第24話 「猫くんと魔神」
猫くんが芽唯流に語る、<異世界>での最後の敵。ついに、異界の敵と現世の敵が、繋がる。
ローファンタジーです。お時間のある方、TRPG・RPG好きな方ぜひ…。
魔法使い、猫くん 第24話「 猫くんと魔神 」
<黒炎の魔神>
それが、私が長く戦った魔神の名前だ。本当の名は…別にあったのかも知れない。
黒い岩で出来た巨大な4本腕のサルを想像してくれるか。顔は鳥の様になっている。動くたびに外殻の一部が割れるが、そこから黒い炎が噴き出し、暫くするとまた黒い岩に塞がれている。
まるで自傷行為の様な移動を繰り返しながら、炎で全てを焼き尽くし、巨大な体躯で全て踏みつぶす。奴は人類全体を滅ぼすまでせず、大陸1つ程を滅ぼすと、まるで次の獲物が生まれるまで待つがごとく、何処かへ姿を消す。山と同化し、身体に木を生やし、自然の一部となり千年過ごすという。
かの古代魔法王国が滅んだ元凶とも聞く。
不幸の極み。その魔神が私の国がある大陸に眠っているらしいことが判った時から、各国の勇士たちと手を結び、終わらない戦いを始めた。
千年に一度と言われる目覚めを察知し、かの魔神を目覚めさせんとする魔物やデーモン、アンデッド。簡単に言えば暗躍する幾多の邪悪を倒し続けてきた。
最期の戦いは最早、戦争だったな。
魔物の群れ。群れ。群れ。
何千居たのか。万居たのか。判らない。
戦いに加わった、我が兄弟の子孫たちは強大な力を持っていた。
<ム=ラ>の子孫<アジ=メ>は、巨大な魔剣を振るう2mを超える巨漢。魔剣の一薙ぎで百の魔物を切り裂く。本当だ。
<トラス>の子孫<マルティア>は強大な精霊王を使役する。彼女が居なければ黒炎の魔神のに挑むことすら難しい。イフリートの加護無くして、皆が炎から身を守ることは出来ないだろう。
<チャル>の子孫<ブラウ>は瞬間蘇生が使える程に神に愛された大神官だ。
<シオン>の子孫<マーシャ>は陰から一撃で敵を葬る暗殺の達人。後方の敵魔術師達にとって最大の脅威になる。
彼ら4人。兄弟の子孫にして、現在の私が心許す、数少ない友。
私の子孫は…。
子孫の中でただ一人、私に劣らぬ才能を持つ若者<アリエス>。私の<魔術の塔>を継ぐもの。
アイツには、別な戦いを任せた。言っておくがアイツを保護するため連れてこなかった訳ではない。この戦いには他の子孫は参加している…子孫と判っている者の一部だが。
300年も経っていれば、最早樹形図は不明でね…。
魔神に着き従う魔物の軍勢。
相対する、善なる魂の軍。
様々な文化に善と悪の巨大な戦争が描かれているが、まさにそういう戦いであったと思う。
私達は当初、魔物の軍に向かったが、くさびを打ち込み突破口を開いた後は、魔物の軍との戦いは軍に任せ、手筈通り黒炎の魔神に向かった。
4人の強大な精神力と、<魔術の塔>配下、数百の魔術師達の祈り。
それが描き出す魔方陣は、私に神の頂に近い魔力を与えた。
― 禁忌の魔術、次元断刀陣 -
山のような巨人
立ち上がれば、2000mはある。
魔法の武器?攻撃魔法?
一部壊したとて何になろう。しかも、すぐに岩が再生していく。
唯一の救いは、魔神が神々に属する魔であろうにも関わらず、何故か一切<魔法を使ってこない>ことだ。
だから、私は魔神の目の前で、力ある限り叫んだのだ。
準備ができたおり、全ての仲間たちに撤退の指示を集団テレパシーで送った。
<神速の吟遊魔術師メイフィールドより、心からの感謝を。これより、禁忌次元断刀陣を唱える!近くにいるものは永遠にこの世界を離れることになるだろう。その役目は私、レテネージ・メイフィールドが担う。さらばだ。この世界を任せたぞ、友よ! 子供達よ!>
魔神は初めて、言葉を発した。
大きなものをずりすり引きずるような、黒くて重い声だった。恐怖を知らぬ私の魂に…不気味な重さを、吐き気のするような重圧を与える…声。
「ご苦労なことだ。そして、無駄なことだ。蟻共よ。」
その一言は、私の怒りに炎を灯す。
「魔神よ!私と共に、次元を彷徨え!バラバラに砕けた後に!」
「禁忌 -次元断刀陣-!!」
魔神の足元に居る魔物の軍、その何割かを巻き込む、直径2000mを超える光の<網目>の陣!
その陣を、叩きつける!
空間ごと切り裂く最後の大魔法!
切れないものは、無い!!
この世界の空間を、次元を切り裂くのだ!呪文の後にいかような大異変が起きようと何一つ不思議はない。そんなものを修復するのには、同じく強大な魔力が、力が必要だ!
…頼んだよ、アリエス・メイフィールド。私とディムの血をひくものよ。私の残す古代魔法の秘儀、お前なら何時か扱えるだろう。
数千の魔物の断末魔。
そして巨大な巌の魔神がバラバラに寸断される。
「お、おぉ…我を殺したか。砕いたか。」バラバラの瓦礫になりながら、魔神の声が聞こえる。
「想像を超えた力だ。賞賛に値する。数万年。お前のような者は居なかった、」
私は魔神の欠片と共に、割れガラスの様に散り広がる、次元の割れ目に吸い込まれていく。
「では、いずれ何処かで生まれ変わり、蘇ろう」
これは、次元の境目に居る私だけが見た光景。
「ご褒美だ、蟻よ。見せてやろう、我が真の姿。何故、全てが無駄なのか。何故我は死を知らぬのか。理解せよ…」
砕けた岩は、散り散りに離れていく前に、一瞬姿を変えた。
黒い、<炎>だった。
それは、偉大なる鳥の形をしていた。
「黒い…フェニックス!? 何故、善なる神、不死鳥が黒い!?」
炎に見えたそれは再び黒い岩に戻り、幻覚だったのか真実なのかはわからない。
次元の狭間の中で、急速に意識を失っていく。
「我を一時、殺した。その栄光を胸に、消えゆけ。魔術師よ。お前は忘れ得ぬ…。」
まずい…意識が…どのような世界に落ちるかも判らんのに…
「…適…応…呪…」
この一言がやっとだった。
―――どれくらい、時間が過ぎたのか。
凍るような寒さで目が覚めた。河原だった。膝から下は川の水に浸っている。
ここがどこの世界かは知らないが。私はまだ死んでいないらしい。
…ならば、生きる努力をするか。
――――――――――
――もう、1年も前になるのか。
「…芽唯流、お前に出会う、ほんの少し前のことだ」
「頑張ったんだね。いい子。なでなで。」
…おいおい。
「で、だから公園のベンチで行き場なく死んだ目をしていたんね?」
「お前、最近ヒドいな!」
「その後、猫に変身してわたしに出会ったんだね。超ラッキーだね!」
…自己評価高いな、芽唯流。
「ふふふー、シャワー浴びてくる~」
タオルで体を隠しながら、ふらふらと部屋を出ようとする芽唯流。
扉の前で、ふと何か思いついたように、足を止める。
わざわざこちらを振り返り、私の視線を確認してから、足元にタオルをポトリと落とした。
「きゃー(棒)」
恥ずかしいーのポーズをちゃんと可愛らしく決めてから、慌ててタオルを拾い、パタパタとバスルームへ駆けていく。
…ご家族の皆様、この子はかなりアホの子です。
拙い誘惑?に十分に敗北してしまった私は、すぐに浴室の扉をノックする。
シャワーの音で何といったか判らないが、変態とかバカとか言われた気がする。
――――――――――
―――国防軍 首都防衛隊 基地内部。
「…それで、これが四国の海岸線に浮き上がった魔方陣な訳だな。」
今はもう「猫神」と通称が固定されてしまった私のビジネス姿。黒猫の姿。
「そうだ、ここから出て来たものの映像を見てほしい。」
魔方陣が繰り返し雷を放つと、ゆっくりと足先から…青みがかった銀色のゴーレムが出て来る。その腕に大きな黒い巌を抱えて…。
私は頭を抱え、狼狽した。
「何を…持ってきた!その黒い岩は…!?」
馬鹿な!そんな筈が!馬鹿な!?
まさか、今までの魔方陣も、同じくアレを持ってきていた!?
だとしたら、だとしたら!
黒炎の魔神はこの世界で復活するのか!!
「うああああああああー!!」
「ね、猫神どの!?あのロボットの様なモノはそれほどまでに怖ろしいのか!?」
違う、確かに会いたくない強敵だが、違う。
まだ決まった訳ではない…。落ち着け、レテネージ・メイフィールドよ。
映像の黒い巌は、ゴーレムの腕の中にあるうちに黒い砂の様に、或いは炎の様に風に乗り、消えていった。
落ち着け。仮に、予想が当たったとしても、千に切り刻んだ体が集まるはず。
そう簡単ではない。数年、数十年。数百年必要かも知れない。
…集まりが小さいうちならば、戦う術もある。探し出すことができれば!
芽唯流の居るこの世界を…芽唯流を失うのは…嫌だ!
戦おう。本当の戦いを始めよう。
まずは、あのゴーレムを潰してからだ。恐らく、ミスリル・ゴーレム。
魔術師の天敵。何故なら、大半の魔法が効かないから。
ゴーレムは、全身が魔方陣から出たところで、無様に地上に落下していった。
だが、政府の男たちは笑わない。私も笑いはしない。この後のことは想像がつく。
…どうせ、何事も無かったように、立ち上がって活動を開始したんだろう。
続く―――




