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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第9話 「猫くん…のわたし」その③

転移モノ、ローファンタジーです。


人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。

ついに、芽唯流に魔の手が。使い魔であるはずの猫くんは、ついに”使い魔”を呼ぶ…。

大きく2人が変わっていく第9話。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

(3/3)

第9話 「猫くん…のわたし」その③



魔方陣はくすんだ色で醜く光り、中央で渦を巻く。


「お前たちのように魔力もなければ、美しくもない邪悪な魂がいま捧げられた。予想外のモノが来る。あぁ、俗にいう、召喚失敗ってやつだ。そっちで隠れてろ」


わたし達にはまだ光の球が守りを固めていた。


猫くんは、人の姿に変わる。

「あ、メ、メイフィールドさん!?」


瑠香が気付いたけど、説明は後。もう、この子には言ってもいいか。



 魔方陣の中央から、何かが絶叫しながら出てきた。


うねった角のある牛の顔のように見える。コウモリみたいな羽もある。ゲームのトロールみたいに筋骨隆々で、しかし金属のロッドみたいなのを手にしている。


会話ができるような冷静さが有るようには見えない。あぁ、召喚失敗って、こんなことなんだろうか?


そいつは出てきた途端に、ロッドをふるった。

ロッドを振るたびに黒い雷が壁を破壊した。


コンクリートの雨は、わたし達に張られたバリアが完全に防いでくれている。


「は、面白い!デーモンか!?」

マモノがロッドを猫くんに向ける。


マモノは初めて声を出した、低くて、声自体が震えるような、そんな声だった。


「業火ぁ」


猫くんが反応する。

「火炎無効」「魔法弾」「念動」「念動」「念動」


光の玉がマモノにぶつかる。少々動いたけど、致命傷にはなってないように見えた。


マモノ…わたしにもわかる、あれが、<悪魔>なんだ…怖い…怖いよ。


「闇の雷撃ぃ」


「避雷」「火炎弾」「火炎弾」「念動」「念動」「念動」


今度は小さな炎の連弾が悪魔に当たったけど、やはり効果が薄い気がする。

まさか、あれほど強力な魔法使いである猫くんの魔法が効かないの!?


それに、いつもみたいに沢山魔法唱えているはずなのに効果が見えないのは何故!?

前に見せたような巨大な火炎球を使わないのは何故!?


「ぐおおお、破砕の暴風ぅ!」


悪魔が周り中の壁を吹き飛ばした。むき出しになった天井、広いがれきの山。


猫くんは、フィールドに囲まれてただその中に立っていたように見えた。



「悪魔、この瞬間を待っていた。上を見ろ。」


上空に、光る何かがあった。細い棒のように見えた。


猫くんは、高く掲げた人差し指を、悪魔に向けた。

その光る棒が、綺麗に縦向きに整列して、悪魔の真上高くに浮遊する。


鉄筋だった。アスファルトの中に埋め込まれた細く硬く鋭い…。


さっきまでの念動力は全て、これをかき集める為に!?


「念動拡大」「属性付与;光」「拘束」「吸引」


猫くんは、一呼吸おいて、ゆっくり言った。

「シュートだ」


悪魔に、上空から高速で鉄の刃が降り注ぐ。


ほとんどのものが命中した。


何十本もの<光属性にエンチャントされた>鋭い棒に串刺しにされ、悪魔は…。

溶けるように。消えていった。呪詛の言葉も敗者の弁も言う間もなく。

―――戦いは、終わった。



 全てが終わり、瑠香が大声で泣き始めた。

わたしだって怖かった。何度か不可思議の経験をしているけど、自分に危害を向けられたのは初めてだったから。震えが止まらない。


瑠香は、もっとひどいだろう、トラウマにならなきゃいいけど。いや。深く傷ついたのは間違いない。ゴメン。ゴメンね。あなたまで、この超常の世界に踏み入れさせてしまって…。



怖いよう!怖いい!


泣き叫ぶ瑠香を、猫くんが優しく抱きしめる。


「怖い思いをさせてくすまない。これが、魔力を持つ者の負の側面だ。残念だが、お前には魔力がある。」


「嫌だぁ、いらない、そんなのいらないよお!」


「大丈夫だ、瑠香。芽唯流の友達のお前に、当面とっておきのボディーガードを着けてやろう。安心しろ。こいつで負けるようなら、この国の軍隊でも負ける、そんな奴だ。見てろ…。」


「これが、本物の魔方陣…だ」


「出でよ、使い魔。我が分身たる魔力を伴いて我に使えよ。我は黒きしなやかなる獣を望む。出でよ、使い魔」


使い魔!?使い魔って!?


…小さな魔方陣から、猫くんより小柄な黒猫が現れた。


「マスター、私はあなたに使えるもの。ご命令を。」


可愛い女の子の声だった。


「我が使い魔の証として、我が名の一部より名を授ける。汝は<フィル>と名乗れ。そして、そこの娘、瑠香の身を守護する役目を与える。我が命なき時は全て瑠香の命に従え」


小さな黒猫は、泣きじゃくる瑠香に近づいてその手をぺろりと舐め、


「泣かないで。私はマスターの呪文を使える使い魔。どんな悪も、私と居る限り、あなたに害を及ぼすことは出来ない。守ってあげる、この命ある限り。」


瑠香は、小さな猫を抱きしめ、しばらく泣いていた。


――――――――――


 ―――わたしの部屋。改めて言うけど、男子禁制、女子寮。ペット禁止。


「猫くん、瑠香から、メールが来た。」


「何だって?」


「フィルちゃんの魔法が便利すぎてもう離れられないって。まだ怖いけど、おかげで少し安心して寝られるって。ただ…。」


「落ち着いたら、猫くんのことを教えてほしいって。驚かないからって。」


「そうか…。」


………


………


わたし達は、さっきからソファで隣に座っているものの、互いに声を掛けられないでいた。

猫くんだって、わかってて、瑠香に使い魔を渡したんだ。


だって、使い魔が使い魔を呼ぶわけないじゃない?

そんな無限ループみたいなの。あるわけないじゃん?


猫くんは、瑠香の為に、わたしにバレてしまうことを覚悟したんだと思う。


…猫くんは、使い魔じゃない…。


あの子、リュカさんと同じように猫の獣人の魔法使いなのか、それとも人間で、猫の姿をしていたのか。


「…何人も、何百も、殺してきた。守るために…」

あの言葉。重い懺悔の言葉。命じられていたとか、わたしの勝手な想像に過ぎなかった。


…でも、あの狼男の様に人を襲う存在、悪魔の様に破滅的な存在。邪悪な願望を実行した教授…。わたしが体験しただけでも、戦わなければ生きられない世界だったことが想像できる。


野生の生き物にとって、天敵と戦うことが宿命であるように。


そんな中で罪悪感の言葉を口にできる猫くんは、きっと…。


きっと、わたしが信じていた通りに暖かい人なんだと思う。



…はぁ、良く考えると、わたし、この人の前で服とか脱いでたな。着替えてるな。いやもう、考えるのやめよう。恥ずかしくてあたま爆発しそう。



「なぁ、芽唯流…」


「う、うん、何、猫くん」


「最後に、コーヒーを一杯もらえないか。そしたら、出ていくことにしよう。…だまして悪かったな…。お前には感謝している。楽しかったよ。」


「で、出ていくって…?」


「…気が付いただろう…?私が人間であることに。すまなかった。…それでも、紳士では居たつもりなんだ。許してくれ。」


「いいよ。わたしも猫くんの体拭いてたりしてたし、お相子で。それに、何となく。そんな気もしてたしね…。」


「…お前にこれを渡しておく。」


猫くんは、左手の3つの指輪をわたしに見せると、一番左の指輪を外して見せた。


「この指輪には、いざという時の5つの魔法を込めてある。これを芽唯流、お前に渡そう。心を守る魔法、障壁の魔法、転移の魔法、飛行の魔法、鉄身の魔法。これがあれば、ほとんどの事態に対処できるだろう。」


「スゴイね…」


でも、嬉しくなんかなかった。


「どの指にも自然と合うようにできている。好きな指にはめろ」


わたしは受け取った魔法の指輪をそのままテーブルに置いた。

「お別れみたいに渡さないでよ…。」


「………」


「これを付けたら自分が居なくても大丈夫って言いたいの?」

ソファの上でうずくまるみたいに足を抱える。

「…猫くんは、出て行きたいの?」


「そんなわけ…無いだろう…」


「…出て行かなくても…いいよ…?」


わたし、自分の言葉の意味、判ってる。


「…私は男だぞ…しかも、この世界の法律なら殺人鬼と言えるような、化け物だ…。」


「知ってる。」


わたしは、猫くんに体を寄せた。離れるなんて、考えられなかった。

だから、覚悟を決めて、運命をこのわずかな時間に委ねてみようと思えたんだ。


「…言葉を…くれたら、ずっと一緒に居てあげる。」


「…言葉…?私がお前に伝えたい言葉は一つだけだ…」


猫くんがわたしを抱きしめる、


「…今日のは、怖かったな…。」


「いつでも、私が守ると言ったはずだ。これからも…お前の傍にいていいなら…。」


自然と、キスをした。長く。


「私に、この言葉を伝える資格があるのかどうか…先に私の300年の懺悔を聞いてから判断してほしい…私は…」


わたしは、猫くんの口を指で止めた。


「300年分なんて、一日で聞いてられませーん。先に、言うべきこと言ってください。」


「お前にはかなわないな…」


わたしは、左手を猫くんの前に出して。

最大限の勇気を振り絞って、言った。


「さっきの指輪、猫くんの、好きな指にはめてよ。」



猫くんは、戸惑ったようだった。さんざん現代を勉強してた猫くんが知らないはずはない。

猫くんは、私の手を取って……薬指に、魔法の指輪をはめた。


「…愛している…芽唯流…」


あー、やだな、涙でてきちゃった。


一瞬で、壊されちゃった、わたしの心の<障壁>


泣きながら、彼に抱き着く。あれ、何か素敵な言葉返そうと思ってたんだけどなぁ。

一生の思い出になるようなロマンチックな言葉を使ってみたかったんだけどなぁ


何の言葉も出てこなくて、センスも駆け引きもない素直な言葉を、やっと喉の奥から絞り出す。



好き。



―――その後のことは、わたしの思い出にしまっておく。ただ、ひとつだけ。その時、彼にお願いしたんだ。


…沈黙の呪文で、部屋の音が聞こえないように…ケシテクダサイ…



――続く。

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