第22話 「 猫くんと恐怖の館 」
ついに芽唯流の家族に認められた猫くん、次に目指すのは、”冒険者の酒場”設立。
ローファンタジー、第22話です。猫くんVS恐怖の邪霊。
お時間のある方、TRPG・RPG好きな方是非。今回は明るいホラー。
第22話 「 猫くんと恐怖の館 」
元々はカレー屋さんだったらしい。
駐車場完備。座席はカウンター12席、4人掛けのテーブルが6。まぁまぁでしょ?
厨房にはお酒が並んでいる。主に洋酒。何と24時間営業。ここはPUBでありINNである。
最近、営業を開始した「緑猫の旅団」というお店。
内装がアンティークで、オークの淡い茶色と黒革と鋲の銀で整った、なかなかお洒落な店構え。猫くんのセンスはもちろん好き。(贔屓目あり)
店内から厨房を向いて左側には厨房とお手洗いへつながる通路。右側には「ビジネスの御用の向きはこちらへ」と会員制の通路がある。なんかイカガワシイ。
2Fは独立した小部屋が6つ。住み込みの店員と客間、公共のバス。トイレ。ランドリー。この辺の配置はきっと女子寮を参考にしたんだよ。うん。
こ こは、「冒険者の酒場」。現代に合わせて作られた「冒険者の酒場」
まだまだ人の出入りは少ないけど。いつかきっと重要な場所になるんじゃないのかな。
1Fの酒場はフツーの人も来るけど。
1Fの奥、そして2Fには「特別な人」しか来ない。
ちなみに1Fの「緑猫の旅団」はフツーにお酒が出ていて、「冒険者」の皆様もお金を払う。そして奥のビジネスルームにはクライアントが訪れたり、仕事を斡旋したり。
そんなシステムを目指してるんだって!猫くんは。
現在、<緑猫の旅団>に属する冒険者の皆様は、僅かに3名。
動画サイトで猫くんが「向こうの人にしか判るはずのない」言語で呼びかけたり、難民救護センターで見つけたり。勿論、全員、異界の人だち。日本語ができる人は一人も居ないので、わたしと瑠香、あと時々バイトに飽きたリュカが遊びに来て通訳をしたり、可愛い店員さんの服を着てお酒を運んだり…。
一度、瑠香が酔ったオジサンに絡まれたらしい。その際は近くの席でお酒を飲んでいた剣士が止めに入り…尚且つ猫くんが丁寧に優しく対処し、河原に<無事>送り届けたという。(察し)
まったく。フィアンセの始めた事業だし…。怖ろしい事に、この事業の建築に関わるバックアップには菱川グループがついていたりするし…。この間3人でニヤッとしていたのがこれ絡みだとするとガチこわ。
さて、まるで軌道には乗っていないけど、2Fに住み込みの40歳母と12歳男子の親子(異界人)、苦労してここにたどり着いた2人の冒険者(異界人)、リュカ(異界人)と同級生の瑠香。んで、わたし。これが今のメンバー。
当然、現時点では鬼赤字…え?違うの?仕事の金額がバカでかいので紹介料で黒字?
…うん、中抜きって怖いね!
――――――――――
「―――さて、依頼の話をしよう。」
ウチの黒猫、かく語りき。
「2つある。1つは、岐阜県の山境にでた、恐らくヒュドラ。言うまでもなく、間違えれば丸のみにされる。次元の歪から来た奴だろう。」
「ほう、いきなり手強いのが来たなぁ。」と剣士の<ユーバルス>。やや褐色の肌をした大きな男性。30歳位の紳士。かつてはナイトだったとか。この世界に来た瞬間に銃刀法違反で逮捕という不運の持ち主。
「鎧の無いアンタじゃ手強いんじゃないか?俺なら。遠くから仕留める。」と、こちらはレンジャーの<ファボル>氏。初めて見る、小人種族。身長は1mくらいかな。60歳!だそうで、しかし人間年齢に当てはめるとまだまだ二十代後半だそうな。こっちの世界に来てもしばらくの間は森に潜伏していたらしい。
軍に捕らえられたのを猫くんが助けた。というか報酬の代わりに彼の自由を要求し、引き取った。この種族の方々は明るくて人のいい感じらしい。
「で、もう一つだが。廃遊園地に住み着いたらしい死霊。」
「げ…。死霊か。俺には不向きだな。」
「…アンデッドが得意なレンジャーは聞いたことないだろ?俺もさ。」
「どちらかは私がやる。リュカと瑠香も連れて行こう。好きな方を請け負ってくれ。あとくされ無いように言っておくが、ヒドラは国の依頼なので3000万、人頭割り。アンデッドは一般人の依頼なので2000万。安いほうの破格だが人助けで受けた。キミらが出来ないようなら優先順位を付けて私が両方倒す。悪いが5%はこの酒場の維持費へ。」
「いいさ。こっちの世界で手慣れた仕事が出来るだけで感謝する。メイフィールド。こっちのヒュドラを俺とファボルでやろう。どうだ?ファボル?」
「OKだ。酔いも抜けている。絶好調さ。すぐに準備しよう。地図はあるんだろうか。」
「勿論だ、不備はない。」
「さすがは猫団長…。だが。近いうちに、猫の姿ではなく、人の姿のキミと飲みたいものだ、魔術師どの。まさかキミを抱きしめている綺麗なお嬢さんが本体とか言わないよな?」
わたしは左手でいやいや、とジェスチャーする。
「…私の真の姿をそうそう政府に教えるわけにはいかない。キミ達も気をつけてくれ。この世界の情報網は、最早、暴力のレベルで発達している。この国の政府どころか、他国からキミ達に直接圧力がかかるかも知れない。それほどに、この世界で我々の力は異質で強力だからな。私の件はもう少し待ってほしい。」
この先を、猫くんはテレパシーで全員に伝えてきた。
<そんな世界で我々が平穏に生きるためには、集団としての力が必要だ。私は、我々の力を理解する者で傭兵団をつくる。権力から個別に攻撃や脅しを受け、屈することが無いように。一人ではどうしようもない強大な敵にも抗えるように。>
「YES、猫ボス。行ってくる」
「武運を。」
2人が出て行ったあとで。わたし猫くんに聞いた。
「…あのね?アンデッドに行くの?」
「にゃ。」
「幽霊?」
「にゃ。」
「いにゃああーー!」
「お前は行かないんだからいいだろう!?」
――――――――――
後日。 ここはお化け屋敷。入口のホールから右の扉へ入った一部屋目。
廃病院をモチーフにリアルな体験ができると当時は大ヒット。今は、リアルどころか本物に会える。訪れたものが二度と帰って来ないという、定番の都市伝説を地で行く本物のお化け屋敷。で、報酬、約2000万円。
―――で、その一部屋目に入った途端。早速、遠慮なく怪現象が襲ってきた。突然、机の上にあった黒い花瓶から血があふれ出し、更に、血だらけの白い軟体がツボから出て来たかと思うと、ソレはすぐに人間の上半身の様な形になり、両手の巨大な鎌で、近くに居たリュカの顔面を挟むように切りつけて来た。
「きゃあああ~~~!!」
「ひいいいいい!」
「うるさい」
「やかましいにゃ!!」
自分の長い鍵爪で鎌をブロックしたリュカと、リュカの周りに光の盾を出した猫くんに同時に怒られた。理不尽だ。こんなホラーを目の前にして悲鳴を上げるのは、カヨワイ一般人の女子として当然の権利だと思う!
ニャリと口をゆがめた怖ろしい顔は、ツボの中へ、吸い込まれるように消えて行った。
…どのように怖ろしい顔かは、忘れたいので説明させないでほしい!
次の瞬間ツボをリュカが砕いたけど、何も居ない。
頭上の古めかしい電球が無秩序に揺れ、私達の影を無茶苦茶な形に照らし出す。壁にかかった、青白い顔をした紳士風の男の絵。不気味に、妙に歪んだ壁。足元に飛び散る血しぶき…らしき液体。
もう嫌!怪物も見た、魔法はたくさん見た、不思議はいっぱい見た。
ホラーは嫌ぁぁぁ!!
―――心配だから。いつでも一緒に居たい。戦うことだってできるようになりたい。という私の願いは最悪の形で叶えられた。
「久しぶりのマモノ退治ニャ、腕が鳴るニャ。がっつり稼ぐニャ。」
「山分けだ。しっかり頼む。」
この人たちは向こうでどういう生活をしていたんだろう。
――――――――――
瑠香が、水晶を見つめて言う。「この扉の奥、箱のようなイメージ。」
ちなみに、わたしと瑠香は薄暗いのに少しだけ色のついたサングラスを掛けている。
最初のホールから、恐怖で一歩も入れない二人に、猫くんが<物質召喚>してくれたものである。
勿論、ハッキリ見過ぎないためである。
見たくないもん。
外で待つのはもっと危険に思えたし。来ちゃった以上は、強い二人を信じて一緒に戦うのみ。使い魔のブローチもわたしと瑠香を守ってくれてる。
でもこわいいいい!!
次に、建付け悪く歪んだ木の扉をギィィと開けると、幅広めの通路。床は…できるだけ、見ない。
両側に、海外ドラマのハイスクールでよく見るようなロッカーが左右にズラリ。
あ、なんか出てくる奴だよゼッタイ。
行きたくねーよ。
「も、もどろっか?」
「どこへだ?芽唯流?」
後ろを振り返る。扉は…無かった。
「!?」
何故そんなに落ち着いていられるのか。
「なんで瑠香まで妙に落ち着いてるの!」
「いや、先にパニくられると冷静になるっつーか…メイフィールドさんのおかげで、今あたし、攻撃力あるし…」
瑠香は最近、猫くんに「光弾の杖」を貰った。
小さめの傘位の杖には、猫くんの<光弾>が相当量詰め込まれ、瑠香の魔力でも発動できるんだとか。
わたしにもくれよ。なんで恋人にはくれないんだよ。
ふん…どうせ魔力ないもん。
「安心しろと言っているだろう。館の主はさぞ、がっかりするだろうが…」
「障壁…拡大」
全ロッカーの前に光の壁が。あ、それは良いかも。
恐る恐る、ロッカーの前を並んで通る。
全員が真ん中に来た辺りで、全部のロッカーが突然開いた…!
というか開こうとした…けど全部、開かなかった。ちらほら、白い手っぽいのが見えたような、見えないような。
「ふ、ふはは…」
「く…お、面白いニャ…」
この二人には、ホラーもコメディにされてしまうんだなぁ。
風がないはずの通路で、思いっ切り照明が揺れ始める。空気が、壁面がぐにゃぐにゃ揺れる。
「怒気を感じるなぁ…」
「そりゃそうニャ。そろそろ本気で殺しに来るニャ」
通路の端の扉へたどり着く。後ろからは開こうとしているロッカーがバシバシ光の壁に当たってる音。
「瑠香、何が見える?」
「えっと…人の姿が…見えるよ?」
「ほお、生存者か…否か。」
猫くんは扉を開けた…。魔法で。素手では触りもしない。
医務室の様だった。白衣を着た女性の後姿が、壁際にあった。
血だらけの白衣。長い髪。手を前にだらりと下げて、立っている。
あ、お願い…振り向かないでほしい。
きっと、いや絶対そういうヤツ…。
先頭の猫くんが、リュカを見る。
リュカは、首を振った。猫くんは、ふっと笑った。
「光弾」「光弾」「光弾光弾光弾光弾」
うわ!
後姿の女性に次々と攻撃魔法を撃ち込んだ!
血まみれの女性は振り向きかけていたけれど、次々と撃ち込まれる白い光に顔を見せることもなく消滅…。
「ちょ、ちょっと!あれ間違いなく化け物!?」
「邪悪の反応があり、リュカの鼻にも人の匂いがしなかったのでね。」
「…よ、容赦ない…。」
光弾光弾光弾光弾光弾光弾…。
部屋中の「もの」を全て粉々に破壊する。
化け物の出てきそうな絵も本も机も棚も、ぜーーんぶ粉になった。
先程よりさらに強く、空気が歪んだ気がする。
あぁ、怒ってる。何か怒ってるよう…。怒らせ過ぎじゃない!?
―――――――――――
次は、箱…1つの大きな箱のイメージ…」
「宝箱だと嬉しいニャ。」
「ダンジョンなら良かったんだがな。…そうそう、芽唯流、瑠香、ここらで攻略の方法を確認しておこう。」
「?」
「敵が現れる所の共通点は何だと思う?」
「…えっと何だろ。ツボ、ロッカー、女性は置いといて…何だろ…」
「ん~、入れるモノ、じゃない!?」
「多分な。だから先ほどは何一つ残さず破壊した。気をつけろ、次の部屋にもきっとそこから出てくる。」
「やったぁ♡」
珍しく猫くんに褒められたぁ~!
…と思ったら。
テレパシーで、多分3人全員に、このように伝わってきた。
<…というのは嘘だ。これは奴への仕掛けだ。黙ってろよ?>
瑠香が口を<~>の字にして私を見る。
ちくしょー!!本当にそうかも知れないじゃん!
次の扉を開けた先には、部屋の中央に棺桶があった。
西洋のと言ったら良いのか、木製の棺桶。
猫くんはズカズカと近づいていく。
「お前たちは後ろに居ろ。」
「はいはい、後ろ見張ってるニャ。」
棺桶を開けようと両手を出す猫くん。
突然、猫くんの真上の天井が歪み、あの化けものが、ぶら下がる様に飛び出してくる!
そいつは、猫くんの顔の前に丁度自分の顔が来る高さで止まり、鎌の両手を猫くんの首に触れる寸前まで近づけ、ニヤリと笑った。
後ろから見ていたわたしは、その時の猫くんがどんな顔をしていたか判らない。
ただ、化け物の表情が変わり、こう憎々しげに言ったのだ。
「何故笑うぅ、オマエぇぇ」
「予想通り過ぎてな。人の恐怖を吸って肥大化する化け物、スケアリーアンデッド。」
猫くんの首を容赦なく鎌が薙ぐ!
でも、金属同士のぶつかる鈍い音を立てて、鎌は首から弾かれた。金属?鉄?あ、<鉄身>か!
「やはりな。この部屋、この建物の大半、お前の体と同化しているわけだ。じゃぁ、どこを撃っても切ってもダメージだな!」
「そうか~じゃぁ遠慮なく切るミャ。」リュカが手あたり次第に壁や家具を切りまくる。
瑠香は「光弾!」と叫んで周り中の壁に光を打ち込んだ。光弾は壁を突き抜け、冷たい空気と、外の光を運んできた。
周りの<空気>が叫ぶ
「うぎゃぁあぁあ、ヤメロぉヤメロぉぉ!!食ってやる、くってやるぞおおお!」
部屋が全て肉の色になり、大きな<口>に変わった。
「防護円!」
わたし達を飲み込み、かみ砕こうとした歯は大きな魔法の球に阻まれ動けない。
「人の恐怖を食うお前に、この私が恐怖をくれてやる。」
猫くんの魔法は今まで見たことのないものだった。
「伝承魔法…ゲート<審判>!!」
目の前に、白、虹、光、青、美しい色合いが混ざり渦巻きを作り始める。
直径50cm位しかない小さな渦巻きの中央には、まばゆい、純粋な白の光。見たことないくらい、美しい光。
「ひぃ ひぃぃぃああぁぁ」
これはきっと、あのマモノの声なんだろう。
小さな美しい渦から、金色の腕輪をつけた華奢な美しい腕が出てきたと思うと、目の前の<空気>をぎゅっと掴んで光の中に引きずり込み始めた。
周囲の壁は次々と形を失い、ただの黒い煙になって光に吸い込まれていく。
「怖ろしいか?恐怖を食う邪悪よ。その先は、天の眷属の世界!行ってこい、お前の全てが消される世界へ!」
部屋全体があげる恐怖の叫び。悲鳴。
人の恐怖を喜びにする魔物に恐怖を与える…。
悪に対する徹底したサディストっぷり…。
これが…猫くん。
―――やがて。
全てが飲み込まれ、浄化され、光差す昼間の小さな廃墟の一部だけが残った。血のしみ込んだ土すら、飲み込まれて行った。猫くんは、外から姿が見えそうになった途端に黒猫の姿に変身する。
小さくなる、美しい渦。渦が消える寸前に、中から鈴の様に美しい声が聞こえてきた。
「メイフィールド。我を邪霊の浄化にむやみに呼び出すな…不敬が過ぎるぞ…」
「邪霊を連れ帰るのが本業だろう?私は手助けしているつもりだ。」
「…まったくあなたという人は…憎たらしい…」
「そういうな。邪霊を払う分には力を貸す約束だろう、******?」
「我が名を言うな。けがわらしい。お前自身、十分、<魔物>であろうに…」
光の渦が消えた。
…誰なんだろう。天使?なんの約束?猫くんの300年の冒険は、私の想像を超えてるらしい。
聞きたいけど。全部聞きたいけど。前の奥さんとの話以外はね。
「…結局のところ、私たちが見ていたものは、半分は本物だがアイツが人間を怖がらせるために一生懸命<演出>したモノ。半分は元々人間が作ったお化け屋敷のセットだったわけだ。そう思うと、怖い光景も笑い話だろう?」
「いや、そうは割り切れないんですけど…」
――――――――――
―後日。<緑猫の旅団>
わたしは、最近、猫くんに対し金銭的なことは聞いてない。感覚がおかしくなるので。
<緑猫の旅団>では、あちらの2人組もかすり傷程度で無事戻り、宴会の様相を呈している。ま、自慢話はそこそこに聞いておく。ヒュドラの首を何本落としただの、再生するから火を使っただの、さてさて、酒の入った冒険者たちの相手はしていられない。またねー、とテレポート。うちのおっきな子どもと遊んであげなきゃね~。
そう言えば、瑠香・リュカコンビにも初仕事の手当てが振り込まれたはず…電話してみるかな。
…スマホの向こうの瑠香は、具合が悪くなり寝込んでいた。ちょっとわかる。
「ふふ、貧乏生活とはおさらばだ、うう、何か気持ち悪い…」
うん。判るよ瑠香。
わたしと猫くんは合わせて一人分にしたので、瑠香達の報酬は約600万。19歳の口座には重すぎて怖い。てか、これって税金とかどうなるわけ?
猫くんが造ってるお家、いっかいちゃんと聞いてみようかな。子供が遊ぶブランコとかほしいな。お庭とか綺麗なのほしいな。あんまり大きい土地だと街から遠くなるし。子供に遊ぶ友達ができないと困るな~。
…何言ってんのわたし!大学2年になり、せっかく転科して、古英文学に近づいたのに。勉学に勤しんで魔法を覚える!これが今のわたしがすべきこと!
大体、赤ちゃんなんて早いに決まってんじゃん…。
…ねぇ?




