第16話 「猫くんVS兄」
転移モノ、ローファンタジーです。
人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。
(3回連続、事件の起こらない回…)新居に訪れる強敵、兄。
第16話です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。
第16話 「猫くんVS兄」
ぴろりん。なんか、メール来た。ママだ。
(今どこ?家?)
(うん、家)
(アンタんとこ、揮人が寄るって。猫ちゃん見たいって。)
(は!?にぃに来るって?聞いてないよ?何時に来るの?片づけてないよ?)
(そこはアンタが普段からちゃんとしてないからでしょ。もうゴチャゴチャにしたの?新しい部屋!?)
(してないし!)
(じゃぁいいじゃないの。猫ちゃん見せてあげてね。結構心配してるみたいだから。)
菱川揮人。たくと、って読む。25歳。大学を卒業し、パパの系列会社で研修している。
少し年の離れた妹に対して、とーっても優しい、自慢の兄。
超イケメン。182cmの長身。切れ者。スポーツ万能。非の打ちどころ無しの、
無敵のにぃに。大好きなにぃに。
とはいえ、いきなり来られるのは困るっての。
猫くんと暮らしているこの部屋を。
―――ピンポン
もう来たの!
<もしもし703ですが>
<芽唯流、俺だ。久しぶりだな。>
<いま開けるね!どうぞ~>
どうぞ、じゃねー。
「猫くん、まだ形跡残ってる部屋ある!?」
「私、居間のセット隠すから玄関の自分の靴隠して!」
「ハイハイ…」
「ハイは1回!」
「ピンポーン」
にぃに早!エレベーター早!
ここから先は、乗り切るしかない!
魔法で私と猫くんはテレパシーでつながる。これで何とかしなければ!
―――「いらっしゃい!」
「お邪魔するよ、芽唯流。」
にぃには優しく笑う。
「にぃに、久しぶり!」
わたしは背の高いにぃにの大きな胸に飛びつく。
「…相変わらず子供だなぁ、お前は。」
「さぁ、入って。紅茶用意するよ。」
「あぁ、頼むよ。外はすっかり雪だからな。…おお、綺麗な部屋じゃないか。一人暮らしには贅沢だな。相変わらず、父さんはお前に甘い。」
「にゃあ。」
「おお、くだんの<猫くん>か。初めまして。俺は芽唯流の兄の、揮人だ。」
「…私の名はレテネージ・メイフィールド。芽唯流の飼い猫にして使い魔。魔法使いだ。」
「あぁ、宜しくな、<猫くん>…。」
「宜しく。レーテと呼んでくれ。」
にぃには、軽く目に手を当てて、それから大きな体でしゃがみ込み、猫くんと近い視点で。まじまじと、緑がかって美しく、ふてぶてしく、奇妙な黒猫をじっと見る。
「…父さんと母さんを疑う訳ではなかったが、この目で見るまでは信じられなかったよ。本当に…しゃべる猫か。正直、驚きすぎて妙に冷静な自分にびっくりだ。緑がかった不思議な黒、素敵だな。指輪は芽唯流が着けたのかい?」
「驚かせてすまないな。宜しく頼むよ、芽唯流の兄上殿。指輪は自前だ。商売道具でね。」
「こちらこそ宜しく、動画とても素晴らしいな。レーテくん。」
「で、でしょ?猫ダンス反響すごいんだよ?CGってことにしてるから、某大手Gグループから技術者のオファーきちゃって大変だったよ。」
「それはまたすごい話だ。動画収入も入っているのか。」
「月平均150万くらいかな?」
「150万!?もうお前に小遣いは必要なさそうだな。」
「やだ。頂戴。」
わたしたちは笑いあった。にぃには、あまり猫くんを警戒していないように見えるし。
「おっと、トイレを貸してもらえるか?どっちだ?」
(と、トイレ!?さっき猫くん入ったよね!?便座降ろした!?)
(む、覚えがない!?)
(だからいつも言ってるのに~!何とかして~!)
「と、といれならそっちだよ?」
「にゃあ」
「何だ、猫くんもついてくるのか?」
「いやいや、兄上殿を案内しようかと思ってな…」
「そうか?助かるよ。」
「にゃ。」
「ここか、ありがとう」
(扉を開けた瞬間が勝負!)
がちゃ。
(”念動!”)
ぱた。
「ん?今閉まったような?普通開かないか?」
「私が魔法で遊んでいるうちに最近調子が悪くなってな…。」
「そうか、イタズラは程ほどに…。一度管理人に修理をお願いするといい。」
猫くん居間へ駆け戻る。
(あと、バレるのない!?)
(TVスタンドのデジタルフォトアルバムはどうした?)
(さっき止めたから猫くんのアップしか映ってないよ)
(それはそれで嫌だが仕方ないな!)
(洗面所は?)
(あ、猫くんのコップと歯ブラシ!)
(急げ!)
がちゃ。
(間に合わん!「透明化!」)
「洗面所はこっちか。結構広いなぁ。ん?どうした芽唯流?」
「いや、ちょっと捨て忘れたゴミを隠していました。」
「お前がいつも散らかしてるのは知ってるから無理しないでいいぞ?」
「いや、そんなことないし!」
(せ、セーフだな)
兄を再び居間に向かわせることに成功。
「にぃに、こっちに座って。今、紅茶とケーキ持ってくるから。」
「悪いな、頂くよ。」
(ケーキ…それ夜に二人で食べようと言ってたやつじゃないか)
(ゴメン!買ってくるから許して!お客に出せるの、あと無いんだもん!)
(むう…仕方ないな…)
「にゃぁ、私も運ぶのを手伝おう。」
「あぁ、2人ともすまんな。お、ここからの景色はどんなものか、見せてもらおうかな。」
にぃにはTV横の今の大きな窓へ向かう。
「意外と素敵な夜景が見えるんだよ。昼もいいでしょ?」
少し時間を置いて、居間の方から「そうだな、昼でもいい感じだ。」と聞こえてきた。
何だろう今の間は。
私はトレーに載せて、紅茶を2杯と猫くんのコーヒーを運ぶ。
猫くんは<念動>でケーキ2皿を宙に浮かせ運ぶ。
にぃには座って何か考えているようだった。
「お、おお…!それが…魔法か!?」
「そうだ。念動力を使っている。」
「確かに。その力があればレーテくんは最高のボディーガードになれそうだな。」
「芽唯流の父上にも約束したからな。」
にぃには、猫くんからケーキを受け取る。
―――「どれどれ、おう、丁寧な作り感があって旨いな。」
「でしょ?最近のお気に入りなんだよ~。」
「レーテくんは良いのか?」
「私は猫なので、後で鮭チップスでも買ってもらうよ」
(ごめんってば~)
「レーテくん、芽唯流はしっかり家事をしているか?大学ではちゃんと真面目にやってるか?コイツはモテるだろうが、変な男に付きまとわれてはいないか?」
「本人の前でいきなり何を聞いてんのよ、にぃに!」
「外食が多いぞ。普段あまり料理していなかっただろ。大学は真面目にやっている。あと、男は…」
「ハイ、その話はすとーっぷ!猫くんも余計なこと言わない!」
「前に付き合ったとか話を聞いた時は3日後には別れていたな、兄貴としては心配にもなる。」
「余計なこと言わなーい!」
「私が思うに、芽唯流が意外と男になびかないのは、貴殿のせいも有るのではないかな?兄上殿。」
「俺のかい?」
(意外とってなに!?)
「兄上殿は中々に魅力的な男性の様だ。見慣れた男性がそれではな。」
「…確かに、コイツは小学生の頃、にぃにより格好いい人とケッコンする!とか言ってたけどな。」
(うう、恥ずかしい…)
「…父さんの眼鏡にかなう男だと良いな、俺の眼鏡にも。」
「レーテくん、一つお願いがあるんだが。動画のダンス、実際に是非見せてくれ。どうだい?」
「え~?」
「…では、僭越ながら。」
(え、いいんだ?)
「客に芸を求められて逃げるようでは、吟遊詩人としては2流と言うもの。」
「母さんに見せたいんだ。動画も撮らせてくれな?」
「…芽唯流、私の横でお前も一緒に踊ろう。せっかく練習していたのだから兄上殿に観てもらうといい。」
「え~」
「そうなのか?良いね、是非頼むよ」
「し、仕方ないなぁ…」
(余計なことを…)
(まぁ、いいじゃないか)
スマホのアプリON、ミュージックON。じゃーん♪ まず最初に肩を上下させて♪、させながら前に半歩ずつ♪、足をクロスさせながら腕は腰♪
猫くんとシンクロさせつつ、しかし1番の7割ほどでわたしは力尽き転がる。
「あはははは、だめだぁ、あははは!」
「まだまだだな!しっかり私についてこい!芽唯流!」
「おお、これはすごい!芽唯流も大したもんだ!」
あははは、可笑しい。にぃにの前で踊るなんて、中学生以来だ。
ははは。
―――「さて、じゃぁ、そろそろお暇するとしよう。」
「うん、また来てね、にぃに!」
「レーテくん、芽唯流をよろしく。俺の自慢の妹でね。綺麗で、優しくて芯もある。人を見る目も、観察力もある。ただ…。」
「ただ、相変わらず隠し事は苦手らしい。詰めが甘いというか、抜けているというか…。」
「な、なによう?」
にぃには、上着を肘にかけて玄関に向かいながら、
「レーテくん、ついでと言っては申し訳ないが、魔法について聞いていいかな?」
「何なりと?」
「犬に変身とかもできるのかい?」
「お安い御用だが?」
青い光。猫くんは白黒のぶちのある格好いいワンちゃんに変身。
「虎でも?」
「こうか?」猫くんは迫力満点の虎になる。
「すごいな、では、人間には?」
「…あぁ、まぁ、なれる…」
猫くんは、<猫くん>になった。
にぃにとは正反対の、中性的な美しさを持つ、アイドルのようなあの姿に。
にぃには、猫くんに一歩近づき、「金髪は地毛なんだね」と言った。
そう言えば、にぃに昔から堅物で、髪を染める若者があまり好きじゃない。
にぃには、私達の後ろ、TVモニタースタンド上の…デジタルフォトフレームを指さす。
!!
いつの間にか再生ボタンが押されていたそれは、猫くんのダンス写真や、2人で出かけた時の写真、照れくさそうに猫くんがわたしの肩を抱き寄せている写真…が順に再生されて行く…。
靴を履き、コートを羽織る。にぃに。
「その写真の彼も、金の指輪を2つしているな…。」
「そ、それは…あの…にいに…。」
「…お見事だ、芽唯流の兄上殿。私に一泡吹かせるとは。やられたよ。」
にぃには背中を向けたまま言う。
「ま、確信まではなかったんだが…。大学入りたてで、お前にそんな男が居るとは…。どうしてくれようかと思ったが、先程のダンスで…。」
にぃには、ちょっと複雑そうな顔をしつつも、微笑む。
「…あんな笑顔で一緒に踊られてはなぁ…あんなに幸せそうに…。」
にぃに!
わたしは兄の胸に飛び込む。
小さい頃みたいに、にぃには優しく頭を撫でてくれる。
「だが、ふしだらな生活を続けるのは許さん。こうなった以上、きちんと婚約しろ。3か月以内に、父さん母さんを説得して見せろ!将来のビジョンもしっかり説明して、大人として親を安心させろ。」
「3か月!?」
「わかった。」猫くんが答える。
え? う、嬉しい…けど。
わかってんのかなぁ、親の説得なんて、得意の力押しじゃ無理なのに。
「魔法で心を操るようなズルは無しで頼む。」
「私はそこまで高度な精神魔法は使えないよ。兄上殿。専門外だ。」
「レーテくん、一度、芽唯流抜きで飲もう。」
にぃには、猫くんに手を伸ばした。
「妹を、泣かせないでくれ。」
「…私を信用してくれるのか?」
「…芽唯流の、人を見る目を。」
「ありがとう。兄上殿。」
猫くんはにぃにの手を取った。
――――――――――
「…見事な、兄上だな。」
「うん、自慢のにぃに。大好き。でも」
わたしは猫くんにもたれかかりながら続ける。
「そのうち、猫くんの、にぃに。にもなるんだよ。」
「大した観察力。さすがお前の兄。紳士的で、よい男だ。…とはいえ、270歳年下にしてやられるとは。正直、悔しいな。」
「…聞いてんのかコラ。」
3か月でパパママを説得。うん、可能だろうか。
…大勝負、近し。




