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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第15話 「猫くんのクリスマス」

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。


(今回も、事件の起こらない糖度回)猫くん、初めて迎えるクリスマス。

第15話です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

第15話 「猫くんのクリスマス」



12月23日。


内緒で頼んでいたソリは無事に出来上がった。


「兄さん、イベントで使うのかい?」


「ま、そんなとこだ、」


赤を基調に白と金銀で装飾、絵本の通りの出来栄えだ。報酬は弾もう。

後は、トナカイだが、この地方に居るのは鹿だし。


召喚でいいか。お前達にソリを引いてほしいんだ、明日の満月の空を。とね。



 さて、クリスマスの下準備はそんな所だが、肝心のプレゼントが決まって無い。

街に行って買って来よう。クリスマスには恋人にプレゼントなんだろう?


元々裕福な家庭に育ったアイツに何を渡せば喜ぶのだろう。世の中のセンスとはかけ離れているであろう私の感覚で大丈夫なのだろうか。


この際、魔法のアイテムとか?

覗くたびに、ただひたすら褒めてくる鏡とか。

ゲームみたいにジャンプ<してしまう>ハイヒールとか。

絶対外れるダーツとか。



あー、だめだ。どうしても素直な品を渡したくない。意地悪したくなる。


そう言えば、アイツは今頃、瑠香と遊んでいるんだったか。今が買い物チャンスだ。世の男たちが買っているものを観察すれば、ある程度の方向性は掴めるに違いない。よし。行くとしよう。



私は、ソリを受け取ると、即、魔法で<小さく>した。まるでおもちゃの様だ。


「あれ、お客さん、ソリどうしました?」


「あぁ、今しがたトラックに積んだよ。」


ポケットの中だが。


「え?エライ早いですね」


「プロだからな。ありがとう、良い仕事だった。」


契約より多く渡し、男の顔が綻ぶ。


道の曲がり角を過ぎて見えなくなったところで、テレポート。


「あの人、なんで一緒にトラックに乗って行かなかったんだ?」

男のつぶやきは私の預かり知らぬところだ。



 翌日。


…目論見が外れたのは一本の電話。芽唯流の母親からの電話。


「猫くん、イブの夜は実家に行かなくちゃになっちゃったよ、ゴメンね…。うちの家族は猫くんを猫くんとしか思ってないから…。一緒にウチ行こうよ。」


「うーむ、それなら芽唯流、今回、私は遠慮しておこう。家族で過ごす時間は大切にした方がいい。私が行ったら気が休まらないだろう?母上殿も、父上殿も。」


「えー、大丈夫だよ、行こうよ。」


「次の日帰ってくるんだろう? 私のための時間はそこでくれればいい。」


渋る芽唯流を説得。実際に、芽唯流の家族の心情を慮れば仕方のないこと、私は、芽唯流の家族にとっては、<招かれざる猫>だろうから。


ランチまでは二人で過ごし、芽唯流は夕方には実家へ行くことになった。



プレゼントは25日だな。ケーキも。



―――――


 芽唯流を送った私は、ぶらぶら夕方の街を歩いた。

いつもながら、帽子を深くかぶり、金色の髪は見えないようにしながら。


なるほど、カップルや家族連れが多いな。

この時期特有の音楽。赤に金銀、特有のデザインに彩られた街並み。

華やかで、美しい…。


どこの店も忙しそうだ。故郷の感謝祭にも似た雰囲気。嫌いじゃない。



…では私はどう過ごそうか?


 一人で喫茶に入り、コーヒーを飲み、数刻。

街の人々を眺め、結局することが無いので部屋に戻ってきた。

猫の姿でうろつこうかとも思ったが、寒いのでやめた。


 電気をつけ、TVを付け、ゲームなどつけてみる。実はお気に入りのファンタジーRPGがあるのだ。

当然、使うのは<魔術師>。いつもは芽唯流の<僧侶>と組むのだが、今日は一人でIN。


…よく考えると、私もすっかりこの世界に馴染んでいるな。



「よ、ディップさん。」「こばわ、nekoさん。今日はmerちゃんは?」


「実家さ」


「そかそか^^イベ行こうよイベ」


私はゲーム内の友人とクリスマスイベントをこなす。限定アイテムは、<サンタ服>。

芽唯流の分もやっておいてやろう。


2時間ほど時間を潰し、落ちる。

さて、ドラマでも見るか。ここでもクリスマススペシャルか。どこもかしこも、だな。



…芽唯流が居ないと、広いんだな、この部屋。静かだな、この部屋。


神速の吟遊魔術師も、やることが無ければただの暇人か。


アミルがいなくなってから、ずっと一人だった私がこんな日を過ごすとはな。


やはり、一緒に行けば良かったか? はぁ、格好悪くて言えるセリフじゃないぞ。


男は、格好をつける為に損を取れるものだ。



 300年戦い続けて得た力。300年の血塗られた日々。

その中でわずかに輝く彼女らとの日々。私は本当に大切にしていたのだろうか。


クリスマス、ね…。


窓の下の煌びやかな光が、装飾の暖かい光が、こう言ってる。

<お前の300年よりこの1日の灯の方が、尊いのだ。>


悔しいが、その通りかも知れない。


 あぁ、夜に一人で考え事をすると、ろくな考えにならないという。こういうことだな。

辞めだ、やめ。ワインでも飲もう。私にはあまり意味の分からない、クリスマススペシャルのバラエティーを見ながら。




―――菱川邸、わたしの実家。


 「…で、今までどんな魔法を見たの?」


「そうねえ、炎を呼んだり、テレポートしたり、バリヤー張ったり空を飛んだり。空を飛ぶのヤバいよ~楽しいったらもう!」


 家のオードブルを囲みながら、仕事で来れなくなっちゃった兄を除いて3人、パパとママとわたしは暖かい時間を過ごしている。

そろそろ9時。猫くん、ご飯食べたかな。美味しいの食べたかな。めんどくさがって何も食べていなさそう。きっとワインとチーズ位。


「芽唯流、ケーキ、食べようか。」


「太りそうだけど、少しだけ貰おうかな、せっかくだし。」


「切ってくるわね。あ、切る前に写真撮るんだっけ。」


絶対に3人では無理なでっかいケーキが出てきた。


「無理でしょ。コレ。パパ、考えて買ってきてよ。」


「ワカさん達にもあげるから良いだろ?」


猫くん、ケーキ冷蔵庫にあるけどきっと食べてないよね。


サンタは当然として、猫ちゃんがのってるんだよ。可愛いんだよ?



 10時。そろそろお開きになって、わたしの部屋に比べるとヤケにでかいTVを見ながら、紅茶を飲み、他愛無い大学の話をする。そう言えば最近すっかりサークルに出ていないな。


パパママの話の中心はやはり猫くんの質問が多くて、わたしは少々疲れる。猫くんの正体がバレないように言葉を選ぶのが疲れる。



 11時30分。先に部屋入るね。お休みなさい。パパ。ママ。

実家のわたしの部屋はそのまま。ほとんどの家具がそのまま。寮に入る際、大半は新調されたので。


あと、30分で12時。クリスマスイブ、終わっちゃうなぁ。

パパママとの時間は大事。大好きな家族。素敵なママ。甘々なパパ。今日は居ないけど、格好良くて優しいにぃに。


でも、猫くんにあげたかったな、プレゼントを。猫くんと過ごしたかったな、イブを。



せめて明日は二人で…。



「ねぇ、サミーちゃん。猫くんはサミーちゃんと感覚を共有して、目の前にテレポートとかできたよね?」


胸の猫型ブローチが答える。


「はい、芽唯流様」


「じゃぁ、逆は?猫くんと感覚共有できる?猫くんの目には今、何が映ってる?見える?」


「できますが、マスターには気付かれますよ?絶対に。宜しいので?」


「うん、いい。」


「そうですか、では…」


………


………


「どう?」


「…余計な心配するな、ゆっくり帰ってこい。だそうです。」


「そうじゃないの。今、何をしてる?TVか動画でも見てる?」


「それは…」


サミーちゃんが言いよどんだ。

何。話して。教えて。猫くんがいない時は私がマスターでしょ?


「あなたの写真です、芽唯流様。フォトフレームの」


わたしは、パパとママから貰ったプレゼントのコートと、バッグを袋に詰め込み、後のモノは乱暴に鞄にすべて押し込んで、居間へ駆けだす。


――――――――――


 ただいま! 猫くん!


「芽唯流!?おかえり。どうしたんだ?」


猫くんは何か慌てた様子で、TVスタンドの上に何かを置いた。


「サミーちゃんのテレポートで帰ってきちゃった。寂しかった?」


「子ども扱いするな。明日には帰ると判っていたのに寂しいも何もないだろう。」


「ふうん」


わたしは猫くんの首に腕を回す。


「ほんとに?」


「…当然だ。」


…うそつき。



「そうだ芽唯流、急いでベランダへ行くぞ。」


猫くんは思い出したように、ごまかすように、わたしの手を引っ張って窓を開ける。

そしてポケットから小さな模型を取り出し、呪文を唱えた。


「復元」


ベランダに横付けされる立派な木製のソリ。赤と金と銀と白。今日の為に?いつの間に?


続いて唱えた呪文で現われる4頭のトナカイ。鞍にロープが巻き付く。


「迷彩魔法で囲んである。人の目には見えない。寒くも無いようにしてある。乗れ。飛ぶぞ。」



 猫くんのプレゼントは、クリスマスの夜のサンタ飛行。


月に向かって飛ぶ美しいソリに乗って、わたし達は並んで座る。

綺麗!夜景を謳う街並みも。白く輝く月も。何もかも。この瞬間も。


神速の吟遊魔術師は、有り得ない驚きを、刺激的な出来事をいつもわたしにプレゼントしてくれる。へへ。


「猫くん、メリークリスマス!」わたしは、猫くんが持っていないはずの腕時計を渡した。


猫くんのイメージに合う、ゴツ過ぎず繊細で綺麗な、アナログの腕時計。猫くんの為に飛んで帰って来たんだよ。今日が今日であるうちに帰って来たんだよ!喜んでほしいな!


猫くんは、少し照れくさそうに、目を細める。


「ありがとう、芽唯流。これは大切にする。美しく力強いデザインだな。」


そして、ふふん、猫くんが横に袋を隠しているのも見えているぞ。さぁ、わたしに愛を語って早く寄越したまえ!


だけど、猫くんは再びポケットをまさぐって、ひょいとリップを取り出して、


「メリークリスマス。芽唯流。これは魔法の口紅だ。これを塗ってキスをすると3時間は取れなくなるという呪いの…」


この期に及んでそういうの持ってくるか!この場面で!この最大の口説き場面で!イブの月の夜空で!



わたしは猫くんの手からリップをひったくり、超テキトーに塗って、即キスしてやった。


「ほわえははっへへはんへほほふふんふぁ!!」


「ふうひゃい!ほんはほほへふはへふほはへははふひ!」


「ほへひゃはほふはふはへはいはほうふぁ!!」



月をバックに飛ぶ美しいソリの中、わたし達はキスしたまんま、暫くのたうち回ってた。




おまけ。


 サミーちゃんに助けてもらい、ようやく呪いを解き、猫くんが隠し持ってた本当のプレゼントをGET。わたしのコートによく似合うブラウンピンクの、ゴシックで素敵なブーツだったよ!気に入ったのが見つかるまで国中をテレポートしまくったんだって。ふふ。




仕方ない。素敵な夜、あげる。


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