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魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
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第9話 「猫くん…のわたし」その②

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。

ついに、芽唯流に魔の手が。使い魔であるはずの猫くんは、ついに”使い魔”を呼ぶ…。

大きく2人が変わっていく第9話。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

(2/3)

第9話 「猫くん…のわたし」その②



 この街に、最近不可解な事件が多発していることは全国的に有名になっちゃってる。SNSでちょっと検索すると出て来る。原因を知っているのは猫くんと、わたし。


狼の死体。謎の爆発。公園近くに倒れていた謎の遺体(剣で操られていたのは、数週間経ったような遺体だったらしい)。少年を殺害した忌まわしい事件(これはわたし達は関係ない。はず。)



異界のゲートが時々開くのだと猫くんは言う。この街に出来てしまった空間の穴は、傷をいやすようにゆっくり小さくなるはずだと。完全に塞がるまで、何かが起きれば自分が対処すると。



 ちなみに、そんな異界事案からわたしを守るために、3つの魔法が掛けられている。らしい。

一つ、会話の魔法。どの世界の言葉でも理解できる。ズルいけど、おかげでリスニング絶対満点。

二つ、悪意を感知する魔法。これで悪い男が居ても早めに逃げ出せそう。不意打ちも防げるって。

三つ、物理的な攻撃を防ぐフィールド。猫くんと同じ奴。魔法の武器や魔力のある攻撃には弱いらしいけど、コレかなり安心。


わたしを案じて掛けてくれた魔法であることは判ってる。それだけでも嬉しい。ただし、フツーに生活しているだけの私には一度も役に立たなかった。


―――今までは。


 それから少し後。しばらく体調を崩し休講ばかりだった英文学の教授の講義が久しぶりにあることになった。必修でもないが、挨拶がてらで行けとのお達し。実質強制。




わたし達、英語部屋のメンバー16人は、明日の講義前にひとまずご挨拶に向かった。

古めかしい週間だなぁ。大人の社会ってこんなんばかりなのかなぁ。


教授は定年間近というだけあって、落ち着いた風貌の背の小さな先生だった。

分厚い眼鏡。でも清潔感の感じられる先生に見えた。


ただ、わたしは気が付いてしまった。


挨拶をした後、わたしに、<悪意>が向いていたことを。光って見えたわけじゃない。でも強烈に、不快な音波みたいに伝わってきた。…怖くなった。明日の講義すらも。


―――さて、


家に帰って、〇〇えもんに泣きつくがごとく、わたしは猫くんに打ち明けた。


ほう、っと冷えたコーヒーをすする猫は、しばらく考えた末に、


「明日は私も久しぶりに着いていこう。ただ、先を考えると、この姿でも人間でもまずい気がする。明日の朝に変身するから、まあ気楽に居ろ。」


「うん…。」


わたしは猫を抱きしめてお願いね、と言った。



猫くんは強い。もちろん、負けた姿を見たことは無い。でも怖いものは怖い、あの教授は何なんだろう。わたしに何の悪意を抱いているのだろう。



 ―――翌日。


4限目に予定されていた講義は、教授の都合で、大きな倉庫と小さな書斎の2か所に分かれ整理するお手伝い作業に変わった。というか、ただの強制労働。


大きな倉庫に14人、助教授がついて終わり次第解散とか。こっちに2人。教授と後2人。わたし、そして瑠香。


冷汗が流れる。しかし、表立って堂々と頼まれたし、講義時間内では拒否できず、わたしは古書整理を教授に言われるまま手伝った。決して、隙を見せなかった。暴力的な悪意な可能性も、性的な悪意の可能性も、死んでも嫌。


「君たち、良く働いてくれた。ここまででいい。紅茶でも飲みたまえ。」

絶対飲むものか。薬でも入ってるに違いない。余り嬉しくなさそうに、瑠香は紅茶を飲む。



 教授は書斎の奥から、小さな節くれた木の杖を持ち出して、わたした達に見せに来た。

「キミ達、外国の古書の中には信じられない奇跡を生むものがあるのを信じるかね?」


小さな木の杖…なんか、あれ?

木の杖から、悪意を感じる!邪悪な、悪意!


わたしは立ち上がった。

「瑠香!逃げよう!!」


わたしが言うのと、教授が呪文を唱えるのは同時だった。

「眠れ!」


急速に意識を失う。


小さく、「大丈夫だ…」猫くんのささやきが聞こえた。



――――――――――

 

 目が覚めた時、わたしと瑠香は、見知らぬ大きな白い部屋に縛り上げられていた。

寝てる間に…変なことはされてないみたい。服はそのまま。


2人まとめてロープで巻かれ、口にはガムテープが巻かれ嫌な味と匂いがした。


床には、白いラインで、ゲームで観たような魔法陣が描かれている。


「おや、目覚めてしまったか。」


白いフード付きのマントを不似合いに着た教授が居た。右手に先ほどの悪意のある杖を持ち、右手にくねくね曲がった短刀を持っていた。


短刀!?魔方陣!?


想像できることは最悪のことしかない。フィールド、効くの!?

いやだ!やめて!!瑠香も目を覚まし、全力でモゴモゴ叫ぼうとしながらもがいてる。


猫くん!! 猫くん!!


さんざ口を動かしているうちにわずかに空いた隙間から、私は全力で叫んだ。


「猫くん!!早く助けて!!」



 わたしの首にかかっていたネックレスの緑色の宝石が光る。


宝石は黒猫の姿に変わった。


「な、なんだこの猫は!?」


「お前こそなんだ、知識もなく魔法陣を描く愚か者め。」


教授は、魔法の杖?を猫くんに向けた。


「猫くん!危ない!その杖は!」


「知っている。」


「猫、焼かれろ!ファイアだ!」


猫くんに小さな炎の玉が向かってきた。


猫くんは平然と炎に向かって歩く。まるで効いていない様子だった。


教授に向かって虎のように舌なめずりをする。


「なんなんだ、こいつは!次だ!眠れ!杖よ、スリーピングだ!」


猫くんが平然と、対処呪文を唱える。


「守護結界」「霧散」「衝撃」


わたしと瑠香の周りに白い球形の光が現れ包み込む。安心できる光。きっと守る光。




霧散、と言われた瞬間、教授の杖からは煙しか出なくなった。


最期の「衝撃」、で教授は2mほど後ろに吹き飛んだ。




「質問はいくつもあるのだがな。昼間に人を攫って、この後どう逃げおおせるつもりだったのかも含めて。」



「ダメだダメだ、てんで役に立たねえなこのジジイ!」

喋ったのは猫くんじゃない。その変な杖だった!


「聞いて無いぞ、こんな猫が邪魔するなんて聞いて無いぞ!生贄を捧げれば私にもっと魔力をくれるんだろう!若返りも出来るんだろう!?まだ終わってない!この猫さえ!」


壁にぶつかった衝撃に苦しみながらも叫ぶ教授の言葉は、わたしたちを心から震え上がらせた。ハッキリ、殺すことが目的だったと言われる恐怖がわかる?


足元に転がった杖は、虫のナナフシが正体を現すみたいに、木の手足を伸ばし、不気味な木の羽を持った、小さい悪魔みたいな姿になった。


「大方、古文書に取り付いたミニデーモンにそそのかされたのだろう?教授。自分で魔法を使えた気でいたのか?全てその小悪魔が掛けていただけだぞ?」


「だ、だましたのか!?」


「少しはいい気持になれたのだから良いだろう?ジジイ。魔法使いは楽しかったか?」


猫くんは、深くため息をついて、一言。

「くだらん。余りに無知…。」


そして魔法を連続して唱え始める。


「おっと、オイラは退散退散、じゃな使い魔!本職のお出ましじゃ、逃げ帰るとしよう!」


木の羽を広げた。


「火炎」「制止」「沈黙」「火炎」「火炎」「粉砕」


知る限り、本人の言う限り、猫くんの魔法の速度は世界一速い。


え? と、木の悪魔は言いかけたように思う。


3つ目の「沈黙」、で対抗する呪文も言葉も出せなかったみたいだけど。


木の悪魔は、一瞬で、動けず、バラバラにされ、燃えカスになった。


「お前が帰るのは地獄だけだ。この世界じゃない。」



さて…。


黒猫は教授に向き直った。


「晩節を汚したな、教授とやら。この二人を殺そうとしたこと、この私が許すと思うな。」


「ひ、ひいい」


「…殺す…よくも芽唯流を…殺そうとしたな…」



あぁ、本気だ…。今まで何度も止めてきたけど。聞いてくれるだろうか。

「猫くん、その人は普通の、こっちの世界の人間だよ!?」


猫くんが戸惑った一瞬のスキを突き。


「う、うわあああああ!その、魔力のある娘たちを捧げさえすればぁああああ!!」

禍々しい短剣を振りかざし、教授はこちらに向かってきた!


猫くんは私達の前に立ちふさがる。小さな黒猫が世界で一番頼もしく見える。


「障壁」


見えない壁に剣先から当たった教授は、そのまま下に倒れた。そして、大きな呻きをあげた。


…自分の剣が、深々と刺さっていた。わたしは目を背けた。これで何度目?


教授の血が、床に広がる。


猫くんが叫んだ。

「裁断!」


わたし達のロープとガムテ切れる。



「魔方陣から出ろ!来るぞ!」


ゴゴゴゴゴゴゴ…


魔方陣はくすんだ色で醜く光り、中央で渦を巻き始めた。


――続く。

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