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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第2話 「猫くんと狼」前編

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。

第2話 前編です。

第2話 「猫くんと狼」前編



「はい、ここがわたしの部屋。喋る時はALL小声ね。にゃーとか隣に聞かれたらアウトだから。」


 非常に狭いが、柔らかい色で染められた綺麗な部屋だった。こんな、花のような色の家具で染められた部屋は見たことがない。掃除も行き届いている。ソファの正面は大きな「スマホ」のような水晶板が置かれている。


 自分だけの部屋と言っていたが、食器などは客をもてなす程度の数はあるようだ。かつての世界で見慣れた銀製に見えるが。


「あ、それ気になる?アンティークなやつ。普段は使ってないよ。貰いもの…。」


どちらかというと親しみの持てる食器を<古い>と言い切られて微妙な気分だ。


「さて、猫くんいい?」


ソファーで隣に座った芽唯流が顔を近づけて小声で話す。改めて見るに、お前は…美しい顔立ちをしているのだな。


「とにかく、当面ここで匿ってあげる。ここはペット禁止なので…ん~、人間以外の生き物と一緒に暮らしてはいけないので、絶対部屋から出ちゃダメ。出るときはわたしのリュックの中。話す時は小声ね。とにかく、猫くんが居ることがバレると、わたしがここを追い出されます。いいね?」


私はうなずくしかなかった。郷に入ればなんとやらだ。この世界のルールは測りかねる。


「あ。」と芽唯流は何かを思い出したように奥の…調理場か?…に入ると、濡れた小さな布を持ってきて、いきなり私の体を拭き始めた。


「ぎにゃ」


思わず変な声が出た…、何をするお前!


「しーっ」芽唯流は気にせず拭き続ける。苦行だ。屈辱だ。ひどい辱めを受けた気がする。


「足拭いて、と。こんなもんかな~ネットによると、君たち猫はあんまりお風呂に入らなくても綺麗、と。」


芽唯流は、立ち上がって布を洗うと、手早く棒のようなものにつるした。


「猫くんはちょっと待っててね、わたしもシャワーあびてこよっと」


芽唯流は、そういって、私の目の前で服を脱ぎ始めた。


何を考えているのだお前は!?


いや、違う


気が付いていないのか!?何度も言っているだろう!

私は人間だ!猫は仮の姿だ!何度も言っているだろう!?


口からそう言葉を出しそうになりながら、私は走馬灯の様に、こいつと出会った数日間を思い出す。


…言ってない。こいつの前では常に猫だった!?


何度もどころか一度も言ってない! こいつ、気付いてない!?


目の前で、まぶしいほど美しい裸身が。曇ったガラスの扉に向かって歩き出す。


「お前は…美しいな…」つい、口に出してしまう。


芽唯流ははっと振り返り、


「でしょ?…でもそう言われると恥ずかしいから向こう向いてよ、猫くん」


すまん、そう言って私は後ろを向いた。


…この私が女に見とれるとはな。女性を女性と見なくなって、もう100年は過ぎているだろうに。


いや、そんなことより。

冷汗が流れる(ような気がした)。


…決めた、私は猫が本体だ。ここで正体を明かしては何を言われるか分からん!

嘘をつくのは本意ではないが。娘もその方が傷つくまい。


しばし、水を勢いよく流す音が聞こえる。

…私は猫だ。妙な想像はやめろ。


しばらくして、あいつは<湯あみ>から出てくる。

流石に今回は最初から後ろを向いた。私は紳士だからな。


それから、猫くん。と、芽唯流。ピンク色の寝間着に着替えていた。この世界の女性は基本華やかな服装だな。


突然抱きかかえられてあせる。とても良い香りがする…、


「明日は猫トイレと布団買ってくるから、今日はここのカゴの新聞の上にするのよ?」

「するわけなかろう!」

「しーっ」


う…。


私はなんとか適切な回答を構築する。


「そんなところに用を足したら匂いが付くだろう。人間以外の動物がいるとバレる。私は、人間のトイレを使わせてもらうよ。」

「どうやって」

「人間に化ければ良い」

「へ~、見せて」


一瞬、躊躇するが。


「….po……..eta……en..変身の魔法だ」


呪文は本物だが、唱えたふりだ。人間の姿に戻る。


「わあお…びっくり、いけめん!…あ、あの朝ベンチに居た金髪の男の子!?あれ猫くんの変身だったんだ!?」


…男の子か…313歳だがな。


「誰かの真似したの?モデル居るの?」

「あ、あぁ、私の…あちらの世界での主だ」

我ながら良い解答だろう。


だが、そういうと芽唯流の表情が曇った。

「その人が、猫くんに酷いことしろって命令したんでしょ?」

「いや、そういうわけではないが…」

「すごく格好いいけど、アイドルみたいだけど、意地悪そうな顔をしてるね? わたし、あんまりその姿好きじゃないな。別な人になれないの?」


…意地悪な顔…。


「悪いが、良く知っている人物でなければ、変身は難しい。」

「そう?…仕方ないけど、トイレの時だけね!部屋に男の人居るなんて怖すぎるし、今の猫くんの主はわたしなんだから!」

「別にお前を主にしたわけではない。」

「家主。お友達。猫くんのピンチに駆けつけた救いの女神。」


…自己評価高いな、芽唯流。


「わかったわかった。とにかくトイレは買うな」


猫の姿に<戻る>。

芽唯流は釈然としないようだったが、とりあえず猫トイレ案は却下した。


「あした、また一緒に考えよ。今日はもう、寝よ?」


そうだな、といってどこに寝るかと見回していた私を、芽唯流はひょいと抱え上げ、胸元に抱いたまま、ベッドに潜った。


「へへーん、ゆたんぽ~。かあい~あったかーい」


やーめーろー!!それは困る!目の前に…それは困る!


だが、こんな風に、安らいで眠るのも…何年ぶりのことだ…?

いや、無理。


ぎにゃーっ と小さく叫んで、勝手に近くにあった布をくわえて引きずり出し、私はそちらに潜り込んだ。


ちぇーっとか言っているお前は自分が女性であることをもう少し自覚しろ!


私は恐怖で国を平定した王!神速の吟遊魔術士、レテネージ・メイフィールド!


この程度の色香に理性を失うような男ではない!


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