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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第18話 「猫ちゃんと散財」

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。


瑠香の部屋に居候を始めた猫の獣人リュカは、想像以上の大食いだった。迫りくる財政破綻。

第18話です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

第18話 「猫ちゃんと散財」



―――散財とは、財産を取っ散らかすことである。思うに。



 あたし、舵目瑠香は、アパートの一人暮らしだ。この年で女性の一人暮らしは勇気が居るもので、寮が空くまでの入居のつもりだった。だから、家具も最低限だし、この部屋でおしゃれに飾ろうとも思えず。


多少気を使ってくれた1階管理人ご夫婦は、2階の真ん中、一番防犯的には良い場所を提供してくれた。「洗濯物を干すときに必ず男性物を一緒に干すんですよ。」


そんなアドバイスもくれた。一応、続行中である。


つい最近、なかなか入れなかった女子寮の一室が空いたそうだが、今となってはもういいやって感じだ。大体、アイツが隠れラブラブしてた部屋になんか入りたくねえ。



 そんなことよりも本題だ。


金が欲しい。


このままでは、あたしの食料が無くなる。


――「だからそっちはあたしの分だから、食うなってんだよ!」



「にゃ?」

「にゃじゃねえ。聞こえてんだろ。」

「だって腹減るんだもん。にゃ」

「不自然ににゃつけんなキモイ。」


 この猫の獣人、<リュカ>と暮らし始めて暫く経つが。うちに来てみないか言ったのは確かにあたしだったんだけど、その仏心は見事に仇となった。こんなビッグトラブル抱えるとは。猫じゃなくて大虎を飼った気分。


ちなみに、リュカは元々は普通に話していたが、最初ん頃こっちの世界でコスプレと勘違いした男どもに「にゃ~つけてしゃべってくださーい」とか言われ。それがエライ受けてモテモテだったので付けるようになったとか。あたしは、あざといのは好かん。


 …話がそれたが、ご理解いただけただろうか。この大虎のせいで、猛烈に食費が切迫している。仕送りと、近くのパン屋のバイトだけじゃぁもう無理だ。


いっそ追い出そうかとも思ったけど、この子をこのまま世の中にほっぽり出すのは、狼の群れに猫を入れる様なもの…。…なのか、それとも、犬の群れに虎を入れることなのか。迷うところだが、どちらにせよ不幸ではあるのだろう。やはり、今以上に金が必要だ。金が!!



「あんたさぁ、働かない?このままじゃ、あんたもあたしも飢え死ぬるんだけど。」

「…アタシが働くって?もともと働いてたにゃ。」

「何やって?」

「ハンター。賞金稼ぎ。悪いやつをぶったおして賞金ゲットにゃ。」


リュカは手の爪をにゅにゅ、っと伸ばした。それ辞めろや。


「…そんな求人が現代日本にあったらねえ。」

「この間てれびで観たボクシングやってみりゅかにゃ?」

「耳と尻尾が取れたらね。」


「メイフィールドには貸しがあるから、金借りようにゃ?」


…それだけは絶対嫌だ!

メイフィールドさんは最近の私にとっては魔術の師匠である。

でも、その男は芽唯流のオトコだ!芽唯流に借りを作るのは絶対絶対、嫌。


「仕方ない…禁断の金稼ぎをやるか…リュカ、TVつけてよ。競馬やってない?」

「おー…、これかにゃ、馬のレースか、あっちのどこかの国でもやってたにゃ。馬の形が随分違うような気がするにゃあ」


…猫女子の戯言はさて置き、あたしはタロットを広げ念を込める。

通用するかどうか、試さねば。


「栗毛の…」「女…メス…」「仮面…仮面?」


TVの立ち並ぶお馬さんたちをみた。


栗毛、栗毛…似たような色のコが沢山いるじゃん!


雌…牝馬…たくさんいるじゃん!


仮面て頭のやつかぁ!? 全員着けてんじゃん!!



ダメだ…あたしは大の字に転がった。スカート?気にすんな誰も見てねえ。

…大体、占いは自分に対しては精度が落ちるんだよなぁ。多分、欲が出るからだな。


魔法を習えってのも、はずれなのかなぁ。



 ――いけねえ、バイトの時間だ。うちのパン屋は、最期に残りのパンが貰えることが多い。これがないとやってけない。行かねば。


「フィルちゃん、おいで。またブローチになってね」


あたしは必ず猫のフィルを連れて行く。頼もしいボディーガードの使い魔を。



「リュカ!外出るときは猫だよ!いいね!約束だからね!!」


「はいよ~いってらっしゃいにゃ~。」



――――――――――


――さて。


暇にゃ。出かけよう。


瑠香が買ってくれた服は随分とひらひらが多く、好きじゃにゃいけど、アタシの為に選んでくれたものに文句をつけるほど子供じゃにゃい。


この緩めの茶色いズボンはいて、尻尾は上にあげて、尻尾がバレないようにフワフワのこの白いの来て、あーブラひゃあ忘れたな。まぁいいにゃ。最後に帽子。おっきな毛糸の帽子。耳が隠せる。


今日は、街まで行ってみよう。

外に出るときは猫の姿で!って言われてるたような、いないような気がするにゃ。


街に出たのはちゃんと理由があるにゃ。


仕事を探すにゃ。


ちなみに、アタシが好きなのは戦いだ。ないかな、ストリートファイトで稼げるようなの。

以前の経験から、あからさまな裏通りは声を掛けられるから避けて、メインと裏が交差するあたりに絞って店を眺めるにゃ。


…ないにゃ。

……戦えるトコは無いにゃ。


…帰るかにゃ。



 くるりと振り返ったアタシの向かいに、猫のマークの看板が見えたにゃ。


…猫カフェてやつう?どれどれ…

いや、違う。猫コスプレの女の子がケーキとか運んでる。

あー、メイド喫茶ってやつ?アタシ向きにゃ?


堂々と中に入る。


「いらっしゃいませえ~♡」

「いや雇われてみようかと思ってきたにゃ。」

「あ、それなら奥のカウンター横の扉の方へ言ってね♡」


アタシは物おじしないので。


ハイ、コンコン。ノックするんだったな。マナーで。


30歳くらいかにゃ、なかなかセクシーな感じがする人間の(当たり前かニャ)オネエサン。「どうぞ、こっち座ってね。あら~外国の方?スタイルいいわねえ。お名前から聞こうかしら。メイド喫茶の経験は?週何回来れる?何時間できそう?」


次々に聞かれても困るにゃ。


アタシは帽子を取って、足を組んで。


「働きたいときに来るにゃ。何日とか言われても困るにゃ。」と言った。


「!!あなた…」

「その耳、もうつけてきてたとはやる気十分ね…!その目!コンタクト!?猫目のコンタクト!?それに、その仕草、身体のしなり。話し方。まるで本物の猫の様なセクシーさ!決まりよ!試しにスタッフやってみて!ウチのカオになっちゃうかもあなた!!」


よくわからないけど、アタシの手には猫の手をかたどった意味ないモフモフな手袋、足には猫足形のモフモフ。猫型のアクセが付いた、おっきなリボンのフリフリメイド服。猫耳は自前。尻尾も出して良いんだって。楽だにゃ。「なんで動くのその尻尾!」バイトの子が言ってたけど、こういう時は瑠香の<回答集>に沿って、「自動で動くように出来てるにゃ。高いのにゃ」


と答える。と。売ってる場所はヒミツ。売ってないからにゃ。



―――実演。


「はい、ご主人様~ホットケーキラブキャットミックスにゃ、生クリームかけるにゃ」


「うぉぉぉ~すっげえ~!しゃ、写真良いですか!?」

「いいにゃよ?」


2,3ポーズ取って、生クリームだにゃ。


…見事に変な形になったにゃ。ハートじゃなくてウンコにしか見えないにゃ。おまけに、客のオトコの手にかかったにゃ。


「ごめんにゃ、ぺろ。」


男の手にかかったクリームは舐めとったにゃ。


「う、うおおおおおお!!」


「りゅ、リュカちゃん!結婚して!」


「いや、出会ったばかりのオトコと結婚は無いにゃ。でもまた働きに来るから会いたかったら客で来るにゃ。」


「リュカちゃーん、3番様、お願い!」


「あいよ~3番のご主人様達にゃ~」



 ―――3時間経過。


「疲れたから帰るにゃ~」


アタシは再び奥に呼ばれ、先程の店主、ユミカさんに言われたのにゃ。


両手をがしっ、と握られ、「いつでもいいわ!!週2回以上来てほしいわ!その日に時給でお支払いするわ!あなたを狙って毎日来る客が出来そうなペースで来て!」


よくわかんないけど商談成立にゃ。


「いくらくれるにゃ?」

「今日の3時間で、はい、1万5千円よ!」

「これでパンは何個買えるのにゃ?」


「え?あぁ…70個くらいかしら…?外国の方も判らないこと多くて大変でしょう?どんどんウチに来て覚えると良いわよ?」

「ありがとニャ~また来るにゃ~」


アタシは、店を出るときも間違えて裏からではなく表…店中を通ってしまったので、客連中に投げキッスしながら出ることにした。まぁ、こんなもんさ、オトコなんてのは、にゃ~。



 ―――さて、アパートについたにゃ。


1万円で、焼き鳥買ってみたにゃ。30本くらい買って、まだ金は残ってるから、家主にプレゼントみゃ。


 …家の前で、シマシマの服を来た男がピンポン鳴らしてるにゃ。


「何か用にゃ?」


「いえ、ぴ、ピザお届けにまいりました」


「頼んでないにゃ?」


「いえ確かにこちらですので開けていただけますか?中までお持ちしますよ」


「…なんでここで渡さないのにゃ?その、<まるで匂いのしない>ピザを持って何で中に入りたいのにゃ?」


アタシは、男の手にあったピザの箱を叩き落した。

…勿論、空だった。アタシの鼻をなめるな。


「オマエ、中に入ってどんな悪さをするつもりだったにゃ?」


「ち、素直に言うこと聞いて中に入れろよ!痛い目合わすぞコラ」


アタシは、左手一本で男の襟をつかむと、30cmくらい上に持ち上げ、宙づりにした。

焼き鳥は静かに降ろし、右手で瑠香からもらったスマホを出す。


「…えっと、ムービーはこれで良いんだっけ…はい、襲おうとした女に持ちあげられてるみじめな男のえいぞうにゃ~!」


「や、やめろお!降ろせこの怪力女!」


本来なら、殺すところだがにゃあ…。


「なあ、オマエ…」


アタシはスマホをしまうと、代わりにオトコの目の前に右手を近づけ、鉤爪を眼球ギリギリに近づけた。


「目ぐらい潰しておこうかにゃ…二度と愚かな真似ができないようににゃ…」

「や、やめてくれええ~」


「二度とやらないことだにゃ。この部屋にゃ、大事なダチがいるんにゃ。次に近づいたら殺す。例え10人連れてこようと、無駄にゃ。」



アタシはオトコの目の前で爪を伸縮して見せた。


「お前が見ているのは幻覚じゃにゃい。でも、誰も信じないにゃ。にゃは。…そうそう、無罪放免で帰しはしないにゃ」


アタシはわざと男が上に覆いかぶさる様に倒れて、大声で叫んだ。


「いやー、やめて!たすけてえ!!やめてええ!!」


逃げようとする男のベルトをがっちり掴んで。獣人の力から逃げられるわけないにゃ。


真っ先に、1階の大家夫婦が出てきたと思う。その後、沢山の人が出てきて、サイレンの音が聞こえてきて、警官がアタシに「怖かったでしょう!無事ですかお嬢さん!気持ちをしっかり持って…」て、流れになった。アタシは泣きまねもそこそこできるんだニャ。


 さて、色々と誤解だとか化け物がとか叫んでいた男は、何せ現行犯でなんも聞いてもらえず。さっさとパトカーに乗せられていった。ほんと、この世界の治安は良いんだか悪いんだか。一番本気で心配してくれた大家サンには、ちょっと悪い気がしたんだがにゃ。


――――――――――


「ただいま。なんかあった?ご近所騒がしかったけど。」

「オカエリ。変質者が出たらしいにゃ。まーうちに来ても八つ裂きにゃ。」


「はーん。世も末だよ、まったくよお。さて、今日は沢山パン貰っちゃったから、食い放題だぜぇ~リュカぁ。」


アタシも、そっと焼き鳥を出した。瑠香が遅かったから冷えちまった。


「アタシも働いてきたにゃ。稼ぎで飼ってきたにゃ。残りの金は、オマエにやる。家賃にゃ。」

「稼いだ?どうやって?大体なに、この量。2人で食えるかい!」

「食えるにゃ~」

「アンタは少し控えるべきだね!自慢のボデえが泣くよ?そのうち?」


「…それは困るにゃ。オトコにゃモテてたいにゃ。」

「…だったら控えろよ…焼き鳥チンしてくる。食おうぜ。」

「アタシも使い方そろそろ覚えるにゃ。見せてくれよ。」

「電気モノは教えるの怖いんだよなぁ…。」



 アタシの新しいパートナーは、口が悪くて、臆病で、優しいオンナだ。


猫は飼い主の恩を忘れるとか、誰か言ってたけど、そんなこたぁ無いんだぜ。

この新しい生活、アタシはちょっと気に入ってるしにゃ。でも、恩じゃないにゃ。友情ってやつにゃ。



…この世界の人間も、悪くないじゃにゃいか。

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