第7話 「猫くんと心を読むマモノ」後編
転移モノ、ローファンタジーです。
人目を忍び猫の姿で異界を彷徨っていた魔術師と、彼を猫と勘違いし拾った女子大生の物語。
過去に思いをはせる猫くんの前に、亡くなったはずの妻の姿が。
第7話 後編です。 TRPG、RPG好きな方、お時間のある方、お暇つぶしに。
第7話 「猫くんと心を読むマモノ」後編
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黒猫の姿で駆けながら、私はリュカに言わなかった不安を思いめぐらせる。
さっきの魔物は一体だけなのか。一体しか<来なかった>のか。スライム系なら増えはしないのか。
そもそも、私を襲ったのは偶然か?狙いがあるとするなら、何だ?。
魔力が欲しいか、私を知るものが操っているか。
あれだけ精密に化けられるなら、今すれ違った子どもすら疑わしくなる。
…怖ろしい。
何もかも疑わねばならないほど、怖ろしいものは無い。
芽唯流は無事なのか?
―――いつものタコ公園に駆けつける。
ベンチは空だ、私の方が早かったらしい。
昨日の芽唯流を思い出す。
サンドイッチ、だったな。フライドフィッシュサンドの。
私を隠し連れ歩くための不似合いに大き目のリュックを背負って。
…ああ、来た来た。
芽唯流が小走りにやってくる。無事だったか。
だが。
私は判っていた。ニセモノだと。
マモノも、今気づいただろう、バレている、と。
走りながら、不自然に芽唯流の体が透けはじめ。緑色に変わる。そして私に向かって真っすぐに襲い掛かってきた。
「障壁」「障壁」「障壁」
スライムは私の意図を悟り隙間から逃げようとする。
「障壁」「吸引」「障壁」「障壁」「障壁」
判っていようが、読まれていようが、私の速度に勝てなければ逃げることは出来ない!
間に1つ挟んだ吸引の魔法は、科学番組で観た<ブラックホール>を知ることで新しく作った重力の呪文だ。
立方体に閉じ込められたマモノは。芽唯流っぽい姿をしたまま。壁に顔を近づけてくる。
「ソウカ、朝と、服がチガッタのだな…ヨクキガツイタモノダ魔術師」
こいつ、知能があるのか!
「フ、ハハ、怖レロ、もう、お前ニ安寧はナイ。誰ガ、人ではナクナッテイルカ。ウタガエ!怖れロ!ソシテいツか、ソレハ本当ニなル。」
芽唯流の顔をしたスライムは、ぐしゃぐしゃに表情を崩して笑った。
…芽唯流は大笑いしている時でも、もっと美しい。失敬な奴だ。
そして、私の心をまた読み取ったのか
「その女モ!」
「いつの間ニカ、我々にナッテ居るかもナ!?」
私は―。
私は、心から安心して、ホっと息をついた。
「アァ?」
ニセ芽唯流は私の心が一瞬、理解できなかったらしい。心から感じた安堵の理由を。
「お前に知識があってよかった…本能だけで動く生き物だったらと思うと怖ろしいよ」
「魔法デ周囲の悪意ヲ常に感じ取レル?ソんナ魔法ガ?」
「…魔法には随分無知なんだな」
「火炎結晶!」「次元跳躍!」
私は、笑った。心から、笑ってやった。
…伝わってから、死んでくれるといいな!
「悪意感知…永続」「魔力感知」「邪悪感知」
これらの感知魔法は、今夜、一つ位は芽唯流にも掛けてやろう。
ちなみに、全ての俗に言うバフが永続化できるわけではない。まず、高位の魔法は永続化できないし、数も限られる。魔力の効果同士が干渉してしまうためだ。だが、このような事例が起きては感知魔法を一つは永続化すべきだろう。これで、今、私にかかっているバフは3つ。
私は上空に舞い上がり、今唱えた 呪文の範囲を一気に広げた。
…さっきのマモノは…北西に、もう1匹いる。
上空から飛来する黒猫の悪意を、そいつは一体どのくらいの距離から読み取るだろう…楽しみだ。
私はハヤブサのように急降下し、少年の姿に擬態したソレに向かった。
…今度は私が狩る側だ。
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「猫くん、はい、今日は玉子巻きです」
「………」
「…だけだと文句言われそうなので、ウインナーもあります」
素直に両方出せば良いのに、何故1クッション入れてくる?
おまけに、私はフォーク苦手なのに、わざわざ刺して寄越す。
何を企んでいるのだ?
いいや、もう、素手だ。両手持ちだ。こちとら猫だ。
「猫くん、美味しい?」
私の為に毎日食事を用意してくれているのだ。たまには謝意を伝えておこう。
「心を込めて作ってくれたものは美味しいに決まっている。」
「ぷぷ、何その無理して褒める新婚の夫っぽいセリフ!?」
…猫の顔でよかった。失敗した。恥ずかしすぎる。
それから、芽唯流は私を膝に乗せ、
「んで、ゴメン。それも安定のコンビニ。」
と言った。
こいつ、<悪意探知>で反応するんじゃないだろうか。
…何か、試されているような…気もする。
続く。