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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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黒い男② 真紅の石

 しかし、そんな風にしていると。

 黒い男は腹を満たし、喉を潤して満足したのか、初めと比べて落ち着いた様子で、地べたに座り込んだままこちらをじっと見つめる。


「ぎょおお……」

 

 そして、おもむろに首から下げていた“真紅の石が付いた首飾り”を外し、ずいっとこちらへと手渡して来た。


「くれるんでしょうか?」


「食べ物のお礼って事かな?」


 俺は恐る恐るその首飾りへと手を伸ばし、それを受け取る。

 

 俺が首飾りを受け取ったのを確認すると、黒い男はまた同じぎょうぎょうと言う奇怪な鳴き声を短く発し、現れた時と同じ様に、木々を分けて草葉の影へと消えて行った。

 

「……何だったんだ」


「……本当に、何だったんでしょう?」


 後を追おうかとも思ったが、唖然としている内に、すぐに姿が見えなくなってしまった。

 『魔力感知』で探そうにも、反応が微弱過ぎて見つける事は出来ない。

 まあいいだろう、とりあえずは一段落と言った所だろうか。


 俺たちは互いに目を見合わせ、胸中に疑問と困惑を残しつつも、そのまま先程までと同じ様に、道沿いに歩き始めた。

 

 

 道中。

 歩きながら、その真紅の宝石が付いた首飾りを太陽の光に透かせてみたり、ぶんぶんと振ってみたり、色々と調べてみた。

 

「それ、魔石でしょうか?」


 そう言って、エルが俺の手元を覗き込んでくる。


「似てるな」


「ええ、まるで真実の目の様な、綺麗な赤色です」


 その首飾りは小さな硬貨くらいのサイズの真紅の宝石が、簡素な麻紐で吊り下げられた物だ。

 その石の真紅は、かつての真実の目を想起させる。

 

「でも、魔力は感じない。空っぽの魔石みたいだ。それと、この紋章は……」

 

 よく見れば、その真紅の石の中に何か紋章の様な物が描かれていた。


「何でしょう? 見覚え有りますか?」


「どこかで見た気がするけど、何だったかな……」


 既視感は有る、どこかで同じ物を見たはずだ。

 それは真実の目では無い、もっと別の時と場所で、それもかなり最近見たはずだ。

 

 俺は自分の記憶を辿る。

 記憶力にはそれなりに自身が有る。

 俺はこの数少ない特技だけでこの異世界の文字と魔法を覚えて、これまで何とかやって来たのだ。

 

「――ああ、あれか!」


 思い出した。

 

 閃いた俺は、そのまま『空間』の中に仕舞ってあった、風呂敷の包みを取り出した。

 そして、その風呂敷の布の結び目を解いて、中に包まれていた物を地面にざっと並べてみる。

 

 中に入っているのは、あの人魚擬きの吸血鬼が溜め込んでいた金銀財宝、宝石の数々。

 あの時海に散らばった物を幾つか回収して来た物だ。


「これ、まだこんなに残ってたんですね」


「まあね」

 

 いくつか売り払って旅の資金にしたのだが、一度に捌いてしまうと怪しまれるので、それでもまだそれなりの量が残っている。

 俺はその中から、目的の物をじゃらじゃらと宝石の山を掻き分けながら探す。


「これを広げてるって事は、この中に――」


「そうそう。えっと……あった!」

 

 指輪や首飾り、色々なアクセサリーが絡まっていて鬱陶しいながらも、何とか目的の物を見つける事が出来た。

 

 やはり、この雑多な財宝の山の中にも有った。

 同じ真紅の石だ。


 俺は黒い男から貰った物と、人魚擬きの吸血鬼から押収した物とを並べて、見比べる。

 後者の方は麻紐が切れてしまっているが、紐を通す穴の位置、そして中に刻まれた紋章もそっくりそのまま一致する。

 

「同じ物……ですね」

 

 中に魔力が込められている訳でも無く、魔法式が刻まれている訳でも無い。

 変な紋章が描かれた、空の魔石。

 それが手元に、二つある。


「ああ。この紋章、何か意味がありそうだけど……」

 

「さっきの黒い人、何か知ってませんかね?」


 こんな事なら見送るんじゃ無かったな、と思いつつも、後の祭りだ。

 しかし、


「でも、あの感じだと、会話するのも難しそうだけど……」

 

 本能で辛うじて動いてはいるのだろうが、あの分では人としての意識は殆ど残っていないはずだ。


「でも、この石が手がかりにはなりそうですね」


 そう、手がかりは掴んだ。

 

 異形の姿をした、黒い男。

 あの様子を見るに、彼もまた黒い泥にその身を、または心を、侵されたのだろう。

 

 人魚擬きの吸血鬼、そして黒い男。

 両者の間には黒い泥、そして真紅の石という共通点が有る。

 

 その繋がりが何なのか、この紋章にどんな意味が有るのか、そこまでは分からない。

 それでも、少なくとも関連性が有るのは確かだ。


「フロウ村での――ライフだったか。あいつも同じ物を持っていないか、調べておけばよかったな」


 彼もまた、心を黒い泥に侵された者の内の一人だ。

 もしかすると、ライフも真紅の石を持っていたのかもしれない。

 

「あの時は知りませんでしたから、仕方ないですね」


「そうだな。でも、他にも同じ物を持っている人、もしくはこれについて何か知ってる人が居るかもしれない」


 大陸中で広がっている現象、少し調べただけでも、その噂話を幾らでも聞くことが出来た。

 それなら、この件自体珍しい物では無いだろう。

 同じような黒い泥にまつわる事件を調べて行けば、他にも同じ物を持っている人が居るはずだ。

 そして、その先の真実へと辿り着けるはずだ。


「では、この石について知っている人が居そうな、人の多い大きな街へ行ってみましょう」


「ってなると――帝都か」


 この東の大陸で最も大きな国、帝都。

 西の大陸の王都に並ぶ、多くの人や物が集まる、この大陸の中央部だ。


「はい! 行ってみましょう!」


 真紅の石という新たな手がかりを得た俺たちは、新たな目的地を帝都に定めた。

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