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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第23話 「 猫くんの涙 」

芽唯流が見た夢は、”あちらの世界で”猫くんと過ごしていた、ある女性の夢。


ローファンタジーです。お時間のある方、TRPG・RPG好きな方ぜひ。

第23話 「 猫くんの涙 」



 あぁ、これは夢だな。


あまりそういうの見ないんだけど。これは夢だな。



 夢の中のわたしは、或いはわたしの役は、ほんの少し色黒の、自分?でいうのも何だけど、かなりの美人で、リュカに少し似たグラマラスな女性。わたしより1つ年下。


その日は週末で、あの人の所へ今週の情報を届けに行くところ。裏路地にある宿屋の一室から、隠し扉を通じて地下へ降りる。


そんな所へ女一人で向かって大丈夫かと言うと、大丈夫。途中ですれ違った男たちはわたしを目で追うけど、それだけ。決して乱暴な言動は無い。



 だって、あたしは盗賊ギルドの若きギルドマスター…の実の妹であり、同時に、その最大の後援者である「魔王」と呼ばれる男のオンナであるのだから。



 地下の細い通路に入る。脇に居る男に毛皮のコートを投げ渡し、掛けておくようにジェスチャーする。


コートの下は、かなり…露出度が高い。胸元を強調するようにデザインされた黒革の胸当て、黒革のホットパンツみたいな腰の皮鎧、布と革のブーツ。静かに揺れる、アイツからもらった銀のイヤリング。


目線を引くような足の運びで、突き当りの大扉の前に立つ。2人の番兵があたしの肢体を目で追う。2人に席を外すようにジェスチャーすると、男たちはこの後の展開を勝手に妄想しニャニヤしながら消えていく。


本当は、男にそんな目で見られるのは大嫌い。でも、あたしに与えられた役割は、兄貴に劣らぬ強さと、男たちをくぎ付けにする妖艶さを持った山猫のような女、だ。


勝手に想像していればいいさ。実際、この後そうなるんだから。



 扉を開け、大きな広間にでる。ここは「謁見の間」。実際は大きな執務室なんだけど、そう呼ばれている。あたしは妖艶に歩みを進めながら、勝ち誇った微笑みを浮かべる。きっと、あたしは今、綺麗だ。少なくとも今、ここでは。誰よりも。


玉座のような大きな革張りの椅子に掛けるアイツは、大きな机の上の水晶や地図を指先を鳴らして消し去り、代わりにワインとグラスを魔法で実体化させる。


あたしは待ちきれなくて駆け出す。


「…会いたかった!」


「5日しか経っていないが。」


「女心汲み取る努力してよ。」


あたしは玉座に座る彼の膝の上に腰掛けて、腕を首に回す。


「情報は…?」


「―――て言ったら、教えてあげる。」


「――――――…」



外の連中が聞き耳立てていようが何だろうが、知ったこっちゃない。聞きたい奴は聞いてればいいよ。


――――――――――


―――あたしがこの魔王のオンナになったのは、もう1年も前になるだろうか。


 兄貴がギルドマスターになったきっかけでもあるんだけど、裏切った連中に嵌められて、あたしは20人近くの盗賊たちに、手勢僅か3人で立ち向かう羽目になった。得意のショートソードを振り回し応戦したけど、部下たちはあっという間に切り伏せられ、あたしだけになった。


そんなとき、連中がどんなことを考えるか、わかるよね?


言うなりになるか、死ぬか。震えるショートソードを掴んで、死を選ぼうかと思ったときに、空からアイツは降りて来た。



「味方だ。アッシュの妹。共に戦う勇気があるなら、もう一度剣を構えろ。どうする?」


オンナのナリして街を歩けば大層受けそうな、ナヨナヨした可愛い顔つき。その癖に随分鋭い目つきをした男…が偉そうにそう言った。


あたしは涙を払って剣を構えた。「やってやる、言いなりになんかなるもんか!」


「ほう、気に入った、小娘。」


剣を上段に構え、無謀に突撃しようとしたとき、さっきの生意気な若者から呪文が放たれた。「”マス・ワイアード”…全範囲拘束!」


周囲の男たち全員の動きが止まった。男たちには青白いワイヤーのようなものが巻き付き、動きかけていたものは既にワイヤーで切り裂かれバラバラになった。



アイツは近くの岩に腰を下ろし、いつの間にか手にしたリュートを優雅に奏で始めた。


「呪いの旋律、<死の舞踏>」


呪いの演奏と言われる、魔訶の術。コイツ、なんて怖ろしいことを…!?

動けば細切れにされる光のワイヤーで包んだ男たちに、魔法で強制的に踊りを踊らせ始めた!


悲鳴と断末魔の叫びが幾重にも重なる。まるで最悪に汚いコーラスの様に。



「あたしが切りかかる意味あった?凶悪な魔術師さん。それとも魔訶使い?」


「生意気そうな小娘の勇気がどれほどか、試してみたくなっただけだ。ちょっと意地悪だったかな?」


「酷いなぁ、あたしがどんな気持ちで今、酷いなぁ…。」


安心したら涙が出てきた。


不覚にもソイツの胸で泣いてしまった。


あたしが泣き始めてからは、一度も馬鹿にするような態度は取らなかった。優しく、頭を撫でられた。



 ソイツが、兄貴と盟約を結んだ男で、不老不死の<魔王>と言われる王国の守護者、<魔術師の塔>のアークマスターにして、唯一の古代魔法継承者。建国の王、レテネージ・メイフィールドであると知ったのはこの日の夜。


兄貴は盗賊だけど一流の剣士でもあり、盗みはしても決して弱きものを殺しはせず、女に手を出さず、人買いを嫌っている。


どっかの冒険で共闘した魔王が兄貴をギルドマスターに推したのは、兄貴のそんな所を気に入ったからだ。アイツは、盗賊団の規律を兄貴に任せたんだ。


大好きな兄貴。貧しくてもあたしを育ててくれた兄貴。悪いやつの中に居てもあたしには指一本触れさせなかった兄貴。大好き。



兄貴が大事に守ってくれたあたしだけど、あたしは自分から魔王に近づいて行った。


ごめんね。


あたしは、愛してしまった。この残酷で凶悪な化け物を。魔王と怖れられる、大陸最強の魔術師を。


このアミル・カーナともあろうものが。


――――――――――


 盗賊ギルドの奥深くに居を構えた魔王は、魔術の塔と、ギルドの執務室を行き来するようになった。


そして、そこに、あたしは通うようになった。ほぼ、通い妻だね。ギルドのメンバーには公然の秘密。兄貴も黙認。


だから、その日が来るのも早かった。



―――ねえ、レーテ。


あたしさぁ、コドモできたみたいなんだけど。

あたしはアイツの反応をみた。


優しい顔で、「週末、教会で式を挙げよう」アイツはそう言った。お前を私の妻に迎えるよ。いや、迎えさせてくれ。私と共に永遠を。お前のその美しさを永遠のものにして、共に生きよう…とも言った。


なんてね、焦った?まだだよ~。でもそのうち本当になるかもね。嬉しい。本気で答えてくれて嬉しい。



―――あたしは、この日を最後に、アイツの前から姿を消すことにした。


手紙を一通置いて。イヤリングだけは返さなかった。


「ごめんね、アンタみたいに毎日命のやり取りをする何て、あたしにはそんな生活ムリだよ。もっと落ち着いたところで生きるよ。愛してたけど、バイバイ。記念にイヤリングだけ貰うよ。追伸、アンタはフラれたんだから、女々しくアタシを探さないように。いつもみたいに、超然としてて。これが最後のお願い。」



あたしは、兄貴にも別れを告げ、遠い町に移った。

兄貴には散々怒られたけど、最期には分かってくれた。


”その街”は王国騎士団の訓練場があるため非常に落ち着いていて、治安が良かった。

勿論、「うちのギルド」の勢力圏内でもあるので、そっちの心配もいらない。兄貴のツテのある料理屋で、料理を学びながら…



あたしは、男の子を一人、生んだ。



――――――――――


 それから一生懸命に働いた。美貌を活かして店の看板に、なんて言われて嬉しくもあったけど、固辞した。あたしは、その後出会った男たちの求婚もすべて断った。


やがて、息子は大きくなった。


兄貴に教わった剣技を、今度は息子に伝えた。才能が有ったのかな?えへん、うちの子はやがて騎士になったよ。


お前の父親のことは、いつかお前が王国の為に戦える一人前の男になったら教えてあげる。それまで、お前には父親は居ない。許してね。素敵な人だから、ママを信じて耐えて…。


ずっとそう言ってきた。このことだけが、あたしの後悔であり、悲しみ。



 息子が一人立ちして、騎士として王に剣をささげる儀式の日。王の前に我が子を含む新兵の騎士たちが整然と並んでいたとき。王の近くに座っていた1人の壮年の男性が、息子に近づいて、手を取った。そして、優しく息子の頬に手を当てた。


あの子は、その時に全て悟ったらしい。自分の父親が、愛を伝えてくれたことを。その人物は、王のすぐ近くに座われる立場の人間であることを。


…あたしが、正妻ではないことを。



―――あの子は、やがて中隊長を任させるほどになった。あたしはその母として、それなりに裕福な生活を送れるようになった。19で生んだ子だもの、死期の近づいたあたしは歳を取ったし、あの子ももう、軍の重鎮になっていた。ひ孫まで居るんだよ。あは、最高じゃない?



…そう、あたしは、もうすぐ永遠に眠る。


眠り続ける日が多くなって、自分でも、もうそろそろだなあと思ってた日。


孫やひ孫たちが次々に会いに来てくれた幸せな日。


「もうそろそろ、部屋を出るよ。おばあちゃんを静かに寝かせてあげよう?」


そんな誰かの言葉の後、静かになった部屋に、一人の老いた男性が風の様に現れた。薄暗い部屋の中で、男性はあたしの手を取った。



「…来ないでって言ったのに、レーテ…」


今はもうかすれた声であたしは言う。


「でも来ちゃったなら、仕方ないか。最後に、本当の姿見せてよ。」


男は、光に包まれると美しい若者に姿を変える。


ふふ、あの頃のまま。綺麗で、冷たい色の中にある優しい目。


レーテは涙をぼろぼろ零しながら、


「アミル、今からでも、私と…私と…」


あたしは、震える人差し指でレーテの唇を止めた。


「アナタのおかげであたしの夢は全部叶ったよ。身寄りのない兄妹だったあたしには、こうやって家族を作るのが夢だった。ありがとうレーテ。」


「ちがう、私は、私はお前に何も…何も!」


「…今もまだ、戦っているんでしょう?世界中を守るために。いつか、貴方にも安らぎの日が来ますように。あぁ、でもあたしと結婚できなかったことは後悔しても良いよ?あたしほど綺麗な女は100年に一度くらいじゃないと会えないんだからね。」



深く、息を吸う。


「…もし、もし1つだけやり直せるなら…言えなかった言葉をあなたに伝えてみたら、違ったかな…ふふ、無理かな…ねえ、レーテ、あの時…」


…………


わたしは、息を引き取ったらしい。


…引き裂かれるような、猫くんの慟哭だけが聞こえる。


泣かないで、泣かないで、猫くん泣かないで。



目を覚ます。


自分の目からぼろぼろ涙がこぼれているのが判る。


目の前に、猫くんの寝顔があって安心する。


でも、猫くんはこう言って、一筋涙を零した。


「…なぜ、何故置いていく…私と、い、一緒に……」



泣かないで。


「わたしは、ここに居るよ、猫くん。」


それとも、


あたしはここに居るよ、レーテ。


そう言えば良かったのかな。



猫くんは、子供みたいに涙を流したまま、わたしの手を握って、寝息を立てた。



夢、か…。

夢なんかじゃない。


猫くんの魔力のせい?

猫くん、テレパシーでも使った? いや違う、だってアミルの目線だもん。


私に、何か伝えたかったの? アミル?



私は、ベッドから降りて、裸のまま居間へ歩いた。


カーテンの隙間から少し夜景を見る。



不思議と、嫉妬心が湧かない。わたし以外の人と抱き合ってたのに。



まさか、わたし、生まれ変わりとか?

…もしかして、ね。


同じくらい愛してた人だから?

…そうかもね。


夢の中ではわたし自身だったから…?かもね。



ねえアミル、最期に言おうとしてた言葉、わたし言う自信ないな。

言えないかも。今のわたしには。



でも、わたしはそれとは別に、猫くんに言わなきゃいけない言葉がある。

…明日、言おうか。いや、もっとハッキリしてから猫くんに言おうか。いつ言おうか…?


猫くんは何て言うだろう。



「わたし、赤ちゃんができちゃったかも知れない」


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