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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第20話 「猫くんVS政府」

猫くんの存在に気が付いた<権力>が動き出す。微妙なかじ取りに迫られる猫くんは、一つの依頼を受けることに。猫くんVS政府。

お時間のある方、TRPG、RPG好きな方ぜひ。第20話です。


第20話 「猫くんVS政府」



 私は、過ちを犯した。この世界を甘く見ていた。


ほんの少しの善意が、危機を招く。ほんの少しの、甘い生活へのあこがれが、危機を招く。


―――結局、私には、戦いしかないのだな。あいつに、平穏な幸せをあげられるのだろうか。


強い力が引き付けるのは善意ばかりではないのだ。そのことを、私はよく知っている…。


――――――――――


―これは、使い魔であるサミー猫から送られてきたビジョンを共有したものだ。



 菱川芽唯流さんですな?少々お話をする時間を頂きたい。


大学の研究室に堂々と入ってきた背広の男たち2名。


名刺を出す。防衛庁。


「あの、先日の教授の件でしょうか?」


芽唯流が強張りながら言う。


「ええ、そうです。もう少しお聞ききしたいとこがありまして。大学から談話室を一室お借りしました。そちらでお話を伺っても?」


「え、ええいいですけど…。」


芽唯流がサミーのブローチに触れる。警戒のサイン。いつぞやの一件以来、使い魔のサミーは昼間ブローチに身を変え、芽唯流を守り続けているのだ。


周囲の学生たちが、「また例の件?やだね~」「芽唯流可哀そう~」とか言ってざわつく。



 談話室に入るや否や、男たちは即、本題を切り出す。


「…さて、正直言いまして、お嬢さん、教授の件ではなく、猫の事について伺いたいのです。」


「…猫?」


「近頃ネットで噂になっている、<猫神様>のことはご存じですか?」


「…い、いえ初めて聞きました。」


「そうですか?このような猫なんですが」


男たちは数枚、写真を出した。


「い、いえ、知りません!」


あからさまに動揺している。芽唯流、判りやすいぞ…。


「…芽唯流さん、あなた、以前ネットでこの猫に非常によく似た猫を、掲示板で呼びかけて探されてましたね?」


「え…!?」


「あなたが今飼っておられる猫を、見せてほしいのです。」


「!?猫くんを!?」


「飼っておられますよね?この写真とよく似た猫を?珍しい、緑がかった黒猫を。」



もう、見ていられない。お前、嘘つくの下手だなぁ。


オマエのそんなところも嫌いではない。芽唯流。



「転移」


大学に飛ぶ。容易いことだ、サミーと視覚を共有すればその場に居るのと同じなのだから。


芽唯流の膝の上に飛び乗る。


「私に何か用か。これ以上、私の飼い主を困らせるのはやめてもらおうか。」


「ね、猫くん!」



男たちは、驚きの声をあげ、目を見開く。


「ほ、本当にしゃべっている…実在するのか…!?」


もう私は魔法を使っていない。この国の言葉はほぼ覚えた。



「芽唯流を帰らせていいな?あとは私と話そう。どうだ?」


「あ、あぁ、猫神どの、貴殿と話がしたい。お嬢さんはどうぞ、お引き取り頂いて結構だ。」


「…言っておくが、芽唯流に危害を加えようとした場合。私はその場で敵に回るぞ。」


「いや、そのようなことは無い。まずは話をしようではないか猫神どの」


「芽唯流、心配しないで帰れ。大丈夫だ。この二人が突然銃で撃ってきても私は傷もつかんよ。」


「…それは、知ってるけど…。あの、この子は私の大切な友達です。絶対に酷いことしないで下さい!」


芽唯流は強く言った。恐らく、勇気を振り絞って。




さて。私は、どこかで見た、少年の姿に適当に変身した。あ、ドラマか。


男たちが驚く。


「それは…!あなたはそれが本当の姿なのか?猫神どの?」


「いや、違う。伝えたかっただけだ。このように、私は何にでも変身できるし、飼い主の姿を自在に変えることもできる。捕まえることは無理だと知ってほしくてな。強制的に拘束することも無理だ。勿論、芽唯流も。何故なら、私にも芽唯流にも永続的なフィールドが張られている。試しに銃で私を撃ってみるか?」


「猫神どの、そう警戒しないで頂きたい。我々は、友好的にビジネスの話をしたいのだ。」


「ビジネス?」


「そう、友好的なビジネスだ…。」


「ふむ。その友好を証明するならば、芽唯流を尾行している3人にすぐ退き返させろ。今すぐに。」


「む…」男はスマホを取り出して誰かに命じた。


「あと、友好的な隣の部屋の男達だが…。友好的な感じがしなかったのでな。早く助けてやってくれ。」


「何?」


「さっき金魚に変えておいた。そうそう、芽唯流を尾行していた男たちは石になっているが、電話は通じたかい?」



男達の形相は恐怖に変わった。


私は、ゆっくりと二人の前に立ち、大きくにゃあ、とないて、彼らを追い詰める。


「言っただろう、芽唯流に危害を加えようなど思うなと。敵に回ると…。お前達が私にたどり着いたことは見事と認めるがね。最強の魔術師たる我が力、見くびられては困る。」


私は扉の向こうを指して促す。


「…早く水に入れてやった方がいいぞ?」



慌ててコップに金魚を入れる男たちを見て、私はニャにゃにゃ、と笑った。


「ふはは、愚かしい。何が友好だ?主を尾行し、私と決裂した際には脅すつもりだったのだろう。」


「き、貴様、軍を敵に回して無事でいられると思うのか!?」


私は虎に変化して、彼らの前に立ちはだかった。


「そう、その言葉。言うと思っていたし、実際、普通の人間には真実なのだろう。立ち向かえない巨悪というものはあるのだろう。ドラマでもよく見たよ。だがな…。」


「念動…」私は彼らの懐に会った拳銃を取り出し、自分に向けて全弾発砲した。


当然、全て、一発も体に届くこともなく。床に散らばる。


「は。ははははは。はははははははは!」


狂気のように、笑う。そして、虎の顔を、片方の男に近づけた。


「私は、向こうの世界では2つの国を滅ぼした。我が魔力の前に、王族は滅び、地下組織は末端まで皆殺しにした…疑うか?」


男は恐怖に涙を浮かべながら、首を振った。


「私と交渉をしたければ、この国の権力者を連れてこい。お前達では話にならん…。」



――――――――――


――後日…国防軍駐屯地。


先日来たじゃないか。戦車を壊したときに。


その奥深く。基地の内部で私は二人の高官と会談した。


厳しい表情をした初老の男性と、清潔感のある外国人が居た。外国人の方は、どうやら同盟国の高官らしい。初老の男性は、確かにどこかのTVで見た政府の重鎮だ。彼ら政府の代表といったところだが…。


最初に、彼らは、先日の部下の非礼を詫びてきた。ふん、このあたりは相手も百戦錬磨の魑魅魍魎。硬軟使ってくるのは流石と言える。尚、先日、石や金魚に変えた奴らは私に逆らえないよう<呪い>を掛けたうえで開放しておいた。



私が話を聞く姿勢を見せると、早速、取引…ビジネスを切り出してきた。まぁ、彼らの言うビジネスを要約するとこうだ。「魔法の力を国の為に貸してほしい。この国と同盟国の為に、世界の平和の為に力を貸してほしい。」


私は思わずミャミャ、と笑った。国が正義を掲げるときは大概嘘だと、元国王である私は知っているから。


「異世界のマモノ相手に力が欲しいのはお前たちの国ばかりでは無かろう?」


男たちは押し黙った。


「なんなら、世界連合で私を雇えばどうだ?」


「それでは…困る」


「私の力を独占的に使いたいと思わないことだ。私は兵器ではない。支配もされない。だが、この国に我が主が住む以上、譲歩はしてやろう。お前たちの2国に、世界中の異世界絡み案件で私と交渉する権利をやろう。解決する内容に応じて1千万から100億で受けよう。」


「100億?ば、馬鹿を言うな」


「お前たちの国の戦闘機は一機でどのくらいの値段だ?戦闘機で魔法生物は倒せないが、私は倒せるぞ?」


「むう…判断しかねる…判断を仰がなければ…。」


「そうだろうな。明日またここに来る。私が勝手に来る。返事を貰おう。」


テレポートしかけて、一言添える。


「…ああ、蛇足だが。契約はそちらの両国及び同盟国の高官の前で、公開で行わせてほしい。金は我が主の口座に全て振り込め。また、我が主及び主の親…友人…つまりは主の家族に対し危害を企んだ国や組織は、私が罰する。少なくとも、命令を下した関係者と、関わった組織は全て滅ぼす。私は好んで邪悪ではないが、無垢な神の使徒でもない。世界最強の魔術師たる私を敵に回さないことだ。また、仕事を受けるかどうかは私が決める。国家間の暗殺や謀略には乗らん。戦争にも関わらん。」


「随分な警戒ぶりですな。…猫殿は情報社会には疎いようだが、この情報の海の中で、どうやって謀略を働いたものを特定するのかね?」



「…say….tru…th….さて、***国の高官どの、あなたにこの件を命じた上官の名は?」


「そんなことを…ミハイル・レンドル中将です…わ、私は何を言って…!?」


「…私に嘘は通じない。罰するべき人間は一人残らず探し出す。判ってもらえたか?」


「なんと言うことだ…これが…魔法なのか!」


「上官に宜しく。お前たちの思惑通りにはならないが、それでも役には立つであろう黒猫とのビジネスに、乗るか、乗らないか。是非、大統領にも聞いてくれ。お前達は、私という次元の禁忌に自ら触れたのだ。怖れ手を引くなら、二度と我々に近づくな。それで万事解決だ。我が力欲しくば、リスクを受け入れろ。私はとても臆病なのだ。臆病ゆえに…敵は全て排除する。貴様らが裏切らない限りはお前たちは安泰だ。それだけだ。」


では明日会おう。私はそう言って消える。



 芽唯流の存在が知られている以上、国を敵に回すのは得策ではない。かといって、下手に出ればいい様に捨て駒にされるのだろう。オープンに過ぎれば芽唯流の平穏な生活も終わるし、微妙なかじ取りと駆け引きが必要だ。


…幸い、この黒猫の正体は知られていない。この点は利用できる。主の生活を守っている使い魔の猫。この設定で通す。


あとは…敵に回せば怖ろしいことを実感させる必要がある。味方にしておけば価値があることを判らせる必要がある。権力との戦いには、微妙なかじ取りが必要なのだ…。



もしも全て壊れたら?

姿を変えて生きればいいだけの話だが…。アイツに、そんな思いはさせたくないな…。



―――翌日。



「さて、話はついただろうか?」


突然、基地内に現れた黒猫に男たちは振り返り、再び驚きの顔で私を見る。


「猫神どの、凡そ、そちらの要望を飲むことで一致した、ただ、そちらの力を見せていただく意味も込め、早速お願いしたいことがある。」


「ほお?」



「九州地方のある村に、羽のある石像が数十体現れて村を全滅させた。上空に奇妙な黒雲の渦が現れたという情報もある。3小隊が向かったが、マシンガンもショットガンも効かず、後退した。この二日間で2つの村が滅んだ。次にあるのは町だ。魔術師殿の力を貸してほしい。」


「初回だ、1億で受けよう。確認するが、生存者はいないのだな?」


「居ない。殲滅してくれ。」


「了解した。冒険者の流儀でお願いしたい。前金で5千。成功で5千。」


「わかった、すぐに入金しよう…失礼ながら伺いたいが猫神どの、猫の貴殿が大金を何に使われるのか?」


「飼い主が豊かに幸せになれば良い。勿論、私の食事も待遇も豪華になるが…。」


「いや、失礼した。すぐに入金させて頂く…」



 ―――南の町にあるテーマパークに、先日芽唯流と行ったばかりだ。楽しかったな。


初めて見るものばかりで驚愕した。VRと言うのもすごいな。イルミネーションとやらも、最早この世ならざる美しさに思えた。はしゃぐアイツの姿を見るのも嬉しかった。


あの場所にテレポートすれば、あとは更に南下してたどり着けるだろう。猫の背中に羽を生やして。


外見の情報から怪物の正体は見当がついている。せいぜい、派手に散らかしてやろうか。


――――――――――


―――村の上空に差し掛かる。


翼の生えた石像、<ガーゴイル>が何羽も、破壊された家屋の屋根に止まっている。


容赦なく、先制攻撃と行こうか。



…いや。


なんだ? 一か所に数体のガーゴイルが集まり、鉄製の落し蓋を開けようとしている?


流石の奴らもこの世界の鉄には少々手こずっているようだが、それでも、じきに開くだろう。私は上空からの特大爆裂火球を諦め、その場に舞い降りる。



すぐさま、奴らに取り囲まれる。こいつらは生命の反応に気が付くと襲ってくるのだ。


…生命の反応?


鉄の落し蓋は古く見える。歴史の番組で観た、防空壕とやらの入り口か?又はそれに準ずるものなのか…。



360度。飛来する<動く石像>共に、光弾を次々に打ち込む。花火の様に。


一体に一発で十分だった。知恵を持たない魔法のゴーレムたちは、ただただ、撃ち抜かれる為に次々と私の前に飛来する。



―――仕事は、あっと言う間に終わった。


芽唯流のゲームの中でも、これほどつまらないシューティングは無い。



さて、魔法で鉄の扉を開いてみる。


中から、「と、扉が!お姉ちゃん!」「きゃぁぁぁ!」悲鳴が上がる。子どもの声だった。



にゃあ。


「ね、猫!?羽の生えた、猫!?」


年上と思われる少女が驚き怯えた声をあげる。


「にゃあ。大丈夫だ。化け物はみんな、やっつけた。安心して出てこい。」


姉弟と思われる二人は、暫く黙っていたが、ガーゴイルが一向に姿を現さないと判ると泣きながら飛び出してきた。



神様なの?猫の神様なの?


2人は大泣きして黒猫の私にしがみついてきた。こちらの方が小さいのだが。


何かに縋りつかねば、気持ちが持たないのだろう。



昔、戦争か何かで使っていた狭い空間に、両親が子供を押し込んだのだ。


決して声を立てるな、との言いつけを、けなげに2日間も飲まず食わずで守ったそうだ。



…泣かせてやろう。神聖魔法の使い手でも、神獣でもない私には、お前達を生かした素敵な両親を甦らすなど出来ないのだから。



ヘリコプターの音が聞こえる。


…どうせ、遠くから見ていたのだろう?いや、撮影か。

 


 やがて国軍の隊員が大勢入って来ても、兄弟は私を抱きしめて離そうとしなかった。


仕方なく、私は僅か1mほどテレポートし、兄弟の上空に留まって声を掛けた。


「強い気持ちを持って生きろ。お前たちを生かした両親に誇りを持って生きろ。力を合わせて生きぬけ…私と同じように。」


「いやだぁ、怖いよ、行かないで猫の神様!」


「私は神ではない。だが、せめてお前たちに、これを渡していこう。」


背中の羽を2枚嚙みちぎり、魔法をかける。


「この羽の3m以内に、邪悪なものは入れない。お守りにしろ…無くすなよ?」


私は<転移>の呪文を唱えて、消えた。



これ以降、姉弟に会うつもりはない。世界中の不幸な人々を私の庇護のもとに置くなど、出来はしないのだ。それは不遜で、傲慢だ。かつてそれをしようとした私は、どれほどの後悔と罪を重ねたことか。


だが、国軍にしばし面倒は見させよう。それぐらいは請け負ってくれるだろう?


――――――――――



「―――猫神どの、素晴らしいその力、見せてもらった。改めて、契約をさせて頂きたい。


今回の残金は5千万だったか。すぐに、飼い主殿の口座に振り込ませて頂く。」


「3千万に負けてやる。そのかわり、10年、あの子らの面倒を見ろ。元はと言えば貴様らの誤報だ。生存者は居たぞ。」


「それは大変申し訳ない―――」



「あとは、これだ。」


私はリサイクルショップで買った<携帯電話>を男たちに渡した。


「契約もしていない、電池も入っていない。だがナンバーを#282828…と押せ。気が向けば私が出る。」


「#28ですか、ふふ」


男たちが苦笑いする。


「主の家やスマホには連絡するな。これが私との連絡方法だ。そちらに私が連絡したい場合、逆にその電話が鳴る。言っておくが。あなた方の両名しか、まだ信頼していない。どちらかが持って頂きたい。あなた方以外の声ならば出ないと思ってほしい。」


…これは嘘だ。この二人も信頼していない。


ま、ナンバーも只のジョークで出鱈目なのだが。伝言の魔法がかかっているだけだ。実は何番でも繋がる。気分の問題だ。気分の。



――――――――――



―――何でも買ってやるから出かけよう。芽唯流?


ちょっとしたサプライズで、喜ばせようと思った。


意外に?洋服やらアクセやら小物やらが好きなのは知っているから。



奴らとの契約でお前の口座に入金されているから。まずは卸そうじゃないか。


猫ちゃんキャリーを足元に下ろし、芽唯流はカードを差し込んだ。


「えへ、冬物の新しいコートでも買ってもらおかな~」


楽しそうにパネルを操作していた芽唯流は突然、へなへなと床に膝をついた。



震える声で、


「…は、8000万円?猫くん…これでわたしは何を買えばいいの…?」


「…分からない…いくら何でも何を買えばいいか分からない…」


ブツブツ…ブツブツ…



お前、裕福なお嬢様じゃなかったのか?なぜショックを受けている!?


おい!帰ってこい芽唯流!帰ってこーい!!

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