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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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エテル族

 今をときめく作家、エレナ・アズール先生の口から発せられた短い一言は、驚くべきものだった。

 

「本当ですか!?」


 ざわり、と室内の空気が揺れる。

 ライトだけでなく、俺とエルも驚いていた。

 

「エテル族、という亜人族を知っているかい?」


 エレナの口から出たその亜人族の名前、それには俺とエルにも心当たりが無かったので、静かに首を振る。

 

「聞いたこと自体は有りますが、詳細自体は存じ上げません」


 東の大陸で暮らすライトも詳しくは知らないらしい、それ程に珍しい種族なのだろうか。

 そして、エレナは俺たちの反応を一通り見た後、詳細を教えてくれた。


「私も文献で読んだ事が有るだけなんだけれどね。エテル族というのは、その血に呪いを受けた種族なんだ。その名も『停滞の呪い』」


「停滞……時間が止まる、という事ですか」


「ああ。元は『不変』と呼ばれる大魔法だったらしいんだが、何かのきかっけで呪いとして変質してしまったらしい」


 呪いへと変質してしまった『不変』の大魔法――どこかで聞いた様な話だ。

 まるで俺たちの『永遠』に似た何かの様だ。


「その呪いが、黒泥病の治療とどう関係が有るんだ?」


「さっきも言った様に、その呪いは一族の血に掛けられている物だ。紛い成りにも強力な大魔法だからね、その血を一滴でも浴びた植物は枯れる事が無いと言う。その性質から、古くには長寿の象徴とされていたらしいよ」


「という事は、その血が有れば、もしかすると――」


「ああ、そう言う事だ。黒泥病が細胞の活性によって進行する呪いだと言うのなら、その呪いとは真逆の、細胞の活性を停滞させる呪いで打ち消せるんじゃないかって事さ」

 

 というのが、エレナの仮説だった。

 流石作家先生、西も東も無く、ありとあらゆる知識を集めているのだろう。

 その集約された知識の泉から、僅かな光明を見出した。


「……ありがとうございます、アズール先生」


 ライトは薄く涙を浮かべながら、肩を震わせ口元を抑えている。


「感謝するのはまだ早いよ、ブラウンさん。かもしれないってだけで、本当に効果が有るのかも分からない。それに、エテル族がどこで暮らしているのかも、私は知らないからね」


「まずはそのエテル族の方を探すところから、ですね」


「エレナさん、エテル族ってどんな人達なの? 例えばエルフ族なら耳の形とか、そういう。まあ、獣人族みたいな感じならすぐ分かるけど……」


 エテル族がどこで暮らしているのか、どこに居るのか、分からない。

 それでも、何か分かりやすい特徴が有れば、探す手がかりになるだろう。


「エテル族はその血の呪いの所為で身体の成長が文字通り停滞しているんだ。だから、幼い子供の様な見た目をしている以外は普通の人間と変わりはないよ」


 ……ん?


「エレナさん、それがエテル族の特徴ですか?」


「ああ、そうだけど……二人して、どうしたんだい?」


「……」


 俺とエルは顔を見合わせる。

 これは、もしかして……。


「急いで商業街に戻ろう!」


「はい!」


 俺たちは慌ててブラウン邸を出る支度を始める。


「ちょ、ちょっと! 君ら、急にどうしたんだい!?」


 エレナは慌ててわたわたとしているが、ゆっくりと説明してあげる時間は無い。

 急がなければ、あの場から居なくなってしまうかもしれない。

 

「説明は後です! お二人は待っていてください!」


 そう言って、俺とエルは『転移』の波に乗る。

 無粋だからという理由で旅の道程では殆ど使う事の無い『転移』の魔法だったが、今は緊急事態だ。


 ライトとエレナは、ぽかんとしたまま、その場に残されてしまった。

 グリムの浅い寝息だけが、静かな部屋に響いていた。

 


 久方ぶりに使った『転移』の感覚に少し違和感を感じつつも、数度の短い『転移』を繰り返せば、先程の商業街へと戻って来る事が出来た。

 突然道端に姿を現した俺たちに、街を行く人々がざわざわとし出すが、今はそれらに気を揉んでいる暇は無い。


「確か、この辺で……」


「アルさん、居ましたよ!」

 

 辺りを見回すと、すぐにその姿を見つける事が出来た。

 エルの指す方見ると、丁度あの港町でも出会った、薄桃色の髪をした占い師が店を畳んで帰り支度をしている最中だった。

 危ない、ギリギリ間に合った様だ。


「すみませーん!」


 俺が声を掛けると、占い師は片付けの手を止めて、顔を上げた。


「――うん? えーっと……確か、港町で会った二人じゃな。クレームは受け付けておらんよ?」


 占い師は訝しげに俺たちを見る。

 もしかすると、彼女は今までにもそう言った経験をしてきたのかもしれないが、勿論俺たちはクレーマーでは無い。

 いや、確かにあの時の占いの内容に関しては小言を一つ言いたくはなるが、今はそれどころではないので、その気持ちは心の奥底へとぐっと仕舞い込む。


「違います。えっと、突然で申し訳ないんですけど、あなたってエテル族ですか?」


「なんじゃ、藪から棒に。……まあ、確かにわしはエテル族じゃよ。それが、何か?」


 ビンゴだ。

 解決の糸口がこんな身近に居たのは幸いだ。

 後は、彼女にどうやって頼み込むか、だ。

 

 エルがちらりとこちらへと視線を送る。

 やはり、エルもどうやって頼むか考えあぐねて、俺へと委ねて来たのだろう。

 そう判断し、俺は僅かばかりの時間思案する。


 そして、港町で出会った時の事を思い出し、俺はこう切り出した。


「お金、欲しくないですか?」


「うむ、欲しい」


 

 そんな訳で、軽く説明をすると二つ返事で了承を貰えた。

 

 港町での商魂逞しい様子を思い出し、言ってみたら案の定。

 この帝都で少しばかり稼いでいたとは言っても、やはり金はいくらあってもいいのだろう。

 

 まあ、今回その金を払うのはブラウン兄弟なので、俺たちの懐事情には関係ない。

 勝手に約束を取り付けて、ブラウン邸にエテル族の占い師を拉致って来た。


「――と、いう訳で。エテル族のズズさんを連れてきました」


 そう言って、ブラウン邸に戻って来た後、待っていたライトとエレナに、連れて来たエテル族の占い師を紹介した。


「紹介に預かった、ズズ・エテル・パールグレイ四世じゃ。普段は占い師をやっているんじゃが――今回はそれ目的じゃ無いみたいじゃな」

 

 ズズ四世は少しつまらなさそうに、薄桃色の髪を揺らして、改めて自己紹介を述べる。

 

「――まさか、あの時のお嬢さんがエテル族だったとはね」


 エレナが驚きの声を洩らす。

 確かに、俺たちも王都で魔道具屋の店主に出会っていなければ幼い少女がお金を稼ぐ為に頑張っている様に見えたかもしれない。


「ズズさんの血を、頂けるのでしょうか」


 ライトが改めての確認をする。


「そうじゃな、そういう話で連れて来られたからの。まあ、効果の程は保証出来んのじゃが……。金を貰えるのなら、わしは構わんよ」


 ズズは黒く染まり床に伏すグリムを一瞥しながらも、それでもあまりそれに興味無さそうにしている。

 

「……ありがとうございます。結果に関わらず、お金の方は必ずご用意致します」

 

 ライトは深々とお辞儀をする。

 それに対して、ズズ四世は少しばつが悪そうに居住まいを正すも、そのままグリムの方へと歩み寄った。


「じゃあ、やるぞ」


 ズズ四世はそう言って、懐から小さなナイフを取り出して、自身の指の先に軽く押し当てる。

 そして、つーっと血が流れるのを確認してから、ゆっくりとグリムの身体へとそれを垂らした。

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