第17話 「猫くんと海」
転移モノ、ローファンタジーです。
人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。
季節は冬。冬の海、しかも海底に出かけた2人の目の前には、幽霊船。
猫くんVS水中の幽霊船。第17話です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。
第17話 「猫くんと海」
―――宇宙に行きたいなぁ。
「うける。何言ってんの!って思ったけど、魔法で行けるなら連れてってよ。」
「ふ~む、わからないな。水中でも息ができる魔法はあるから、あとは適応魔法を組み合させれば…うーん、可能かもしれない。実験が必要だな。」
「今なんてった…?水中で息ができる…!?」
「ん?」
「…そのおねだりダンスやめろ。」
「わたしの水着姿が拝めるよ?見たいでしょ?」
「…否定はしないが。うん、見たいと言っておこう。」
「わたしを海に連れてって~♪」
と、言うわけで、今回は芽唯流を海に連れていくことになった。
人魚姫にも憧れていたそうだ。少女の夢だそうだ。先日誕生日を迎えた19歳。
そのうち、宇宙にも連れて行けと言うのだろう。
言い忘れたが、2月。真冬である。
ただ、芽唯流は私の<適応魔法>を知っているので、季節感なしのおねだりをかましてきたのだ。この魔法は特定の範囲の気温を変えられるし、個別にかければ、冷たい水でも温水に感じられるだろう。
海ねえ…水着ねぇ。当然私は持っていないのだが。私の分も買わねばならんのか。
そして、芽唯流の水着姿か…。ふ~む。
さて、真冬の海岸線で水着姿でいると、何かと問題になること間違いなし。誰の目にも届かない沖合に出るしかない。
というわけで、2人で海上を飛び、完全に人気のない所まで、船影の一つも見当たらない所まで沖に出る。
ここまでくるとかなり深いはず。だが波は穏やかだし、大丈夫だろう。
私は魔法でフロートを作る。直径5mほどの、魔法を硬質化した円盤だ。水面から2mほどに固定し、足場になる階段も、波の来る方向に壁も作った。ここで準備する。
「さて、準備しますか!」
芽唯流がパーカーを脱いで水着になる。上下にセパレートのビキニタイプ。リボンの様な華やかな結び目に花のデザイン。下には短いスカート部分に細かく縫い込まれたレースが揺れる。綺麗だ。目を奪われる程に。
「いくら猫くんでも…あんまりジロジロ見ない!」
「あぁ、すまん…。似合うな。」
「ふふーん、でしょ。嬉しいでしょ?このこの。」
…さて、呪文を掛けよう。
「水中呼吸」
まぁ、この呪文はまんま、だな。これで2時間は普通に水の中で呼吸ができる。
せえので、一緒に海に飛び込む。鞄や荷物は円盤の上だ。
芽唯流は満開の笑顔で、子供っぽい笑顔でどんどん下へ潜っていく。
「あまり離れるなよ。」
さて、聞こえているのかどうか。この、はしゃいでいる19歳が。
「うおおお、カレイさん発見! あ、逃げた!」
「みて猫くん、こっちにカニさん発見!」
「海底の砂こんなにナミナミ模様なんだね~!」
「私は人魚姫!さぁお魚さんたちおいで!って全部逃げる!食べないから待って!」
大はしゃぎだ。
かく言う私は、目の前の魚を何匹か手に入れようと物色していた。
猫の姿の時には欲しくなるんだよなあ。猫だもの。
―――暫く海底散歩を二人で楽しんだ後。
「芽唯流、あの大きな魚を捕まえて帰ろう。」
芽唯流?
…居ない。どこへ行った!?見えない。
南の海とは違って、そこまで透明度が高くない。あいつ、離れたな!?
海は、悪意を持ちはしない。だから悪意感知には反応しない。
海は、邪悪ではない。当然、反応しない。
自然は優しく、美しく、時に残酷で、怖ろしい。そういうものだ。
だが、方法はある。
「魔力感知!」この海の底で魔法がかかっているものなど、アイツくらいしか居ないだろう。
向こうか…なんだ?50mは離れているぞ?
アイツ、海流に流されたのか!!
慌てて泳ぎ出す。
だが、まるで追いつけない。あいつ自身も移動し続けているせいだろう。
このままでは、じきに「水中呼吸」の効果が切れる!溺れるぞ!
慌てるな、落ち着け。方法はある。瞬時に最適解を選ぶのだ。無限の中から一つを選ぶのだ。それこそ、神速の魔術師。
「変身」
―――「あ、イルカさんこんにちは!かわい~!」
「私だ芽唯流、背中に乗れ!早く!」
「なんだ、猫くんかぁ。でもかわいい。え、もう時間?惜しいなぁ~もうちょい!」
「いいから乗れ、早く。」
芽唯流は渋々背中のヒレに掴まりながら、自分の背後を指さして言う。
でえ、あれ何…?
向こうから、ゆっくりと、海底を何かが近づいてくる。クジラかとも思ったが、明らかに違うシルエットだ。
船…海賊船!
海底ギリギリをこする寸前で。砂や小石を巻き上げながら。
大きさはそれほどでもない。10m程度だろうか。
小さなボロボロの帆を立て、左右に大砲が左右に一門見えた。
魔法の反応がある。
邪悪の反応は…ない。
にも拘わらず、水中であるのに。砲弾が飛んできた。
「障壁!」
数m手前で壁にぶつかった大砲が水中で炸裂し、波の衝撃が伝わる。
「きゃああああ!」
芽唯流の悲鳴。だが怪我一つ無いはずだ!
「慌てるな!私がついている!掴まってろ!」
イルカの機動力は流石だ。猛スピードで船の正面に回り込み大砲の圏内から逃げようとする。
正面…今度は石弓が飛んできた。これも躱す。だが先ほどより攻撃が早く危険だ。
魔法の武器であることは明らかだ。「障壁」ならともかく、パッシブのフィールドでは突き抜けるに違いない。
正面に回って初めて、船首に人影があることに気が付いた。
亡霊、か?
端的に言えば骨だ。スケルトンと言うべきか。キャプテンハットを頭に載せ、操舵輪を回す。
「ぎゃあああ!あれ見た!映画とか某ランドで観た!」
「だから慌てるな!お前の苦手なお化けじゃない!アンデッドは魔物だ!」
「え、そうなの!?でも、きゃああ!」
「うるさい!」
恐らくテレパシーの、声が頭に響く。
「「宝が欲しいか。くれてやるぞ!幸運と、勇気と、力が有る者ならくれてやる!永遠に旅する海底で出会えたお前は幸運だ。次は、勇気と力を見せろ!」」
邪悪さが無かったのはそう言うことか。
このまま逃げても良かったが、あおられては断れないな。
<水中呼吸>の時間は、もう少し…あるはず…!
「「では、お宝、さくっと頂こうか!」」
テレパシーで返す。
バリスタがより激しく飛んでくる。
「念動!」「障壁」「障壁」「障壁」「衝撃」「衝撃」「衝撃」
水の抵抗で少し呪文が遅い!
バリスタの向きを強制的に変え、上に撃たせる。
船が向きを変え再び大砲の圏内に入れようとするのを見て、斜めに配置した障壁で防ぎつつ、一気に船の下へ泳ぐ。
海底に放つ「衝撃」
船の下は人が入れるくらいに海底から浮いた。
船の真下で、私は人の姿に戻り、接触魔法をかける。
芽唯流が、あわわっという感じで私に掴まる。
「上位古代魔法、<分解!>」
船は、粉々に散った。
全ての外壁を瞬時に粉砕され、大砲、バリスタ、船内の小物。
載っていたもの、中のもの全て海底に降り注ぐ。
念のため、バリスタと大砲は衝撃で粉々にする。
「「おお、おおお、見事、見事お」」
投げ出され漂う骸骨が、バラバラになりながら賞賛を伝える。
「「魔術師か!本物だ!!昔に出会った老魔術師より上の力なのか!わはは、だから海は面白い!さぁ、くれてやる!宝箱がある!持っていけ!満足だ、満足…!」」
骸骨は、粉々になり、消えていった。
大きな宝箱が一つ、海底に落ちて来た。
だがゆっくり見聞する時間が無い、呼吸が切れる。
「転移!」宝箱を、魔法のフロートの上に転送し、私は再びイルカになって芽唯流を乗せる。
「あーやっぱこれ楽しい!GO!イルカに乗った少女!」
「うるさい!」
勢いよく水面に飛び出し、魔法のフロートの位置を確認する。
水面を走る。
「あははは!たのしーい!」
随分度胸がついてきたな。実に。頼もしいというか、のんきというか。
フロートに飛び乗る。イルカのジャンプ力は流石にすごい。
変身を終え、人に戻る。
そしてまず、芽唯流に軽く、チョップ。
「いで。何すんの猫くん」
「お前、自分が海流で流されてるの気付かなかっただろ。危なかった。」
「え、知らなかった。それでイルカになって助けてくれたの?」
答えず。
「ありがと猫くん。でも、わたしサイコーに楽しかったので、そう聞いても怖くありません!」
何という…鬼メンタル。
「だって猫くんが近くに居るんだもん。怖くないよ。」
やれやれ、負けだ。どうあがいても、惚れた女に勝てるはずはないんだ。いつの時代も、どの世界も。
「さてさて、お宝見てみようよ!」
「お前さっきまで怖いって言ってたくせに。」
「え、だってご褒美にくれる言ってたし…。」
「まぁいい。開けてみるか。」
「…ゲームみたくワナとかない?毒矢飛んでこない?」
多分、無いだろう。だが、この宝箱には魔法がかかっているな。それが何か。
完全解析する魔法は専門外。
「離れろ。<開錠!>」
芽唯流を後ろにかばいながら、離れて宝箱を開ける。
まばゆい光を放つ金貨。宝石。財宝の数々。
あー、そう言うことか。
「わー!すごい!すごいよ猫くん!お宝だぁ!!」
駆け寄ろうとする芽唯流は、一瞬こっちを見て、良いのかな?って顔をする。
うなずく。好きにしろ。その方が面白い。
芽唯流が、黄金に触れる。その瞬間、宝は煙になって消えた。
幻影だ。幻のお宝だ。
「なにこれー!ひど!ひっどー!!」
苦笑いする。だと思った。
「「わははははは、最期まで楽しませてくれて感謝する!一つだけは本物だ、くれてやる!わははは…!」」
空から声が聞こえた。
「とっとと天に向かえ、この遊び好きの海賊が!」
まぁ、悪い気はしない。
「がっかりー!」芽唯流は仰向けに倒れ込む。
私は宝箱に近づき、底に残った首飾りを拾い上げた。
芽唯流の手を取り、立たせて首に掛けてやる。
細い金で編み込まれた鎖の先に大粒の黒い真珠。結構な品だろう。
芽唯流の白い肌によく似合う。全く、本当にお前は無駄に綺麗だ。
「わたしが貰っていいの?ありがとう猫くん!」
「ま、猛者パワーのネックレスは無骨だったしな…。」
芽唯流が抱き着いてくる。
さっき自分でも少女と言っていたが。まったく、ほんとに少女なんだか大人なんだか…。
「ご褒美に、塩味で良ければちゅーしてあげます。」
「………」
…ご褒美は、ほんとに塩味だった。




