【本編第二部】 #END 新居
「――荷物、ここでいいですかね?」
「ああ、うん。適当に置いといて」
今俺たちはエルが『空間』から出した家具を俺が『物体浮遊』で運ぶという作業分担で、引っ越しの荷解きをしている。
神の試練を終え、この世界に帰って来た。
それが十年以上も前の事。
その後も放浪の旅を続けていた俺たちだったが、ついに重い腰を上げて定住する事を決めて、王都の新区画に新居を購入した。
というのも、定住した方が都合の良い理由が出来たのだ。
――それは、少し前の事。
少し前と言っても年単位の時間は過ぎているかもしれないが、まあ些細な事だろう。
引越しの手続きなんかもあって、色々ごたついたのだ。
「手紙、ですか?」
「ああ。エルさん宛に、私のところに届いたよ」
土産でも持って行こうとふらりとエレナの家に立ち寄った時に、手紙を渡された。
久しぶりに会ったエレナは眼鏡をかけていた。
片目は義眼だし、書き物仕事だから目も酷使する事だろう。
エルが受け取った手紙の裏面を見る。
差出人は――、
「――魔法学校、ですか?」
「何それ、そんな物が出来たの?」
「さあ……」
「君ら、あまりに世俗に疎過ぎないか……」
エレナが呆れた声を漏らす。
仕方ないだろう、少し前まで世界の端っこまで行っていたのだから。
「それで、魔法学校って?」
「ああ。その名の通りなんだが、魔法使いを育てる為の学校だよ。最近では魔道具も発達してきたが、それを作れる技師や魔法使いが不足する事を懸念して作られたそうだよ」
集まる生徒は皆、将来魔女や魔法使い、魔道具技師を志す者、という訳だ。
大学や専門学校の様な物だろう。
そうエレナが説明してくれている内に、エルは手紙の内容を読み終わっていた。
丁寧に折り目に沿って元に戻し、便箋に仕舞う。
「どうやら、その学校で先生をやらないか? というお誘いみたいですね」
「何せ新設校だからね、教員は不足しているだろうさ」
「ああ。王都で一番有名で優秀な魔女であるエルを頼って来た訳か」
つまり、永遠の魔女様の英知をご所望だ。
ついでに括弧書きとして(暇そうな)が加えられるが、俺は敢えて黙っておく。
「まあまあ、見る目は有りますね。――でも、どうしましょう?」
エルは満更でもない様で、胸を反って「ふふん」と威張ってみた後、片目を開いてちらりと俺の顔を窺う。
俺は遠い過去の記憶を思い出す。
森の中、俺がまだエルを魔女様と呼んでいた頃。
地下の書庫で沢山文字や魔法を教えてもらった。
その時、とても教えるのが上手かったのを覚えている。
丁寧でまとまっていて、分かりやすい。
「まあ、エルがやりたいなら良いんじゃないかな」
だから、俺はその背中を押す。
「でも……うーん……」
しかし、エルは悩んでいる様子だ。
まあ、ずっと二人一緒に行動していたし、いきなり先生として働くというのに若干のハードルが有るのかもしれない。
「私も、エルさんならいい先生を出来ると思うよ。勿論、無理にとは言わないが……」
エレナもそう言葉を添える。
「ま、合わなかったらすぐ辞めちゃえばいいよ」
そして、俺は最後の言葉を添えた。
そうだ。合わなければ辞めればいい。俺ならそうしたはずだ。
「じゃあ、えっと……わたし、先生やってみます!」
――と、いう訳で、俺たちは王都の新区画に定住する事になった。
何だかんだ、この異世界で拠点としていたのは最初の森の家と、仮住まいしていたエレナの家くらいだ。
俺も魔道具技師としての腕を上げ、旅の中で作った商品を売ったり、修理を請け負ったりしてそれなりに貯金が有った。
それに追加で魔法学校の方から補助金がかなりの額出たので、借家ではなく持ち家である。
実際、魔法学校側もエルという唯一無二の人材を手放したくは無いだろう。
それはもう好待遇で雇ってもらえた。
そして、追々は俺も、この王都の新区画で細々と店でも持とうかと思っている。
今はもうガワから全部一人で魔道具を作る事が出来るし、魔石に刻む魔法式も他より質が高いと自負している。
それに、今は魔道具の需要が高い。
大きな都市でする商いとしては適切だろう。
そして、荷解きを終えた俺たちは、一息ついてまったりとしていた。
壁には旅の記録として撮影した写真の数々。
その中には、あの教会で撮影した結婚式の物もちゃんとある。
なんと、俺はコピー機の魔道具を作り出し、写真の現象に成功したのだ。
いくつもの魔石を使った複雑な魔法式を使うそれは、俺の自信作だ。
といっても、まだ量産段階には無いので、コピー機の魔道具自体はエレナの家に置いてきた。
彼女の仕事上必要だろうし、旅の間もずっとそこに置かせてもらっていたから、そのままだ。
そうやって壁に飾った思い出の数々を眺めて、ソファでまったりしていると――、
「明後日から出勤です! どきどきしてきました!」
いや、まったりとしていたのは俺だけだった様だ。
エルはもう既に緊張しているのか、そわそわと部屋の中を彷徨っていた。
「まあまあ、落ち着いて」
「うう……すみません」
俺はエルを宥めて、適当に配置したばかりのソファ座らせる。
そういえば、聞いてなかった。
「そうだ。それで、魔法学校の名前は? なんていう学校なの?」
「あ、はい! えっと――」
以上となります。
この後エピローグ③に物語は続いて行きます。
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