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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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雨と屋敷② 振り返ると

「あら、残念です……」


 機嫌を戻したエルが後ろから覗き込んできて、そう呟く。

 しかし、慎重にページを捲って行くと、数か所だけ何とか解読できる箇所が有った。


『■■■■様のお■げで、俺の■生は素晴ら■■物となった。俺を導■てくれたあの■■には感謝■■いとな』


 日付が飛んで、別のページ。


『どう■う事だ。あの■■ら、急に胸の■■もやもや■る。自分が■分じゃ■■なってしま■みたいな、嫌な感■だ。これがあの■■の言っていた、■なのだろ■■』


 また日付が飛んで、これが最後のページだ。

 このページだけはインクが濃く、他のページと比べても識読しやすかった。


『親切な屋敷の主人に、一晩泊めて貰える事になった。綺麗な屋敷に、ふかふかの布団、美味しい食事、最高だ。それにしても、こんな広い屋敷に主人一人で、使用人は居ないのだろうか』


「これって、この屋敷の事……なんでしょうか?」


「そうなのかな? まあ、でもそうか」


 俺とエルは頭に疑問符を浮かべるが、状況証拠的には一致する。

 

 このカバンの持ち主もまた、俺たちと同じ様に雨に降られて、この屋敷を訪れたのだろう。

 そして、雨に濡れた手帳が乾いてから、日記を書いた。

 乾いた後に書いたページだから、このページだけはインクがはっきりと残っているのだ。


 しかし、手帳から得られた情報はそれだけだった。

 他のページは見返しても、やはり何を書いてあるのか分からなかった。

 

「他には何が入ってる?」


「えっと――」


 エルがカバンの中を物色する。


「ペンと、濡れてぐちゃぐちゃの地図と、カビたパンと、あと――」


 エルは指先で布に包まれたカビたパンをつまみ、「うわ……」と端へ避けた。

 そして、最後に取り出したのは――、

 

「――えっ。これは……」

 

 エルが驚きの声を上げる。

 

「――“真紅の石”」


 まさか、ここでもこの石を見つけられるとは。

 このカバンの持ち主は俺たちが追っている黒い泥の事件にまつわるであろう、あの真紅の石を所持していた。

 石にはやはり同じあの紋章が刻まれている。

 

 となると、このカバンの持ち主が気になって来た。


「屋敷の主人に、これの持ち主について聞いてみようか」


「ええ、そうですね。何か知っているかもしれません」


 確か屋敷の主人は“二階の突き当りに有る自室に居る”と言ってた。

 それを思い出し、俺たちはその突き当りの部屋の前まで来た。


 こんこん、とエルが扉をノックする。

 しかし、反応は無い。


「居ない……みたいですね」


「ここに居るって言ってたはずだけど、部屋を間違えたかな」

 

 別の部屋に居るのかと思い、俺たちは改めて屋敷の中を探す。

 しかし、屋敷の主人の姿はどこにも見当たらなかった。


「居ないなあ」


「居ませんねえ……」


 そうやって屋敷の中をうろうろとしている内に、それなりの時間が経っていたのだろう。

 気づけば、屋根を打つ雨水の音は聞こえなくなっていた。


「――雨、止んだみたいですね」


「そうだな、そろそろ出るか」


 俺たちは屋敷の主人を探す事を早々に諦め、屋敷を後にする事にした。

 玄関口を潜って外へ出る。


 外に出てみれば、先程までの悪天候が嘘の様に快晴。

 眩い陽射しに思わず目を細めた。


 そして、俺たちは背に向かって、

 

「お世話になりました」


 と、一言を残して、俺たちはまた帝都を目指して屋敷を発った。

 勿論、答えが返って来る事は無い。


 少し歩いてから、また改めて後ろを振り返る。

 

 やはり、そこには“廃墟となった屋敷”が変わらず有った。


 元は綺麗な洋風の屋敷だったのだろうが、今ではもう見る影もない。

 窓ガラスは割れ、蔦が壁を這い、壁も一部ボロボロと崩れている。

 

 俺たちはそんな廃屋だと思っていたものだから、中へ入ると主人が出迎えてくれた時は驚いた。

 

 しかし、その足元を見れば一目瞭然。

 屋敷の主人には足が無かった。


「屋敷のご主人、結局見つかりませんでしたね」


「まあ、幽霊を探そうって方が難しいよ」

 

 俺たちが早々に主人を探すのを諦めて退散したのも、そういう訳だ。

 居ない者を探したところで、居ないのだから無駄な事。

 

 

 後で聞いた話では、その屋敷の主人は西の大陸から越してきた貴族の屋敷だったと言う。

 西で大きな富を築き、いざ東へ進出して来たは良い物の、ある時からだんだんと立ち行かなくなり、没落して行った末に一家心中したのだと言う。


 そして、残された廃屋。

 時偶その廃屋を当時の栄えた状態の綺麗な屋敷と見紛い、惑わされた旅人がその屋敷へと呑まれて行くのだと言う。

 旅人喰らいの屋敷として、有名なのだとか。


 俺たちはそんな屋敷に喰われかけていたらしいのだが、それはおそらく天然に根付いた魔法の類だったのだろう。

 そんな物に俺たちが惑わされる訳も無く、ただ廃屋で雨宿りをして帰って来てしまった様だ。

 種を明かしてしまえば、幽霊だろうと怖くも面白くも無くなってしまうのは、悲しいものだ。


 しかし、収穫は有った。

 再びあの真紅の石を見つける事が出来た。

 そして、その石を持っていたという事は、あの日記の内容も、もしかすると黒い泥の事件絡みかもしれない。

 少しずつだが、パズルのピースが揃って行く。

 

 雨上がりの快晴。

 俺たちは再び、歩き出す。


 あの屋敷――廃屋は、まだあの場所に、今も同じ様に建っている。

 いずれ、また新たな旅人が綺麗な屋敷と美味しい食事という幻に惹かれて、魅せられて、誘われるのだろう。

 扉を開ければ、あの主人の声が聞こえてくる。「是非我が屋敷でくつろいで行ってください」と。


 しかし、それは俺たちには関係の無い、別の物語だ。

 

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