表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/96

黒い男① ナッツとドライフルーツ

 フロウ村を発って、数日が経過した。

 相も変わらず、俺たちは東の大陸での旅を続けていた。


「もぐもぐ……ぽりぽり……」


 フロウ村を発つ際に、土産の品を沢山貰った。

 ドライフルーツとナッツを混ぜたおつまみと、名物の果実酒だ。

 

 エルはおつまみの方が気に入ったらしく、袋を抱えてリスの様にちまちまと摘みながら食べている。


「それ、俺にも頂戴?」


「いいですよ。はい、あーん」


「ん」


 天気の良い晴れた昼下がり。

 青く広がる空の下、ナッツを噛み砕く小気味良い音をBGMに、俺たちはのんびりと、木々に囲まれた道に沿って歩いていた。

 

 この道は普段馬車が通っているのだろう。

 足元は踏み鳴らされていて平らで歩きやすいし、道幅も広くてのびのびと出来る。

 

 平和だ、実に平和だ。

 このまま黒い泥の一件なんて忘れて、のんびりと旅を楽しみたいものだ。

 

 しかし、やはりそういう訳にはいかない様だ。

 それは突然現れた。


 がさり、と物音。

 草葉の影から人の気配。

 そして、僅かな魔力を感じる。


 俺たちは警戒を強め、その気配の方へと向く。

 

 そこに居たのは、ボロボロの衣服を身に纏った、一人の痩せた男性だった。

 旅人を狙った、金品目的の野盗だろうか。

 

 最初はそう思った。

 しかし、ただの人間では無かった。


「ぎょ、ぎょおおう……」

 

 全身の黒ずんだ皮膚、肩口の一部が歪に肥大化した腕。

 頭部には左右で大きさの違う、大きくぎょろりとした不気味な目玉。

 そして、ぎょうぎょうと言う奇怪な鳴き声。


「――変異種!? どうして、ここに……?」

 

 その姿は、かつて旧王都で宮廷魔導士のエルフの老人と戦った時の、あの異形の変異種を想起させる。


「――いや、違う。似ているけど、別物だ」

 

 しかし、目の前のこいつは変異種では無い。

 限りなくそれに近い姿をしているが、大きく飛び出た歪な目玉を除けば、間違いなく人間の男だと認識出来る程度には姿形を残していた。

 もしこれが異形の変異種だったのならば、文字通り“異形”の姿を成していただろう。


「もしかして、あの噂の……」

 

 そういえば、聞いた噂話の中にこういう物が有った。

 あの漁師が話していた“飼っていた犬が泥になって死んでしまった”という話。

 そして、“身体に黒い斑点が出来て、それが全身に広がって行く”という話。


「かもしれない。けど、とりあえずは――」

 

「ぎょう、ぎょおおおう!!」

 

 何故ここに変異種擬きの黒い男が居るのかなんて、そんな事は分からない。

 しかし、その黒い男は真っ直ぐとエルの方に向かって、襲い掛かって来る。

 とりあえず、考えるのはこの黒い男を何とかしてからだ。


 何故俺を無視してエルの方へ、と思ったが、しかしこの黒い男は襲う相手を見誤っているだろう。

 相手は神をも殺す永遠の魔女様だ、こんな変異種擬き如きが勝てる相手ではない。

 もっとも、俺の方に来たところで結果は変わらないのだが。


 エルは黒い男の腕の一振りを寸での所でひらりと回避。

 しかし、運悪くエルの腕に抱えられていたナッツとドライフルーツの入った袋に黒い男の指先が引っ掛かり、袋が破れて中身が辺りへと四散する。


「ああっ! わたしのおやつが!」


 弾けたナッツとドライフルーツの雨がぱらぱらと地を打ち付け、エルが心の底からの悲しそうな声を上げる。

 

 そして、黒い男は突進の勢いのまま、地面へと倒れ込むんだ。

 

 いや、違う。倒れたのではない。

 

 男は四散して地面へとばら撒かれたナッツとドライフルーツの方へと、一目散に飛びついたのだ。

 そして、それを拾って口へと運び、バリバリと貪り食い始めた。


 地面に落ちて砂や土が付いていようとお構いなし。

 それどころか、土ごとナッツを鷲掴みして、口へと放り込んでいる。

 

「ええ……?」


「あの、アルさん。これ、どうしましょう……」

 

「どうって……」

 

 意味が分からない。

 エルも困惑の表情を浮かべている。

 

 気勢を削がれた俺たちは、そのまましばらく放置して観察してみた。

 しかし、一度ナッツに興味を移した黒い男は、俺たちには見向きもせずに貪り食っているままだ。


「わたしの、おやつ……」

 

 エルはまだナッツに未練を残している様で、悲しそうな瞳で土を食べる黒い男を見ていた。

 

「こいつ、お腹空いてたのかな」


 最初に襲い掛かって来た時には、俺では無くエルを狙って来た様に見えた。

 しかし、今の状況から推察するに、そうでは無かった様だ。

 正確にはエルではなく、その腕の中にあるおやつの入った袋を狙っていたのだろう。


「――えっと、飲むか?」

 

 そう思って、俺は『空間』から果実酒の入った小瓶を一本取り出し、コルクの蓋を空けて黒い男の方へと差し出してみた。


「ぎょ! ぎょうおお!」


 やはり、黒い男は反応を示した。

 匂いに反応してか、一目散に果実酒へ飛びつき、両手で小瓶を掴んで、ごくごくと飲み始めた。


「美味しそうに飲んでますね」


「やっぱり、お腹空いてただけなのかな」


 なんて、二人して和んでしまっているが、なかなかに異様な光景である。

 晴れた昼下がり、道端でナッツを拾い食いして酒を飲む黒い男を眺める二人の男女。

 今偶々この道を通りがかった人にこの状況を見られでもしたら、奇異の目を向けられる事だろう。


☆面白いなと思って貰えたら、ブクマや評価を頂けると励みになります!☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ