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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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決着、そして……。

―――


 

 シモン・クリムゾンは孤児だった。

 人生に絶望したシモンは、一歩違えば自死の道を選んでいたかもしれない。


 しかし、幸か不幸か、ある時シモンの頭の中に天啓が降りて来た。

 不思議な声が聞こえてくるのだ。

 

 その声に従い動けば、その後の人生は順風満帆。

 シモンはその声に心酔して行った。


 その声の主は、自分を神ラプラスだと名乗った。

 そのラプラスの声に従い、シモンは“ラプラス教”を作り、その教祖として人々を集めて行った。

 

 神は人からの信仰を得る事でその力を増す。認識される事で存在する。

 かつて龍族との戦いで傷を負った神ラプラスは東の大陸に身を潜め、傷を癒し、その力を取り戻すために暗躍していた。

 

 かつての『魔王降臨』、そして大災厄、それらを以て魔力を集め、少しずつ傷を癒して行った。

 そして、孤児であったシモンの心の隙に付け込み、取り入って、意のままに操る事で信仰を集め、復活を果たした。

 

 しかし、その後新時代の勇者と魔女――アルとエルによって、その野望は打ち砕かれ、神ラプラスは死んだ。

 

 だから、そのラプラス教が流布していたのも短い期間だけだった。

 数年前から急にラプラスの声は聞こえて来なくなり、シモンの頭の中は数年振りに煩い程の静寂に包まれていた。

 そして、同時期から、何故か信徒たちもまるで憑き物が落ちたかの様に離散していった。

 

 それが丁度、アルとエルがメカクシを、そして降臨した魔王を討ち、世界を救ったのと同時期だ。

 信仰するべき神の存在が消失した事により、信者たちは目を覚ましたのだ。

 しかし、それでもシモンだけは神ラプラスの帰りを待ち続けた。信じ続けた。縋り続けた。


 シモンだって、神ラプラスに利用された被害者の一人だ。

 でも、だからと言って、人はいつまでも被害者で居られる訳では無い。

 例え始まりは被害者だったとしても、一度誰かをほんの少しでも害してしまえば、すぐに立場は加害者側へとなってしまう。

 

 そして、シモンはもう多くの人を傷つけ過ぎてしまった。

 もう、戻れない所まで来てしまった。


 でも、それでも――。


 

―――


 

「俺はッ! ラプラス様と、もう一度――!!」


 取り繕う仮面を砕き、もはや沸き立つ怒りに身を任せて、取り留めのない事を喚くシモン。

 その激情に従う様に、四肢のように動く黒い泥の攻撃が、俺を襲う。

 シモンの背から生える黒い泥の触手。それを鞭のようにしならせて、薙ぎ払う。


 しかし、俺は激しく燃える業火の鎧を纏いながらも、その心は静かに、水面の様に落ち着いていた。

 淡々とシモンの攻撃を往なして行く。


 赤い稲妻。燃え盛る炎球。魔法と魔法の応酬。

 教会を飛び出し、夜空を駆ける二人の輝く軌跡が弧を描き、黒いキャンバスを彩る。


「はぁッーー!!」


 シモンが俺の方へ最初と同じ精神干渉系の魔法を――『支配』の魔法を使う。

 しかし、俺は同系統の魔法『読心』と『獣使い』を交えて、ぶつける事でそれを『相殺』。


「くそッ! くそくそッ……くそがッ!!」


 上手く行かない、ままならない状況にシモンは頭を掻き毟り、苛立ちを露わにする。

 そして、俺の反撃の番だ。


「――『重力』」 


 宙を浮いていたシモンの身体は、俺の『重力』の魔法、その重みで一気に地に叩き付けられる。


「ぐはっ……」


 倒れ伏すシモン。

 きっと骨は折れ、身体の中はぐちゃぐちゃになるだろう。

 しかし、それも黒い泥に侵されたシモンの身体は、無理やり治されて行く。


 俺も後を追い、ゆっくりと地に降り立つ。

 そして、シモンが立ち上がると同時に追撃を行う。


「――『ゴーレム』」


 大地から土と岩で構成された数体の『ゴーレム』が召喚される。

 それらは複雑な魔法式によって構築された、簡単な命令を熟す俺のしもべたちだ。

 

 そして、シモンへと掴みかかった『ゴーレム』たちは、黒い泥の触手をがっしりと掴み、その腕力で引きちぎる。


「あああああああああ――!!!!」

 

 シモンが苦痛の悲鳴を上げる。

 ぶちぶちと肉が割ける様な嫌な音を立てて、シモンの身体から少しずつ黒い泥の鎧が剥がれ落ちて行く。

 そして、俺がぱちんと指を鳴らすと、『爆発』の魔法が発動。

 シモンの周囲を囲う『ゴーレム』たちは四散し、その爆発が泥の鎧を完全に砕き去る。


「ぐっ……うぅ……」


 俺は倒れるシモンに近づき、その目から残りの黒い泥を抉り出す。

 そして、そのまま浄化の炎に包まれた拳で、泥を握りつぶした。

 泥だった物はぐずぐずと崩れ落ち、そして塵と成った。

 

 そして、完全に黒い泥の力が流れ出したシモンは立ち上がる事も出来ず、そのまま意識を失った。


 俺の纏っていた炎の鎧は少しずつその勢いを落としていき、そして程なくして鎮火した。

 これで本当に、神ラプラス――メカクシとの因縁は、断たれた。


 

 シモンとの戦いが終わり、俺はエルとエレナの元へと戻った。

 

「――アルさんっ!」


 木陰で腰を下ろしていたエルが立ち上がり、こちらへと駆けて来る。


「ああ、終わったよ」


 俺はそう言って、エルを抱きしめる。

 そのエルの肩越しに木陰に腰を下ろしたままのエレナの方へと視線をやると、エレナは片手を軽く上げて、それを俺への労い代わりとした。

 やはりそれなりにシモンの精神干渉が応えていたのだろう。戦っていた俺よりもぐったりしている様に見えた。


「それで、シモンさんは――」


 エルがシモンの生死の可否を問う。

 

「まだ息は有る。それで、エルに頼みたい事が有るんだけど――」


 

・・・

 

 

 数日後。


「助けていただき、本当にありがとうございました」


 傷の治療を終えたシモン・クリムゾンが、俺たちへと頭を下げる。


「いいや、無事でよかったよ。でも、本当に行くのか?」


「はい。記憶を持たない私ですが、神父として人々の役に立てる場所が、どこかに有るはずです。それを、探しに行きます」


「そうか。まあ、達者でな」


「はい。また、どこかでお会いしましょう」

 

 シモンはそう言って、もう一度深く頭を下げた後、荷物の詰まったバッグを担いで、教会を後にした。



 俺がエルに頼んだのは、『読心』の魔法による記憶操作だ。

 初めて森の中で出会った時に俺にかけられたあの魔法と同じ物を、シモンにも施して貰った。

 改ざんされたシモンの記憶の中では、「森の中で魔獣に襲われた所を俺たちに助けられた。そして、魔獣に襲われた後遺症で記憶喪失になっている」という事になっている。


 そして、俺は素知らぬ顔で恩人の振りをして、旅に出ると言うシモンを送り出したのだった。

 シモンの記憶が失われたという事は、彼の中にあったラプラスへの狂信の心も消え去ったという事。

 今の彼は道を違える前の、シモン・クリムゾンだ。

 

 これから彼が歩む道で、どうなっていくのかは分からない。

 それでも、神ラプラスに歪まされなければ別の道が有ったはずだ。

 それなら、彼にもう一度チャンスを与えても良いんじゃないかと、そう思えたのだ。

 

 

 ―――



 教会。

 天井に穴の開いた、今は誰も管理者の居ない廃協会。

 そんな教会に、三人の人の姿が有った。

 

 一人は純白のウェディングドレスを身に纏った、美しい黒髪のエルフ。

 腰まで伸びた夜空の様な黒髪と、澄んだ紫紺の瞳。

 永遠の魔女、エル。


 一人はタキシードスーツに身を包んだ、黒髪の人間。

 元は異世界からの来訪者、そして今はこの世界で永遠に暮らす者。

 ただの魔法使い、アル。


 一人はきっちりとした白いシャツとサスペンダー付きの整ったパンツスタイル。

 金のショートヘア、海の様な瑠璃色の瞳。

 大人気作家であり、今日は友人代表、エレナ。


 俺たちは今更ながら、まだしていなかった結婚式を挙げた。

 形だけの、三人だけでの、とても簡単な物だ。

 それでも、それもまた俺たちの永遠の旅路の一つの思い出。


「愛してるよ、エル」


「はい、わたしも愛しています、アルさん。これからも、ずっと、ずーっと一緒に、居ましょうね?」

 

 俺たちは『永遠』の愛を誓い合う。


 エレナにスマートフォンを渡し、二人の晴れ姿を写真に収めてもらう。

 これが俺たちのハッピーエンド。


 

―――


 

 ――なんて、そんな訳、無いでしょう?


 わたしの送ったメッセージ、忘れて貰っちゃ困るわ。

 ユウリをあなたに上げる訳にはいかないのよ。

 だって、あの子はわたしの世界で産まれ、わたしの世界で育った、わたしの血を継いだ子よ。

 このままあなたと一緒に、この世界に収めたまま永遠に――だなんて、勿体ないと思わない?


 あなたに盗られた魂の一部、返してもらわなくっちゃ。

 ――ね? 異世界人さん。

 


―――


 ――視界が、眩い光に包まれる。


 最初は焚かれたカメラのフラッシュかと思った。

 しかし、その強い光りは視界を白一色に染め上げて行く。


 そして、視界が開けると、気が付けば、俺は知らない場所に居た。

 

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