第13話 「猫神様の降臨」後編
転移モノ、ローファンタジーです。
人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。
魔方陣から出て来たのは、人を襲う甲虫の群れ。人々の目の前で、ついに猫くんが魔法を使う。
第13話後編です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。
第13話 「猫神様の降臨」後編
「そこはどこだ!?」
「穂礼市の道の駅!真上に魔方陣があるの!邪悪なやつ!」
「フィルとサミーは居るな。じゃぁ、帰ってこい!」
「そ、それがここには沢山の人がいる所なの!わたし達は逃げられても、出てくるものによっては沢山の人に影響が…死んじゃうのかも!助けて、猫くん!」
黒雲の魔方陣から、ついに何か、が無数に飛び出してきた。
黒い煙? 黒い点? 鳥?
無数の、小さい、何か。悪意を持った、何か!!
「何か、鳥みたいな小さいの沢山でてきた!!」
「待ってろ!今飛ぶ!お前は建物に入れ!いざという時は<鉄身>を使え!」
電話を切って、勇気を出して大声で叫ぶ。
「みんな、中に入って!!急いで!!」
わたし、叫びながら、瑠香と一緒に入り口に走った。
子ども連れの多くは、危険を察知して中に入ってくれた。
何人かの若者は「すげー、上げようぜすぐ!」とか言いながら、スマホを向けてた。
「早く!早く中へ!」
「芽唯流!ダメ!」外へ出て連れ戻そうとした私を瑠香が止めた。
上空から、黒い点が押し寄せる。理解できた。虫、だった。
外に居た数名は、あっと言う間に黒い点に包まれた、わたしは顔を背けた。
車中に逃れた人も居た。
突然、大きなガラス扉の内側に、数名の若者が光に包まれ現れる。先ほど黒い群れに包まれたように見えた人たちだ。
こんなことできるのは一人しか居ない。
心の中に希望が灯る。
それでも、館内は悲鳴と絶叫であふれていた。
虫たちはわたし達の逃げ込んだ建物の大きな窓に、ガラスというガラスに。びっしりとへばりついた。大きな、コガネムシのような甲虫だった。わたしと瑠香はお互いに抱き合って支えあいながら、猫くんを探す。
「こんなの警察でも意味ないじゃん!」
「フィルちゃん!サミーちゃん!」
「主が近くに居ます。ご安心を。芽唯流様」
「その通りです。我々は防御にのみ徹します。」
「お、おい!上!!窓があいてるぞ!!」誰かが叫ぶ。
採光窓なのだろうか。感染症対策でご丁寧に、複数の窓が少し開いていた。
「虫が、来る…?」
そのとき。一匹の黒猫の姿が採光窓に見えた。猫が窓を叩くと、不自然に窓は一斉に閉まった。
「助かった!?なんだ?あの猫が閉めたのか?そんなことあるのか!?」
猫に向かって黒い点が集まる。猫は宙に飛んだ。そして、体中から大きな炎を噴出した。
炎の光が強すぎて、最早、中央の姿は見えない。
ただ、判っていたのは、私のヒーローが来てくれたこと。
<神速の吟遊魔術師>が戦っていること。
「猫くんー!」
炎の塊は、次々と別の炎を発射し、虫たちを焼き払う。
最期には、建物を揺るがすような大きな風が巻き起こった。
渦を巻くように吹いた風は、建物に取り付いた虫も、地面に居た虫も、
少し降り始めていた初雪も、全て空中の一か所に集めてしまった。その様子はもう、窓からも見える。
きっと、いつか使った「吸収」の強力版。
そして、一か所に集まったそれは、大きな火炎に包まれて、消えて行った。
中央には、ただ一匹、黒い猫の姿が残った。
上空の魔方陣のような雲は掻き消え、夕焼けの空。
<人間たちよ>
全員の頭に響くような、声が聞こえた。きっと猫くんの魔法。集団テレパシー?
<動画を撮っていたものは消せ。ネットにも上げるな。私が当局に捕まりでもしたら、今度は助けることが出来ないだろう>
<もし、命があったことに感謝してくれるなら、動画を消せ。この後の警察の証言にも、私のことは言うな。私は…>
<私は、この世界でわずかしか居ない、魔と戦える者の一人。>
猫は、次の瞬間に消えた。テレポートだ。
わたしと、瑠香の姿も消えた。フィルちゃんとサミーちゃんが魔法を使った。
――――――――――
…その後。
わたしの家に無事着いた3人は、安堵の息をつく。
すぐに、TVを付けたけど、その時も、その後も、道の駅の事件は何一つ放送されなかった。
後から知ったけど、どうやらあの場に居た全員が口外禁止の軟禁状態におかれ、スマホも全て取り上げられ処理されたらしい。勿論、あっという間に消えたネットのあやふやな情報なんだけども、わたしには真実に思える。
最初に何人か撮ってた、魔方陣の雲はしっかり映像に残り、ネットに上がったけど、これも間もなく消えた。
ちなみに、猫くんの言うには、仮に素人が真似をして魔方陣を描いても無理とのこと。教授の時にはミニデーモンが手伝っていたわけで。
人々を救った黒猫の噂もまた、僅かな人数の知る都市伝説となった。
嬉しかったのは、多分。猫くんの言葉にあの場の多くの人が従ってくれたこと。
猫の姿も、虫の姿も、ネットにはほとんど上がらなかったのだ。
多くの人は、感謝をちゃんと実行してくれたんだなぁ。
「ねぇ、猫くん?」
人の姿に戻った彼はソファを占領して横になって、何かずっと考え込んでいた。
わたしはソファを背の側から覗き込むような形で、猫くんに問う。
「…わたしには、包み隠さず教える約束。」
「仕方ないな…。」
猫くんは両手を伸ばして、覗き込んでいたわたしをソファの側に引っ張り込んだ。上にどかんと乗っかる形のわたし。
自分でやっといて、猫くんは「げふっ」と言った。後で死刑な。
「あれは、私が通ってきたような次元の割れ目ではない。魔方陣召喚だ。しかも見たことのない文様の。あの大きさで召喚できる者が、どこかに居る。近くとは限らないが。」
「魔術師?猫くんと同じ?」
「判らない。強力な魔力を操るものとしか言いようがない。先日のデーモン以上の…な。」
「うそお…」
「いや、でも、今日はこっちに都合のいい可能性も確認できたんだ。」
「??」
「国際救済センターで、ごく普通の親子だったが…あちらの世界の人間に会ったよ」
「猫くん以外にも異世界の人が!?」
「そうだ、ならば…戦える人間も居るかも知れない。最高なのは、私と共に魔神と戦った仲間が来ていることだが…。有り得ない偶然とあきらめていた。だが違った。それだけ大きく、あの世界とこの世界は繋がっているらしい。」
「…敵が何だろうと…この先何が起きようと、お前は…守る。心配するな。」
「うん…。信じてる。……で…その背中の手の動き、何?」
オイ。この間お願いしたヤツ。まだ買って無いよね!!
猫くんてさ、思ったより!思ったよりも…! もう!!




