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【完結】少し遅れた異世界転移 ~死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく~  作者: 赤木さなぎ
第五章 東の大陸の旅

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美女と魔獣④ 心の隙間

 そして、次の朝。

 目を覚ますと、何やら村の様子が騒がしい。


「どうしたんでしょう? お祭りの準備でしょうか?」


「そういう感じじゃなさそうだけど……」


 明らかに物々しい雰囲気。

 どうやら、お祭りの様な良い事で騒いでいる訳では無さそうだ。

 

 宿を出て、様子を見に行く。

 村の人々は村長の家の周りに集まっていた。

 

「アルさん! エルさん!」


 すると、俺たちを見つけたアイシーが、涙で赤く泣き腫らした顔でこちらへと駆けて来た。

 どうやら、俺たちの事を探していたらしい。


「どうしました?」


「助けてください! お父様が!」


 アイシーから話を聞いた。

 朝目が覚めると村長が家に居らず、探しに出ると納屋で倒れていたらしい。

 頭部を何者かに強く殴られて出血しており、村長はかなりの重症だ。


 村長は自室に運ばれ、寝かされていた。


「応急手当はしたのですが、出血が酷くて、このままでは……」


「大丈夫です。わたしが、何とかしてみます」


 そう言って、エルが村長に『治癒』の魔法をかける。

 エルに任せておけば大丈夫だ、一命は取り留められるだろう。


 すると、家の前の人集りの方から、大きな声が響いて来た。

 

「――違う! 私じゃ無い!」


 ジェイドの声だ。


「ジェイド!?」

 

 慌ててアイシーが走って行く。


「エル、そっちは任せた」


 俺は村長の事をエルに任せて、アイシーを追う。


「いいや、お前がやったに決まっている! アイシーとの結婚を反対された恨みで、村長を殺そうとしたんだろう!」


 人集りの方へ来ると、そう言って、ライフがジェイドを糾弾している所だった。


「そうだそうだ!」


「お前が結婚を反対されていた事は、この村の者は皆知っているんだぞ!」

 

 見れば、ライフに同調する様な村人も多く居る様だ。

 獣人だから、余所者だから。

 そういった理由で、彼らはジェイドに矛を向ける。


「ちょっと、ライフ! どういう事よ!」


 アイシーが割って入る。


「ああ、アイシー! 可哀想に、お前はこの獣に騙されていたんだ」


「ジェイドはそんな事しないわ!」


「この獣は、村長を手に掛けたんだぞ? どうして庇うんだ?」


「そんな訳が無い! 村長は私たちの結婚を認めてくれたんだ! その村長を害する理由が無い!」


 ジェイドも声を荒げて、反論する。

 

 すると、村の人々に動揺の波が走る。

 ライフは明らかに顔をしかめた。


「お前は、村長を殺そうとしただけで飽き足らず、そんな嘘まで吐くのか!」


 ライフが憎々し気に吐いたその言葉を皮切りに、村の人々は一気にヒートアップして行った。

 ある者は罵声を浴びせ、ある者は石を投げ、ある者は拳を振るう。

 

 集団心理、民主主義、数の暴力だ。

 村長というまとめ役が居なくなった村の人々は、歯止めが利かず、ライフに扇動されるままに、ただ熱に侵されて行った。

 それはまるで何かの力が働いているかの様な、異様な光景だった。


「やめて! やめてってば!」


 アイシーの悲痛な叫びも、村の人々の勢いによって掻き消されてしまう。

 その手は、声は、ジェイドまで届かない。

 

 しかし、ジェイドはそれに抵抗する事は無かった。

 本気で抵抗して見せれば、その腕力でここに居る全員を御し切れるだろう。

 それでもただ耐え忍び、そして――、


「ワオオオンーー!!」


 高く、吠える。

 その狼の様な遠吠えを最後に、ジェイドは村の人々を振り切って、走って森の中へと消えて行った。

 

「さあ、アイシー。悪者は居なくなったよ。あんな奴より、ボクと一緒にならないか?」


 そう言って、ライフは膝を付き泣き崩れるアイシーへと手を差し出す。

 しかし、その手は強く払い退けられる。


「馬鹿言わないで! あんたなんか、大っ嫌いよ!」


 そう言って、アイシーは森の中へとジェイドを追って行った。

 

 ライフは手を払い退けられた状態そのままに、虚ろな目で放心していた。

 まさか、こんな事で本当に自分が選ばれるとでも思っていたのだろうか。

 なんて愚かで、哀れな青年なのだろうか。

 

 そうしている内に、村長の治療を終えたエルはこちらへと戻って来た。


「どう? 村長さんは大丈夫そう?」


「ええ、治療は無事終わりました。時期に目を覚ますと思います」


 そして、エルは今の惨状に目をやる。

 ジェイドとアイシーの姿はどこにも無く、辺りにはジェイドが流した血による血痕。

 そして、放心するライフと、熱が冷めやり所在無さ気な村の人々。


「……それで、えっと、これはどういう状況ですか?」


 俺はエルにこれまでの経緯を伝えた。


「――って感じだ」


「酷い……ですね」


 おそらく、というかほぼ確実に犯人はあのライフという青年だろう。

 そう踏んだ俺は、ライフの虚ろな目に視線を合わせて、『読心』の魔法をライフへと使う。

 しかし、


「っ……」


「どうしました?」


「あいつ、中に何飼ってるんだ……?」


 心を読む事は出来た。

 しかし、俺の『読心』は、ライフの中の“何か”に触れると、弾かれてしまった。

 なんだ、この汚い心は。

 俺はまるで素手で汚物を触ってしまた時の様な、ぞわぞわとした嫌悪感を覚えた。


「どうしてどうしてどうしてどうして……」


 虚ろな目で放心したライフが、ぶつぶつと何かを呟いている。

 そして――、


「ああああああああああ!!!!」


 突然、ライフが叫び声を上げ、取り乱し始めた。

 ライフは手近な村人に掴みかかり、襲い掛かる。

 驚いて逃げ惑う村の人々。


「アルさんっ!」


「ああ!」


 俺は脱兎の如く駆け出し、暴れるライフをすぐさま取り押さえる。

 魔法で『身体強化』した俺の力に、ライフでは敵わない。


 取り押さえられてもしばらくじたばたと暴れていたライフだったが、急に電池が切れた様にぴたりと動きを止めた。

 そして、ライフの口や耳、穴と言う穴から、あの黒い泥がごぽごぽと嫌な音を立てて流れ出て来た。


「おい、これって……」


「黒い、泥……」


 俺もエルも、見ればすぐに分かった。

 先程ライフの心を読んだ時に触れた汚い何か、その正体こそが黒い泥だったのだ。

 人の心の隙間に入り込む、黒い泥。


 俺たちが集めた黒い泥に関しての噂、その中の一つにこういう物が有った。

 “優しかった人が、急に人が変わったみたいに荒れてしまう”という話だ。

 おそらく、今回の一件も、それに関係しているのだろう。

 

 その黒い泥の汚れがライフの心を汚染し、嫉妬の感情を増長させた。

 そして、今回の様な凶行に及んだのだろう。


 その黒い泥はライフの身体から這い出して、寄り集まり、逃げようとする。


「させません!」


 しかし、エルの放った『結晶』の弾丸によって貫かれ、そのまま塵と成って消えて行った。

 

「おいおい、どうなってるんだ……?」


「ライフの奴、急にどうしちまったんだ」


 村人から上がる疑問の声。

 俺はその疑問に答える為に、まるで探偵の様に事件の全貌を語った。

 と言っても、その殆どはライフの心を覗き見て得た情報なので、探偵でもないのだが。


「村長を殺そうとした犯人は、ライフです。罪をジェイドに被せ、この村から追放して、独りになって傷心したアイシーに取り入ろうとしたんでしょう。そして、アイシーに拒絶されたライフは取り乱し、先程の凶行に及んだ」


 魔法を使って場を治めた俺たちに、今この場の主導権は有る。

 先程と同じだ、場の空気を支配した者に同調する集団心理。

 

 余所者であろうと、その圧倒的力の前に有無を言わさない。

 何より先程のライフの狂乱状態が何よりの証拠だろう。

 それに、村長の意識が戻れば全て分かる事だ。


「俺たちは、どうしてジェイドの事を……」


「ジェイドがそんな奴じゃねえって、知ってるはずなのに……」


 そして、ジェイドに――獣人に悪印象を抱いていなかった村人すらも、先程の熱に侵されていた様だ。

 一度冷静になった彼らは、自分のしたことが信じられないとでも言うかの様に、狼狽していた。

 もしかすると、あの心に作用する黒い泥の影響が集団心理によって伝播していたのかもしれない。


 村の人々はそのまま、ライフを縄で縛り上げ、拘束した。


「あいしー、あいしー、あいしー……」


 泥の抜けたライフからはもはや、生気を感じられない。

 きっと、あの黒い泥に心を食い尽くされてしまったのだろう。

 村の人々に縛られ連行されて行くのにも何の抵抗も示さず、その後も放心して虚ろな目のまま、ぶつぶつと呟いていた。

 

 彼がこの後どんな処遇を受けるのかは、俺たちはには関係の無い事だ。

 それよりも――、


「アルさん。お二人がまだ、戻って来ません」


 そうしている内に、それなりの時間が経過していた。

 しかし、アイシーとジェイドは森から帰って来てはいない。

 

「心配だ、探しに行こう」

 

 

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