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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第12話 「使い魔VS使い魔」後編

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。


たまたま目にしたニュースは、魔法の香りがする犯罪。猫くん、勝手に動く。


第12話後編です。TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

第12話 「使い魔VS使い魔」後編



 さて、瑠香の占いが魔力による正確性を持っているとはいえ、あくまでもその予想は大雑把なもの。または断片的なものだ。それ以上にスゴイ能力なら彼女にギャンブルでも勧める所だ。まぁ。意地悪を言うつもりはないが、多分無理だろう。


南東・悪意

水瓶・噴水。

月と水


この情報を基に、次の事件現場を割り出すというのは骨が折れる。

私は、この街から南東に位置する大きな町をタブレットの地図上で探した。

次に、月、でヒットする建物、公園、町、エンブレム

噴水のある公園…は意外と多く、当てにならない。

水瓶、は意外と少なかった。


<三日月湖>。この人口湖の湖畔にはキャンプ場をはじめ大きな公園があり、憩いの場には中央に水瓶を抱えた女神の像。瑠香の占いは実に見事なものだ。ここまでは。

で、この街の何処が狙われるというのか。私にわかるはずもない。わからないのだから、見るしかない。現場は三日月湖に近いのだろう。そう決めてかかる以外にない。


だから私は、三日月湖の上空でただ、待った。いつかの様に、魔力探知を100倍に広げて。



 一粒の魔力が湖から左の市街地に見えたのは2時間も経ったころだろうか。

比較的大きい建物が多いところを見ると、高級住宅街と言うやつか。私は、その光に向かい。透明を維持しながら近づいた。


一台の黒い車の中に魔力の点が見える。周りに数台止まっている所を見ると、三日月湖周辺のフリーパーキングエリアなのだろう。車か。乗ってみたいものだ。


扉があき、魔力の点が増える。5つ。

形で判別すると、4つは人間、1つは私と同じように猫だろう。

どれも、透明になっている。一直線に、近くにある家に向かっているように見える。

大き過ぎることもなく、だがつくりは立派で、どことなく歴史を感じるし、周囲の家より上品な感じがする。


私は距離を詰める。

扉の入り口に来ると、5つの反応の前で扉が勝手に開いた。


あぁ、「開錠」の呪文を唱えたのだろう。小さな魔法反応の一つだけが、すぐにその場を立ち去った。向かう方向から考えれば先ほどの車。


4人と思われる透明なそれは、侵入を開始する。

私も即、後ろから入った。宙に浮いたまま。透明なまま。


「おい、ばばぁも居ねえじゃねえか。金の場所わかんねえだろこれじゃ?」

「知らねえ、ジジイと車に乗っちまったんだろう?とにかく探せ!」

「どこだ?時間ねえぞ急げ!」


ポルターガイストのいたずらの様に、家内のあらゆる所が勝手に開いていく。


「ああ、ここだここだ、思ったより少ねえが、あったぞ!」

「こっちもだ!多分この箱が宝石箱だ」


…頃合いのようだな。カメラが順調に作動しているといいが。

私は小声で、呪文を連続で唱える。

「透明解除」「…解除」「…解除」「…解除」「盲目」「盲目」「盲目」「盲目」「麻痺」「麻痺」麻痺」「麻痺」

最期に、入り口を魔法の鍵で閉め、警察に連絡を入れた。

公衆電話というのは随分数が減ったそうだが…。こんなに便利なのにな。

いつぞやの失敗は繰り返さない。私はドラマで見た背の高い老俳優「っぽく」変身した姿で警察に空き巣の疑いありと電話する。


さて、何分経ったかな?


家のことはもういい。警察に任せよう。

今頃は防犯カメラの前で素顔をさらした上に、麻痺で動けず転がっているはず。時間は十分に稼げるだろう。


 さて、次の本当の戦いへ向かおう。

ただし、サミーの魔力はもう、限界だ。帰るだけで精一杯…。


一度、本体である芽唯流の隣に意識を戻す。

「あ、猫くん。終わったの?戻ったの?」

「もう少しだ。芽唯流、ずっと居たのか?」

彼女の汗ばんだ右手を、私は愛しく撫でた。

「私の心配は無用だ。この世界で、先日のデーモンに勝てる人間が何人いる?それだけ私は強い。もっと安心しろ。」

彼女は何か言いたげだったが、「あ、トイレ~」とその場を離れた。


彼女は許してくれるかな。私のこの後の行動を…。



 ―――さて、再び三日月湖へ。

そして、首尾を待つボスの所に私は向かう。当然、あの車だろう。


黒い車の中で優雅に休んでいる黒猫に、私は挨拶した。

挨拶と言っても、魔法でいきなり扉を開けてやったのだが。


中に居た黒猫は、片目が無く、色艶は良くなかった。

驚きを隠せない黒猫は、即座に魔法を唱えてきた。


「ライトニング!」

「避雷!」


私もひょいと車に乗り込んだ。

ボクサーのフェイスオフの様に顔を突き合わす。

車の近くに不自然に落ちた雷がアスファルトをぶすぶすと焦がしていた。


「…何者だ?」

「お前と同じ、使い魔を通じて話している魔術師。」

片目猫がニヤッと笑った。

「…名を聞こうか?」

「お前は本名をいきなり相手に教える馬鹿か?」


片目の黒猫はもう一度笑った。

「…その言葉…お前もゲートを通ったクチか。実に稀な出会いだ。何の用だ?お互い友好だといいな?」

「お前の部下は今頃、間抜けな姿をさらして警察に捕まっている。魔法の部分は解明できなくても現行犯だからな。戻っては来ないぞ。」

「ふん、残念だが味方では無さそうだな。」

「あぁ。残念だがな。最近じゃ正義の味方をやっている。」

「ぷ、なんだそれは?」

「お互い、使い魔を通して話している以上、戦いあっても無駄だ。聞きたいことは山ほどあるがね。」

「ほう、俺も興味はあるよ。正直。同じように異界に来た魔術師が他に居るとは思っていなかったからな。」

「同感だ。敵なのが残念でならない。」

「お互い様だな」


「さて、何で片目様は手下を作って金品を狙うのかね?魔法で個人を襲った方が遥かに早くないか?」

「最初はそうしたさ。殺すも眠らせるも簡単だったな。」

「…ほう?」


「だが、俺は気が付いたわけだよ。この世界には俺たちのような存在は居ない。金、女、何でも手に入る。それ以上に。この力があれば王にでもなれる。」

「王ね…。それほど魅力的な立場とは思えんがね。」

「小さいな。フィールドを張れば銃も効かない。俺たちに勝てる人間はこの世界に居ないというのに、野望の一つも持てないとは。」

「なるほど、この世界の<ギルド>に美味しい思いをさせて、地位固めしているところを私が邪魔してしまった、って感じなのかな?」


「俺の下に着くなら許してやるが。ツヤ猫?」

「私より魔力が上ならば考えなくもない。」


「ふ、外に出ろよ。」

私は、幾多の可能性を考えながら、車の外に降り立った。遠くから聞こえるサイレンの音。

きっと、今なら人々の注目もこんな駐車場には無いだろう。


「おっと、カメラは潰しておこうぜ?」

車から降りた片目は、魔法の矢を次々と打ち出し、駐車場のカメラを全て潰した。


「…貴様、使い魔じゃないな。魔力を抑えているようだが…貴様自身が本体か?」

侵入するために複数の魔法を使い、今なお、カメラを潰すためだけに魔法を使う。

それは精神力に余力がある証拠だった。使い魔では、無理だ。


「聡いな、ツヤ猫。だが、使い魔の魔力で俺をナントカできるとでも?」

「強制解除!」

私は<解除>の魔法をかけた。ほぼ、全精神力を使って。

「うぉ!?」

片目の猫は、片目の壮年男性に変わった。私にとっては懐かしい、皮のローブ。短い杖。腰に下げた魔導書。全て懐かしく思える。


「十分効果は出せたようだな。<使い魔の魔法>ごときでな!」

「き、貴様!馬鹿にしやがって!黒焦げにしてやる!痛みは本体にも伝わるはずだったな!!」

男の魔力が膨れ上がる。やはり使い魔に化ける為に魔力を抑えていたか。

確かに、このままではこちらが黒焦げだ。だが。


男が先ほどまで乗っていた黒い車に、それより更に黒く塗れ光るカラスが舞い降りる。

着地する瞬間に、「私は」変身を解いた。

人間の姿に。レテネージ・メイフィールドの真の姿に。


すまない、芽唯流。

私は新たに<猫>と<カラス>の<2体>の使い魔を追加召喚していたのだ。

今、お前の隣で座っているのは疲れ切ったサミー。

カラスの<ネジ>は猫に変身し、私自身はカラスに変身して上空から窺っていた。


ドン。着地の衝撃で車の屋根を凹ませてしまったか?すまないな!

私もまた、もう魔力を抑える必要が無くなった。


今なら、一般の者にも、私の周囲に蜃気楼のような空気の歪みが見えるだろう。

これが私の全力の魔力。


「き、貴様は…メイフィールド!?魔道国の王!?魔王メイフィールド!?」

片目はすぐさま呪文を唱え始めた。最適解だ。逃走の呪文だな。

「沈黙」「石化」「雷撃」「…粉砕!」

奴の1つの呪文が終わる前に、私の4つの呪文が発動する。


片目は、何かきっと言いたかっただろう。

聞く気もないが。


沈黙でテレポートを封じ、体をメデューサの悲劇の様に石に変えた。…そして、最後に、石像を粉々に砕く。


雷撃は。ここから50mほどにまで戻って来ていた、奴の本来の使い魔の上に落とした。

これは予想外だったのだが、侵入した4人の内、1人は使い魔が化けたものだったのだ。

そう言えば、家を荒らしている時も1人だけ喋っていなかった。


私は、砕けた石片に向かって言う。

「我が名を知っていたとは、お前も長く生きた魔術師なのだろうが。…今の私は、お前の知っている私とは少々違った生き方をしていてね。人間は殺さないことにしているんだ。このあと、誰かが石化魔法を解除したら、お前はその場で肉片になって死ぬ。だが石のままなら、いつか神聖魔法の使い手に助けられるかもしれないな。無論、破壊魔法の権化たる私には使えない魔法だ。当てにするなよ。」


私は巨大な旋風を巻き起こし、石のかけらを三日月湖に向けてバラバラに飛ばした。

これでもう、まとまった意志すら持てまい。


あぁ、殺しはしなかった。

殺しちゃいないさ。


…本当に?


暗鬱な心。奥底に泥の様に溜まっていく贖罪…。私の通り名は、”魔王”又は”神祖”だ。

”神速の吟遊魔術師”と名乗っていたのに。


本気の戦いになればなるほど、300年という年月の戦いの経験値が、私の心を凍らせていく。容赦なく。残酷に、冷徹に。


誰も見ないでくれ。今の私を見ないでくれ。


――――――――――


 テレポートで部屋に戻る。芽唯流が仁王立ちしていた。


「本物は誰?」


本当に芽唯流の観察力には恐れ入る。

「ここにいる猫くんは魔法のリングを着けていないわよね!」


黒いカラスの爪にある指輪を見つけて、「戻りなさいよ!」と凄んだ。

ある意味覚悟というか、そんな気はしていた。


人に戻った瞬間に、思いっきり、平手が飛んできた。そして、大声で泣き始めた。

キライ!大キライ!嘘つき!嘘つき!!


「ゴメン…。悪かった。許してくれ。心配させたくなかったんだ…。お前を危険に巻き込むより、騙す方を選んでしまったんだ…。二度としないから…。誓うから…。」


あぁ、こんなに、悲しませてしまった…。



 芽唯流は、夜まで許してくれなかった。別れるとすら言われそうで、怖かった。

彼女は、言わなかったが。


最期には、私に抱き着いたまま、疲れて眠ってしまった。

ベットに運んで、毛布を掛ける。


「愛している、芽唯流…。こんなに怖しい人間の私が、魔王とすら呼ばれた私が、お前にだけは嫌われたくないと思っている。」

寝顔の頬に触れて、私は言ってはいけなかったかも知れない言葉を、つい口にしてしまった。


「大学とやらを卒業したら、妻になってくれ、芽唯流。ずっと私のそばにいてくれ…お前が傍にいてくれると、人間でいられるんだ…。」


芽唯流が、眠そうな目を開けて、また泣き出した。

「プロポーズ?だよね」

「ずっと、この世界で私と一緒なんだよね…?」


「…そうだ」

私は出来るだけ力強く答えて、彼女の次の言葉を待った。


芽唯流は、ベットの上に正座し、私を向かい合わせて同じように座らせる。

2人で両手を繋ぎ合わせて、「プレです。」と言った。


「汝は病めるときも健やかなるときも、私を愛すると誓いますか?」

あぁ、ドラマで観た、こちらの結婚式の誓いの言葉か…。

「はい。誓います。」

「生涯、私だけを見て浮気しないと誓いますか?」

「はい。誓います。」

「今日みたいに嘘をつかないと誓いますか?」

「…誓います。」

「生涯、出来る限り私を甘やかすと誓いますか?」


なんか無茶苦茶になって来ていないだろうか。

「はい。できるだけ。」

「毎日、愛してると言ってくれますか?」

「はい。」


「…私は猫くんに予約されました。」

芽唯流は、泣きながら、抱き着いてきた。


私は、折れてしまいそうな細い体をきつく抱きしめながら、芽唯流に聞いた。冗談ではなく本気で聞いたのだが。

「愛している、芽唯流。愛している。どうやったらもっと伝わる?」


バーカ。


帰ってきたのはそんな言葉だった。


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