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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第10話 「猫くん VS 親」

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。


猫くんと暮らしたい芽唯流の引っ越し大作戦。当然、最大の障壁、「親」。

第10話です。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

第10話 「猫くん VS 親」



「それでね、ママ。わたし寮から移ろうと思うわけ。ちょっと離れるけどバスで10分くらいの所に、新しいマンションあるわけ。で、そこがペットOKなの!」


「アンタねえ、そんな理由で簡単に引っ越しするの?大体、今、寮なのに猫を隠して飼ってるって。ママ正直恥ずかしいわ。」


「判ってる。迷惑かけたくないから引っ越したいの。お金は自分で、何とかするから、」


「アンタの貯金はそりゃ、100万はあるでしょうよ。でもそれはあなたが稼いだお金じゃない。パパでしょ。寮にしたのも、あなたの安全を考えてのことだし。子供みたいなこと言わないで頂戴。」



ぐう。

ぐうの音もでないけどぐう。


「とにかく、もう半年近いんだから一度、顔を見せに来なさい。その猫つれて。」


――――――――――


「まったくもって、お前の母親が正論だな。」


「そんな他人事みたいに言わないでよ。猫くんのせいじゃない。一緒に居たくないの?わたしと。いたいでしょ?居たいって言えよ?」


「焦らなくても、今のところバレていないだろう。」


「いつもこうやって小声なのがもう嫌なの。瑠香じゃないけど、女子寮で同棲なんて前代未聞の大事件だよ。間違いなくネットでさらされるよ。寮にも迷惑かけるし。」


「考えがなくもないが…とにかく、お前の実家とやら行ってみよう。お前の両親がどんな人物なのかも多少興味もある。」



――かくして、猫くんは猫ちゃんキャリーに入り、2時間ほどかけて故郷の町へ向かうこととなった。

…猫くんはなぜ未だに猫なのかって?


魔法を使う場面を見られたりした時に正体ごまかしやすいから。このカメラだらけのご時世では間違いなくあり得ない存在である猫くんの決断。

んで次に、最悪、家で誰かに見られた時、猫の方がまだダメージ小だから。


外では別な人間に化ければ良いのでは…と思ったけど、彼は、「お前と2人で居るときに、別な人間の姿で居たくない。」そういった。だから、昼は猫、夜だけ人間の姿になるって。


うん、ごめん、これ、ノロケ。


猫ちゃんキャリーの中では、他の人には見えないだろうけど、足を組み小説を読みふけ、ストローを器用につかってパックのコーヒーを飲む猫が居るのだ。


あー、今日も可愛いい。午前は猫で可愛い。夜はカレシでかっこいい。


あ、ごめん、これ、ノロケ(しつこい)



――しかし、2時間後の猫くんはヘロヘロであった。


「思ったより窮屈で死にそうだった…大体、トイレはどうするつもりだったのだ」


うん、考えてなかった。


猫くんは降車前に人間に戻り、用を済ませて再び猫ちゃんキャリーに入った。


――――――――――


 さて、駅の駐車場には、既にママの車があった。


 大きめの四駆を操りジーンズにサングラス。ママはなかなかワイルドに決めているが、これでもそれなりにお偉いさんとの繋がりがある。わたしも何度かパパのパーティーに出たけど、これでもかという程のあからさまな賛辞と誘惑に飽き飽きしてる。


 パパは、おじいちゃんの跡を継いで地元のリゾート経営をしている。多分、わたしは経済的にやや裕福な方だと思う。自分でも箱入り娘を自覚してる。


あぁ、半年前に出会った魔術師と同棲してますとか言ったら卒倒するだろうなあ。


――実家に到着。


「おかえり、芽唯流。」

わたしの甘々パパが嬉しそうに言う。


「あ、今日はミドリさんとワカさん居ないんだね?」

2人の家政婦さんの名前。さすがに執事は居ません。


「いや、2人とも買い物を頼んでいる。お前に少しは良いものを食べさせたいからね。」


「ありがと、パパ。」



 居間のテーブルに着くと、早速、パパとママに猫くんのアピールをする。


「わたしの新しい家族を紹介するね。猫くんでーす。」


「? 猫くん、なの?名前は無いの?」


「いや、だから、猫くん。」


「芽唯流、ラッドが居るんだから猫は外に出すな。」


ラッドは時々家の中を走り回る大型犬。もちろんわたしとも仲良しだけど、この時には、まさか中に居るとは思ってなかった。


ばう!!


猫くんに向かってラッドが走り寄る。


「えええ!?だめ!ラッド!!」


わたしが制するより早く、ラッドは猫くんの前に到達した。パパもママも焦っていた。


が、しかし、ラッドは猫くんの目の前でピタッと止まり、く~ん、く~んと頭を下げて。奥に引っ込んでしまった。むしろ可哀そうだった。


…生き物は、本能で相手の強さを悟るんだっけ?

多分、猫くんはラッドに魔法を使うつもりはなかったんだろうけども…。


「オイ、中々堂々とした猫だな。ラッドに微動だにしなかったぞ。」


「怖くて動けなかったんでしょ?ね、ねこちゃん、よちよち~」


ママの赤ちゃん扱いは、いまいち気に入らなかったと見える。猫くんは、にゃ、と言ってわたしの膝の上に帰ってきた。


「さすが懐いているのねえ…」


「芽唯流、その猫、こっちの家で預かるのはどうだ。ちゃんと可愛がってやるし、寮への迷惑もなくなるだろう?大学を出てからまたお前の元に行けばいい。」


「嫌!嫌!絶対、嫌!!」


「お前ももうすぐ19で、大学生だ。大人の考えで気持ちを抑えることを覚えろ。捨てろと言っているのではないんだぞ?」


わたしが涙ぐんでるのを見て、甘々パパは少々困り始めたようだった。


「恩人なんだもん。猫くんは変な男たちに車に乗せられそうになった時、助けてくれたんだもん。」


嘘ではない。どうやってと聞かれても困るけど。


「どうやって猫ちゃんが助けるわけ?」


即、聞かれた。答えられなかった。


「アンタ、私達に何か隠してない?」


親のカンは鋭い。何年も見つめていれば様子で分ることも多々あるモノ。


「隠し事に協力はできないわ。」


ママの言葉は正しくて重い。



 ――そうだ、わたしは恋人との、人目を忍ぶ生活を抜け出したいだけなんだから。


まったくもってロクな理由じゃない。そんなの、独り立ちしてからのことに決まっている。親を当てにしたわたしがバカだった。悪い癖がでちゃったな。先走っちゃって。


「芽唯流を責めないでくれ。私がこういう、猫だからだ…。」


え!? しゃ、喋った!?


2人は、周りを見渡し、TVやスマホを疑ったようだった。

でも猫くんは、このわたしを溺愛するパパと、理知的で美しいママを見つめ、もう一度言う。


「私は異世界から来た者だ。見ての通り話すことも出来るし、先ほどの犬を見ての通り、そちらの常識を超えた力が使える。暴漢を追い返したのも事実だ。芽唯流が面倒を見てくれているのは、そのお礼としてのことだ。」


「猫くん!何で…!?」


「芽唯流は嘘をついていない。この化け物のせいだ。」



パパは、一度部屋を出ると、すぐさま隣の部屋から猟銃を持ってきた。


公式に取得しているライフル銃。



目の前で実弾を込める…!


「何するの!パパ、やめて!」


「娘から離れろ、化け猫!」


「来るのよ…!」ママが私の腕を引っ張る。


猫くんは自分から、わたしの影を抜け、パパの前に堂々と立った。



「勘違いされては困るが、幽霊の類ではない。化け猫は心外だ。言葉を操り、強力な魔法が使える。それだけだ。」


「それを化け猫と言わず何という!」


「彼女の守護者と思ってくれるといい。主を彼女と定めた。100人のボディーガードより強く、芽唯流を守って見せる。」



「芽唯流、パパを許せ。猫。恨むなら私を恨め。」


「恨まんよ。父親の怒りを買うのは当然と思っている。撃ってみろ。」


「やめてー!!」


――銃声が響く。

わたしは一瞬、目を瞑った。


目を開けると、猫くんは、平然とパパを見つめていた。

銃弾は、猫くんの前で宙に浮き、やがてポトリと下に落ちた。


例のフィールドは銃より強いんだ!


「嘘だろう…?」


「憑り付いたわけじゃない。彼女に惹かれ、彼女を主と定め、守ることにしただけだ。」


わたしは、ママの手を振り払って猫くんを抱きしめた。


「すまん、芽唯流。黙っていられなかった…。」

 


…それから、パパは、震える手を抑えながら努めて冷静に、猫くんに話しかけた。


「魔法使いの猫どの。その主の両親である私達には、色々と聞く権利があると思うのだがどうだろうか。」


…猫くんは、にゃあ、とうなずき、<一部の大切な話>を除いて、あちらの世界のこと、こちらに来てからのことを2人に話した。


 異世界が存在すること、異世界の穴から様々なものが来ていること、暴漢を追い払ったこと、大学の狼男は自分が倒したこと。今後も、異世界の脅威は有り得ること。自分が、それと戦える十分な力を持った存在であること。


正直、2人は全部は信じていないようだったけど、猫くんが特殊な存在であることだけは、理解したようだった。理解せざるを得ないようだった。


 パパは、頭を抱えて、「猫どのよ。親として、銃も効かないような存在が娘の横に居ることを喜ぶと思うかね?怖ろしい力を持ったものがいつ、娘を裏切るか分からん恐怖がわかるかね?まるで、野生の虎を部屋で放し飼いすると言われた心境だ。」そう言った。


「私は、芽唯流を裏切らない。」


「なぜそう言える?」


「世界が滅びても、守ると決めたからだ。それ以外に、証明するものは何もない。」


わたしは、猫くんをきつく抱きしめた。


「パパ、ママ、私の人を見る目を信じて。猫くんは、わたしを裏切ったりしない。絶対に。」



 ―――暫く、実に20分以上のパパの沈黙。


「…お前が嫁に行くときもきっと、その男を信じるか信じないかで深く悩むんだろうな…。そして、最期には信じるしかないんだろうな、お前の人を見る目を。」


「少なくともパパから見て安全性の高いマンションぐらいは選ばせてくれ。そして猫どの、私の娘を守るというなら必ず守ってくれ。娘を裏切ったら、私は返り討ちにあろうと殺しに行く。」


――――――――――


 ママが再び駅まで送ってくれた。


 車が着くと、猫ちゃんキャリーを車に置かせて、オンナの内緒話があるからゴメンね、と猫くんにウインク。そしてわたしをちょっと離れた自販機前に連れて行って、ホットのコーンスープを2本買った。ママの好物だ。わたしに一本投げてよこす。


「芽唯流…ママと内緒話しよか」


「な、何?ママ」


「まるで、恋人を紹介するみたいだったわね」


ぶっ


「アンタ、まだ全部は話していないわよね。きっと」


わたしはママに抱き着いた。

ごめんね。悪い子でごめんね。不良な子でごめんね。


「いつか、ママには話してね。パパに言う前に…。」


うん…。


泣き虫なわたしの涙を、ママがどう、受け取ったのかは分からない。

ただ、強くぎゅっと抱きしめてくれた。



―― 後日 ――


 「ママ、見てくれた?わたしの作った猫くんのダンス動画?」


「あははは、もう、2人で爆笑したわよ!パパも、こんな事させられて怒らないんだから大丈夫だろうって言ってたわ。チャンネル登録済みよ!揮人にも伝えるわ!」


「にぃに、信じないと思うよ…?」



 ともあれ、思わぬところで猫くんの株は上がっていたのだった。


芸は身を助く?


…爆笑と言われたことは、猫くんには黙ってよーっと。


――続く。

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