神狩り
「さて…ここは何処なんだろうな」
何も無い平原が水平線の彼方まで続いている。 ここら辺に"神モドキ"が居るという報告を受けて来てみたは良いものの……こりゃガセだったか?
「もしガセだったら…あのジジイをブッ殺してやる」
マジでどうしてくれようか。 何も無い平原を虱潰しに探すか? いやいや、よしんば見つけたとて絶対日が暮れてるわ畜生。
「よーぉし、暗殺の準備を……んぁ?」
ボコッ…と離れた所に何かが湧き上がってきている。 それはさながら間欠泉のようであり噴火するマグマのようであり……
「まさか…!?」
「VogVogVogvovovovooooo!!!」
…それは、神モドキであった。
「よっしゃキタぁ!!」
よーしよしよし! 臨時収入が歩いてるぜぇ! 目と目が合ったら即刻処刑! 剣を構えて、いざ尋常に死ね!
「見敵必殺! ブッ殺ぉぉぉす!」
男の殺意を感じたのか、どう見てもただの水溜まりにしか見えない神モドキが拳大の水をそれなりの速度で飛ばしてくる。 このまま神モドキへ突き進めば顔面にジャストミートだろう。
しかし…
「そんなの…牽制にもなりゃしねぇ!」
男にとっては目眩し程度にしかならず、剣を斜めに構えることによって剣の腹で受け止め……次の瞬間、剣が爆ぜた。
「のわぁ!!?」
アッツ! アッツ! 熱!? 俺の剣がいま…爆発したぁ!? おいおいおい、そんな素敵機能付けた覚えはねぇぞ。
「あっぶねぇ…」
剣は…爛れてる。 …爛れてる? うわなんかスッゲェ変な溶け方してんだけど! コレもヤツの能力か!?
「この水、酸か? 酸にしちゃぁ妙だがなぁ…」
水溜まりの神モドキ、盟神探湯がやった事は単純であった。 ただ水から不純物を無くし…ただ水を過熱水にし……ただ、水の温度を何千度まで引き上げ、己が水だけで水蒸気爆発を引き起こしただけだった。 物理法則を無視し、ただ神の御業によって成された神判の…熱湯。
触れた者全てを裁く熱湯の仕組みを、男は理解した訳では無いが、見て、実感して、考えた果てに、これは触れてはならないと理解した。
「つまりぁ触れなきゃ良いんだろ? いつも通り過ぎて反吐が出るなぁ!」
というか相手水ぅ!? いや、こういうのは大概どっかにコアがあると相場が決まってんだ…それを探し当てれば勝てる! 問題は何処にあるかなんだが……あ、水球。
「Vee」
「ッぶねぇなクソがッ!!?」
咄嗟に剣でガードしたが、流石に剣が折れちまった…ヤベェ、余所見して勝てる相手じゃねぇなコレ。
ただ…1発1発しか撃ってこれねぇのか分からねぇが、今のところはまだ避けられる。 どうにかして接近したいが…避けにくくなるだろうな
「あと少しで辿り着くが、未だにただの水溜まりにしか見えねぇなぁ…どうなってんだこれ」
身体を屈め、半身にし、時には宙返りもしながら避けて近付き、背後に爆発音を携えながら走ること暫く、男は盟神探湯の目の前にまで辿り着いていた。 まだ過熱水球は放たれているが、難なく避けている。
「まずはこの水溜まりが身体の一部かどうかってところだよな…」
手頃な石を拾って…そーれ餌付けの時間だぞー
チャポン…と音を立てて水面が揺らめくよりも前に水が爆ぜるように沸騰し始め、無秩序に爆発が起こり、石を水溜まりから弾く。
「VoVeVeVeViiiii!!!」
「ほぉーん…?」
まだだ、まだ笑うな…
「vuvuvuvu…」
「これは…まさかぁー…?」
神モドキが今までの比じゃないくらいの過熱水球を浮かべる。 その数は2…4…8…16…32…
「待て、OKブラザー。俺達は同じ生命体だ、ボディランゲージでも何でも使えばきっと分かり合える…だから、な? 一度落ち着…」
だが悲しきかな。水に不純物を混ぜられた怒りは数十個にも上る球を発射する事で表現された。
「VAAAAAAA!!!!」
「…きぃ!?」
やっぱり神とは分かり合えねぇわ! ケッ!
というかこの量は馬鹿なんじゃねーの!? 爆風だけでミンチになるのが目に見えるんだが!?
「だがコレで確定だ…! テメェは身体に異物が入ることを極度に嫌う…それ即ちマズイって事だよなぁ!?」
よし…こんぐらい離れりゃ十分だろ。 如何に危険な球と言えど愚直に飛ぶだけじゃ対処可能だしな。
…あれ? ホーミングしてね?
「ばあぁぁぁっか! バカ! テメェ!!」
死ぬ! マジ死ぬ!! 案外防げるものか!? コレ防げんのか!? クソが……土壇場勝負とか最高かよ…!
「こなくそぉ!!」
使い物にならない剣を投げ捨て、幾つかを爆破させる。 それでもまだ残っている過熱水球に対しては肘と膝を曲げ、急所を隠すように防ぐ。 受ける面積を広げ、威力を分散させるその構えは……盟神探湯の前では悪手であった。
着弾によってもたらされる爆風は肌を爛れさせ、皮膚を縮こまらせ、多大な衝撃波をもって身体を吹き飛ばしていた。
「グッ…! かはっ…!」
クソっ…骨逝ったか…? 何だあの威力…想像の何十倍も熱いし、痛ぇ。 2度目を耐えれるか分からねぇな…どうする…どうする…
「ふぅ…ふぅ……」
よく見りゃ球は面で制圧するように飛んできている…
つまりは…今地面に突っ伏している俺の身体を上からぶっ潰そうとしているってことだ…
「………」
球が目の前にまで飛んできて……
「Veee」
「…ここだ!」
爆ぜる前に身体を全力で後ろに押し出す。 するとどうなる? 球は全て地面に無駄撃ちって寸法よぉ!
男の狙い通り、過熱水球は地面へと激突し、爆ぜた。 爆発の衝撃を受け流すように地面を転がりながら神モドキへ近づく。
「……グフっ…」
ただし、過熱水球を全て避けきった代償は安くなかった。 全身は擦り傷と爛れに侵されており、泥にも塗れている。 また、見た目からは分からないが、内蔵や骨が幾つか機能不全に陥っている事だろう。 現に、左腕はダランと垂れている。
「だがよ…耐えきったぜ。 エセ神さんよぉ…」
しかし、それがなんだと言わんばかりに盟神探湯は第二射の準備を始める。 次々と過熱水球が装填されて行くが…男はそれを気にせずに盟神探湯へと近付いた。
「おいおい、どうせ決着はすぐにつくんだ。 焦ってそんなもんを作る必要は無ぇよ」
「Voooo?」
ここらに大岩や木でもありゃぁ、それをぶん投げてお前をぶっ飛ばしてたんだがな。 お生憎様、ここらは平原だ。 んな気の利いたモンは置いてねぇ…。 じゃあどうするかって? 答えは単純だ…
「なぁ、神モドキ。今この場で一番汚ぇ不純物って何だろうな?」
それは…俺の身体だ。
「やっぱ身体は温泉で綺麗にしねぇとだよなぁ!」
「Veeeeeooo!?」
決心した男は、盟神探湯へ全力で飛び込み……大きな水しぶきと爆破を引き起こした。
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…さっきまで盟神探湯があった場所は、巨大なクレーターが出来ており、その中心には小さな茹で釜と、筋肉が千切れ全身が黒く焦げた男の遺体が在った。
男は死んだが…盟神探湯はまだ死んではいなかった。 身体の水が全て吹き飛ばされたものの、コアである釜が存在する限り、熱湯は永遠に湧き続ける。
静寂が場を支配したその時
パリン、とガラス瓶の軽快な割れる音が鳴り…男の遺体がみるみるうちに再生していった。
「……ガハッ…ゲホッゲホッ……この感覚はいつまで経っても慣れねぇな…」
ったく…貴重な蘇生薬を使わせやがって…ツケ払い無しの即刻命払いで許してやるよ。
「だが…追い詰めたぜ。 この釜がお前のコアだろ?」
男は全力で拳を振りかぶり。腰の捻りも入れて振り抜いた。 万全な身体にまで再生してからの一撃は、釜をバラバラに粉砕した。
「vo…vu……」
「お世辞にも美味い戦いとは言えねぇな…収支はマイナスだ」
やっぱあのジジイはブッ殺すべきだろ。