第25話 「猫くんとミスリル」
緑猫の旅団、ついにミスリルゴーレムとの死闘開始!
召喚不能、創造に国家規模の予算が必要な、究極のゴーレムに猫くんが挑む。
ローファンタジーです。お時間ある方、TRPG・RPG好きな方、ぜひ。
魔法使い、猫くん 第25話「 猫くんとミスリル 」
「…さぁ、行こうか。<現代>に、我々<異界>の力を見せてやろう。
後ろに陣取った翼の生えた黒猫が、一気に仲間の力を引き上げる。
「鋭利」「鋭利」「鋭利」「増幅」「増幅」「増幅」「結界」「結界」「結界」「飛行」「飛行」「飛行」
リュカの爪、ユーバルスの剣、ファボルの弓が猫くんのブースト魔法で青く輝く。
「爆裂火球!」
直径20m、常軌を逸したファイヤーボールを頭上に溜め、青みがかった銀色のゴーレムに打ち込む。強烈な爆音と共に、公園の道路沿いに在った、お洒落なカフェの窓ガラスが吹き飛ぶ。
「今だ!行け!!」
ファポルは爆炎の中に佇む3mの銀巨人に目掛け、光る矢を打ち出した。渦を巻くような、空気をドリルの様に纏う、先端の見えない矢。
私には、あの爆発の中でゴーレムが無事なことの方がまず理解できないんだけど、とにもかくにも、こうして戦端は開かれた。
渦巻く剛弓の一撃を受けて、僅かに巨大なゴーレムが後ろにバランスを崩す。その隙をついて、リュカは一気にジャンプしてゴーレムの足元に屈み、飛びあがりながら光る爪で上に切り上げる。ガチッ、と確かに硬い音が響いた。
一歩遅れて、ユーバルス。二刀を同方向から渾身の力で横に薙ぐ。和太鼓を叩いたような音が響いた。
確かに、3連撃が決まったと思う…。
そして、何事も無かったかのように体制を立て直したゴーレムは、両腕に白いエネルギーの光を溜める。両手から、ユーバルスとリュカに一発ずつ、太い光線が飛んできた。
巨人の攻撃方法はビームかい!?
リュカは撥ねるように、ユーバルスは転がりながらギリギリで躱す。
「退け!」
言葉と同時に猫くんから無数の「光弾」がゴーレムに打ち込まれる。
「猫団長!まだやれる!」「一撃で下がるなんて腹立つニャ!」
「退け!!無事なうちだからこそ退け!!」
再び、ゴーレムが光を溜めた。両の掌を組み、さっきより遥かに大きい光が、ユーバルスを狙った。
「まずい!」
猫くんがそう叫んだのを聞いた。ただ、次の瞬間は私には見えなくて。ふと見たら、猫くんの足元に、戦っていた3人が転がってた。
ユーバルスの居たあたりには、大きな光線が襲い、アスファルトを溶かしていた。
「な、なにが起きた!?」
背中の羽を揺らしながら、猫くんが珍しく息を切らせながら答える。
「究極魔法の一つ。<時間停止>で移動させた。何度も使えんぞ。」
「す、すまん」
「我々には、回復魔法が無いんだ。リュカの治癒能力しかないんだ。腕を失えば生えない。私が普段それなりの金額で仕事を受けるのはそのリスクを負っているからだ。」
「そうだったな、すまん、熱くなった。」
「いいさ、気にするな。一度引いてくれ。そこにテレポートシンボルを引く。」
猫くんが指さしたあたりに白く光る魔方陣。
「アンタは?猫団長?」
「奴の攻撃は魔力の光だ。魔法と判った以上、私にはそうそう効きはしないよ。」
言った先から、光線が飛んできた。
「障壁」
猫くんのバリアはゴーレムの光線を完全に止めた。
「判った。アンタも無理しないでくれ。指示を待つ!」
「死ぬにゃよ、メイフィールド」
3人は、魔方陣に入った。きっと、安全な場所に着いただろう。
ゴーレムは、続けて2発、両手からのビームを撃つと、人間の様に首を傾げ、やがて新しい指示が出たかのように、カツカツ、意外と高い音を立てながら、猫くんに向かって走り出した。
「そうだ、気が付いたかゴーレム。私の魔力の方が上なことに。来るがいい!」
緑の黒猫が叫ぶ。そしてその後、小さく呟いた。
「ま、こちらの魔法も大半効かないわけだがな…。」
「ちょっと、そんなら何で逃げないのよ!?」
わたしは猫の片目に取り付けられたゴーグル…モニターのような魔法アイテムを通じて、猫くんに呼びかける。
わたしは、今回現場には行かなかった。行けなかった。わたしが素直に家で待ってることを、むしろ猫くんは不思議がっていた。テキトーに胡麻化した。
「芽唯流。力を借りるぞ。手筈通り、私を誘導してくれ。」
「うん、頑張る!」
わたしは机の2台のパソコンを操りながら、左目は猫くんと同じような黒いゴーグルを付け、視点を共有して答える。
ゴーレムが落ちて来た海岸線に向かいながら、わたしが考えた倒し方を1つ、実践可能な場所へ誘導する!
「作戦<T>、リサイクル工場!」
有名な映画でやってたみたいに、車を潰すプレス機で潰しちゃえ作戦!
現代の機械のパワーなら、きっと映画みたく大ダメージを与えられる!
猫くんは翼で飛びながらゴーレムを誘導する。いかに相手が走っているとはいえ、飛ぶ方が早いに決まってる。でもやっぱ走ってるわけで、猫くんが止まるとすぐ視界に見えてくる。ゴーレムの癖にずるい。走るなんてズルい。
――――――――――
さて、このあたりでは有名なリサイクル工場にやってきた。鉄くずを積み上げる為の巨大な磁石のクレーンが見える。
「猫くん、アレ、作戦外だけど。使えないかな!?巨大磁石のクレーン。」
「ふーむ。動きを止めることは出来るかもしれんな。試すか。」
「操縦できる?」
「いや、無理だな。無理なので、自分で動いてもらおう。<疑似生命付与!>」
巨大なクレーン車に、ぎょろりと眼が付いた。きもかわ。
「アイツが近づいたら最大級の磁力で捕らえろ!」
クレーン車は動きを止め、ゴーレムを待った。
工場の外壁を突き破って、ゴーレムが猫くんに向け再び走り出した。猫くんはクレーン車の軌道範囲に身を寄せ、おびき寄せる。光弾を撃ちまくったのはきっと目くらましなんだろう。
ゴーレムがクレーンの近くに来た!
「行け!」
上から落下してきた巨大な磁石の<皿>。ゴーレムは左手で受け止め、ただ振り払った。
「アレ?」
再びの突進を、猫くんは宙に浮いて慌てて距離を取った。
「効かないな。ミスリルに磁石は効かないらしい。そもそも、銀に磁石はついたかどうか…。」
「ご、ゴメン、作戦2だよ!プレス機が中にあるはず!」
「プレス機のパワーが凄まじいのは前にTVで見たが…どうやって誘い込むかね…」
「そりゃ猫くんが囮に…。」
「お前時々酷いな!」
「だって猫くんは無敵だもん…」
「…そう言われては張り切るしかないな…光弾!」
猫くんは工場の壁をぶち抜いて中へ。すぐ後ろから、何かが壁を破壊する音だけ聞こえて来た。
「あれか…<疑似生命付与>、プレス機よ、奴が入ったら最高圧力で潰せ!」
猫くん自身、プレス機に乗ってゴーレムを待った。
ゴーレムは、もう猫くんに対してはまるでビームを撃ってこない。AIみたいに学習しているらしい。それってとても怖ろしいことなんじゃ…。
宙に浮く猫くんに何の迷いもなく迫りくる。ゴーレム。
ゴーレムはプレス機の台にあがり、左手を振りかぶってイタイケな猫にパンチを撃ってきた。
次の瞬間はまた、見えなかった。でも猫くんと共有する私の目には、ゴーレムの後姿。きっともう一度<究極魔法の一つ>使ったんだろう。時間停止。何秒、猫くんは稼いだのか。
ゴーレムの左手は深々と壁に突き刺さっていた。
「プレス機起動!」
上から威圧的な音を立てて、大きな鋼鉄の塊が降りてくる。腕を壁に刺していたゴーレムは、そのまま上からの圧力に体制を崩し始めた。糸の切れた人形みたいに床に突っ伏す。見たかぁ~これが科学の力だあ……。
………潰れない。
確かに、パワーで伏せた。でも、挟んでそれ以上は、潰れない。
ゴーレムの両手が光を溜め始めた。
「退くぞ。作戦<T>失敗だ。」
「ゴメン…わたし…役立ってない。猫くんを危険にしただけ…。」
「何を言っている。」
猫くんは再び翼を広げ、爆発する工場から抜け出す。
「芽唯流、海岸までの距離は?」
「ん、10km位…。ごめんね…。」
「謝るな。お前と一緒に戦っているみたいで楽しかった。」
「楽しかった?」
猫くんは安全な高さまで上がると、ゴーレムに付いて来いと言わんばかりに空を旋回し、海に向かって一直線に飛び始める。
「お前のアイデア、参考になったし、面白かった。他の相手なら十分倒せた作戦だった。現代の力、科学の力。実に面白いな。」
「うん…。」
「だから、次もまたお前のアイデアを聞こう。頼りにしている。芽唯流?」
「うん、ありがと…猫くん。この後は、どうするの?」
猫くんは、すぐには答えず、河口近くの海岸で一度、いつか見た<フロート>の円盤を…あの時よりとても巨大な円盤を海岸に敷き詰めると、浜から200mくらいの海上に移動してゴーレムを待った。
私は心配になってもう一度、聞く。
「どうやって倒すの?」
ゴーレムが海岸に姿を現す。実にしつこい。砂に足を取られながらも、駆け寄ってくる。海まで入るつもりなんだろうか!?
「心配そうな声を出すな。その目で見ていろ。私の本気の魔力。」
「猫くん…頑張って…!」
「そうだ。そう言ってくれるだけでいい。お前が見ているんだから、格好つけなきゃな、芽唯流。」
あ…そういうことね…だから楽しかった、なんだね?
あははー自信持っちゃおうかな。図に乗っちゃおうかな。あははー。
「猫くん、わたしね……」
わたしが居ることが、本当に猫くんの支えになるなら、今、言っても良いのかな…。
「何だ?芽唯流?」
「……ん、何でもない。カッコいいとこ、見せて。”わたし達”、猫くんを見てるから…。頑張って!」
ゴーレムが、海岸線の<フロート>の上に乗った。
「始原の星々の間を彷徨う 無数の流星よ 我が意に答えよ 天空より飛来し 我が敵を打ち倒せ 破砕せよ 燃やし尽くせ…」
わたし、猫くんが時間をかけ詠唱するのを初めて聞いた。
「メテオ…招来!」
虚空に湧き出た、巨大で赤い、赤い、赤く燃える隕石! ゲームに聞く最強呪文!!
ゴーレムは、上を見て、両手から太いビームを放つ。放ち続けて…
…隕石に巻き込まれていった。
「防護円」「障壁」「対炎」
猫くんは自分に防御魔法をかけた。隕石の圧倒的な爆裂が、黒煙が、破片が、猫くんに押し寄せる。勿論、黒猫は平然とその光景を眺めていた。
あぁ、フロートはゴーレムのダメージを砂に逃がさないためか…。海岸を選んだのも被害を最小限にする為か…。でも、爆炎はすぐには収まらなかった。周囲を溶かし続け、破壊しつくした。地域は完全に封鎖されている訳だけれど。人が居ないことが救いだけど…。
わたしの眼前の光景は、普通に考えたら、ただの悪夢だった。暴力と、破壊の象徴だった。
猫くん。カッコいいけど。流石にこれはちょっと引いちゃうなぁ…。一人でミサイルみたいな破壊力を生じさせる魔法を自在に操るって…。
<…それって、人間なのかな…>
首を振る、今のはナシ。ゴメン、猫くん…。
猫くんは海岸線へ飛び、<テレキネシス>で、千切れ、溶けて固まった青い金属の塊を集めた。そういや、ミスリルは超レアな魔法素材って言ってたっけ。
黒猫は高らかに笑った。勝ち誇り、笑った。
その勝利の笑いは、きっとわたしだけに聞こえていた笑いは、大災害をもたらしかねない驚異のゴーレムを打ち倒した英雄とはとても思えないような…。
別に、下品だったわけじゃないよ。ただ単に、大好きな人が少し、<怖かった>だけ。
まるで、魔王の笑い声を聞いているような、血が徐々に凍るような、怖さ。
でもね。でもね。わたし、知ってるんだ。もっと怖い事、知ってるんだ。
…それはね、わたしも今、一緒に微笑んでいること。
これは狂気なのかもしれない。正しくないのかもしれない。でも。その怖ろしい破壊魔法を引き起こした彼を、やはりどこかで誇らしく思える自分が居る。
―――あたしは愛してしまった、この残酷で凶悪な化け物を―――
誰かの言葉を思い出す。
そう、わたしは愛してしまった、この怖ろしい破壊の王を。
離れがたいほどに。一緒にこんな罪を重ねる事さえ、愛しく思えるほどに。
…あの頃より、深く。




