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再会の霧島

初投稿です。

初めまして!

 うちの隣の空き地に、新しく家が建つようだ。


「しばらくの間うるさくして御迷惑をおかけします」


 と、強面(こわもて)の大工さんらしき人が、箱菓子と会社名入りのタオルを持って挨拶に来た。


 その時の僕は特に何とも思っていなかったが、数日後、隣の空き地に看板が立った。


霧島(きりしま)様邸』


(霧島か……小学3年生の始めに転校して来て、4年生の終わりに転校して行ってしまった、仲良しで大好きだったあの子の苗字も、霧島だったな。)


 隣家の霧島とはさすがに関係などない。あり得る筈もない。などと否定してみながらも、あるいはもしかしたらまさか?などと妄想に(ふけ)りながら過ごすこと数ヶ月。


 ついにその『霧島様邸』は完成した。


 さすがに隣の家だ。興味くらいはある。俄然(がぜん)ある。むしろ無いはずがない。


 だから我が家の庭から隣家の外観を眺め、腕組みなんかしながら


「ほう……」


 などと声を出してみる。ほうに、特に意味などない。マジで。


 さらに数日後、どうやらその『霧島様』とやらが引っ越しして来たようだ。


 大型のトラックから、0123で大丈夫な感じに荷物を運び込んでいる引っ越し業者のアニキ達の作業を見かけ、なんとなくボンヤリと、我が家の庭花壇、まぁつまり隣家の敷地との境目付近で見入っていた。なんたって『霧島様邸』だもんね。


 あ、そう言えば、僕の自己紹介がまだだったな。

 僕の名前は『桐生(きりゅう) 近衛(このえ)』年は15才。県立北高校に合格し、入学準備も整い、現在は暇をもてあましている。退屈名人…あるいはタイクツ達人だ。たぶん。そして自称。


 趣味は料理、工作、お絵かき。実用的とか効率的とか言う言葉が好きで、だから、家を建てる大工さんの仕事ぶりや、引っ越し業者さんの動きを見ていると、ついつい熱中してしまう。


 この時はその作業に完全に見とれてしまっていた。


 だから、僕は声を掛けられるまで気が付かなかった。


 彼女(サチ)の存在に。 


 隣に越してくる霧島と言う苗字が持つ可能性にも蓋をして、考えないようにしていた。


 だって、しょうが無いじゃん?

 前に好きだった、今でも好きで忘れられない女の子がさ、うちの隣に引っ越して来るなんて妄想でしょ?あり得ないでしょ?まじめに考えても確率とか、可能性があるとか、何ヶ月も妄想してたから流石に妄想慣れして気にならなくなっちゃうじゃん?


 だからこういう場合、普通に業者さんの仕事ぶりに見とれちゃっても仕方ないじゃん?





「近衛くん?桐生近衛くんだよね?」




 だからさ?恋焦がれていた聞き覚えのある、その声を聞いた瞬間、正直、心臓が跳ねた。いや、止まった。


 ん?心臓が止まったら駄目じゃん?でもドキッとしたとか言いたくないからどうしよう?ま、いいか。


(怯えた感じや緊張した感じは受けるが、間違いなくサチの声だ)

 確信した。理解した。でも困惑した。


 この声の主は霧島佐知子(きりしまさちこ)。霧島。霧島サチコ。小学生当時の呼び名は『サチ』


 ギギギ…と顔を左に向けると、予想に違わず恋い焦がれていた『サチ』の成長した姿があった。


 やべ。懐かしすぎて泣きそう。嬉しすぎて泣きそう。

 泣くもんか!落ち着け俺!あ、今は自分の事、俺じゃなくて僕って言うことにしてるんだった。

 って、俺の一人称なんて今はどうでもいい。


「えーと……霧島…佐知子さん?だよね」


 だよね?だよねってなんだよ?もー…すぐ判ったよ。判ってたよ!っつか、サチめちゃ綺麗になった?綺麗系?昔は結構ポッチャリなかわいい系だったのに?


「よかった……覚えててくれたんだ」


 あ、サチの笑顔がたったいま俺を殺した。

 ん?でも、まだ俺生きてる?どゆこと?まあいい。


 でも、素直じゃない僕は、たとえ大好きな子との、実に5年ぶりの再会でも、ふざけないわけにはいかない。ふざけないわけにはいかないんだ。ん?いけないのかな?

 けど今、僕は泣きそうだし、マジで現実にシリアスに泣くのは嫌だから……だから、ふざけないわけにはいかないらしくて…


「忘れる訳ないじゃないか…僕にあんなことやこんなことしておいてその気にさせておきながら、急にいらなくなったからって、ポイって捨てて…あの時僕がどんなに…」


 夢と現実をごちゃまぜにしたデタラメを…理性を捨て本能のままにぶちかます。


 僕はまだ夢を見ているのか。それとも現実なのか。なにを言ってるのか自分でも理解できない。どうせまた……


「えっ!?わたし、近衛くんになんかしてたの?何したの!?ってかあの時っていつ?」


 急に肉薄された現実感が、ぼくを夢から覚醒させた。


 迫って来たサチにメッチャ動揺した。距離が近いッ!襟首を掴まれた?

 もう一度言う。距離が近いッ!で、いい匂い。さらにカワイイ!


 なんだ?この感覚は…あぁ、あの頃っぽい。あ、あの頃って小3から小4の頃ね。

 こんな感じだったっけ?僕とサチって? 

 いや違うな。全く無いな。こんな経験。僕は小学生の頃からサチを大好きで、忘れられなくて、今でも好きで好きで、大好きなんだから、僕の脳内に多少の記憶改竄があったんだろう…多分。

 やばい?多少。認知症?


(だが今、俺…じゃなくて、僕はたぶん落ち着いた)

 

(だから言える。自然に。さりげなく。あの頃のように)


 今のこの状況が、現実だと信じて!


「5年ぶりだね。サチ」



「わたしの質問に答えて無いわよね!?」




 あれ?




 北高校入学前の春休み。

 僕は、かつて大好きだった『霧島佐知子』と



 夢では無くて、現実に再会した。 

次回、この話し第二話『過去』

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― 新着の感想 ―
[良い点] いちくんらしく、素晴らしい国語力と表現力でよかったです。 [気になる点] 物語りの筋自体は大丈夫だと思います。 後は、読者が読みやすい工夫と物語に入り込めるかの工夫次第だと思います。 例 …
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