内板が、高さ3mくらいの棒の上についていた看板が、茶色く変色し、金属の棒も変色し、やがて、ボロボロに崩れて、茶色い砂の様になった。
外を歩いて傘をさしていた家族が悲鳴を上げてレストハウスに駆け込んでくる。
多少の想像を働かせながら、猫くんの横顔を見る。ジュース飲んでた。
あの、ちょっと。
「人には影響が無いようだな。そして、魔法でもない。しいて言えば、能力だな。コーモリが音波で障害物を見つけるように。」
「鉄を溶かす能力?」
「鉄だけとは限らないが…急速に錆びて崩れるようだな。さっきの家族の傘が無事と言うことは、アルミは興味ないんだろう。邪悪な意思もなく、魔法でもなく、ただ、金属を錆びさせる。仮に意思を持つ者の行為だとすると。」
「すると?」
「…食事…。」
空から、霧が降りて来た。かなり視界が悪いんだけど。霧は漂うというよりゆっくり動いてるみたいで…。
「まさか、この霧!?」
「多分な。錆びを食うんだろう。」
「人は?」
「危害を加える意思なし。眼中になし。無害だ。しかし、駐車場の車はどうかな。表面がプラスチックだとして。中はどうなのかな。」
「猫くん!動物の檻は!!」
「あぁ、考えてた。近くに猛獣館があったな…」
悲鳴があちこちから聞こえて来た。
「行ってくる。芽唯流。ここに居ろ。連絡はブローチから。サミー、芽唯流を守れ。」
わたしは、少し無理に笑顔を作る。
「行ってらっしゃい、パパ」
欧米の変身ヒーローの様に。扉から出た次の瞬間、彼の姿は消えて、代わりに羽の生えた緑がかった黒猫が空に舞う。
「猫くん…ライオンやトラに向かうのに、わざわざ猫になるのね¬…」
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さて、この姿であれば、私は魔法を使うことを最早ためらわない。
我は猫神。だれが呼んだか猫神!ネットで存在の議論別れる影の存在。
私の記憶では、爬虫類館は完全屋内なのでヘビ・ワニは出てこない。クマはコンクリの遠目に見るタイプ。鳥は檻だが、この霧の中では、しかも生命を感じる霧の中では飛び立たないのではなかろうか。やはり、猛獣館が最初のターゲットだろう。時刻2:00過ぎ。これまた記憶どおりなら、肉食獣たちのエサやりタイムが終わっているハズ。腹がいっぱいでむやみに人を襲わないことを祈る。
人々の悲鳴の中心に、ライオンが居た。堂々と練り歩く。流石王者の風格。
私は目の前に降り立った。そして、目で会話をする。
戻れ。
ライオンは、鼻で笑うように近づいてきたが、そのうち足を止めた。
そうだ。気が付いたか。私は猫ではない。この世界ではお前は保護すべき種だそうだが…戻れ。戻らなければ、攻撃する。人を襲うなら、殺す。私は、お前を瞬時に八つ裂きにできる。
私は集団テレパシーで、正確には集団シンパシーで、動物園中に意思を送った。
<檻から出たものは戻れ。戻れ。戻れ。戻らねば、ただでおかぬ。>
ライオンは、珍しい景色を楽しみたかっただけかもしれないが、渋々戻っていく。獣は強さを察する事に長けている。この能力が退化しているのは人ぐらいだと私は思っている。
…もどったところで、檻は溶けているのではないだろうか。あぁ、面倒なことだ!
「氷柱」「氷柱」「氷柱」飛び回りながら、氷の柱で檻を作る。半日は持つだろう。その間に何とかしろ!いや、何とかしてくれ!これ以上面倒を見させるな!
では、次だ。
空に、大きく呪文の焦点を合わせる。「吸引!」
下から上に強風が吹き、多少のゴミやら枯れ葉やらと共に、霧を集める。集まった霧は、ほわほわした、茶色い雲の様になった。
正直、お前のような生き物は知らん。初めて見る。初めて聞く。たかが300年。あちらの全てを知っているわけではないし、別世界と繋がった歪かも知れない。ただ、お前が溶かし食うのが金属で良かったと思う。まして、人の中の鉄分まで奪うわけでは無いようであることを幸運と思う。お前は、この世界の様に文明の発達した世界の生み出した化け物なのかも知れないな。
私は、魔法の目で空を見る。あぁ、あそこか。空の割れ目。私の故郷とは無関係のようだし、帰ってもらおうか。元気でな。この動物園の生き物たちが野生と比べ不幸とか幸せとか、私には判らないよ。だが、お前は帰るがいい。それが幸せか不幸かなど、お前が決めるがいい。
私は指先で、重力点を移動させる。歪へと。
じゃあな。<錆食い>。
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お帰り、猫くん。
ただいま、芽唯流。
わたし達がテレポートで帰ったあと、色々あったけど動物園はブジだったらしい。人々も。
ただ、バス、車、その他の鉄製品、鉄部品はサヨウナラで、可哀そうな限り。
獣たちは、なぜか檻が再び取り付けられた後も暫くは外に出たがらなかったそうで、猫くんの言葉は動物たちに伝わり過ぎるくらい伝わったみたい。
…夜。
わたしはカワイイ赤ちゃんゾウの写真を見ながら、猫くんに寄り添って、だらだらとニュースを見ていた。
<警察の発表によりますと、護送車から逃げ出し、動物園に潜んでいた犯罪者1名が何故か警察に出頭してきたとのことです。事件が公表される前にあっという間に犯人は戻ってきたわけですが、一体何があったのでしょう?犯人は大変に怯えていたとの事です。>
わたし達は顔を見合わて、ぷっと吹き出した。
どうやら、檻から出たのは獣だけでは無かったらしいね。




