表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使い、猫くん  作者: なぎさん
13/56

第8話 「猫くんと吊り橋効果」

転移モノ、ローファンタジーです。

人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。


次の猫動画を撮影するため、山奥の渓谷に来た2人の前に、思い詰めた女性が…。

第8話です。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。

第8話 「猫くんと吊り橋効果」



「次の猫動画はゼヒこの場所で撮りたいわけ。」



「山頂付近の幅広い吊り橋で、晴れていれば峡谷の絶景をバックに猫ダンス!ほら見て、次の曲に会うと思わない?」


「で、麓までは車で行けて、そこから歩くんだって。1時間くらい。獣よけのスプレーとか鈴とか念のため必要ってガイドには書いてあるけど、これはまぁ無くても猫くんが居れば安心だよね。」


ぜえぜえ、一気にまくし立てて疲れた。


「で、車などない我々は、またまた列車の旅をして、私はリュックに詰め込まれるというわけか?」


ウチの猫は冷ややかに言う。


「いや、今日の降水確率0%です。」


「…さすがの私もオマエの日本語が破綻しているのは分かるぞ。」


「つまり。」


「つまり?」


「お空を、自由に♪飛べる魔法をかけてよ~♪(ギリギリ?)」


わたしは両手を合わせ顔の左右にくねくね。俗にいうおねだりダンスで黒猫の反応を見る。


「おい、もうすぐ19歳。」


「なぁに?300歳?」


「…まぁいいか。今の結構可愛らしかったので乗ってやる。要するにまた飛びたいわけだな。」


「うん♡」


ウチの黒猫は深くため息をついた。



 こうして、今回は山奥に向かう。


さあ、行こう!ド〇ちゃん!!(ギリギリ?)



――――――――――

 今回は、「透明化」の魔法もかけてもらった。


「飛行呪」の魔法で空を自由自在。今回は猫くんのサポート無しで飛んでみる。


仰向け飛び~いや、前見えないから危ないな。手を前に出してヒーロー飛び~。これはちょっといいな。

背中のリュックから、「電線より高く飛べよ!」と注意が飛んできたがけど、ギリギリも結構楽しいんだもん。思ったより顔に風が当たる。今度バイクのヘルメット買おうっと。



 ―――さて、晴れたお空を満喫したところで。


まず、麓の売店に立ち寄り、一度トイレタイム&おやつ補充。次に登山道も一気にすっ飛ばし。わたしたちは吊り橋の所まで一気にたどり着いた。時刻は丁度12時。ダンスの後は2人でお弁当食べるんだ。


猫くんがリュックから出て準備体操を始めた。ぷ、かわいい…、やっぱ猫くんは猫…だなぁ。


で、32mあるという、ちょい有名な吊り橋を渡り始める。別に揺れて怖いほどではないけど、とにかく高くて怖い。幅も2mはあるし、両側のワイヤーは頑丈そうだし、普通に歩ける人は歩けるだろう。


わたしは足がすくみそうだけど、実はまだ飛行呪がかかっているので、絶対落ちない。はず。



 …しかし、吊り橋のど真ん中に先客が居た。


 歳は少し上かな、20代だと思う。わたしよりちょっと大人の雰囲気。真似事のメイクを始めたばかりのわたしと違い、ちゃんとしてる。清潔感あって、柔らかい感じの人。肩まで伸びた髪は少し茶色で、ちょっと可愛い感じの…女性が、谷底を覗き込んでいた。


白に淡いモーブのカジュアルな靴を綺麗に脱ぎ揃え……足元にハンドバッグを置き。


ひやあせあ…冷汗が出る。


「ああぁあのお…、い、いいお天気ですねえ…」


わたしは勇気を振り絞って話しかけた。


「わ、わたし今日はここで動画撮ろうと思ってて、あはは、こんな人気のない所まで来ちゃいました~。ははは…あの、こちらに来ませんか、そんなとこ居たら落っこちちゃいますよ…お話、しませんか…?」



女性はわたしを一瞥して、再び谷底を見つめた。


見つめながら。

「綺麗な子…あんたみたいな綺麗な子に、私みたいな底辺のオンナの気持ちわかんないよね…」


「そ、そんなことないです、あなたも十分、す、素敵だと思います…」


「お世辞いいし。まぁ、最期に誰かと話せたからもういいかな。ありがとう。」


「ま、待って、お願いもう少しお話ししましょうよ!」



「どうして昼間に死ぬことにした?」


猫くんが、いつの間にか人の姿になって、話に入ってきた。


お、お願い止めてよ…何とかしてよ猫くん!



「は?関係ないじゃん。あんた誰?この子の彼氏?お似合いだね。すっごい美男美女で…。うらやましいよ、妬ましいよ、腹立つくらい。正直。」


「昼間なら、誰かに合うかもしれないと思って居たから、昼に来たんだろう?」


(ちょっと!そんなあおるような事を!)



「んなわけないでしょ!夜の登山道なんて、くる奴いる!?」


「一人で死ぬなら、ベストだろう。例え、道を間違えて迷おうと、崖を踏み外そうと本望のはず。」


「違うって言ってるじゃん!」女性は涙を浮かべていた。


「飛び降りるなら、止めはしない、自分の人生だ。ここで止めても繰り返すなら同じこと。死ぬがいいさ。」


「猫くん、それはひどいよ…見損なったよ…」



猫くんはわたしの非難を無視して、女性に近づいた。


「それ以上近づくと飛ぶ。」


猫くんは歩みを止めず、


「だから止めないと言ってるだろう?だが、興味はある。」


「興味!?私が死ぬところを!?じ、人生の最後に出会ったのがこんな鬼だとは、とことん私の人生最悪だよ!何一つ報われず!」


猫くんは両手を広げて言う。


「さすがにそうは言わんよ、興味があるのは、貴女の人生。何があって死を選ぶ?それが知りたい。」


「………」


猫くんは女性の手前で、橋の上に腰を下ろした。


「聞かせてもらえないか?どうせ死ぬのだろう?場合によっては、恨みの一つや二つ、家族への伝言でも請け負ってやる。」


女性は、大きく深呼吸して、大きな声で言った。泣きながら、事の顛末を。吐き捨てるように。


 ―――よくある話。と、彼女は言う。夢を叶えるつもりで入社した会社では孤立して仲間がおらず、頑張って考え出した企画は上手いこと同期に奪われた。会社で恋仲になった男にはあっさり裏切られ…。そんな話…。


「何一つ良いことなかったよ。至って平凡な私の、平凡な不幸。でも、もう耐えられないよ!せめて、終わりには、昔、家族で来たこの場所がいいと思った…!きっと、この場所は私を快く迎えてくれる!」


「…家族に謝れ…」


「え?」


「良いことが無かったって何だ?家族と幸せな時間があったんだろう?だからここへ来たんだろう?」


「今更、どんな顔で…!家に帰れって言うのよ!」


「貴女がどんな理由で家を出たのかは知らんよ…。だが、それでもマシだ。私の家族は、私が幼い時にみんな殺されたからな。」


(え!?)


―――グルルルルル…


吊り橋の向こう側に、大きな黒い塊が姿を現し、ゆっくりと近づいてきた。


え、マジ? こんな昼間から? 熊!?


動物園以外で初めて見る、大きな、大きな羆…時に人を…襲う…。


「…ね、猫くん!!」



「貴女の運が悪いのは本当だなあ。羆が来たよ。一番近いのは…貴女だな」


女性は恐怖で動けないようだった。その場で座り込み、走り出すことも出来ない。


いや、走ったらダメなんだっけ!?


女性は、地面をはいずりながら、猫くんに向かってかすかに声をあげた。


「た、たす、助けて…助けてええ」



「…その依頼、受けよう。」


走り出す、羆。


「芽唯流、飛べ。とにかく飛べ!」


言われるままに、わたしは上空に飛んだ。確かに、これならわたしは安全だけど!?


「融解」「融解」「融解」「融解」「融解」「融解」「裁断」



 獣の側、吊り橋の半分を守る全てのワイヤーが焼き切れた。

そして、2mの幅を持つ鉄板が、一瞬で切断される。


つまり…


吊り橋は<獣>を巻き込んで、真ん中からブランと突然垂れ下がった。


…彼女も足場を失い落下する!?


女性の悲鳴がこだまする…でもその体が落ち始める前に、猫くんが空中で彼女を抱きとめた。


羆は、深い谷底へ落ちていく…。


「だ、大丈夫?ですか…?」


わたしは二人の近くに飛ぶ。



 猫くんは、下を覗き込むように宙に浮かびながら、腕の中に居る彼女に言った。


「見ろ。あの獣を見ろ。きっと、全身の骨がバラバラだろう。この後、沢のカニや虫に喰われ、魚に喰われて行くんだ。」


女性は口をきつく結び、ぼろぼろ涙を流していた。


「あれが、貴女が望んだ最後だ。なぁ、貴女はあんな死を遂げるに相応しい罪でも犯したのか?」


「…してないもん…」


「貴女は、一生懸命働いたんだろう?一生懸命、誰かを好きになったんだろう?」


「…うん…」


「じゃぁ、間違っていない。その場所が不似合いだっただけだ。とっとと別な場所でやり直せばいいさ。クソみたいな職場とクソみたいな男は捨てて、素敵な職場や素敵な男と出会って、いつか忘れてしまえばいい。」


「アンタの彼女みたいに美人じゃないよ、私。ちゃんと魅力あるのかな。いつか誰か本気で振り向いてくれるのかな。」


「当然だ。」


「嘘つき。」苦笑いする彼女。


猫くんは、そのまま腕の中に居る彼女にキスをした。


「な、なにやってん…!」


わたしが激怒する前に、彼女は大声で泣き始めた。


猫くんの腕の中で。


――――――――――


「じゃぁね、2人ともありがとう。いつかまた、会えたらいいね。」


「…華凜さんもお元気で、負けないでね!」


「お前がもう一度死にたくなったら私の所へ来い。私の奴隷にでもなるか、それとも、魔法で猫にでもなって、毎日を好きに過ごすか。選ばせてやる。」


わたしは猫くんの頭をぶったたいた。


ちなみに、華凜さんが、わたしと猫くんがワイヤーを掴むでもなく、吊り橋の半分に立つでもなく、空中に浮いているのを理解してパニックを起こし、落下しそうになったのは30分前。


猫くんが魔法使いであると話をして、ようやく信じてくれたのは10分ほど前。


「私の平凡な人生、何か変わった気がするよ。魔法なんて初めて見た。そんな世界があることを初めて知った。私も…変われるよね、きっと。」


わたしは、出来る限り力強く、うなずいた。



「じゃぁな。テレポートで貴女を麓へ送る。私達のことは誰にも話さない約束、守ってくれ。」


「あ、待ってよ猫さん」


華凜さんがわたしの元へ走りより、耳元でささやく。


「難しそうなカレだけど、幸せになってね。」


「そんなんじゃありません。彼は。」


「そう?さっきキスした後、すっごい顔してたじゃん?」


「…違います。見間違いです。気のせいです。元々目つき悪いって有名です」



「ぷ、かわい。じゃね。」


華凜さんは猫くんに走り寄る。


「…転移」


華凜さんは、多分、麓の駐車場へ。



―――華凜さん。幸せになるといいなぁ。


「さて、器物破壊したことだし、向こうに人が居ないのを確認してから帰るとするか。」


「そうだよ、なんでわざわざ橋を…」



ああ、そうか…。


猫くんなら攻撃魔法で難なく撃退できたはず。


思いとどまらせるために、か。


どうせ、衝動的に飛び降りても、魔法で止めたんだろうな。



「…見損なったとか言ってゴメン。猫くんが何も考えずに言うわけなかったね…。」


「…でも、別のことでは見損なったね。」


当然、さっきのあの事を思い出したわけだけど。

ここで拗ねたらわたしが嫉妬してるみたいじゃん?


この前は…確かにわたしからしたけど、あれは、ちゅーじゃん?



下を向きブツブツ文句言うわたし。

いつの間にか猫くんが目の前に立ってた。


で、生意気にも自分からわたしに―――。猫のクセに…。


あー、これも吊り橋効果ってやつ?素直に従っちゃったよ。

ちょっと薄目を開けたら、目の端に映った、ぶら下がった無残な吊り橋が見えて、思う。



「…うん、絶対違うな。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ