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読んでも読まなくてもどっちでもいい

ファスケスに吠える犬

作者: 阿部千代

 なんのために文章を書くのかというと、まず第一に自分のためだ。第二はない。自分が楽しむため、自分を慰めるため、自分を救済するため、自分が信じる自分であるため。それがすべてだと思っている。他人がそれを読んでどう思うかは大した問題じゃない。ただおれがちゃんと自分自身のために書くことさえできれば、他人だってそれを好いてくれるだろうという自信はある。そりゃもちろん全員とは言わないけど。読み手が読む文章を自由に選べるように、文章だって読み手を選ぶことができて当然だし、そうあるべきだ。

 文章で食っていける気になっている連中にこんなことを言ったら、鼻で笑われるんだろうな。だったらおれも鼻で笑ってやろう。おまえらは自分のために文章を書くことのできない可哀想なやつらだ。先生とおだてられて、木に登っちまった哀れな豚だよ、おまえらは。そこから降りる方法がわからないんだろう。飛び降りる勇気がないのなら、そのままそこで干からびちまうがいいさ。


 なんか扇動したいな。暴動的ななにか。トラメガ持って、首に青筋浮かせて、がなりたい、わめきたい。馬鹿騒ぎがしたいだけだよ。良識ある人たちが眉をひそめるような、そういう感じのこと。ほんのいたずらだよ。ただファシストになりたいだけさ。世界に命令がしたい。はなたれ腰抜けの右翼ども左翼どもを食いちぎって、ファスケスに縛り付けてやりたいんだ。さながら世界の清掃業者ってところかな。さあ、綺麗に掃除してやる! 使う洗剤はやつらの血だ。でもそんなに多くは流さないよ。少しでいいんだ。ほんの少しで。もちろんマクロな視点でもっての話ではあるけどね。

 パパもママも子どもすらも、夜になるまで帰ってこないなんて、どう考えたっていかれてる! 夜になるまで、なにをそんなにすることがある? なんのために人類は、頭を使ってきたんだ? 朝早く起きて、夜遅くに帰ってくるためなのか? 便利になるどころか、不便ばかりが増えている、そう感じるのはおれだけか? 自分で自分の首に鎖をつけてご満悦している場合ではない。おれたちには、もう既に楽に暮らせるだけの材料が、揃っているだろう? いまこそほんの少しの血で、おれたちの汚れを洗い流すべきだ。大地に染み込み、河から海に流れ込んだやつらの血が、新しい生命を産み、新しい病気を産み、新しい夜明けがくるだろう。おれたちは熱に浮かされ、病に冒され、両手一杯の貧しさでもって、ご機嫌に生きるのさ。なんて素敵な新世界! さもしい富、生きるに値しない人生、近所の目を気にする生活とは、もうおさらばだ。


 さあ立ち上がれ、自由の子らよ、雄々しい民たちよ! ごっついモンキーレンチは手に持ったか? そいつで下品で鼻持ちならない連中の金玉を潰してまわろうぜ! すべての支配者たちを去勢してやるんだ。そろそろ連中も疲れてきただろうから、重荷を下ろさせてあげよう。仲間はずれにするのはやめて、おれたちの仲間に入れてあげるんだ。きっと連中、寂しがっているよ。一緒に遊んであげましょう。金玉を潰してあげましょう。さあ、思い切って。遠慮はいらないよ。

 よーしよしよし、モンキーレンチを振り回そう。波になって、文明を平らげよう。おれたちは、文明を平らげる。あいつらも殺しにかかってくるかもしれないが、こっちはもっと惨たらしくやってやるんだ。どうせ血が流れるのは変わらない。引き裂いてやろう、詐欺師どもの手からなる設計図をな。真っ二つに引き裂いてやるのさ。


 犬が吠えるだろう。輪を描いて。ぎゃんぎゃん吠えたてるだろう。それでもキャラバンは進むのさ。犬には肉をあげよう。手なずけてやれば可愛いもんだ。膝の上には猫を眠らせて。おれたちは優雅に進むのさ。滑らかなラインを描いて進んでやるのさ。手にはごっついモンキーレンチ。やつらの悲鳴を聞くまでは、止まることなどできやしないのさ。 

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