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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第19話 「猫くんVS戦車」

猫くん、国軍のショーへお出かけ。そこに現れた<魔>は人間を操る。猫くんVS近代兵器、戦車。

第17話です。お時間のある方、TRPG、RPG好きな方お目汚しにどうぞ。

第19話 「猫くんVS戦車」



 国防軍陸上部隊のイベント。


近隣の空軍基地からやってくる航空隊のショーもあるらしい。



「猫くん、魔法は無くても近代科学の武器ならあるんだよ?役に立つよきっと。それが私達の力だもん。ほんとは必要ないと良いんだけどね」


そんなアイツの話に、近代兵器とやらに興味が湧いたのは事実。



 何故、軍隊がそのようなイベントをやるのかは知らん。

だが、多くの客が集まり、見学やイベントの参加、食事を楽しむのだという。


…食事が良いらしい。軍の食事が充実しているのは元国王としては賛同する所だ。


 猫キャリーに例のごとく詰め込まれ1時間、国防軍陸上部隊、北新地区駐屯地に到着。芽唯流が買った新型の猫キャリーは背負えるタイプだ。前より少し広い。


ゲートで不審物の検問があったが、顔をだしてにゃぁ、と言うだけで通った。多分に芽唯流の<笑顔力>による甘い検問だったと思われる。


「猫くん、遅れちゃったけど丁度、航空ショー始まるよ。」


私はキャリーから顔を出して空を見あげる。

南からやってくる鉄の羽の鳥。


5機並んで色とりどりの煙を噴き上げながら、動きを合わせ旋回したり煙を螺旋状にクロスしたりして、飛んでいく。


「接触したら大惨事だからスゴイ技術なんだってよ?猫くん。」


芽唯流は楽しそうに言うのだが、背中に背負われている私にその笑顔は見えない。

あれが、戦闘機、か。何という速度。何という高度。しかも武装できるという。


「…ほしいな…。」


つい呟いたら、芽唯流に笑われた。



 航空部隊が去ると、陸上軍の様々な展示を見て回る。旧型戦車の試乗体験などもやっていた。乘りたかったのに、芽唯流が興味を示さないのであきらめた。


装甲車。機関砲。水陸両用の揚陸用の…何だ?船なのか車両なのか、わからん。確かに素晴らしい!魔法の代わりに発展した科学!何と素晴らしい。


…と、感動していたら、近くで魅惑的なニオイがする。私達はフードコートに来たらしい。


こ、これはキツイ。


「芽唯流、食べようか?」


物陰で人の姿に急遽戻った私は、芽唯流の手を引いて、たまらない匂いのする、立ち並ぶ出店に向かう。


「ちょっと…人の姿に戻るなら何でわたし、重さに耐えて猫くん背負ってきたの!?ま~、この方がデートっぽくはあるんだけど…」


「こ、この肉をそぎ落とす奴が食べたいぞ!」


「…うわ、コドモ。ぷぷっw」


「こっちの綿のような菓子は何だ?芽唯流、食べてみようじゃないか。」


「それは綿あめ…なんか、わたしママみたい。」


「予行練習だと思え。店主、これはいくらだ?……どうした芽唯流?」


芽唯流はうずくまって両手で顔を覆い隠していた。



 その後も、私は見たことのない食事ばかり狙って食事ブースを芽唯流と回り続けた。

出店の3件目で芽唯流はギブアップしていたが、私は5件目まで頑張った。


「わたしが太ったら猫くんのせいね。」


私には、こんなに細い芽唯流が体重を気にする理由が今一つわからない。あちらの女性たちも美にはこだわっていたが、そこまでではなかったな。朝のメイクも、芽唯流はほとんどしていない方だと言っているが、ディムより長い。いや、比較するようなことではなかった。失礼した。



 さて、初めて見るもの、初めて食べる祭りの食事に私はすっかり夢中になっていた。最後には、興味のあった装甲車の金属装甲にペタペタ触っていたら、隊員に怒られた。陸上部隊の隊員は一目で客と区別できる迷彩服という制服に統一されていた。なるほど、樹木の間に入ればかなり有効な模様だろう。


私が怒られたことをまるで意に介さず、この金属は何だのだと食いついて質問ばかりしていると、若いその隊員は折れたらしく、「これは特殊複合装甲といって…」と親切丁寧に説明をしてくれた。正直意味はわからなかったが…ありがたい。



 こんな楽しい時間のせいだろう。私の注意力が落ちていたのは。


この、数百人とも千人とも思える人々の中に、<魔>が居ることに気付くのが遅れたのは。


そいつは、真っすぐ私に向かってきた。


 明らかに異質なぼろぼろのフードつきローブを纏い、フードを深くかぶり隠した顔からは虫のような触覚だけが僅かに飛び出て見えていた。人の者ではない節のある両手を祈るように前に組み合わせ、ただ真っすぐ向かってくる。人ごみに埋もれながら、時に人の間を縫うため足を止めながら。ゆっくりと。やってくる。距離僅か、5m。


「サミー、芽唯流にフィールドと対魔法を」使い魔に思念を送り、私自身は逆に猫へ変化した。


周囲の人間には突然消えたように見えたろうが、それどころではない。人の姿で戦うには、このカメラだらけの世界では危険すぎる。故に、私はいつも黒猫に変身する。ただし、それは戦闘力を下げることに他ならない。勿論、この魔をこの姿で退治する自信が無ければしない選択だ。


…こいつからは魔力を感じる。邪悪を感じる。だが、悪意を感じなかった。最も私が警戒する悪意が感じられない。間違いなく魔であるのに。周りの人々も、何故こんな魔に気が付かない?少なくとも、被り物と勘違いしても注目するだろうに。


「拘束……」呪文を発動しようとした私に、テレパシーに似た強制的な思念が介入してくる。


<従え、従え、従え…>


「…拘束!」「石化」「粉砕」


この私を思念で支配しようとは!効くか!怒りに更に追い打ちをかけたのは、相手がノーアクションであった故に油断した自分への怒り。何をやっているのだ?私は!?人間ではないのだから、既に能力を使っていたとしても何の不思議もなかったはず!レーテ、素人かお前は!?


一瞬、呪文発動が揺らいだが、私の魔力に打ち勝てるはずもない。魔物は石になり、砕けた。


だが、別なところから次々と叫び声、怒声、悲鳴が上がる。


「何をする、やめる!」「助けて!」「殺す、殺す、殺す!」「陸上部隊の兵士が発砲したぞ!?何があった!?」


「邪悪感知…増幅」


半径100m範囲に、5体居る。いや、南の1体を見失った…建物に入ったか。


こいつらは人を操るらしい。自分では何もしない。自分の姿は幻覚でただの無害な人間にしか見せていないのだ。


ち、複数が同時に相手か?しかも暴れているのは操られた人間か!?


<仲間が居れば…>


よぎる思いに首を振る。もう百年も自分一人で戦ってきただろう?力を借りたのは一番最後の、魔神を倒した時だけだ!盗賊ギルド、国、魔物、全て全てこの力でねじ伏せてきた。この程度で迷うな!


「飛行呪!」


宙を舞う。芽唯流にテレパシーを送る。「この呪文が効いたふりをして、眠ったふりをしていろ」


「強制睡眠…増幅…増幅!」


暴れていた人間。事態を収拾しようと動き出していた軍隊。悲鳴を上げていた子供。

約千人。全員、ゆっくりと地面に伏せた。


「やはりお前たちには効かないよな。心を操る蟻のデーモン。」


立っているのはお前たちだけ。丸見えだ、蟻のデーモンども。


「石化…石化石化石化!」「粉砕粉砕粉砕…粉砕!」


瞬時に石になり砕け散る魔物たち。周りに人々がいるこの状態で「爆裂火球」も「招雷」も使えたものではないからな。


あと…一匹! 南へ飛ぶ。


「猫くん、大丈夫なの、無事なの?」


サミーが気を利かせたのだろう、芽唯流のテレパシーが送られてくる。


「心配するな。…そろそろ起きていいぞ」



「…強制睡眠、解除」


フードコートでは調理をしていた者も居たからな。起きてもらわねば困る。暴れていたものも、術者が死んだのだから当然、術の効果は消えて正気に戻っただろう。



石化を粉砕したら…死んだも「同然」…か。自分で思った言葉が胸を小さく刺した。



 南のブロックは、立ち入り禁止ブロックだった。

本来の、軍としての機能を維持しているブロック。


その頑丈で大きな建物から一台。大きな音と共に、重量感のあるキャタピラを回転させながら、鉄の要塞が出てきた。どこへともなく、その長い砲身から爆音を響かせると、遠くにあった一般車両が一台、爆発と共に吹き飛んだ。


あれが…戦車か!実用されている本物の戦車か!!


戦車は、まずこちらへ、人々の居る方へ車両の本体方向を変え、次にゆっくりと砲塔を動かし前に向けはじめた。


圧倒的な威圧感と重量感。これが近代兵器か。科学の力か。

…あぁ、初めてドラゴンを前にした時にもそんな風に圧力を感じたな。


面白い…。止めてやろう。


戦車と人々の間に居るのは一匹の黒猫だけ。私だけだ。

背後で更なる悲鳴が、罵声が、パニックになった人々の恐怖の声が押し寄せてくる。


「…障壁…広範囲増幅…」


戦車の砲身から煙と爆音が響く。ついに、こちらに向けて発砲してきた。


爆発が私の目の前で起きる。空気を揺るがすような衝撃が伝わってきた。


なるほど、怖ろしい威力だ!


人々の悲鳴が聞こえる。だが実害は無い。

私のフィールドは完全に無傷だった。何発でも耐えられると言えるかどうかはわからないが。


「では、次にそのパワーと勝負してみようか!」


「念動!」


私は前進する戦車を押し返そうと試みる。

キャタピラが空回りをはじめ、アスファルトを削り煙を上げる。徐々に、戦車は後ろへ下がる。


「…これは大したパワーだ…だが、この程度。持ち上げる方が楽かもな。」


戦車は次つぎに砲弾を撃ち始めた。


フィールドは砲撃をことごとく弾き返す。だがこのままでは埒が明かない。


連中は飽くまでも操っているだけなのだ。恐らく中で操縦しているのは、人間。

戦車ごと破壊するわけにはいかないだろう。…試してみたい気もしたが。


背後で大騒ぎになっていた人々は徐々に落ち着きを取り戻し始めた。戦車の砲弾が何かに遮られ飛んでこないことに気が付いたのだ。



そして、戦車の前に宙に浮いている黒猫が居るのに気が付いた者も、残念だが居るだろうな。きっと。早めに、ケリをつけよう。


私は自ら作った障壁を飛び越え、戦車に近づく。戦車の上部にあったマシンガンのようなものが怖ろしい速度で連射してきた。避ける間もないが、それらは全て私が絶えず張っている防護円ではじき返した。魔力がない武器ならば、そう簡単には通さん。


私は戦車の砲身に触れる。


「上位古代魔法、物質崩壊!!」


戦車は一瞬で砂になった。


一人の兵士が砂の山から暴れながら出てきたが、眠らせた。


背後から人々の歓声とも驚嘆とも思える声が響き渡る。



…だが、まだ終わらん。


「透視!増幅!」


戦車の出てきた巨大なガレージの端に、蟻のデーモンが居た。


幸い、周囲に人間は居ない。


「光弾」「光弾」「光弾」「光弾」「光弾」「光弾」


猫の手からで恐縮だが、次々と光弾を発射する。


最初の1発で、ガレージの壁は砕けた。5発の光弾が次々に蟻のデーモンを砕く。文字通り、撃ち砕く。後に、人間たちがろくに調査出来ないほどに。出来ないように。



――――――――――


 猫神! 猫神だ!


人々が騒ぎ始めた。何とか収めねばならないな…。


私は人々に向き直り、前と同じ様に、集団テレパシーで言葉を伝える。


<人々へ。まず、撮影を止めてもらえるか。私は見世物になりたくもないし、当局に捕まるわけにも解剖されるわけにもいかないのだ。>


<次に、不幸にも怪我をした者も居るかもしれないが、暴れたもの達を恨むな。裁くな。彼らは魔物に操られただけだ。何も覚えていない。>


<3つ目だ…。>


<実はこれも大規模なイリュージョン・ショーなのだ。騙してすまないな!この後も楽しんでくれたまえ!!>



私は近距離テレポートでもの陰に入り、人間の姿に戻った。


フードコートで待っていた芽唯流は、私の両手を取る。私は、ゴメンと、大丈夫だよと、色々な言葉を込めて、小さな彼女の手を強く握った。


――――――――――


 さて、すっかり疲れた私達は、さりとて、まるで 腹も減っておらず、ただ身を寄せ合ってコーヒーを飲む、穏やかな時間に甘んじている。


TVのニュースでは、防衛隊陸上部隊のショーにおける戦車暴発についてひたすら陳謝する可哀そうな幹部の姿。


「…相変わらず、事実は隠す、か。当たり前だろうな。」


「だって世の中に魔物が居ますって言ったら世の中ひっくり返るよ。」


「いや、案外、昔から居たんじゃないかな。狼男、吸血鬼。えっと、チュパカブラ?数が少ないだけで、伝説は多い。私の世界のような現象は案外、昔はあったのかもな。」


「それはそれで世の中ひっくり返るけどね~」



「あ、でもねえ、猫くん?」


芽唯流は笑ってる。


「最後の、これはイリュージョンです、てのは笑っちゃったよ~。ないわ~。無理だわ~。誰も信じてないよ~。」


「そうかなぁ…その間TVで見た世界のイリュージョンは本当に魔法かと思ったのに…。」


「ほら、見て」



 芽唯流はスマホを見せる。そこには、戦車を崩壊させ、空中に浮いて何かを語りかける黒猫の映像が映し出された。


「やれやれ、今回は言うことを聞いてくれなかった奴が多かったということか。残念だ。」


「一部には、猫神降臨!!て噂になってるね。ヒーロー爆誕!って。ま、すぐ当局が消しまくるんだろうけど?」



「お疲れ様、猫神様w」


芽唯流は私の膝を枕に横になった。彼女の美しく長い髪を撫でながら、私は昔をふと思い出す。


仲間が居たら。魔神を倒したときの仲間が居てくれたら。もっと言えば、故郷の魂の兄弟がそろっていたら、今日の敵も、もっと簡単に抑えられただろうに。


もう、200年も前に居なくなった彼ら。一番長く生きた精霊術師トラスでも150歳だった。何故、私と同じ永遠を望まなかった?兄弟たちよ、今も君たちが居てくれたら…。



そう。ディム、アミル、何故、お前達も私と同じ永遠を選んでくれなかった?



…芽唯流、お前は私と共に永遠を選んでくれると、この間、言ってくれたな。

本当に良いのか? 永遠を。永遠に戦い続ける地獄を。共に。



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