第1話 前編
ローファンタジー・恋愛モノです。
が…初めての作品で投稿方法がわからず、短編で出してしまいバラバラだったので…正しく「連載」、かなり修正で投稿します…。
お暇な方、宜しければ…。
魔法使い、猫くん 第1話(前編)
6月15日 時刻8:40分、寮と大学の中間。いつもの公園の前を通る。
大学生活にもちょっと慣れて来たな。2か月でも色々あったけど。
朝ゆっくりしすぎて講義開始まで余裕がない。とはいえ、あと3分もあれば門の前、第二講義室まではさらに2分。
今朝の天気なら、お昼にここでフルーツサンド食べたいな。
わたしは、天気が良ければ外出したい奴なので、時々、友達も誘わずに一人ここに来る。
いつもの閑散たる大学前の団地内公園、通称タコ公園(多分全国に多数ある)には、意外にも朝から人だかりができていた。ほぼ、女性。大半うちの学生(多分)。
遠目にもすぐわかった。ベンチに一人の男性が腰かけている。気だるげに、暇そうに、で、迷惑そうに、わたしたちの方は見向きもせず。
多分、撮影なんだろうな…配信なのかコスプレなのか…わかんないけども、服装がフツーと違うもん。抑え目で光沢のある黒皮のベスト、ゴシックなデザインの金具の付いたブーツ。どこかの海賊映画で見たなぁ。でも撮影スタッフが見当たらない。やっぱコスプレ?
きれいなプラチナの髪…染めてるのかな、金髪というより銀に近いような。ハーフのアイドル?よくわからないけど、パッと見そんな感じ。なんだろうな、どこかで会ったような。そんなはずないか。
…などと考えている間に、走り出さねばならない時間になってしまった。
同じ立場の子達も慌ててダッシュ始めている。まぁいいや、アイドルにそれほど興味ないからね。いや、イケメンの方がいいに決まってるけどね…。
「おやおや、今オトコに興味ない言ってなかった?相変わらず、ズル子ですね~」
同じ英研の瑠香が通りすがりにブツクサ言ってくる。ほんわかボブカットの可愛いタイプ。入学当初は仲良かったんだけど。
ま、こういう時は華麗にスルーだ。ただ、こいつとは、いつか決着着けねばならんと思う。
――――――――――
さて、講義が2つ終わって昼。買ってあったフルーツサンドが、ノートPCに圧迫されやや潰れてしまった。悔しい。自分のせいだけどマジ悔しい。
でも天気はいいことだし、ここはひとつ気を取り直し、先程はアイドルか配信かわかんない人に占領されていた、<わたしの>ベンチが空いていることを信じて行ってみようと思う。
僅か数分で到着、わたしのベンチ。公園は静まり返っていた。朝の喧騒が嘘のよう。
いいんだよ、ここはこれで良いんだよ。時々小さい子がタコで遊んでる。お散歩のおばあさんが通る。この感じが良いんだよ。
大学前の広い道に面しているとはいえ、実に静かなこの公園。大好きなベンチ。この時間には、丁度よく優しい日が当たる。
おや?
…どいて下さい。そこの黒猫さん。せめて、もう少し左に寄って頂けますか。
わたしは、日を背負い上から見下ろして静かに猫に話しかける。
は~でも綺麗な色の猫さんだなぁ~。いや、見たことない緑がかった黒。まるで光って見えてる時のカラス。カラスの濡れ羽色ってやつだ。そう決めた。
子猫じゃないな。40cm位ありそうだし。そして。飼い猫さんだな。
綺麗だし…見たことないけど、猫って指輪つけたりするもの?しかも3つ。嫌がらないのかね?ついつい覗き込んで指輪を見る。猫サイズで小さいけど、宝石とか付いてないけど、でも素人目にも随分豪華な金の指輪に見える。
覗き込むわたしの思いを汲み取ったのか、面倒くさそうに一瞬片目を開け、猫さんは少し左に詰めてくれた。
「ありがとう、猫さん。」
わたしは真横に座る。猫さん、反応なし。
「ふてぶてしい…綺麗なのにふてぶてしい…」
わたしは鞄からフルーツサンドとミルクティーを取り出し、いつものように顔をあげて太陽チャージしてから、ぱくりと頬張った。
広がる甘い香り。程よい酸味。しみこむ生クリーム。最高。いやもう、この世のパンは全てこれで良いと思う。潰れてるけど。
ふと気づくと、猫さんがわたしを見つめていた。いや、パンを。
「猫ってクリームとか食べたっけ…いや、野良さんに餌をあげるといけないんだ、この子の為に良くない!」
わたしはそう言い放ち、さらなるひと口をぱくり。やはり猫さんは見ていた。
「猫さんさぁ、全然逃げないね。怖がらないでくれてわたしは嬉しいぞ。」
ひょいとパンを右に置き、わたしは思い切って猫さんに触れてみた。じろっと見られたけど。逃げ出さない。
更に思い切って、わきの下を持って持ち上げてみた。
「あ、きみ、オトコノコだったんだね~」
結構強めに、べしっと腕を叩かれた、猫さんはふんわり軽く着地。
小ジャンプして再びベンチに上り、フンって感じで寝転がった。
「あー、失礼しました猫くん…セクハラごめんねえ~」
猫くんの返事はなかった。当たり前だけど。
さて。面倒だけど午後の講義出るか~。2年生までに出来るだけ取っちゃいたいから、講義は詰め気味に選んである。
鞄に残りのミルクティーを詰め込んで、わたしが猫くんにサヨナラの挨拶をしたとき。
突然、目の前に二人組の男性が現れた。
気を抜いてた。猫くんに気を取られて、周りが見えてなかった。いつもなら、<こんな>外見の2人組が近づいてたら即立ち去る場面だったのに。
「いいね~かわいいね~暇でしょ?俺らと楽しく遊ぼ?」
「何ならそこの便所でもいいんだけど」
「バカお前、もったいねえって」
外見での判断で悪いけど、テンプレ的にオラついてる感じの人たちだった。
「いいだろ、乗れよ」
一人がわたしの手をつかんだ。
「や、やめてください!た、助けて」
助けて。わたしは猫に。馬鹿なことに猫くんに向かってそう叫んだ。
「…saa…」「…saa…」「dhio…」「.noir….」
猫くんが顔をあげて。聞き取れない何かを呟いた。
にゃあ、じゃ無かった。人の声だった。男の声だった。
次の瞬間、わたしの腕を掴んでいた男の手から力が抜けた。わたしはすぐにベンチの裏に回り男たちと距離を取った。
「…な…ナニコレ…?」
男たちの体中に淡く、青く光る金属糸が絡みついていた。
糸は深くめり込んで、顔にもめり込んで、一部からは血が滲みだす。
「…pea…」「…nun…ji」「…判るな?私の言葉が。下種な輩と、娘。」
わたしの前に居る猫が喋ってる!? もう、なにがなんだか、わからない。
「娘の方は、とっとと逃げろ。早く行け。これからこの獣共は細かく切り刻む。見たくなければ立ち去るがいい。」
身動きのできない男たちに動揺がはしる。彼らは何か叫んでいるようだったけど、不思議なことに、何も聞こえなかった。
「刃のワイヤーで拘束した。音も奪った。後悔しながら、死ね。」
あ、この猫は本心から言っている。誇張じゃない。殺す気だ…。
何一つ根拠はないけど。わたしは感じ取った。
「だ、だめだよ、殺しちゃダメ!間違いなく嫌な人たちだけど、だめ!」
わたしは叫んでいた。
「お前が攫われるところだったのにか?十分、死ぬべきと思わないか?私の国では死罪なのだが?」
「だめ!」
「ふうん…随分甘いんだな、この国は…。」
「mir…cur…」「mir…cur…」
猫くんは冷たい口調で男たちに告げた。
「信じるも信じないも自由だが、お前たちに呪いをかけた。今後、誰に対してであろうと、女性に害意を持った瞬間に、呪いは発動する。刃のワイヤーがお前たちをその場で切り刻む…言っておくが。この世界で私の呪文を破れる存在はいない。多分な。」
男たちを縛っていた青い光が消えた。
「消えろ、私の目の前から消えろ。」
「tel,,,,,ri」「tel,,,,,ri」「tel,,,,,ri」
猫くんが3回同じ言葉を言った後、男たちと、車がほぼ同時に消えた。
「…河に飛ばした。泳げるといいな。」
黒猫は人間みたいにクックと笑った。
きっとわたし今、怖ろしいものを見たんだろう。
ホラー寄りのファンタジーを見てしまったのかもしれない。
…にも関わらず、怖さよりも、安堵と感謝と、何より興味が上回った。
「これで良かったか?生ぬるい処置だが。」
黒猫は再びベンチで丸くなった。
私は黒猫にお礼を言った後、変なハイテンションで次々に質問をぶつけた。
講義のことは忘れた。(もちろん後悔した)
しゃべったよね!
魔法みたいの使ったよね!
猫だよね!
キミ誰!
恩人だよ!恩猫だよ!ありがとう!
猫くんは、すくっと起き上がり。
やっぱり人の言葉でこういった。
「お前、うるさい。」
そして、子ども達が良く隠れるタコさんの空洞にぴょんと飛び込んで、見えなくなってしまった。
すぐ探したけど。
居なかった。
――――――――――
2日目。
―――「猫くん。こんにちは。」
翌日もわたしは、公園の猫くんを訪ねた。やっぱり居た。
猫くんは、面倒くさそうに顔をあげ
「お前か…」と呟いてまた顔を伏せてしまった。
猫くんのベンチの下には、魚の骨。又は残骸。
「猫くん、昨夜は魚食べたんだ。」
持ち上げ、焦げ付いたカシラを見る。
「焼いたんだ。さすが魔法使い…てか、焼くんだ!?」
「お前の質問に答える気はない。諦めて帰れ。」
そっけない猫くんの様子を、実はわたし密かに撮影中。(ゴメン)
「良いのかなあ、そんなこと言ってるとコレあげないよ?」
わたしは、コンビニで買ってきたチキンを取り出す。
「それは…なんだ?」
「チキン照り焼き」
「チキン…鳥だな。鳥か…」
猫くんが興味深々なのが可笑しい。可愛い。猫飼ったことないけど猫好きの気持ちが今だけはわかる。猫くん、神。
「あげる。昨日のお礼」
猫くんの目の前に置く。
「…お礼。お礼か。正直ろくなものを食っていないのでな。ありがたく頂こう。」
「どーぞ、猫くん」
猫くんは、座り直し、くるみを齧るリスみたいに両手でチキンをキチンと持ち、食べ始めた。
「持つんだ!?」
猫くんはまるで聞いてなかった。
「…旨い…こんな味付けは初めてだ…!柔らかい!油も旨い…!見事だ!」
わたしは微笑んで撮影中。誰にも見せないけど。どうせ信じないだろうし。
「お前も、その四角いのを持っているのか。」
「ん。気にしないで続けて続けて。」
猫くんは訝し気な顔をしつつ(多分)しかしチキンの魅力には勝てないようだった。
「ねえ、猫くんは、どうして魔法使えるの?」
すっかり食べ終わった猫くんはまた寝ようとしている所だった。
「お前たちとは、違う世界から来た。多分な。」
意外にも、猫くんは、すんなり答えてくれた。チキンの力は偉大だ。
「マジ?世界線もの!?マジで!?」
熱く期待するわたしを無視して、猫くんは寝始めた。
「異界猫!?」
わたしは一人でベンチ周りを飛び跳ねた。
興奮が抑えきれないわたしは、
「猫くん!どう、家に来ない?ずっとここに居るってことは、行くとこないんでしょ?
異界の荒波にこの先の猫生を悲嘆してたんでしょ!?」
猫くんの境遇を勝手に妄想しているわたしに、猫くんは冷ややかに言った。
「お前が期待している程、困惑していない。異界なら何度も行っている。なんなら…」
「魔術師である私を脅かす存在は、ここには見当たらん。」
多分、猫くんはわたしを怖がらせたかったのだろう。顔を近づけてきてニヤッと笑った。
だけど、生まれて初めての超常現象を目の前に浮足立つわたしには効果なかった。
かわいー!猫くんかあいー!ちゅうううう!
「なにをする貴様!恥じらいを知らんのか!なんだ?ここの世界の女は!?」
更に抱きしめようとするわたしをひらりとかわした後。
猫くん何かに気が付いたように、遠くを見た。
そして冷たいトーンで言う。
「…隠れろ。早くしろ。…お前の誘いには興味はあるが…男の私が行くべきではなかろうし、何より…」
お前は、昨日のことを忘れている。猫くんはそう言った。
―続く―