帝都、エレナとの再会③ 占い師
「ふふっ。エレナさんも相変わらずですね」
そんなエレナを見て、エルはころころと笑っている。
エレナは最初に出会った時も森の中で勇者の剣を探していた。
そして、今もこうして単身で海を越えて東の大陸へ。
相変わらず、その凛々しい見た目と物腰からは想像出来ない様な、執筆の為なら苦労を厭わないアクティブで破天荒な作家だ。
「エレナさん、ろくに魔法も使えないんだから、護衛でも雇ったらいいのに」
それこそ、魔獣一匹に襲われて負けかけるくらいに。
何故かエレナにはエルフ族だと思えない程に魔法の才能が無い、もはや耳が長いだけの人間レベルだ。
運良くこれまで無事生きて来られたが、だからと言ってこれからもそうとは限らない。
「私には“これ”が有るからね、大丈夫さ」
そう言って、エレナが取り出したのは一本のペンだった。
それをくるりとペン回しの要領で回して見せる。
「ああ、アルさんの作ってたやつですね」
それは、俺が魔道具を作ろうとして試作した内の一本だ。
僅かな魔力を込めれば、ペンに埋め込んだ魔石に刻まれた『形状変化』の魔法式が発動して、細剣へと変形する仕掛けになっている。
しかし、俺にゼロからペンや剣を作れる程の技術は今のところ無い。
魔法式は組めても、魔道具のガワの部分はまだ作れない。
なので、普通のペンと適当な細剣を買ってきて、それを魔石と合わせて、『形状変化』の魔法でこねこねして作ったハンドメイド魔道具だ。
「どう? 使っていて不具合とか出てない?」
「ああ! つい先日も試し斬りをしたくて、わざわざ魔獣を探し回って使い倒したが、何も問題は無かったよ」
エレナはそう言いながら、ペンの状態のままぶんぶんとチャンバラの様に振って、剣で斬る動作の真似をして見せる。
何やってんだこの人。
「……まあ、気に入ってくれている様で何よりだよ」
「やっぱり、ちょっと心配ですね」
エレナのそんな様子を見て、エルも隣で苦笑いを浮かべている。
「ふん……なら、君らに護衛をお願いしようかな?」
エレナはわざとらしく考える素振りを見せた後、名案だと言わんばかりににやりと笑う。
「俺たちと居る方が、危険かもしれないよ? なんせ危険が向こうからやって来るからね」
俺もにやりと笑い、軽口を返す。
実際、普通に旅をしていただけなのに神様に狙われたり、今もこうして向こうから新しい事件が寄って来る。
「それでも、君らなら守ってくれるだろう?」
「勿論。エルも、良いよね?」
「はい! 一緒の方が楽しいですよ!」
エルは小さく胸元でガッツポーズを作り、にこにこと楽し気に、二つ返事で了承する。
こんな所で再び会えたのも何かの縁だ。
気心の知れた仲というのも有るし、それに、互いに“黒い泥の正体を追う”という目的も一致している。
しばらく行動を共にする事に異論はない。
互いにメリットしか無いだろうし、エルの言う通り楽しい旅になりそうだ。
「それは良かった。丁度これから、その黒泥病を患ったという人の家に行くところだったんだ」
と、エレナは一番重要な話を最後に持って来た。
「なるほど、それでこの帝都に」
俺たちがエレナを見つけたのが、アポを取った帝都に暮らす黒泥病の患者宅へ訪問する道中だった、という訳らしい。
「そ! まあ、その道中にあれが気になって道草を食っていたら、君らに出会えた、という訳さ」
そう言って、エレナは腕を組んだまま、人混みの奥の方を顎で指す。
俺とエルも、そのエレナが指す方へと視線を向ける。
そこでは、薄桃色の髪をした少女が占いをしていた。
どこかで見た事の有る気がするその少女の占い屋は繁盛している様で、どうやらこの人混みは、占い目当ての客と、周囲からそれを眺める野次馬だったらしい。
というか、あの占い師って――。
「あ、港町で会った……」
そう、彼女は港町でも出会った、王都の魔道具屋の店主と同じ、珍しい亜人族の占い師だった。
なんていう種族かは知らないが、彼女たちは身体の成長が一定で停滞するらしく、見た目からは実年齢が推測できない。
「おや? 君ら知ってる人かい?」
「いえ、知り合いではないんですけど、一度占って貰った事が有るんです」
「へえ、そうなのか。いいじゃないか、よく当たると評判らしいよ」
確かに、彼女は占いで俺とエルの魂の同一性を看破していた。
きっとよく当たりはするのだろう。
……ちょっと抜けた人物では有る様だったが。
「港町で会った時は、全然お客さん入らなくて困ってたけど」
対照的に、今は客が列を作っていて、忙しそうだった。
一人を占い終われば、次の客、その客が終われば、また次の客。
代わる代わる、新たな客が占い師の対面に座って行く。
「む、そうなのか? ならもしかすると、場所が悪かったのかもしれないね」
「ああ、確かにそうかもです」
エルがエレナの言に同意の声を上げる。
確かに港町では両サイドに有る背の高い別の出店に挟まれていて、小さな少女が座り込み開いている占い屋なんて、俺たちも直接声を掛けられるまで存在に気が付かなかった。
対して、今は帝都の広い街道で広々とやっていて、周囲に視界を邪魔する物も無い。
占いの腕自体に問題が無いのなら、後は人の目に留まるかどうかという事だったのだろう。
「エレナさんは、占って貰わなくていいの?」
人混みの中に居た、という事は興味が有るのかな、と思ったのだが。
「あの列に並んでいては、今日中に目的の黒泥病患者の家へ辿り着けないかもしれないからね。残念だけど、先に用事を済ませてからにしよう」
そう言って、エレナはわざとらしく肩を竦めて見せた。
「そっか」
何となく、その様子から最初から占って貰う気は無かったのだろうと思った。
「分かりました。では、そのお宅へ向かいましょうか」
俺たちは占い師の少女を視界の端で見送り、エレナの後に続いて黒泥病の患者宅へと向かった。
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