表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
14/56

第9話 「猫くん…のわたし」その①

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。

ついに、芽唯流に魔の手が。使い魔であるはずの猫くんは、ついに”使い魔”を呼ぶ…。

大きく2人が変わっていく第9話。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。(1/3)

第9話 「猫くん…のわたし」その①



 うちの猫は、今、ソファーに腰を掛け、あまり組めてない足を組み、両手でコーヒーカップを抱えている。世界広しといえど、こんな猫は居ない。


益々疑わしいんだけど。


しかし、やはり猫舌らしく、フーフーして冷めるのを待っている。カワイイ。



 猫くん、行ってくるね。またお昼にね。


「あぁ。」


そんないつもの朝のやり取りをして、私は大学へ向かう。


そろそろ冬も近い。公園でのお昼は無理だなあ。そうなったらどこで猫くんと食べよう?

さすがに寮まで戻るのは面倒だなあ。


あ、わたしが魔法使えたら寮までテレポート。

いや、ムリムリ。



 英語部屋に入って鞄を置く。


今日はまだ一人しか来てないのか。うん、気まずい。

…いや、気まずいなんて言ってられないんだ。わたし、彼女と話したかった。


瑠香。わたしをいつもズル子と呼んでたあなたと。


 わたしは意を決して彼女に近づく。ボブカットに丸めの眼鏡、清楚で少し背が小さく、可愛い外見の彼女。しかし結構毒舌…なのは、わたしにだけかも知れないけど。


先手を取ってきたのは彼女。


「何か用?…そういえば、最近アンタの噂で持ち切りだけど。」


「え?何で?」


「あんたさぁ、カイ先輩フったんだって?カイ先輩の目の前で金髪のチャラい男と公園ランチしてたんだって?」


あぁ、出所はあの男か。


「ズル子辞めたんだ。良かったじゃん。」


噂の件はあとから何とかするとして、まさにわたしが言いたいのはそこだった。


「わたし、瑠香にそれ言われるのずっと嫌で、腹立ってたんだけどさ。」


瑠香の目が鋭くなる。でも言わなきゃ。


「…瑠香の言う通りだった。わたしのしてたことは。可哀そうだからって2、3日つきあったのもそう。答えをずっと言わなかったのもそう。わたし。瑠香の言う通りズル子だったよ。」


悔しいけど、彼女にだけは言いたかった。目が潤んできた。


瑠香はもともと大きめの可愛い瞳をもっと大きくして、わたしをじっと見つめたあと、何故か、わたしの頭を撫でた。


「良かったね。ほんとの恋でも見つけたの?良かったね」


「な、そんなんじゃないって!」


「そんな顔をして、否定するとか無理筋だわ。相手がチャラそうなのが少し心配だけど。」


何、わたしどういう顔してるわけ今?


「あたしさぁ、芽唯流の男対処法だといつか、大怪我すると思っててさ。イエスと言っておきながら秒で別れたら、そりゃ逆恨みも買うって。」


…全くその通りで何の言い訳もできない。そして、そんなわたしを遠くから心配してくれてたわけ?


「…ありがとう。瑠香ぁ…」


朝っぱらから泣いてるわたし。


「そう言ってくれんなら、せっかくだから、一つ聞いてほしいことがある。芽唯流。」


瑠香は真面目な表情でそういった。



 ―――ここはいつものベンチ。

今日は晴れてるからまだ良いけど、もうそろそろ、やっぱ無理かな。


で、2人で来ている。わたしと瑠香で。


<あんたの男がチャラそうってのが気になる。余計なお世話だけど一度会ってみたいな。>

うちのパパかっての!?


とはいえ、わたしを見守ってくれていたらしい彼女の提案を断ることも出来ず。

本当に恋人じゃないんだと何度言っても信じてもらえず。


…猫くんを待っている次第。猫くんには<人になって>来るようにメールしてある。


あ、言ってなかったけど猫くん用に、もう一台買ったのだ。最初は戸惑っていたけどあっという間に覚えた。アイツ頭良さすぎる。



 …公園の中道から、銀に近い金髪の若者が現れた。猫くんだ。


とりあえず、わたしのカレシということで話を合わせろ、と言うことになっている。


「初めまして。私の名はレテネージ・メイフィールド。あなたが芽唯流の友人の瑠香さんか」


「初めまして…。同じ研究室の瑠香です。悪いね、お昼デートお邪魔して。…髪は染めているんですか?それとも…外国の方?ハーフ?」


瑠香は厳しい目で猫くんを見分している。


「…そう警戒しないでくれ。ただの悪人だ。出身は、言っても判らぬような小国だ。」


またそういうこと言って波風立てるこの猫は!!


「い、いあや、そんなななことないんだよ?猫くん優しいんだよ?わたしを守ってくれたり」


「…猫くん…?」


「あ、あ、あだ名なの!ほら猫っぽいから顔つきが!」


わたしは必死に流れを変える。


「さぁ、2人とも、サンドイッチ食べて食べて♪」



「日本語お上手ですね…で、芽唯流のどこに惚れたか教えてくれる?」


「はは、キミは芽唯流の保護者みたいだな」


「そうよ。この子、オトコ運とオトコの扱い最悪だから。」


ひでえ。



猫くんは珍しく声をあげて笑った。


なんだよう!


「バカで、素直で、お人好しで、情に流されやすく、前向きで、最期に無駄に行動力があって無駄に美人なところだ」


褒めてねえ! 4/5くらい褒めてねえ!


瑠香が、同じく珍しく腹を抱えて笑った。

ひでえ。


「…で、友人のキミは私と芽唯流が一緒に暮らしていることを心配したわけだな?」


あ…。

世界が凍り付いた。


瑠香の笑顔が消え、ものすごくスローモーションに私の方を見た。


…オワタ。

最早、言い訳不能。


くそ猫がぁ!!!


瑠香は、努めて冷静を装い、猫くんに次々に質問をする。

「あのさ、責任とれるんだよねキミ? 今、学生? ウチの大学じゃないよね? 仕事してんの? 芽唯流んとこ、お嬢様だけど、ヒモ狙ってんじゃないよね?」


猫くんは自分の超爆弾発言に気付かず、冷静に答える。

「ふーむ…、しいて言えば、ゆー〇〇〇ばー、という奴だろうか?」


瑠香が小声で言う。

「気に入らね…」


キッと顔を向け、「で、月いくら稼いでるのチュ〇バ―様は?」


「確か…120万くらい…で良いんだっけか芽唯流?」


わたしに振るなよ。

確かにわたしの口座にアナタの稼ぎは振り込まれてますけど!!


「ひゃくにじゅう!? マジ!? アタシ結構詳しい方だけどアンタなんか知らないよ? どんな配信してんの?」


「あー…それは…まぁ秘密だ!」


「ま、まさか!会員限定のイカガワシイ配信してるんじゃないでしょうね!まさか芽唯流との…!!」


「ち、ちがあーーーう!それだけは絶対違ううううう!!」


もう、わたし涙目。


そんなわたしにお構いなく、冷静に猫くんは返す。


「…歌と踊りだよ。」


「だから、そんな歌い手見たことないって。顔隠してる人?」


猫くんは、いつの間にか、小さな弦楽器を背中から取り出した。

「あれ、そんなの持ってたっけアンタ?」


魔法使いやがった。バレないのか(汗)


古めかしい小ぶりの弦楽器。使い込まれている様に見えるけど、高級感が半端ない。いや、きっと本当に最上級品。


猫くんは静かに歌い始めた。

静かな、バラードだった。きっと、瑠香には歌詞がわからないだろうけど。


それは恋の歌で、甘いささやきの歌で。猫のにゃーにゃーソングしか聞いた事の無かったわたしはあまりの美しい声に聞きほれてしまった。さすが吟遊詩人猫。…猫。


途中から、猫くんはわたしを見ながら歌っていた。顔が熱くなる。やめてよ。瑠香見てる。


自分でもわかってるんだ。わたし、雰囲気に流されただけでキスなんてしない。


…瑠香が見てるってば。



猫くんは、楽器を後ろ手に深々と一礼した。いつの間にか周囲にいた通行人達から拍手が起こる。

瑠香も…渋々小さく手を叩いていた。



 わたし達の前で、瑠香はタロットカードを広げてブツクサ言っている。


あれから、瑠香は、わたし達を強引に丸テーブルのベンチに移動させたのだ。アンタたちを占ってやるとかいきなり言いだして。


「あー、そういえば学祭で瑠香の占い人気あったっけ」


「自分で言うのも何だけど、結構当たるんだよ。」


猫くんは、「だろうな」と言った。


「何、アンタ占いも詳しいの?」


「…いや、まるで知らん」


瑠香は訝し気な顔をしつつ、占いを続けた。



………


「相性は良いけど…でも、怖ろしい試練が待ってる…。こんなカードの組み合わせ初めて見たような…」


「だからまだ付き合ってないって…」


「…付き合ってないのに同棲してたらビックリだよ…どんだけビッチだよ芽唯流」


「う……はい、付き合ってます…。」


猫くんは知らん顔。こういうときポーカーフェイスは強いな。



「さて、じゃぁアタシ帰るよ。メイフィールドさん。芽唯流を宜しくね。泣かしたら殴るから。」

どうやら、猫くんは瑠香のお眼鏡にかなったらしい。


じゃね。と言って去ろうとする瑠香を、猫くんが呼び止めた。


「瑠香。気をつけろ。キミには多少の魔力がある。見えるものには、見えるだろう。気をつけろ。」


「何言ってんの?そんなん、あるわけないじゃん。じゃね。」



「どういうこと?」


「お前と違って魔法の才能があるということだ」


…ムカツク。


「魔力を欲しがる存在は意外と多い。マモノ。悪魔。魔術師。そして生贄や捧げものとして…とかな。」


猫くんは何かを真剣に考えているようだった。きっと、私の想像以上に多方面の可能性を考えているのだろう。


…でも、いつも猫くんは心配事をわたしに話してはくれない。わたしは、その点は大いに不満なんだ…。



――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ