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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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帝都、エレナとの再会② 黒泥病

「……エレナさん?」

 

 俺の声に、その金髪のエルフは振り返る。

 

「ん? おお! アルさんとエルさんじゃないか。久しぶりだね」


 声を掛けると、エレナもこちらへと気づいた。

 今や大人気作家であるエレナと、遠く離れたこの東の大陸でまさかの再会だ。

 

 メカクシによる神の世界侵略事件の後、俺たちはしばらくアルヴにあるエレナの家で世話になっていた。

 その後俺たちはまた旅に出て、そのままこの東の大陸へと来てしまったので、顔を合わせたのはそれ以来ぶりだ。

 

 アルヴに滞在していた少しの間、世話になった礼代わりとして、エレナには俺たちの旅の思い出話を沢山した。

 それも有って、エレナはこの世界で唯一と言っても良い俺たちの理解者、大切な友人だ。

 

 その思い出話が元ネタとなって、程なくして出版された『新訳・勇者アルの冒険』。

 それきっかけとなって、西の大陸で少しばかり名が知れてしまった俺たちはこの東の大陸へ赴く事となる訳だが。

 

「久しぶり」

 

「お久しぶりです!」


「まさかこんな所で……うん? エルさん、その頭のやつはどうしたんだい?」


 エルが挨拶を返すと、エレナはエルの頭の上、つまり猫耳のカチューシャに興味を示す。

 まさか知り合いに会うとは思わず、つい調子に乗って着けたままだった。


「……アルさんの趣味です」

 

 エルが不服そうに言う。

 それはそうなのだが、その言い方だと公衆の面前で猫耳を付けさせるのが趣味だという風に聞こえてしまう。

 猫耳を着けたエルが可愛いというだけの話で、決してそういう訳ではない。

 

「……こほん。まあまあ。それで、エレナさんはどうして東の大陸に?」

 

 しかし、俺はこのまま正面から言い訳しても女性二人を相手にしては分が悪いだろうと悟り、咳払いをして、エレナに別の話題を振る事でその場を誤魔化す。

 

「ああ。君らに会いたくて……と、言いたい所だが、残念ながらそうじゃない」


「えっ、会いたくなかったんですか……?」


 エルが悲しそうな声色を出す。

 しかし、本当に悲しんでいる訳では無い。

 再会が嬉しくてテンションが上がっているのか、エルが可愛らしくエレナを苛め始めただけだ。

 

「いや、違う違う! 会いたかったとも! 会えたらいいなと思って私も楽しみにしていたし……って、そうじゃなくって!」


 しかし、エレナはいつもの格好良く凛々しい態度を崩して、慌てて弁明する。

 このまま見ていても面白いだろうが、流石に可哀想なので、俺は助け舟を出す。

 

「じゃあ、仕事で?」


「ああ、そう! そういう事! 次のネタを探していたら、ちょっと面白い噂を聞いてね。その現地取材に来た、という訳さ」


 エレナは居住まいを整えて、東の大陸へ訪れた理由を説明してくれる。

 

「その噂って、もしかして……」


 俺とエルは目を見合わせる。

 エレナが面白がるような噂話となると、あれしか思いつかない。

 

「黒泥病っていうらしいんだけど……その様子、何か知っているのかい?」

 

 黒泥病。つまり、黒い泥。

 その文字面から、それが何を指す物かなんて明白だった。

 やはり、それ絡みだったか。予想的中だ。


 知っているとも。

 丁度、その件について調べている所なのだから。

 

「実は――」

 

 俺たちは自分たちの聞いた噂話の内容、そしてこれまで見て来た事をエレナへと伝えた。

 

 かつてのメカクシを彷彿とさせる、異形の黒い泥。

 

 それを操る、人魚擬きの吸血鬼と海で出会った事。

 その力で、知性を得るに至った魔獣が居た事。

 それに心を侵され、狂気に陥った者が居た事。

 

 全身を黒く染め、まるで異形の変異種の様な姿をした男と出会った事。

 そして、その黒い男に貰った紋章の刻まれた真紅の石が、黒い泥にまつわる一件に何か関係が有りそうだという事。

 そして、幽霊屋敷で真紅の石と一緒に拾った汚れて識読出来ない日記の事。

 

 それに加えて、エレナの口から語られた情報。

 

「――最初は、腕に小さな黒い斑点が出来ただけだったらしいよ。でも、次第にその斑点は全身に広がって行って、終いには全身が黒いブヨブヨの泥の塊になって溶けてしまったというんだ」

 

 結果、やはりそれは俺たちの聞いた話とも一致する。

 あの漁師から聞いた、飼っていた犬が黒い泥となって溶けて死んでしまったという話。

 あれがその黒泥病だったのだろう。


「あの時の石をくれた男の人も、その黒泥病だったのでしょうか」


「そうかもしれないね」


「でも、泥になって溶けてはいませんでしたね」


「それこそ、君らがその黒い男に対して抱いた印象の様に、彼は変異種だったのかもしれないよ」


 エレナがそんな仮説を立てる。


「何か別の要因が有って、身体が溶ける事無く、生きながらえてしまったって事か」


 生きているとは言っても、あの分では人間としても尊厳も有った物では無い。

 やはり、“生きながらえてしまった”という表現が適切だろう。


「そうだね。それこそ黒泥病を克服したって可能性も有るんじゃないかな」


 キーになるであろう真紅の石を所持していて、黒泥病を克服した可能性のある人物。

 

「あいつ、実はめちゃくちゃ重要人物だったんじゃ……」


 もしかすると、俺たちに真紅の石を託したのは何かメッセージを伝えたかったのかもしれない。


「その黒い男は、今どこに?」


「それが、ぼうっとしている内にどこかへ行ってしまって、分からないんです」


 そう、あの時の俺たちはあまりの不可思議な光景に唖然として、成り行きに任せるしかなく、あの黒い男がそのまま去る事を良しとしてしまったのだ。

 あの時必死に追っておけば良かったと改めて思うも、やはり後の祭りだ。


「……そうか、それは残念だ。まあでも、そういう訳さ。そんな訳で、私はそのメカクシ絡みだと思われる黒泥病の噂を聞いて、遥々東の大陸までやって来たのさ」

 

「ああ、次のネタって、そういう……」


 メカクシ絡み、そこがエレナにとって重要だったのだ。

 次のネタとは、つまり、


「そう。神が討たれた後に起こる異形化現象、その謎。――続編を書くのに、ぴったりだろう?」


 エレナはそう言って、にやりと笑って見せる。

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